10 絡まれる他人が模擬戦です。この世界の戦闘
ナノスは件の2人とその後を追った野次馬の向かった場所にいた。
ここは修練場。陸上競技場400メートルトラックほどの大きさ。奥行きより横に広い。修練場を囲う壁は3メートル超の高さがあり、分厚く頑丈である。ちょっとやそっとの攻撃では壊れそうにない。
そんな広い場所の中央に、先ほどのチンピラ冒険者とくすんだ金髪の青年2人近くに寄って向かい合っていた。その2人の間に年季の入った格好の見た目30代の冒険者がいる。審判なのだろう。
周りには冒険者ギルドのエントランスにいた大勢の野次馬がヤジを飛ばし、あるいは2人がどう戦うかを分析している者もいる。かくいうナノスは後者の部類に入る。
この騒がしさは祭りが始まるかのようだ。皆々が楽しんでいることが伺える。冒険者にとってこういった模擬戦は一種の娯楽なのだろう。
そのような熱狂の端でナノスは周囲を見渡し、戦いがよく見えそうで、あまり人が密着していない場所に陣取る。人だかりは苦手だし、純粋にこの戦いを見逃してはならないと感じていた。
"ニ人はどんな戦いをするのだろう"と思案していると、視界の外から誰かが近寄ってきていた。
「よお、お前さんも興味あるのか?」
重量感ある声はナノスを呼びかけた。振り返ると、2メートルを超える男が立っていた。
これでも驚きなのに、大きな武器らしい何かを背負っているのが大男越しに見えて、鍛え上げられた巨大からはみ出ている。
「(でかいな…)そうですね…」
ナノスの大男の第一印象は身体の大きさだった。インパクトは十分。ちょっと気後れして震えた声になってしまったがなんとか返事をする。
しかし、いつまでも萎縮した態度をとっていても、相手に失礼だと思い気丈になって相手を見る。改めて大男を見ると、ナノスの胴体よりも太い腕。その腕を申し訳程度に隠す半袖、太ももをはちきれんばかりに張っている短パン。武器を帯同させている分厚いベルトをたすきがけのように背負っている。短髪のナイスガイがそこにいた。
「そうかそうかっと、オレの名はバーグマンだ。よろしくな」
ナノスが観察するように見ていたのだが、さして気にせず名乗る大男はバーグマン。
「今さっき登録したてのGランク冒険者、ナノス・ジョーです。よろしく」
「おう、ナノスって言うのか。いい名だ。最初は誰でもそんなもんよ」
「どうも」
なんでも新顔の奴がいたから、気になって声をかけたらしい。
ナノスはふと気になったことを聞く。
「こういうのってよくあるんですか?」
ナノスは冒険者同士の模擬戦やこの祭りのような騒ぎについて、今し方知り合ったばかりのバーグマンに問う。先ほど受付嬢レイアさんに同じような質問をしたばかりだが、冒険者視点でも聞いていたほうがいいだろう。
それに、初めて会う人との場を持たせるための質問でもある。
ナノスは異世界でのコミュニケーションに慣れていない。
「ん?たまーあるぞ。あーやって戦うと決まったら周りは面白がってヤジ飛ばしてしまいには賭けはじめる」
賭けもすると。
やはり想像していた冒険者像とほぼ変わらない。
それにしても災難だな、くすんだ金髪の優男も。ケンカふっかけられて賭けの対象にされている。
ナノスだったら恥忍んで断っているだろう。
「優男はなかなか強そうだ。武器は直剣。身のこなしを見るに、すばやさ重きにおいて速さを力に上乗せするだろう。手数の多さで回転率を上げて攻めるのかもな。対して、ケンカふっかけた男の名はドラン。一人でCランク冒険者だ。見かけによらねぇだろ?あれでもなかなか強いんだぜ。バスターソードで叩き切る感じだ。最近、ランクが上がるってんで調子づいてんだろってな、周りは思ってるかもしれんが。まぁ、喧嘩をふっかけた、あいつの目的はもっとシンプルだろうがな」
(へーそうなんだ)
ナノスは感心した。あのチンピラのような男がCランク。Cランクというと冒険者ではなかなかの強さなのでは?
