「大っ嫌い」と言われながら抱き締めて貰いたかったので幼馴染に頼んだ結果
短編【幼馴染と水風呂でダラダラしていたら何か付き合う事になった話】にレビューを頂けた記念。
水風呂以前の幼馴染に付き合わせたバカな事の一例の話です。
幼馴染と水風呂~を見ていなくても読める仕様になっております。
休日、自分の部屋でダラダラとテレビを見ていた時にふとに思った。
――「大っ嫌い!」と言われながら美少女に抱きしめられたい、と。
嫌いと言われながらも、相反するように抱きしめられるという行為は何物にも代えがたい経験なのではないかと……!
やべえ……超経験したい!
とは言ってもそんな行為をしてくれるであろう女の子なんて俺には一人しか心当たりがない。
今現在、寝転がりながらテレビを見ている俺の腹に脚を置いて、同じくダラダラと寝転んでテレビを見ている幼馴染の千佳だ。
なんか十字みたいな体勢でテレビ見てんな俺ら……。
こいつなんで俺の腹に脚を置くのか……いや、まあいいかそれよりもだ。
千佳は美人だ。学校じゃクールでサバサバした性格で、ブレザーのポケットに手を突っ込んで気怠そうな雰囲気を出してる所も良いと人気があるようだ。
美少女という点では満点に近い、条件にぴったしだ。
俺に対しては口が悪いしちょっとだけ暴力的だがなんだかんだで付き合ってくれるし、頼み込めばやってくれるかもしれん……。
この場合、口が悪いのは逆にありだしな!
つんつんと彼女の脚をつつくと、テレビ画面から視線を外しこちらを見てくる。
「……なに?」
おおう、気怠そうだな。頼みにくい……頼むけど。
「ちょっと頼みがあるんだけど」
「頼み……? 頼みって何? くだらないことだったら承知しないわよ」
「ちょっと大っ嫌いって言いながら俺を抱きしめてくんない?」
「は?」
ん? 聞こえなかったか?
「ちょっと大っ嫌いって言いながら俺を抱きし「黙れ」め……て…………へへっ」
眉間にすっごい皺が……怒ってるな。
眼光で人が殺せるわ。お奇麗なお顔が台無しですことよ?
「聞き間違いじゃなかったか……。はぁ……大地、アンタバカなの?」
「誰がバカだ!」
「アンタしかいないでしょ!」
「ちょっとした好奇心を前に出しただけだろうが!」
「そんなの出すな!」
千佳はギロッと睨みながらそう言ってくる。なんだよ、人の好奇心を猥褻物みたいに。
もう今日はお前と話してやらん!
千佳はというとやれやれといった表情で溜息をついていた。
「で?」
「でってなんだよ」
あ、つい返事しちゃった。くそっ、やられた……。
「なんでそんな事がしたいのよ?」
言ってみ?と理由を話すように促され、とりあえず理由を言ってみる。
「大っ嫌いと言いながらも言葉と相反するように抱きしめるという行為を行う相手の――」
「長くなりそうだから短くして」
「……嫌いと言われながら抱き締められたら興奮するんじゃね?と思ったからです」
「…………」
ちょ!? 引くなよ!
聞いてきたのそっちだろ!!
「……アンタ、普通にキモい事言ってるってわかってる?」
「はい」
「はいじゃないんだけど」
はい以外言えんだろ。自分でも言ってすぐキモッて思ったし。
再び呆れ顔で溜息をつく千佳。
駄目だったかぁ……結果は幼馴染にキモがられただけか、へこむわ……。
「……しょうがないか」
しょうがないって何が?
しょうがないと呟いた千佳を見ると俺の腹に置いていた脚を退け徐に起き上がる、とすぐさま自分が脚を置いていた俺の腹に跨った。
……マウントポジションの完成である。
あれ? 俺、ボコられる……?
咄嗟に顔面をガードしつつ千佳の出方を窺った。
「……なにしてんのよ」
「……キモい事言ったからボコられるのかと」
「アタシは鬼か何かか?」
「アダダダダダッ!! 脇腹抓んな!」
「人が折角、アンタのバカに付き合ってあげようとしてるのになんなの?」
「アダダダダッ! マジデェダダダダッ!」
ぱっと指が脇腹から離され痛みが無くなった。
マジで痛いわ……でもそうか、やってくれるか! 流石千佳さんだぜ!!
そうなると起き上がったほうが良いな!
体を起こそうとすると千佳が俺の胸に手を置いて起き上がることを阻止してきた。
……何故だ?
「このままでするから。起き上がらなくていい」
「いや、起き上がったほうが抱きしめやすくないか?」
「うるさい。アンタはアタシに黙って抱きしめられてろ」
……妙に男らしいというか、なんというかドキドキするような事言うねキミ。
そんな事を言った後、千佳は一度深く深く深呼吸をするとゆっくりと俺の方へと体を倒してきた。
柔らかな感触とともに彼女の重みが体にかかってくる。そのままゆっくりと抱き締められていく。
……準備は万端だな。さあ、いつでもこい。
「嫌い……」
き、きたか!
「アンタなんて嫌いよ……。普段はバカばっかやってる癖に人がしんどい時にすぐに察するところが嫌い」
ん? な、なんだろ……?
