ひと時の安らぎ
部屋を誰かがノックする音で、ミルティアナは目が冷めた。
どうやらそのまま眠ってしまったようなミルティアナは、急いで横に置いていたワンピースを頭から被る。
「は、はい」
部屋の外はすっかり暗くなってしまっている。あれからどれだけの時間が経ってしまったのだろうか。
「失礼します」
そう言ってシアが部屋に入って来た。その手には、トレイに乗せた食べ物がある。
「あ、あの」
「疲れてお休みだったので、料理長に頼んで、こちらで食べれる簡単なものを用意させていただきました」
あとで呼びに来て、食事をということだったのに、すっかり寝入ってしまったようだ。
本来ならば、町長との顔合わせだったはず。それを寝ていてすっぽかしてしまったということだろう。
「あの、でも今日は」
「顔合わせのことですか?」
「そうです。せっかく、待っていただいていたのに、私……」
「主には、わたくしの方からミルティアナ様はとてもお疲れのようですのでと報告してありますので大丈夫です。それより、冷めないうちに召し上がって下さい」
シアはそう言うと、テーブルの上にサンドイッチとスープを乗せた。
クリーム色をしたスープからは、まだ湯気が立っている。
ぐぅと、はしたなくお腹が鳴ったミルティアナは、思わずお腹を押さえた。
今日は朝、家を出発する前に固いパンを一つ食べたきりだ。お腹が空いていて当然である。
家でお腹が鳴ることなど、日常茶飯事だったというのに、やはり他人に聞かれると恥ずかしくなる。
「そんなしかめっ面していないで、食べてください」
微笑みながら言うシアの顔は、ミルティアナにとって想像していた姉の姿そのものだ。
絵本の中で、何度も何度も憧れた優しい姉。
「……はぃ」
ミルティアナは大人しく、食事の用意された席についた。
トウモロコシのスープに、ふわふわした白いパンにお肉と野菜の挟まったサンドイッチ。
どちらも、ミルティアナが初めて食べるものだった。
サンドイッチの間には、ソースまで付いており、とても美味しい。
「美味しい」
シチューも美味しかったが、これはもしかするとそれ以上かもしれないとミルティアナは思った。
しかし美味しければ美味しいほど、心のどこかが叫び出す。これは不幸の前触れに過ぎないと。
美味しいのに、悲しい。そんな感情がミルティアナの中で入り混じる。
(辛い)
「さぁ、ミルティアナ様、お茶の用意が出来ましたよ」
微笑むシアに、ミルティアナもつられて表情が柔らかくなるのが自分でも分かった。
(……辛い)
このひと時の安らぎが続いて欲しいと心から思いつつも、続くわけがないとミルティアナは誰よりも理解している。
だからこそ胸の奥を締め付けられる感覚に、息苦しくなっていった。




