心が求めていたもの
短編版からのリメイク作品になります。
柔らかな少女の、皮膚を突き抜けてゆく感触が手から伝わってくる。
そして吸い込まれるように、ナイフは体の中へと抵抗なく進んでいった。
その感覚は、なんとも形容しがたい初めての経験だった。
罪にまみれたその行為は、聖女と云われてきたミルティアナには、なによりも甘美に思えた。
「ああ……」
「ど……どうして……」
虚ろな少女の瞳。
その瞳には、聖女と呼ばれたミルティアナの姿はもうない。
快楽と欲望にまみれた、悪魔のようにさえ思える。
少女の目は次第に光を湛えることもなく、絶望の色に染まっていった。
引き抜かれたナイフの後を押さえ、痛みと恐怖から歪む誰かの顔など、今までに見たことがあっただろうか。
少なくとも、この場で、この聖域とさえ呼ばれる教会の中で見たことのある人間など一人もいないだろう。
「ふふふ。あなたのその顔、ホント綺麗ね?」
(ああ、こんなにキレイなモノがまだこの世界にあっただなんて)
その顔も、この部屋を真っ赤に染める赤い血もただただキレイに思えた。
黒いモノを、わざと覆いつくすように――
全てが白で統一されてきたミルティアナには、新しい世界が開けたようにさえ感じてた。
ミルティアナの瞳には、最早、少女は人ではなく快楽を求める道具といか写ってはいない。
「どうして? どうしてなの……で……すか。あいし……て……たのに」
よろよろと動き出し、少女は床に倒れ込む。
愛するというのは、どんな言葉だっただろうか。
少なくとも、ミルティアナの中にそんな言葉など存在したことはなかった。
床には、少女を中心として赤い花を描くように血の海が広がっていった。
「どうして? だって、キレイなんですもの」
「キレイって……」
「もっと、キレイにしてあげるわ。そうね、あなたの言葉を借りるなら、私も愛してるわ」
恍惚とした笑みを浮かべながら、ミルィアナは少女に馬乗りになり、何度も何度も何度も何度もその色を求めた。
すでに少女は声を発することさえ出来なくなっていた。
それでもミルティアナの手が止まることはない。
そう、少女が動かなくなるまで、何度も、何度も。
「あら、もう駄目ね。こんなに愛してあげたのに」
ピクリとも動かなくなった少女の体と、切れ味のなくなった真っ赤に染まるナイフをミルティアナはあっさりと捨てた。
その姿はまるで壊れたおもちゃを放り投げる、子どものようでもあった。