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6色目 色無き君よ前を向け


「今だ」(ボソッ


シュッ


ズサッ



「よし、こっちは終わったぞ」


「こっちもだ、あんたもなかなかやるな、トモビスだったか?」


「ああ、たしかお前は・・・」


「俺はハンクだ、ギフトは盗賊、貴族のお菓子から魔法の巻物までなんでも盗んで売りさばく

 盗賊王ハンク様とは俺の事よ」


数人の男たちがトモビスの合図で一斉に寝ている”加護無し”を片付けていく。

だが、その男たちの中にセシルの姿はない。


少し前・・・



「チェンジ!・・・」


「変わったか?」


「いや、もう一回やってみるよ」


「やめろセシル、顔色が悪くなってきてるぞ」


体の倦怠感けんたいかんを感じ、

少し頭痛も起きている。でも、僕も戦わなきゃ。


「なら今の所はお前は下がってろ、セシル」


「え?どうして?僕戦えるよ!

 それに今さっきだって僕の物真似で」


「あれは緊急時だからだ!、加護無しが完全に警戒心が無かったしな、

 それにセシルお前のギフトは道化師だろ?、戦えるようなギフトじゃないだろ

 ここから先は俺たち大人が戦う、分かったな?」


「僕は戦えるよ!それに道化師にだって戦えるスキルが・・・」


僕は昔、祖母に見せてもらった本に書かれていた、

道化師についての文章を懸命に思い出していた。

有ったはずだ、道化師にも戦えるスキルが、有ったはずだ・・・


「勉強熱心のお前が思い出せないんなら、そんなスキルはないんだ、

 道化師は貴族様を笑わせたり、たまに大道芸人達に混じっているか、そんなもんだ

 ここまでよく頑張った、だからセシル、ここからは俺たちに任せろ?な?」


「うん・・・」


何もできないもどかしさを感じ、僕はそっけない返事を返して戦えない人たちの手伝いに向かった。

今は自分ができることをしよう。







「やはり出口は大広間にしかないな、

 どうする?トモビス」


大広間に”加護無し”の本隊が居座っているであろう事は聞き耳で分かっていた、

トモビスは少し考えた後こう答えた。



「やるしかない、今戦える全員で寝込みを襲う、それにそろそろ夜明けも近い、

 事を起こすなら今だ」


「分かった、全員にそう伝える、それで戦えない奴らはどうする?」


トモビスの視線は誰かを探すように少し動いた後

ハンクの目を見て。


「最低限自衛をしながら俺たちに付いてきてもらう、

 出口まで走れるようになったら先に脱出だ、

 その時、ハンク、お前がみんなを先導して行ってくれ」


「おいおい、つれないこと言うなよ、

 俺だって加護無し共に頭にきてんだ、暴れるだけ暴れるぜ!殿しんがりは任せろ!」



トモビスは少し口角を上げ


「分かった、先導は別の誰かに任せよう」


こうして最後の計画が始まった。






「全員、寝てるみたいだな」


「見張りが一人もいないなんて、警戒心が無さすぎだろ」


「じゃあもし気付かれたら全員わかってるな?」



グサッ

「ングッンンーー・・・」


目の前でおっちゃん達が静かに”加護無し”達を一人ずつ襲っていた。

音もなく、一人ずつ。

これが戦えるギフト・・・



グサッ

「いでぇぇぇぇ!!!」


!!!!

静かな大広間に突然絶叫が響いた。


「くそ!誰か仕留めそこねたか!

 全員走れ!」


おっちゃんがもうお構いなしに叫んだ



「なんだなんだぁ」


「敵襲か!」


「お前ら起きろ!商品が脱走してるぞ!」



だけどもう少しで大広間を抜けれるところまで来ていた、

あとは出口に走るだけだ!



「セシル!先に行け!そいつについていけ!」


「みんな走るよ!」


僕はみんなにそう叫んで、

ハッとしたみんなも急ぎだした。



「もう少しで出口だ!!みんないそ


ドゴォォォォン



先を行っていたヒトが爆音と共に姿を消した。

何が起こったんだ?土埃と暗闇で何も見えない。



「来たぞ、ボスだ!」



”加護無し”達は戦う手を止めて何かに喜んでいる。



「ボスが返ってきた!