説明をありがとう、バーグマンさん。ちょうどどんな戦いをするのか、さわりだけでも知りたかったんですと内心拝んで感謝する。
Cランクがどの程度なのかわからないナノスはピンと来ていないが、一人でCランク冒険者とは、複数人のCランクパーティーと同じ位強い。もちろん強さだけの話なので、それだけで良いと言う事は無い。冒険者の仕事は他にもいろいろある。
ふと、ナノスは気になったことを隣の大男の冒険者に問いかけてみる。
「ところで、バーグマンさん。あなたも賭けたんですか?」
「ん?もちろん賭けた。どっちに賭けたかは内緒だ、すまんな」
人好きそうな笑みで内緒と言うバーグマン。
やはり賭けていたようだ。
この人も冒険者なのだから賭けるのかもと思ったが思ったとおりだった。冒険者ですものね。
「じゃぁ、せっかくなんで俺も賭けてきますね」
「おう」
バーグマンに賭けの胴元している人を教えてもらい、その人の所へと向かうナノス。
「…よし」
中央に立つ2人を今一度見比べ、胴元に駆ける対象を告げる。それと同時に掛け金を出す。
「おん?あんちゃん、そんなに賭けるのか?」
「ええ」
「まあ、いいけどよ。ダメでもうらまないでな」
「もちろん」
どうやらナノスは結構な大金をかけたようで、賭けの胴元に少々驚かれる。そうして賭け代金と番号の書いてある札を交換し、バーグマンの元へと戻る。
ナノスが帰ってくるやいなやバーグマンは問うてきた。
「ナノス、お前さんはどっちに賭けたんだ?」
「内緒です」
「だよな…お、始まるみたいだぜ」
ナノスは笑みを浮かべながらバーグマンと似た返事をする。
バーグマンはナノスが言わないことがわかっていたのか、さして気にしていないように笑い、今から始まろうとしている戦いに向き直り中央の2人に注視した。
◇修練場中央にて
「そろそろ、はじめるか」
「そうだな、賭けもこれ以上集まらんだろうし、もう良いだろう。そっちはいいか?」
「かまわないよ。やることは変わらないからね」
「ハンデつけてやっても良いんだぜ、優男」
「失礼しちゃうね、まったく。僕の名前はロッツ・ドラグーンだよ。覚えておくと良い」
「ふん、オレはドランだ」
「おっと失礼、オレとしたことがまだ名乗ってなかったな。この戦いの審判を務める、Bランク冒険者のデヴォットだ。よろしくな、それじゃあ簡単にルールを説明する」
Cランク冒険者ドランと新人冒険者ロッツ・ドラグーンの対峙している2人は舌戦を繰り広げている。その両者を取り持ち、審判の役を買って出ているのはBランク冒険者であるデヴォット。
「その一、殺しはなし。殺そうとする行動が見られた場合は、俺が止めに入る。その二、制限時間はないが、どちらも決め手にかけた場合は引き分けとする。その三、スキル使用はありだ。即死攻撃や部位欠損の攻撃のたぐいはなしだ。それ以外のスキルや行動は構わない。魔法・魔術も同じだ。念のために言うが殺しはなしだぞ。これは試合だ!行き過ぎるなよ。両者とも良いか?」
「いいぜ」「うん、わかったよ」
二人の返事が重なる。
距離をとった二人は武器を構え待つ。
両者とも戦いの闘志をまとい、いざ始まる。
「よし、では始める。Cランク ドラン VS Gランク ロッツ・ドラグーン」
(一拍おき)
「はじめ!!」
審判であるデヴォットの開始宣言直後、ドランは爆発的瞬発力でロッツに接近する。
警戒していた間合いを一瞬で距離を縮めてきたドランに爽やかな表情だったロッツの顔が驚きに変わる。
間合いを一瞬にしてつぶしたドランは、軽々と抜き身のバスターソードを上段から振り下ろす。ロッツはこれを斜め後ろにバックステップでかわす。跳んでかわした場所はまだドランの攻撃範囲、空いた間合いを踏み込んで接近し、速さ重視の横払いの攻撃を繰り出していく。