「辛い時とか泣きそうな時に一人にしてくれないところも嫌い……。アタシが誰かと揉めるとさり気無く間に入って解決するところも嫌い」
千佳は抱きしめる力を少し強めてきた、大事なものを離したくないように。
「一緒に外で歩いてる時アタシが車道側にいると、いつの間にかアンタの方が車道側を歩いてるところが嫌い」
彼女はまるでマーキングするかのように愛おしそうに首筋に頭を擦り付けてくる。
「一緒にいて退屈しないところとか、毎日会わないと気になってしょうがないところとか……アタシの幼馴染なところとか……」
そこまで言って千佳は言葉を止めた。不思議に思い千佳を見ると彼女も俺を見つめていた、俺たちの視線がぶつかる。
千佳はとても幸せそうに微笑んできた。
「ホントに……ホントにそんなところが……大っ嫌い」
そう言ってしばらく俺を見つめた後、俺の胸の中に顔を埋めた。
な、なんだろう? 思ってたのと違う……。
嫌悪感を出した嫌々系を想像していたのにこれはなんか……告白されてるみたいだ。
大っ嫌いって言われてるのに脳内では大好きって変換されてるんだが……。
やべぇよ、滅茶苦茶ドキドキしてるわ……。俺、勝手に嫌悪ワードを脳内変換する変態だった?
「で?」
「んぁ?」
「……どうだったの?」
「どうって……」
素直に言ったほうがいいんかね、これ? 引かれない?
「……ここまでやったんだから感想ぐらい言え」
相変わらず胸に顔を埋めたままの千佳だけど声色が少し変だ。
……これは素直に言った方がいいか。
「……嫌悪感を出して言われるのかと思ってたんだけど、なんつーか……告白されてるみたいだった」
「……へえ」
「嫌いって言われてんのに好き、好き、大好きって言われてる感じがしてさ」
「……で、興奮したの?」
「いや、興奮っていうか滅茶苦茶ドキドキした」
「……まあ、知ってたけどね」
胸に顔埋めてるもんねアナタ。俺の騒がしい鼓動聞いてるもんね。
「……バカな事やってちょっと喉乾いたから水貰ってくる」
そう言って俺から離れると何でもないように千佳は部屋から出て行った。
……アイツすげーな。俺びっくりするくらいドキドキしてんのに普通じゃん。
やる側とやられる側じゃ違うのかね?
しかし、エピソードっていうか内容がやけに具体的だったな。
実際の事を言ってたってことだよな? あれ? じゃあマジで嫌われてる?
でも、感じ方が嫌いっていうより好きって感じの――――
『あれ、千佳ちゃん?』
不意に廊下から母さんの声が聞こえた。千佳? 水貰いに行ったんじゃ?
『どうしたの? そんな所で壁にもたれかかって両手で顔なんて覆っちゃって』
『お、おばさん!?」
『顔真っ赤じゃない! 体調悪い? それとも大地がまたなにかやった?』
『い、いえ、なんでもないです!』
『本当に? 何かあったら言ってね?』
『はい、ありがとうございます』
足音が遠ざかっていく。どうやら母さんは去ったようだ。
廊下に取り残されたであろう千佳は水を貰いに行くでもなく、その場にとどまっているみたいだ。
数分が経過しゆっくりと部屋の扉が開いた。 顔を赤くした千佳が静かに入ってくる。
「……聞いてた?」
俺は質問に答えず無言で千佳へと近づく。近づく俺に驚いたのかビクッとした彼女の正面に立つ。
ゆっくりと顔を近づけると千佳は目を閉じた。おれはそのまま……おでことおでこを合わせた。
「ふぇ?」
変な声が聞こえたが気のせいだろう……熱は無いか。
顔が赤いし、体調悪いのに付き合わせたんなら悪いと思ったけど大丈夫っぽいな。
ところで千佳なんで目を瞑ったの? ……なんで俺を抱きしめるの? 延長戦か?
「死ね」
「アダダダダッ!! 抱きしめる力が強イダダダダッ!!」
唐突な暴力! 何故だ!!
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なんで俺は正座させられてるんだろう……そして何故、千佳はブチ切れているんだろう……。
「アンタ、本当にいい加減にしろよ。人の気持ち考えたことあんの?」
「そりゃあ、多少は「黙れ」……はい」
「バカに付き合ったのに最後に辱められるとは思わなかったわ」
「…………」
「なんか言え!」
理不尽!!
「アンタに悪気がないのはわかってる。大方、おばさんが言ってたから体調が悪いと思ったんでしょ? それでも腹が立つもんは立つの!」
そう言いつつ正座で痺れ始めた俺の足をつつき始める。
やめて! 拷問やめて! しびびびびっ!!
「た、たいちょぉぉっ! あ、足を触るのやめろ! 体調悪いのに付き合わせたのなら悪いと思ったんだよ。千佳は俺にとって何よりも大切な幼馴染だしぃぃっ!!」
なんで触るの再開すんだよ!
「……ムカつく。ホントにムカつく……こんなんで喜ぶ自分にムカつく」
「最後聞き取れなかったなんてぇぇえっ! もう触んなって!」
この後、千佳が満足するまで痺れた足をつつかれ続けた……解せぬ。
付き合わせたお礼とお詫びとして、コンビニでアイスを奢ることになった為、2人でコンビニへ。
「あの……ダッツは高いんでスーパーなカップで……」
「はあ?」
「ウス! ダッツでいいっす!」
「よろしい。(またいつの間にか大地が車道側歩いてる……ホントにコイツは)」
「どうせなら違う味買ってはんぶんこしようぜ」
「ハイハイ」