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13.ラビンズ・デボラ



 朝食を食べた後、女将に雑貨が買える店を尋ね、目当ての生活用品を買い、今服屋に来ている。


 「あらぁん、いい男」


 開口一番こう言われ、度肝を抜かれるナノス。

 女性から言われたら感謝したり、照れたりするのだが、目の前にいるのはおそらく男。体格の良いスリムな男が女装をしている。オネエさん。予想もしていないことに思考行動揃って一時停止してしまう。

 その間にもオネエさんは賛辞をナノスに捧げている。


 「うふふ、固まっちゃってカワイイ♪」


 「おおう…」


 そこに立つのは性別があいまいな男女。

 しなやかな細身の筋肉質の腕に競輪選手のばりの太もも。だが、足が細く見える不思議。きれいに化粧されていてメイクの技量が高いと評価できるポイントだ。なお、中性よりだけれども男の顔面骨格。

 ヒールがある肌色のサンダル、前が透けて見える紫のロングフレア、袖口がひらひらのホワイトカラーのシャツはラッフルブラウスというんだったか。その彼女?彼?の服は全て女性用みたいだ。

 このオネエさんは絶対領域を持っている。

 ナノスは未だ錯乱中だ。突っ込めばいいのか、受け入れればいいのか、判断に困る。似合っているのは間違いないのだが。初手の衝撃が大きすぎた。


 「いい服を取り扱っていますね。」


 ナノスは気を取り直して、店にあるものを見渡した。キラキラとさせる服にどんな用途なのかわからない奇抜な服、肩が尖っているもの。ナノスの感覚からしても、かわいい服かっこいいと思えるような服が置いてある。

 

 「うふん、ありがと。私はラビンズ・デボラ。私のことはラビって呼んで。ここにあるのは全て私の手作りよ。」

 としなをつくりながら言った。

 そして近づいてくる。


 「ナノス・ジョーです、よろしく。」

 今、ウインクをバチコンされた。キャラが濃すぎる。


 「はぁ、ええっと…ラビさん。ところで、無難な服上下2着と下着3枚欲しいのですがありますか?」

 「あるわよ。なんならオーダーメイドするかしら?見たところあなたが着ている服たちは相当上質なものでしょう。どうかしら?」


 数多くの服飾を見てきたラビンズ・デボラ。一見で服の善し悪しがわかる審美眼をもっている。現にナノスの着ているスーツは、社会人たる者の良いものを身につけろ両親に口酸っぱく教えられたのもあって、数十万円もする品だったりする。聞けば、見掛け倒しの品や詐欺の品、盗品を掴まされることのないようにとのこと。経験して学んだことは忘れることなどありえないからと、両親とくに父の経験を含めた語りを聞いた覚えがある。


 「ちなみに、女将ローザさんから聞いたんですが、服に付与できるって。」


 「女将ローザ?ああ、小鳥宿の。ええ、できるわよ。服だったら破れにくく汚れにくく匂いにくくかしら。オーダーメイドするの?」


 「はい、お願いしたいのですが、その前に付与ってなんですか?」


 「付与?うーんそうねぇ。付与っていうのは、さずける、あたえるって意味じゃない?どんなことができるのかっていうと物に付与する。これだけ。

 でね、指定できる付与っていうのは決められているのよ。鈍器(どんき)鋭利(えいり)付与はむかないでしょう?そして、たとえば革靴に強化付与したら頑丈になる。でも、革靴自体が付与できる個数が一つだけとしたならば、清潔クリーンを付与したいなら強化付与を消さなきゃできないの。

 これが物によっての上限というやつなの。個数っていう人もいるわね。」


 ものに付与できて、ものによって付与できる個数、上限があると。ファンタジー設定でよくある付与は、人にも付与できることが多いが、どうなんだ?