これにはロッツも己の武器である直剣でいなす。いかな速さ重視の攻撃だろうが一定の武器の重さに顔をしかめる。また、自身の対応が良くないことは受けてわかった。
重い攻撃を受けるということはその場から動けなくなることを意味する。この瞬間を待っていたドランはより一層気迫を込めて流れるように攻撃を続行。そしてバスターソードで蓮撃に入る。
しかし、再び失策をするロッツでもなく、今度は受けるではなく躱して相手の攻撃をいなし続ける。
「オラオラオラっ!」
怒涛の連撃だが、冷静に対応するロッツ。攻撃が当たりそうで観戦している側から見ると、顔に当たるぞと言った、見切りきわどいかわし方をする。
「どうした!手も足もでねぇか!?」
「そうでもないよ」
一方が始まって、ずっと重力武器を振り回して。
もう片方は次々くる剣の嵐を巧みに交わす。
両者激しく動いているにもかかわらず喋っている。
そんなロッツが押されている様を見て、やはり新人にはきつかったかなどと、早くも観戦している冒険者の中に少なからずいた。
「そろそろ僕も攻めよう」
言葉を皮切りにロッツの目に力が宿る。
ドランが剣を戻す動作に隙を突いて、自身の直剣でスイッチ。はね返す。
「うおっ」
弾き返されてたたらを踏むドラン。
そのわずかな合間を縫って、後方に大きく、相手との距離を取るロッツ。
攻撃権をスナッチしたロッツは、次の行動に移った。
「魔法詠唱だと!?ヤロウっ、すかしてんじゃねぇぞ!」
ロッツが何をするのか気づいたドランは距離を詰める。この距離ならば魔法が発動する前に間に合うとこれまでの経験で魔法使いの間合いを把握していた。
『ウインドショット』
「?!」
だがドランの想定通りにはならなかった。並の魔法使いよりも早い魔法詠唱になおかつ魔法発動までのタイムラグが短すぎた。
ロッツによる風で作られた大型獣の爪のような風刃が三枚連続してドランを襲う。
「くそっ」
瞬時に迫りくる風刃を見て、すぐさま横に跳ぶドラン。
怒涛の戦いに一呼吸つく。
「…なるほどな。おめぇ、エルフかよ」
ゆっくりと立ち上がりそう問いかける。苛立っているが、どこか嬉しげな表情が顔に出ている。ドランは確信しているようだ。
物語で出てくるエルフ。この世界でも変わらない。エルフの特徴である美形、弓、そして精霊魔法。あと一つ、わかりやすい特徴としては、長耳がある。今のロッツは、人間と同じ耳の形をしている。何かしらの魔法で人間に近い耳に見せているのだろう。
エルフは、滅多に自分たちの住む森や自然から出てこないで有名だ。それに魔法にとある特徴があるから、あの術師なのなら、この種族でほぼ決まりだ。
蛇足だが、古来より魔法とは自然に近い形で具現化するもののことをいう。魔法は素養とイメージ、魔力コントロールが必要で、説明すると長々と語ることになるので割愛するが、魔法詠唱とは魔法を使うための補助である。イメージと魔力コントロールを補助する役割。素養がある者は幼少の頃に危険だからと親に言い含められながら練習させられる。例えで言うと、自転車の補助輪に近い。安定はするが、戦闘で使用するには長すぎる時間がそれにより拘束される。詠唱は必ずしも必要と言うわけではない。熟練の魔法使いは詠唱破棄または詠唱短縮を行うこともできる者もいる。詠唱するということは、自身が"まだ魔法使いとして未熟です"と主張しているようなものだという声が世間一般の認識だ。詠唱に時間がかかり、その他の行動を同時にこなすことは、習得、もとい実践レベルにして使えるようにするには難易度が高い技術だ。
