甘い蜜の匂いに当てられて(二)
「本当にかわいい、ミルティアナ様。でもダメですよ? そんな大きなはしたない声を上げては。他の使用人たちにまで聞こえてしまいます」
膝から床に崩れ落ち、尻落ちを着いたミルティアナは肩で息をしながらシアの言葉を反芻する。
「聞こえる……」
母と同じあの嬌声が、外まで聞こえる。それはある意味、ミルティアナにとっては恐怖に近い感情だった。
別に男の人を相手にしているわけではない。しかし、自分が子どもではなく、女となり自分の母と同じことを行う。
そう考えただけで、居ても立っても居られないように心がざわつく。
「シア、私は……」
「でも気持ちよかったのでしょう?」
シアの言葉に、ミルティアナは言葉を返すことが出来なかった。
(……気持ち……よかった)
初めてもたらされる他人からの優しさも、好意も快楽も全て。
「ミルティアナ様、声は出ないようにすればいいのですよ。そうすれば誰にもバレることはない。そうでしょ? それに快楽を得ることだって、普通のことです。ましてや、わたしとミルティアナ様は女同士ではないですか。大丈夫ですよ、全てわたしに任せて下されば」
「女同士だから……、声を出さなければ、バレない……」
それは甘い蜜の匂いに当てられた今のミルティアナには、なによりも甘美な囁きに思えた。
(本当にこんなことをして……。でも)
「大丈夫ですよ、ミルティアナ様。我慢をすることなどないのですから」
「我慢?」
「ええ」
ミルティアナは今まで我慢しかしてこなかった。母の仕事について行くのも、家族から除け者させることも、食事を与えられないのも。
しかし今は、少なくともシアといるこの時間・空間はなにも我慢しなくてもいい。
(本当に? でも、やっと)
ミルティアナだけが我慢をし、虐げられる世界などないハズだ。そしてその焦がれたモノの先が、差し出すシアの手の先にある。
ミルティアナは迷うことなく、そのシアの手を取った。取らないという選択肢など、ミルティアナには存在するわけもなかった。
◇ ◇ ◇
ベッドの上で、口を押え必死に嬌声が上がらないようにしているミルティアナに、シアは体のいたるところにキスを落とす。
『可愛い』小さく快楽に震え、悶えるミルティアナに、シアはそう何度も声をかけた。
そう言われるたびに、ミルティアナは心まで満たされていく気がした。
初めはキスだけだった行為も、だんだんと深く、そしてされるがまま、ミルティアナか快楽へ昇りつめていく。
「シア、シア、シア、シア……」
「ふふふ。可愛いですよ、ミルティアナ様。ほら、もうこのまま、ね」
ただ頭の中を全てシアだけで満たされていく。もう、シアのことしか考えられなかった。