やま過ごしの恋人
都会の喧騒に浸かりながら、彼のことを思い出す。
小学校、中学校、高校と、有名な頭のいい学校に通い。
大学は、日本で一番頭が良いとされる学校に、通っていた。
それから、一流IT企業に入社して、どんどん出世していった。
そして、東京のど真ん中で、輝きをずっと放ち続けていた。
でも、突如、山に住むと言い残して、会社を辞めた。
マンションを売り、持っていたものは、ほとんど捨てていった。
そして、小さなリュックひとつ持って、山に向かっていった。
あれから、一度も会っていない。
今頃、何をしているのだろう。
道の先を、まっすぐと見つめてみると、見覚えのある顔があった。
彼だ。
私は駆け出していた。
人目も気にせずに。
そして、振り絞った声で、彼の名前を呼んでいた。
「ルイ!」
しかし、彼は予想外の言葉を、こちらに返してきた。
「佐藤さんですか?初めまして、レンタル恋人のツカサです」
全てのプランは崩れた。
雰囲気は、一瞬にして消滅した。
「いやっ、あの。出会うときは、送った設定の通りにって言いましたよね」
「あっ、すみません。つい、本当の名前を名乗ってしまいました」
「ああ」
「また、あちらから歩いてきましょうか?」
「もういいです」