閑話休題
ともかくロッツは並の魔法使いではなかった。そもそも魔法使いではなかった。
魔法使いが自身で魔法を具現化して発動するのに対し、精霊に直接イメージを伝えることができ、変幻自在で効果範囲が広く規模を大きくすることが可能な術師。そのような者のことを精霊術師と呼ぶ。そして、精霊を使役できる者と言えば森や自然との親和性が高く、常に精霊が傍らにいる身近な存在、それは森人族である。
見えないがロッツの周りには精霊が漂っているのだろう。
「ああ、僕はエルフ。エルフの一番の特徴である長耳は隠してあるのさ。世の中僕らエルフは良くも悪くも注目されるからね」
そう言って、ロッツは背負っている銀弓に手を伸ばした。
それを見たドランは鼻を鳴らし、先程と比べようもない速さで接近していく。相手も魔法を使ったようにドランもスキルを所持している。"フィジカルアップ"、身体能力を上げるスキルを使っての接近。
ドランが先程までとは違って言葉を交わすことなくスキルを使っての高速接近には訳があった。
従来、エルフに対してこう格言がある。
ーー"エルフに間合いを与えてはならない"
目の前のエルフに感じたようにドランもその格言に習い、間合いを詰めて一方的不利になるのを避けた。
ロッツは弓を構え、矢をつがい放つ。エルフの弓はどんな弓でも強矢になる。
「くっ!?」
ドランの頬を掠めた。
まるで銃弾と変わらない。速さと威力が乗っている。当たればひとたまりもない。
ロッツは極めて冷静な目でドランを捕捉し次々と矢を放つ。
「シッ」
ーーーシュシュシュシュ
ドランは早次に迫り来る矢に近づくことができず、剣で弾き回避行動を取り続ける。
なかなかロッツとの距離が縮まらない。
観戦している冒険者たちは、思いのほか長く戦う新人に驚きと嫉妬を隠せなかった。
格上の冒険者と善戦していることもあるが、新人と自分自身とを比べてしまい軽く劣等感を刺激されていた。
実際ロッツが優勢でドランが劣勢のように見えるがそうではない。ロッツが弓で一方的に攻撃して押しているように見えるが、ドランは常にプレッシャーを与えている。ドランがその場で矢をかわし続けることで、あの素早い接近で虎視眈々と隙を窺っている。そのプレッシャーを肌で感じとっているだろうロッツ。額から汗が溢れている。一矢当たればまずいドランの綱渡りの構図。
つまり、どちらかが崩れたら一気に傾く、今この状態は我慢比べで拮抗している。
そんな拮抗した状況に変化が起こった。
ロッツである。
ロッツが矢をつがえながら、魔法を放ったのである。
『ウインドショット』
無詠唱での魔法攻撃だった。
精霊術師の利点は、魔法使いのように、何もかも自力で魔法を具現化するのに対し、精霊術師は精霊を介して、魔法が使えること。精霊が術師のイメージを読み取って、あるいは精霊術師が精霊に伝えて魔法を発現させるので、魔法に対するリソースの割合が少なくて済む。これはまさに精霊とともに生きているエルフのなせる技。
だからこそロッツは矢を放ちながらでも魔法が使える。
「うそだろ!?」
意想外の事態に驚愕の声をあげるドラン。
弓で射ながらの魔法は一つの風刃だったが、ドランからすると奇襲攻撃にも等しいわけで、一刃でも当たりどころが悪ければ致命傷だ。
だが、そんな危機的状況にも関わらずドランの顔には笑みが溢れている。
「このヤロウやるじゃねぇか。だったらオレもっ」
むしろ相手が予想通り以上の強さだったことに歓喜し、嬉々として自身も技を繰り出そうと構える。
「パワースラッシュ!!」
膨れ上がった筋肉はバスターソードを大ぶりし、風圧を起こしながら地面を抉り巻き上げる。