 

 「人に付与することはできるんですか?」


 「人に付与する事は理論上可能と言われているわ。まだ見つかってないみたいだけど。

 決して壊れない不壊だとか、切れば切るほど切れ味が増していくような効果付与は想像によって作れると言われているけど、残念ながらこれも理論上。どちらも偉大な魔術師が本に記したものだから、できると言われるしできないとも学者は言っているわ。

 最近、一般の魔法使いたちの間で話題になって議論しているみたいよ。実際のところ付与できるスキル持ちまたは付与魔術規定を持っている人が少ないから。こういうのはデータが少ないからわかんないですって。

 それに一生使わない人もいるって書いてあったのよね。それでも、一歩一歩進み始めているって知り合いが言っていたわよ。」


 「そうなんですか。」

 

 「そうなのよ。それに他の事だって同じでしょ。使わなきゃ意味ないけど、興味がないからそそられない。そういうものなのよ。人っていうのは。」


 まぁ確かに、できることが必ずしも自分のしたいこととはならないか。才能と言う言の葉で片付けるのは好きではないが、才能がなくてもやりたいことをしている奴もいる。なおかつそれで生計立てていくのは難しいだろう。

 ニーズに合っていれば、もしくは目を引く最先端を創ることができるなら、きっと成功してると言えるか。

 こういう時は、必ず、人徳がものを言うだろうから。


 「ちなみに私も効果付与スキル保持者よ。

 ふふふふ、私の効果付与は清潔耐刃耐臭耐久。多く使うのはこの4つ。あといくつか使えるけど服だからね。

 言ってくれれば戦闘服を作ることができるわよ。

 そのときよく勘違いされるけど、服が防具より優れているなんて事はまずありえないことなのよ。身軽っていう意味で言えば、服に軍配が上がっちゃうけどね。

 想像してみて。プレートメイルに刃物や物理に傷をつけることは効きづらいわよね。その時中にくる衝撃は別として。服ならばどう?…そういうことなのよ。

 なんていうか、付与しても服は戦闘に向かない。 だって、もともと欠点が多すぎるもの。

 やっぱり服は日常生活にこそイケるのよ!繊細で大胆で可憐でかっこいい!これ以上に人が愛を表現してしまえるものはないわっ。」


 ラビは熱弁して語ってくれた。

 ふむ、考えればわかる。付与とはむちゃくちゃ強くできるとか、僕の考えた最強のなんちゃらのように荒唐無稽ではなく、物の延長線上の能力アップができるということ。多分、物が壊れない上限まで文字通り壊れないようにできるのだろう。

 物理世界にいたために、そういうのはこの世界で歩き始めたばかりのナノスには今はまだ想像に乏しいものだった。だが、遅かれ早かれ適応できるであろう。


 「で、話を戻すわね。えーと、オーダーメイドっていうといろいろあるけど、まずどういう服が着たいの?」


 どういう服が着たいか。当面お金の心配はいらないが、やはりいい服を着ていたい。衣食住の衣だな。

 それに一日暮らして思ったが、治安が良くない。さっさと減らしたい。この歩くたびにジャラジャラとなる大量の銭貨を。あくせく働いて稼いだ金ではないからな。賭けで買った金だ。買えるときに買っておこうと思う。いつなくなるかわからない。賭けで勝った金は初期投資として上質な物を買う。それでも余りそうなのだが。冒険者ギルドで預けることが可能か聞いておこう。

 ともかく動きやすくて破れにくく清潔で耐久性ある服とそう伝えた。注文多すぎか?となかなかに厳しい要求をしていると思うが、いかんせん付与の強さがわからんから、日本の服をイメージした。


 「冒険者、機能美あるシャツに破れにくく、清潔で頑丈なのね。それを無難な上下服2着と下着3枚ね。欲張りさんね、私の得意分野よ、任せて。金額については1つに最低銀貨1枚かかるかしら。素材をどんなものにしたいかで効果付与も上がるけど。でも、そうね、簡単に見繕ってみるわ。」


 ああ、この際、金に糸目はつけねぇ。と、きざったらしいことを思ってみる。

 ラビはてきぱきとした動きで採寸をしたり、素材を吟味したりしていく。その手際の良さに凄い職人さんだと感じた。手を動かし、雑談をしながら作っている。オネエさんはできる職人。先ほどまでのギャップが凄まじい。