 お前らもう終わりだぜ!ヒャハハハハ」



まさかおっちゃんが言っていた。



「セシル!気を付けろ!そいつだ!」




「どぉぉぉもぉぉぉおおお、こぉぉぉんばぁぁぁんわぁぁぁぁあああ」


ソイツは土煙の中から現れた。

周りの空間が歪んでいると錯覚する異様な雰囲気を纏った、

顔に白い仮面、全身に黒のローブ、性別はわからない。

何より特徴的なのは体より大きな斧を両手で持っている。

そしてその足元には先に出口へ向かっていたヒトであろう肉片が散らばっていた。



「おっちゃん!こいつがおっちゃんの言ってた!」


僕は振り返ってこちらに向かっているおっちゃんに叫んだ。


「違う・・・そいつじゃない」


「え?ちがうってじゃあ


「なぁぁぁぁにぃぃぃ?なぁぁんの話ぃぃぃい?」


ソイツは僕の目の前まで来ていた、

少し小柄な僕と目線が合う大きさだが、異様な雰囲気がそれを感じさせない。

仮面の目元から見える瞳から目が離せない、

目を離した瞬間に僕もあの肉片に、そんな妄想がちらつき僕の体を縛り付ける。


「誰かとぉぉぉ、間違えられるのはぁぁぁ、いやだなぁぁぁぁぁ」


「あ、あ」


「ねぇぇぇ?答えてよぉぉぉ?」


「セシルゥゥ!!避けろおお!!」


おっちゃんの声で反射的に体が動く、僕は横に全力で飛んでいた。



「我が弓矢は一撃必中、獲物の心臓を貫け!」


バシュン!


おっちゃんの狩りに付いてった時、決まってここ一番で使う言葉だ、

おっちゃんは願掛けだと言っていたが、どれほど難しくても必ず獲物を仕留めていた。

多分これはおっちゃんのスキルなんだろう、矢の先端がすさまじい勢いでソイツの心臓に。



トンッ



「なっ!?」


「え?」



心臓を貫く筈の矢はソイツの手に握られていた。



「すごぉぉぉい、はやぁぁぁい、もう一回やってよぉぉぉ」


パキッ



「クソッ!」


おっちゃんはもう一度矢を放つが。



パキンッ


「んぅぅぅん?遅いよぉぉぉ、それじゃないよぉぉぉぉ」


パキッ


パキンッ



「飽きてきたなぁぁぁ、それじゃなのにぃぃぃぃ」


「トモビス!他はあらかた片付けた!助太刀するぜ!」


ちらほら残っているけどハンクさんが自由に動けるようになった!これなら!



「背中ががら空きだぜ!」


「やめろハンク!」





グシャ




「ガハッ」


「バレバレだよぉぉぉぉ」




ハンクさんの体は胴から真っ二つに割れていた。




「あ、ああ、トモビ、ス」



「あれぇぇぇぇぇ、もう死んじゃうのおぉぉ?」


「ハァァァァァンク!!」


おっちゃんは叫んでいた。

ハンクさんはおっちゃんも認めるくらい戦闘能力が有るはず、なのにこんな一瞬で。


「貫けぇぇぇぇ!」


バシュン!