修練場内に轟音が響き渡る。
ーーーブンッドゴゴゴッ
その影響で、矢はあらぬ方向へ飛び、風は消えた。
これから有利にことが運ぶと思っていたロッツは、弓を射るのを中断し、後方に下がり警戒する。その際にもドランから目を離さない。
剣を振り切った状態から体制を整え肩に剣をのせる。ドランはそんなロッツを見やる。
「あぶなかったぜ、さすがエルフだ。簡単には近づけさせてはくれねぇな」
にやにや笑うチンピラ冒険者もといCランク冒険者。
「そちらこそだてにCランクじゃないね…ヒヤヒヤするよ」
「ふん、余裕ぶっこいてんのも今のうちだ。次で終わらす」
「余裕じゃないんだけど…ああいいよ。次で終わりだね」
内心本当のことを言っているのに、なんでそんなイラついているのだろうと思っているのだが、表に出さない。わからないなぁ、やれやれだぜって雰囲気が出ているのに気づいていないロッツ。
そんなロッツの余裕磔磔の仕草が癪に障るドラン。
いざ、矢をつがえ、魔法詠唱するロッツだが、片や相手であるドランは一向に何かをする気配がない。
「…?」
(どういうことだ?なぜ近づいてこない…)
といぶかしんでいると、対峙しているドランから声がかかる。ドランも相手であるロッツがいぶかしんでいることを察したようだ。
「魔法詠唱だかなんだかしらねぇが、お前の準備が終わるまで待ってやるよ。そんで、そのご自慢の魔法をオレがぶっつぶす」
どうやらドランはエルフの強い魔法を打ち砕いて勝ちたいらしい。タイマンをはりたいのか。
そう思ったロッツは、その勇ましい立ち振舞いに答えてやろうと迎撃の態勢を解き、強力な魔法詠唱に切り替えた。
「『汝この風の前には立つことは愚か進むこともできなし、後退あるのみ。ーー風が吹き辺り一面強風っ、それら一つとなりて荒れ狂う風と唸る、通り過ぎた大地はただただ切り刻まれた残痕だけーー!暴嵐ストーム!』」
ロッツの長々とした詠唱が修練場に響く。詠唱している最中、ロッツの身体から魔力がほとばしり周囲に満たされていく。詠唱が終わる頃には周囲に満たされた魔力が辺りに風を起こし強風を作り上げる。強風、留まるところを知らず、ついには四メートル強の『嵐』が立ち上がっていた。
嵐は、ロッツの呼び声でドランに向かって突き進む。
辺りは一変して風が吹き荒れる暴風域と化した。
――ゴゴゴゴゴゥッ
相手を挑発して、想像以上の魔法が作り上げられたことに驚愕の表情を浮かべたが、ドランは迫りくる強敵を見て、闘志が湧き上がっていた。
「へっ、そうこなくっちゃ面白くねぇぜ…
いくぜ『チャージ』!」
ドランのスキルが木霊する。
腰を据え、後ろ下段にバスターソードを構え溜めの姿勢に入る。すると、剣が発光しだした。だんだんと輝きが上がっていく。力を溜めているのだろう。
そして、まばゆい輝きは最高潮に達した。これは溜めが最大値になった合図。
その時すでに目の前に嵐が迫っている。地に根を張る力強い踏ん張りでもってドランは溜めに溜めた光り輝く剣をぶつける。
「『フルパワースラッシュ』!!」
すさまじい速さの一撃は嵐にぶち当たる。
すさまじい音金切り音が鳴り響き――
――――キィーーーン
嵐と剣の衝突。
強風が見ている人の身に打ちつけられる。
嵐と剣のぶつかり合いに、余波に煽られ転んでいる奴、地面に接している奴もいた。
「すげぇ」
ナノスはこのぶつかり合いに驚いていた。人ができうる範囲を超えていないかと。序盤にあった純粋な戦いにもちろん魅入った。しかし、そのあと戦いを過熱させた魔法やスキルはこんなことが可能になるのかと。
「ああ、良い戦いだな」
バーグマンも白熱した戦いに弾んだ声が出る。
