買われて行った先(一)
町長の家は、広場を真っすぐ抜けた先にあった。
屋敷の周りには高い塀がぐるりと囲み、門をくぐれば大きな庭に色とりどりの花が咲く庭がある。
この町の町長は、町の特産品で大きな富を得ていると聞いたことはあったが、まるで貴族の屋敷を思わせるほどの大きさと広さだった。
ミルティアナと母は、使用人に道案内されながら、思わずきょろきょろと辺りを見渡していた。
「しばらくここでお待ちいただけますか? 中で確認してまいります」
そう言うと、先頭を歩いていた使用人がミルティアナたちに声をかけてきた。
「はい」
それ以外の答えを持たないミルティアナたちは、返事をするとその場に立ち尽くした。
「なにも、こんなとこで待たせずに、中にくらい入れてくれてもいいと思うんだけど」
「か、母さん、辞めてよ。もし聞こえたら」
「聞こえやしないわよ。こんな立派な扉はね、声なんて漏れないのよ」
母はそう言いながら、入口の扉に触れた。
たしかに家の簡素な木の扉ではなく、もっと頑丈そうな素材で出来た扉は音漏れなどしないのだろう。
しかし、だからと言って誰が聞いているかも分からない中、そんな小言など言うことではないということはミルティアナでさえわかる。
「ミルティアナ、あなた今からそんなんじゃあ、疲れてしまうわよ?」
「母さん、それどういう意味?」
「女はね、愛想よくしてるのが一番なのよ。それなのに、そんなに細かいことをいちいち言うなんて。そんなんではね、誰からも愛してなんてもらえないわよ」
「愛して……」
愛などと、どの口が言うのだろうか。
ミルティアナは、両手に握りこぶしを作り力を込めた。愛など、自分に分けてくれたことは、今まであっただろうか。
いつでも自分だけが異物扱いされ、母の仕事を手伝わされ、まともな食事ももらえず、挙句、売られて行くというのに。
それを愛想などという簡単な言葉で片付けようとする母に、ミルティアナは怒りがこみ上げてくる。
愛想を振りまくくらいで愛してもらえるのなら、ミルティアナなど今までどれだけでも愛されてきたはずだ。
「母さん」
「お待たせいたしました。ミルティアナ様、どうぞお入り下さい」
最後こそは文句を言おうとしたミルティアナの言葉を、中から出てきた使用人が遮った。
「……はい」
「あの、あたしも町長さんに挨拶を」
「いえ。ここまででと、申し付けられておりますので」
中に入れると思っていた母は、肩を落とす。しかしさすがに引き時を理解しているのか、食い下がろうとはしない。
「では、娘をよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げる母に、ミルティアナはそれ以上声をかけなかった。かける言葉も思いつかなかったから。
◇ ◇ ◇
屋敷に入ると三日前にミルティアナの家を訪れていた男と、数名の使用人たちが玄関ホールに集まっていた。
「ようこそ、ミルティアナ様。まずはですが、全ての服をその場で脱いでいただきます」
「え?」
ミルティアナは一瞬なにを言われているのか分からず、思わず聞き返した。