「それだよぉぉぉぉ!それぇぇぇぇぇ!」


パキンッ


「貫けぇぇぇ!」


「アハハハハハハハハハ」


パキッ


ソイツは器用に飛んで来る矢を巨大な斧で弾いていた。

あんなに何回もスキルを使ったら・・・

僕も戦わなきゃ、そう思っているのに体がすくんで動かない。

ハンクさんの死体と目が合った気がする、このままじゃおっちゃんが。



「つら・・ぬけ・・」


パシュン



「んんん?どうしたのぉぉぉぉ?もう終わりぃぃぃ?」


「まだ・・まだだぁぁぁぁ、貫けぇぇぇぇぇぇ!」


「もういいやぁぁぁ、そればっかりだしぃぃぃ」



バッ


一瞬でおっちゃんの目の前に移動し斧を振りかぶりおっちゃんの胴体を狙って振り払った、

ハンクさんの時と同じだ、このままおっちゃんも



「アハハハハ!」


ガッキィィィィン


凄まじい金属音と共におっちゃんがハンクさんの方へすっ飛ばされた。

ハンクさんの上にかぶさるようにしておっちゃんが倒れている。



「おっちゃん!」


さっきまで動かなかった体が反射で動く、

おっちゃんの所まで走ってたどり着く


「おっちゃん!おっちゃん!」


「うるせぇぞ・・セシル・・これは・・・ハンクの死体か」


「おっちゃん!生きてたんだね!」


僕は嬉しくておっちゃんの体に抱き着いた


「いでででで、いてぇな!」


「あ、ごめん」


「俺は無事だが弓が・・・それでヤツは?」


僕は遠目でソイツを見た、おっちゃんから興味を失ったみたいで、別のヒトと戦っている。



「そうか、よし、じゃあセシルみんなを連れて逃げろ、俺がアイツの気を引く」


「嫌だよ!そんなの!」


「セシル、生きてはいるが俺の体はヤツの一撃でボロボロだ、悔しいが束になろうが敵わないだろうな、

 ただな、一矢報いるぐらい俺にもできる、だからセシル頼む」


「おっちゃん・・・」



嫌だ、嫌だ、嫌だ、

だけどおっちゃんの目は覚悟を決めていた、

これは覚悟を決めた男の目なんだ。

だから僕もそれに答えなくちゃいけない。



「分かったよ」


顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらそう答えた



「お前も・・・良い目になったな」


「うん」


「ああそうだ・・お前にこれを」



おっちゃんは、ひもの先に丸い石が付いた首飾りを渡してきた。


「遅れちまったが・・成人祝いだ・・・

 もう遅かったから大した物は残ってなかったが・・

 幸運のお守りなんだとよ」


そういい僕の頭を強く撫でながら、

体を起こした。



「お前のギフトは特殊だからな、

 これからいろんな事が起きるだろう、

 でもお前なら大丈夫だ!なんたって俺が認めた男だからな!



 拳握って前を向け!お前の恐れるものなんて何処にある?」



「おっちゃん」


「行け!セシル!」


「うん!」



僕は急いで周りのみんなをかき集めた、

その後ろでおっちゃんが。



「おぉい!黒ずくめの仮面野郎!

 俺はまだ生きてんぞ!!」



ヤツはゆっくりとおっちゃんの方を向いて。



「あれぇぇぇぇ?なんで生きてるのぉぉぉ?」


「お前のへなちょこブンブンじゃ死ねねぇなぁ!」


「アハハハハハハ、おもしろぉぉぉぉい

 じゃあ今度はぁぁぁぁ、ボクのてでぇぇぇ、

 頭をグシャグシャにしてあげるぅぅぅぅ」


バッ



僕は生きてるみんなを連れて出口に向かった。






グッ


「あれぇぇ?抵抗しないのぉぉ?」


仮面の者の手がトモビスの胸倉を掴んでいた。



「おじさんもう年なんでな、お前の斧に合わせて飛ぶので精いっぱいだ」


「アハハハ、そんなの中々できないよぉぉぉ

 あぁぁ!だから死ななかったんだぁぁぁ」


「あぁ大体うまくいくんだなぁこれが」


「でもぉぉぉ、もう終わりだねぇぇぇ?」


「そうだなぁ、終わりだ、

 あいつ、やっぱり持ってやがった」


「んぅん?」



「盗賊王の・・・大爆発の魔法の巻物(スクロール)



ピカッ






ドゴォォォォォォォォン!!



僕たちの後ろの方で凄まじい爆音が起きた。



「おっちゃん・・」


今はみんなを脱出させるのが先だ、

考えるのはやめよう。

そうして出口にたどり着いた。扉は、開く。



「やった!これで家に帰れる!」


「そうね、ほんとに良かった」



皆が安堵あんどしている、

空も朝焼けに包まれ迷うこともないだろう、よかった、これで。



「アハハハハハハハハハハハハハ」


!?

