甘い蜜の匂いに当てられて(一)
「ミルティアナ様、大丈夫ですか?」
ドアのノックもそぞろに、シアが勢いよく部屋に飛び込んで来る。
本来ならば使用人として許されない行為だが、ミルティアナの顔は緩む。
自分を心配して駆けつけてくれた。そのことがなにより嬉しかった。
「別になんともないわ。少し疲れてしまっただけよ、シア」
ミルティアナは駆け付けたシアに抱き着く。そしてそのまま、シアの大きな胸に顔を埋めた。
花の様な、石鹸のような、そんな柔らかな匂いがした。
「いい匂いね、シアは」
「な、もう。ミルティアナ様ったら……」
ミルティアナの髪にシアが触れたかと思うと、そのまま頭を撫でる。
シアがその髪に触れた瞬間ミルティアナは、先ほどまでの嫌な気分など全て吹き飛んで行く気がした。
この屋敷の中で唯一優しくしてくれるシアに、ミルティアナが懐くにはさほどの時間を要さなかった。
そしてその中で、ミルティアナはあることに気付く。
女の人は、どこまでも柔らかく、そしていい匂いがするということを。
まるで甘い蜜に惹かれる、蝶のように。いつまでも、その匂いだけを胸に吸い込み、満たしていたいという衝動に駆られる。
「そんなに悪い子には、お仕置きですよ」
クスクスと笑ながら、シアの手が頭から耳に伸びてくる。くすぐったいような、それとは違うようなぞくぞくとした今まで感じたことない感覚が背中に抜けていった。
「し、シア……ん」
ミルティアナが身じろぎをしても、構うことなく、シアの指は耳たぶから耳の穴へと伸ばし、くにくにと擦っている。
「シア、や、やだ、それ」
「ふふふ。かわいいですね、ミルティアナ様は」
耳元近くで囁かれる、シアの言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
シアの匂いがより濃くなっていく。その匂いに当てられたように、頭がぼーっとしてくる。
「シアぁ、だめょ」
恥ずかしいと思うのに、動かない体を必死に起き上がらせようとした時、シアの手がワンピースの首の部分からゆっくり服の中に降りて来た。
「やだやだやだやだ」
自分の声がやや上ずっていることに、ミルティアナ自身も驚く。この声は、まるで母のあの日の声のようだ。
「大丈夫ですよ、ミルティアナ様。女同士なんですもの。これは普通のこと、ですよ」
「普通?」
そんなことあるのだろうか。
ないと分かっていても、ミルティアナの体はシアに預けたままぴったりとくっつき、動けないでいた。
「ええ、もちろん」
シアはミルティアナが動けないのを確かめた後、両頬を包むように持ったあとにキスを落とした。