ナノスはバーグマンの声を聞き、他に人がいたのに気づくと、観戦していた冒険者を見る。大半が驚いていて、一部バーグマン含む熟練そうな訳知り顔の冒険者たちは感心の表情を浮かべている。
それらを見て、稀に起こりうる規模の戦いなんだなとわかる。
――ブォォォン
ぶつかる余波が辺りの砂埃を巻き上げ、中央のニ人を覆い、見えなくなった。
しばらくすると視界を遮っていた砂埃が収まり、戦いの場が見えるようになる。
その場にいたのはロッツだけ。立ち位置がずれている。余波であおられたのだろう。疲労しているようだが立っている。
対するドランはどこにいるのか視線をさまよわせると、審判のデヴォットが歩いているその先にいた。
ドランは壁際まで吹っ飛ばされて剣を握った状態で仰向けにして倒れている。そばまで身を寄せたデヴォットはドランの状態を見ていく。
遠くから見た感じだと何か言葉を交わしているようだ。
ほどなくして、デヴォットが周りにいる観衆に身体を向ける。
冒険者どもはデヴォットに注視した。
――勝者、ロッツ・ドラグーン!!
勝利者の名前を聞いて、一拍遅れて歓声が上がった。
いい戦いだったと野次が飛ぶ。
そして、賭け事をしていた者たちの反応は悲喜こもごもこもごもといったところ。嘆いていたり、隠れて嬉しそうにしていたり、悲しみの声が大多数を占めていたようだった。
つまり賭けに負けたのだ。
「見応えありましたね」
「ああ、久々に熱い戦い見せてもらったぜ」
――そして、つらつらと先程の戦いを私見だがと言って考察を語るバーグマン。序盤の接近戦から、エルフの精霊魔法にドランのスキルでの応戦、どちらもほぼ力量は同じだったと。敗因はドラのおごり。最後、派手にやる前に2人が言葉を交わしている時、ロッツは矢がなくなる前に決着をつけたかったんだろう。それを理解しても、なお強い魔法見た上で勝ちたかったようだったと。
「わからんでもない。エルフの魔法はあまり見れる品物じゃない。自分らの住む森から出てこないからな。外の世界に興味あるのは変わり者エルフだ。それにな、この結果は予定調和に近いんだぜ」
「どういうことです?」
チンピラ冒険者になにかあるのだろうか
「あいつは戦闘狂」
戦闘狂…本当かよ
「己よりも強い奴にケンカをふっかけて緊張感ある戦いがしたいんだと。なまじ戦いの勘やら才能もあって、闘争欲に忠実なもんで、着実に力をつけてる奴なんだ。今頃最初から望んでいた真っ向勝負で悔しがっているだろうな」
なるほど、受付前でケンカふっかけていたのはそういうことだったのかと納得した。なにがなんでも戦いたかったと。
「ところで話は変わるがよナノス」
「はい、なんですか?」
「おめぇどっちに賭けた?」
「ロッツです」
「ほう、奇遇だな。俺もだ」
どちらもロッツが勝つと予想していたようだ。
「なんでロッツを選んだか聞いてもいいか?」
「ロッツさんはですね、身にまとっている空気が澄んでいたから?です。受付で見た時にも思ったんですけど、まるで自然に遭遇したような感じがして。他の人とは何か違うなとも思いまして。でもまさかエルフとは思えなかったです。初めてですよ、エルフの方を見たのはっ。ドランさん?は剣で戦うんでしょうけど、正直よくわからなかった」
(異世界の代表格に連なる種族に出会えた)
そう、ナノスは生エルフの姿を見て感動していた。
「ほーん、なるほどな」
「バーグマンさんはどうしてロッツさんに?」
「さんづけはなしていいぜナノス、勘だ」
「あ、はい。え?かん?」
「おう、勘だ」
「…」
チンピラ冒険者もといCランク冒険者ドランはもちろん知ってるみたいだが、ナノスと同じく、つい先ほどギルド登録したばかりのエルフであるロッツ・ドラグーンは初見のはず。