 あらためて要望を聞かれたが、丈夫で、汚れにくく匂いにくく、旅する前提の服を、あとファッションは任せるなどと伝えていく。趣味だったり、好きなタイプなど個人的なことねぼりはぼり聞かれたが大雑把に答えておいた。


 そうこうしているうちにそろそろ出来上がるらしい。

 ナノスは疑問に思った。これほど早くに服は作れるのだろうかと…。

 (もしや、本当にすごい職人さんなのでは。)


 「できたわ。軽量、伸縮性、耐久性、防菌、消臭に優れている"スパイダー"の布素材を使ったの。ちょっとお高めになるけど、効果付与もいくつか付けられるし要望通りのものよ。」

 

 「はやいね。」


 でてきたのは上着。

 触ってみると表面の生地はなめらかで裏面はしっかりしている。

 (これがモンスター素材か。言われなければわからなかったな。)

 

 「他にも良い布素材があるけど、要望通りとなると今回の服には適していないわね。一応他に並べてる布素材の特性を伝えとくわね。一つは耐久性防寒性の持つモコモコの布素材。旅や戦闘になると動きづらいけど極寒地帯に行くのならおすすめよ。もう一つは軽量、防菌、消臭を持つ植物の布素材よ。値段が安くてこの中で一番軽いわ。」


 「いろいろあるんですね。」


 「まだ効果付与してないけど、それ含めると一つ当たり金貨一枚かしら。(おまけとしてグローブをつけるわ。ムウフフ。)」


 ええと、銅貨一枚でだいたい十円、大銅貨が百円、銀貨が一千円、金貨が一万円、白金貨が十万円くらいの価値だった。

 一つ一万円。高いのか低いのかわからない。良心価格だと感じるがどうだろう。この服たちで自分の身を護ることにつながるのだからと真剣になるナノス。しかし、すでに結論ありきなのだ。直感で良いなと思ったし、すごい職人さんの技を見せてもらって任せられると感じた。

 ゆえに、とりあえず納得のいく服を見せてもらったのでこれにすることにした。


 「これにします。」


 「うちを選んでくれてありがとう。前金として金貨1枚いただくわね。まいどどうも。じゃスパイダーの布素材で作っておくわね。」

 

 「久しぶりに作り替えがあるわ。今依頼されているいくつかの服をぱぱっと終わらせて取り掛かるわよ。

 なければすぐにでもしたいのに、貴族から依頼されてるからめんどいのよね。無駄に派手にしてくれやらきらびやかにしろって…。あげくにむちゃくちゃなことまで言ってきて、機能はあんまりいじれないのよ。

 だからといって手なんて抜かないんだけど。

 私も職人の端くれだから、ど根性精神で頑張るけどさぁ。たまには息抜きしたいわけなのよ。」

 

 なんと貴族や豪商の仕立てもやるらしい。上級階級の人たちが顧客なのか。

 しかし、仕立て作業してる時は、さすが職人さん、露骨なアピールをしてこなかった。信頼度が上がった。


 「…ところで、ちょっとあなたの体見せてもらえるかしらん。」

 と語尾に音符を乗せて聞いてきた。

 ははっ、ラビはアンオフの切り替えが早い。

 不安度が増し信頼度が若干下がった。


 「遠慮しときます。」


 油断ならん。決してサイズを測るとかそういう感じじゃない。

 先ほど測ってもらったときにはなかった欲が出ている。あわよくばすみずみまで触りたい欲をラビの目が語っている。


 「残念。…冗談よ。よかったらあなたの服を見せてもらってもいいかしら?」


 打って変わり、仕立てをしていたときの職人の目。真剣なまなざしで聞いてきた。


 「…ええ、いいですけど服はこれしかないので「はい、これに着替えて」あ、はい。」


 「でも、これ「あ、返さなくて良いから」え、でも。」

 