嘘だ、大広間の方から声が聞こえる、何かが凄まじい勢いでこちらに向かってくる、

いや、何かじゃない、ヤツだ。



「みんな逃げて!ここは僕が!」


「そんな君だけ置いてくなんて、ヒッ!」


「まってよぉぉぉぉ、もっと遊ぼうよぉぉぉぉ」


「すすすすまないセシル君」


これでいい、少しでも時間を稼ぐんだ、僕がやるしかない。



「あれぇぇぇ?君だけぇぇぇ?」


脚は震えてる、手も震えてる、でも怖くはない



「ああ、僕だけだ」


「そおなんだぁぁぁ、でも君弱そぉだねぇぇ」


「そうでもないですよ、実は僕の方がおっちゃんより強いですよ」


「おっちゃんん?今さっきのヒトかなぁぁぁ?」


「はい、そうですよ」


「アハハハハハハ、じゃあすごく楽しみだぁぁぁぁ」


少しでも時間を稼げ



「それじゃあぁぁ、殺し合おうかぁぁぁぁ」


「ああ、その前に準備運動していいかな」


「えぇ?どうしてぇぇ?」


「全力を出すためにね、仕方ないよね」


「まだぁぁぁ?」


「もうちょっとだけね?」


「もうだめぇぇぇぇぇ!我慢できなぁぁぁい!」


バッ



ダメだ!まるで時間が稼げない!

ヤツは斧を振りかぶっていた、僕は覚悟を決め目を閉じてその瞬間を待った・・・

これでおっちゃんの所に行くんだ、怒られるかな?なんて事を考えていた。


あれ?待てどもその瞬間は訪れない、ゆっくりと目を開けると、そこには斧を振りかぶったヤツが。



「どうして・・・」


ヤツが止まっている、まるで時間が止まったみたいに、

違う、ヤツだけじゃない、周りの音もしない、風も吹いていない、



「時間が、止まってる?」


『パンパカパーン!!大正解!!』


!?

僕の真後ろから驚かせるように何かが飛び出してきた。

その僕の半分ほどの小さな姿は、毛むくじゃらの二足歩行、

大陸北部には存在しないはずの。


「ケットシー?」


『すごいね!それも正解だ!

 流石、青が気に入る訳だ!』


「青?、というかこの状況・・・」


『ああ!ごめんね!説明不足だったね!僕の名前!・・・はいいか!

 僕の声に聞き覚えは無いかい?実は一度喋ったんだ』


「えっと」


『ああ!ごめん僕の悪い癖だ!人間からは黄色神って呼ばれてる者だよ!』


!?



『ハハッ、やっぱり驚くよね!でもごめんね!あんまりお話する時間がないんだ

 用件だけ掻い摘んで話すよ』


黄色神と名乗るケットシーは混乱している僕に、なぜ此処に現れたのかを話し始めた、

無色のギフトともう一つのギフトは創造神様からのギフトと言うこと

最初に無色のスキルを使用した時、本来説明するはずだった事を説明してなかった事

僕が神様たちから物凄く気に入られている事



「えっと」


『よし!じゃあもう時間切れみたいだから!

 無色のスキル、僕はそのスキルを【虚ろの切り札】(ブランク・ジョーカー)

 と呼んでいるよ!再使用条件は』


すこし黄色神は僕の後ろに目を向けて。



『夜明けだ』


ブンッ



「あぁれぇぇ、避けたのぉぉぉ?全然見えなかったぁぁぁぁ、アハハハハハ」


嵐のように去って行った神様の事を思う暇もなく、現実に戻される。



「構えないのぉぉ?また準備運動うぅぅぅ?」


おっちゃん、そっちに行くのはもう少し掛かるみたいだよ

お守りを握りしめ


「いや、もう十分だ」



僕は上る太陽の光を背に受ける、そしてこう呟いた




「チェンジ」

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