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転生斡旋所

転生斡旋所#6

作者: 灰色

「またここかよ」

如何にもファンタジーの前衛職、といった鎧を纏い剣を背負った男が立っている。

「今回は俺だけか。魔法があるのなら、蘇生魔法くらいないのかよ」

どうやら過去にここを訪れた事があり、自身が死んだ事も把握しているようだ。

「もう少し良い世界に転生させろよ。あいつには一言文句を言わねーと」

愚痴を言いながら、目の前の建物に入って行った。


「いらっしゃいませ」

入って来た男に対して、声がかかる。

「あれ、建物は同じなのに、前の奴と違うのか?」

想像していた相手と違い、一瞬戸惑う。

「前にもここに来られた方ですか。ここは若干特殊でして、見る方により建物の見え方が異なります。また、似たような空間が複数存在し、それぞれの場所に各担当者が存在します」

相手の疑問について簡略に説明し、続けて本来の業務について発言する。

「以前に来られたのであれば説明を省略できそうですね。助かります。ご存知かと思いますが、ここは亡くなった方の次の生活プランを伺い、転生の補助を行う所です」

「ああ、知ってる」

調子を取り戻した男が返答する。

「前の奴に文句の一つくらい言いたかったが、しゃーねーな」

「前任者にご不満がおありですか。ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。不満点についてお聞かせいただけますか。次の転生内容を選定する際の参考にさせていただきますので。立ち話もなんですので、座ってゆっくりお話ししませんか」

そう言われ、建物に入るなり担当者が想像と違った事に驚き、立ったままで話していた事を思い出す。

慌ててソファーに座り、不満を吐き出すのであった。


「勇者として転生したのに、なんであっさり死ぬんだよ。魔王軍強すぎ。普通、勇者なら皆から崇められ、良い装備や道具を貰って、レベルとかスキルで無双出来るはずじゃね?」

不満を吐き出す。

「前回の転生先は、ファンタジー風の現実世界ですね。科学ではなく魔法が発展したと言えど、出来る事に大差はありません。死者を蘇生するような技術もなく、レベルやスキルと言ったゲーム特有のシステムも存在しません」

一息付き、続ける。

「自身の鍛練以外に強くなる方法は無く、自分と相手の力量を数値化して把握する事など出来るはずありません。経験を積み、勝てる相手かどうかは自身で判断する必要があります」

「なんだよ、ショボいな。そんなの前の奴は言ってなかったぞ。職務怠慢じゃね?そもそも、転生と言えばチートで俺最強が当たり前だろ」

男が前世の記憶を元に、好き勝手な事を言う。

「ご希望のように、レベルやステータス、スキル、蘇生魔法等を望まれるのなら、ゲーム系の世界をおすすめします。ご希望のゲーム等ございますか?」

提案を聞き、男は若干機嫌を直す。

「なんだ、あるんじゃねーか。出し惜しみしやがって。そうだな、大作RPGのようなLVを上げて強くなるのが良いな。当然勇者で。LV上げとか面倒だから、それなりに強くなってから記憶を取り戻すのが良いかな」

「可能です。記憶を取り戻した時点での主となる人格は現在のものと転生先のもの、どちらが良いですか?」

男が即答する。

「当然今の俺。じゃ、それでよろしく」

「承知しました。後、細かな調整が必要ですので、もう少しお付き合いいただけますか?」

上機嫌になった男は以降の提案を聞き流しながら、転生準備が進んで行った。



転生を斡旋した手前、その後についての確認は怠らないようにしている。時間が出来たので、今日は以前の勇者について確認を実施する。


・16歳、勇者として旅立つ

・序盤、3名のパーティーメンバーを加え、全滅にも挫けず、着実に成果を残していく

・中盤、前世の記憶を取り戻す

・突然、勇者が傷の痛み等に騒ぐようになり、全滅する事が増えていく

・ストーリーが全く進まなくなり、パーティーメンバーとの関係も悪化、パーティーが瓦解する

・一人になった勇者。戦闘の傷や死亡からの蘇生に耐えられなくなり、それまでに稼いだ資産を手に、魔王軍と自国の両方から遠い僻地に隠れ、余生を過ごす

・勇者が雲隠れした後、新しい勇者が選定され、無事に魔王は討伐された様子


実戦には傷や死亡する痛みがつきものであり、蘇生がある以上、何度も痛みに耐える精神が必要とされる。

能力が高くても、使いこなせなければ意味がなく、結局彼に勇者は役者不足だったようだ。

「自分を客観的に評価し、転生後について想像出来ないのでは、何度転生を繰り返しても駄目、ということですね」

そして、いつもの業務に戻るのであった。


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