バーグマンは冒険して、培った討伐や護衛などを経験をひっくるめて勘と言ったのだろう。
異世界の戦士は、勘で力量がわかるのか。
驚嘆しかわかないナノス。
だが、ナノスもロッツに勘で賭けて勝ったのだから、人のことをとやかく言えない。
他人と違うから必ず勝つとは限らない。
勝つだろうと確信があったわけでもないのだ。
しかも、賭けの胴元が驚くほどの金額をかけている模様。
(素晴らしいな異世界は)
ナノスは当初の目的を達成したことに満足していた。
これがCランク以上の強さだと知れてよかった。
ある程度の強さを冒険者になって身に付けねばならないと考えていたが、まさかギルド加入初日、それも異世界初日に白熱した異世界でも稀な戦いを見れたのは僥倖。
明確な目標がイメージとして形付けられた気がする。
戦いを見て、"あー面白かった"で終わらせない。今のナノスにはそんな余裕はない。
なんせ身一つで知らない場所どころか、まるっきり世界が違う異世界で、今後は生活をしなければならない。
これからが楽しみだともちろん思うが、基本一人で行動するんだ。
チートだとかご都合主義だとか勘違いして楽観視するよりよほど良いではないか。自信たっぷりでうぬぼれでなんていない。
(さっきの戦いを見て俺も明日明後日でこれくらいやれるぜなんて思わないから)
けれど、自信持って何かをやるってのはすごく大事なことだ。長々と語って何が言いたいかって身の丈に合わない過剰な自信は控えようって話だ。
それに一人じゃ考えることにたかが知れているが、無知なところは先達に聞けばいい。異世界に生きている全人類すべての生物が先達なんだから。
(聞くは一生の恥とかなんとかだ)
そうしてナノスはバーグマンの感想を聞き入って戦いへ理解を深めていった。
世間話でもってニ人は既に気心知れる中として打ち解け合っている。
後に知ったが、ニ人は年齢が同年代だった。
それからナノスとバーグマンはしばらくだべっていた。
ああ、ナノスはもちろん賭けの換金をした。
どれくらい儲けたかはウハウハだったナノスがいたと付け加えておこう。
◇◇◇◇
戦い終わりロッツはドランに歩み寄っていた。
当のドラン仰向けで大空を仰いている。
「なんで最後倒れた後立ち上がらなかったんだい」
「あぁん!?倒れたら負けだとオレが決めてんだよ、だから"負けだ"ってデヴォットにそう告げたんだよっ、文句あるかっ」
審判であるデヴォットと何か会話していた様子だったが、負けを申告していたようだ。
負けって自分で強調して心底悔しそうだ。
それを聞いて、ロッツはこう言った。
「いや、文句などあるわけないよ。…エルフだとばらす予定なんてなかったんだけどね。まぁ一応エルフの面目は保てたからよしとしよう、ほら」
少々プライド高いことを言うロッツは、手をドランに差し伸べた。
エルフというものは高潔なのだ。
「〜怒!!なんだこの手はっ、いらんそんなもの!次は勝つぞ!クソがっ」
高潔であるが故に、随所で他人を逆撫でにすることも。
高潔の者が手を差し伸べて賞賛を素直に表現するのだから誇っていいと思うが。
どう受け止めたかは本人しか知らず。
いきり立つようにして跳び上がり、ぶっきらぼうに言葉を吐き捨て訓練所の出入り口に歩いて去っていった。
「まったく、僕が自ら手を差し伸べたというのに」
と、呆れた声でも顔は微笑ましいさまだった。
(おいおい、これ誰が片付けんだよ…)
ぼそりとつぶやくデヴォット。
この場をさろうとする荒らした者たち、その惨状、それらを見てギルドに掛け合うことにしたのだった。
読んでくださりありがとうございました。