 「いいから。」


 有無を言わさない押しにひるむナノス。スーツの上着を脱がされ、服上下を手渡され、カーテンがかかった仕切り箱に押し入れられた。


 「ええぇ。」


 困惑するナノスは今の出来事をおさらいする。了承を得るやいなや、華麗にひん剥かれて、服を着替えさせるためボックスに入れられた。状況把握。

 そっと外を覗くとスーツに熱中しているラビンズ・デボラがいる。

 ナノスは着替えることにした。着替えて、そして、スーツのズボンもカーテンの隙間からそっとラビに手渡した。ばっとなってスーツをかっとられた。

 ふうと一息。

 ボックス内に全身鏡が目の前にあった。今着ている服装に関心が向く。これまでに良いセンス、これぞメンズだ。無地のシンプルデザインの黒シャツに黒パンツ、全身黒色で暗い感じが出てるかというと、そうでもない。横を向いたり背を見たくて、まったりしてみたが、明るくもなる。暗くもなる。これはなかなか。

 ナノスはひとしきり満足すると、外に出た。

 

 「…」


 ラビはスーツとまだにらめっこしている。相当好きなんだろうなぁ服が。メモしたりブツブツとつぶやいていたりしている。きっと琴線に触れる何かがあって触発されたんだろう。

 このぶんだともうしばらくかかるかと感じて、飾ってある服を見て世界の服を学ぶことにした。




 ◇◇


 小一時間が経った頃、ラビが顔を上げて一息ついた。伸びをして凝り固まった体をほぐす動作をしている。スーツにかじりついていたので、さもありなんと言ったところか。

 

 「ふー、なかなかね。繊細で機能性がある。何より、これは改良して作り替えられた紳士の服になっているのだわ。縫い方なんてどうしていいのかしら。」


 満足げな表情なのだが、わからないことがあったのか、不思議そうな顔もしている。


 「良いものを見せてもらったわ、ありがとね。」


 「いいえ、喜んでもらえて何よりですが、こんな良い服をいただいている身としてはこれでいいのかと思いますが…。」


 ナノスは着ている服を見ながら問いかける。肌触りが良くて、街で見た人たちの服よりも上質な服に感じた。


 「いいのいいの。未知の技術を見せてもらったんだもの。良いインスピレーションになったし、なかなかこういう機会ないのよ?」


 至極当然といった感じで返された。


 ことこの世界では一子相伝や他者に技術を安易に教えないのが常識(当たり前)

 全くの他人が未知の技術を持っている。知りたいと思っても不思議ではない。強引だったが、ラビが対価を払って見せてもらったのはそういうこと。

 価値がつり合っているかは微妙なところだが。

 なお、ナノスは技術をただで見せてもいいと言う考えだった。ナノスにとって、常識とは、過去の縛りプレーでしかないと思っている。例えば、今の季節は夏だとしよう。そして、目の前を通り過ぎた人の着ている服は分厚い防寒着マイナス30度対応の服を着ていた。想像しただろうか。夏はこうだと知る人からすればそれは自殺行為だろう。うわぁ、熱そう。見てるこっちも暑くなるし、◯ぬぞ。などと出てくるわけだ。だが、しかし、その人は他人に脱げと言われて必死になって抵抗し説明したんだが、脱いだら◯んだんだ。なぜだろうな。脱線したけども、日々千変万化する世界こそが当たり前だと思っている。この世界の常識とは相容れず、また異端なのもわかってはいる。だが、共存共栄、他に対して寛容でいて、教えあったり、譲ったりと他者と分かち合える愛ある世界が今が美しいと信じて疑わないのである。

 それはラビから見れば世間知らずの坊ちゃんに見えた。

 その態度を見て、ラビは強引に話を進めたのかもしれない。

 現に充実した表情でいる。

 そんなラビを見て「ラビさん、もしよかったら、そのままそのスーツあげますよ」といった。


「えー?!いいの!?でもほんとに?」


 ためらうラビだが欲しいのもまた確かで、真剣な表情でナノスをうかがう。


 「いいですよ。俺はもうこれを切る事は無いですし、持っていても目立つだけですから。それに、必要としてくれる人に使われる方が良い。」


 社会に出て数年、ナノスの頑張りについてきてくれた(スーツ)を感慨深く眺め、自身の手から放つ言葉を告げる。


 「ありがとう。大切するわ。お、できるのは3日後。その時に取りに来て欲しいわ。」


 「では、3日後、また来ます。」


 「待っているわ。」




 

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