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町長という男

 次の日の朝、ミルティアナは町長と食事をするために大広間へ呼ばれた。


 母の持たせたもう一枚の水色のフリルの付いた膝丈のワンピースを着たものの、この家の調度品を見ながら歩くうちに、どんどん貧相に思えてくる。


 廊下には、ミルティアナの背よりも高い甲冑や、大きな聖堂の書かれた絵、色とりどりの文様の描かれた壺などがあった。


 この町は他の町では育たない薬草を育てることに成功したため、都市部よりも豊かだと聞いたことはあったのだが、想像以上だ。


 ここがどこかの貴族の屋敷だと言われても、全く違和感はないだろう。


「どうぞ、ミルティアナ様」


「ありがとう」


 大広間の上座には、すでに町長が腰かけていた。


 連れて来られたのだから、時間が間違っていたということはないと思いつつも、ミルティアナは頭を下げる。


「おはようございます。遅くなって、申し訳ありません。昨日も一緒に食事をと言われていたのに、私……」


「おはよう、ミルティアナ。大丈夫だよ、そんなに恐縮しなくても」


 どこまでも優しく、しかしどこかで聞いたことのあるような声だった。


「ほらほら、顔を上げて席に着きなさい」


「はい、ありがとうございます」


 ミルティアナはゆっくりと顔を上げ、町長に視線を向ける。


 歳は50ほどだろうか。ブラウンの短い髪に、同色の瞳。その眼光は、声とは違い鋭い。


 やや丸みを帯びた体形は、裕福の証のようだった。


(この人……)


 知っている。ミルティアナは、本当に悪い方に予感が当たったことを実感した。


 何年か前に、母の店に来た身なりの良い上客だ。あの時は、もう少し細身だった気がするが、目つきや声は全く変わってはいない。


 あの時、この男にとても気に入ったと言われ、ミルティアナは抱き上げられた後に散々撫でまわされた。


 母は、あの時なにかしきりにこの男と話をしていたが、それが今ここで繋がるとは思ってもみなかった。


「どうしたんだい、ミルティアナ」


「え、いえ」


 慌てて視線を外しながら、ミルティアナは案内された席に座った。


 すると見計らったかのように、温かいスープに、ふわふわとした白いパンやサラダなどが運ばれてくる。


「さぁさぁ、冷めないうちに食べなさい」


 スープからも焼きたてのパンからも、白い湯気が上がり食欲をそそられた。


「はい。いただきます。あ、あのなんとお呼びすればよろしいでしょうか」


 挨拶を返そうとしたとこ時に、町長の名前を聞いていないことをミルティアナは思い出す。


「……そうだね、お義父様(とうさま)と読んでもらえるかな」


「はい、もちろんです。お義父様……」


 その呼び方が、いかにも自分はこの人のモノであるということを思い返させられる。


「さぁ、お食べ」


 ニコニコとした笑顔を浮かべながら、町長はミルティアナの食事風景を眺めていた。


 その柔らかな視線とは裏腹に、どうしても過去の撫でられ回された記憶から、気味の悪さをミルティアナは覚えた。

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