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疲労の果て

 ミルティアナが案内されたのは、二階の右奥にある部屋だった。


 西からの日が、窓から差し込んでいる。それだけでも温かい室内に、ミルティアナは少しほっと胸を撫でおろす。


 また部屋の装飾品など、どれも真新しく、まるでミルティアナを迎えるために誂えたように思える。


 女の子が好むような、白を基調として、細やかな刺繍がカーテンやシーツに施されていた。


 天蓋付きのベッドは、それだけで貴族のお嬢様になったようだ。


 しかし現実として、今自分は服を抱えた状態のただの裸の村娘に過ぎない。


 現実と一瞬夢見たことの違いに、ミルティアナは小さくため息をついた。


 どこに真意があって、本当はどちらが正しいのか。


(こんな風に新しいモノを揃えているのに、なんで……)


 これだけ見れば、ミルティアナが養女になったことは歓迎されていると感じることが出来ただろう。


 ミルティアナの服を脱がせ、あのような辱めをする人たちのどこに、歓迎などという文字があっただろうか。


(もう、訳が分からない)


「……様? ミルティアナ様?」


 使用人に顔を覗き込まれたミルティアナは、ふと我に返る。


 どうやら何度か声をかけられていたものの、考えを巡らせていたミルティアナは気づかなかったようだ。


「あ、ごめんなさい」


「わたくしは使用人ですので、そのように謝っていただかなくとも大丈夫ですよ」


 先ほどまでの険しく蔑むような他の使用人たち表情は、彼女にはなかった。


 まるで本当に心配してくれているのではないかという、錯覚にミルティアナが陥るほどに。


「あ、はい。……ありがとうございます」


「敬語も不要です。あなた様はここの主であるお方の養女となられたのです。わたくし共より、身分は上になるのですから」


「……はい」


 怒っているのではなく、まるで諭すような柔らかな口調。考えてみればそうだ。買われてきたとはいえ、身分は養女。


 あんな仕打ちを受けたとはいえ、本来ならば彼らよりも身分は上だろう。


(でもそれならなんで)


 ここで疑問が思い浮かぶ。なぜ身分が上だと分かっている者の、服を脱がすなどということが出来るのだろう。


 村長の命令なのか、それとも本当にただのボディチェックなのか。


「お食事の時間に、また呼びに参りますのでそれまでは、この部屋でおくつろぎ下さい」


「ありがとう。あ、あの、名前を聞いても?」


「……シアと及び下さい」


 小首をかしげ、やや困ったような表情をしつつも、名前を答えてくれる。


 少なくとも彼女は、シアは敵ではない。ミルティアナにはそう思えた。


「シア、ありがとう」


「では、またあとで呼び参ります」


 深々と頭を下げて、シアは部屋から退出して行く。


 この部屋でと念を押されなくても、ミルティアナは他の部屋など行く気など全くなかった。


 誰と接するかも分からない外など、わざわざ行く気はない。かといってここが安全だと言う保障もないのだが。


(疲れた……)


 大してなにかをしたわけでもないのに、その疲労は大きく思える。


 森の中をさまよい、食料を探す方がミルティアナの体力的には今以上に大変だった。


 にもかかわらず、そのままベッドへと倒れ込むと、手足を動かくことも出来ないくらいの疲労感がある。


 やがてその疲労感は、冷たいベッドの上に広がっていくようだった。

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