5色目 協力の色
何とか見張りから鍵を奪って牢から脱出できた僕たちは、倒した見張りが暴れださないように縛ってから
その鍵で捕らわれている人たちを牢から出していった。
一緒に馬車に乗っていた人たちの他にも何人か捕らわれていたから、その人たちも助けて回った。
「助かった!君たちのおかげだ!」
と、言ってくれたけど
「いや、まだ完全に助かったわけじゃないんです。この廃砦から脱出しないと」
「・・・そうだったな。でも、君たちがいなければ牢から出られなかったんだ。ありがとう」
礼を言われてうれしくなってしまうけれど、喜ぶのにはまだ早い。気を引き締めて、つかまってる人たちを
助けていった。
その間に、おっちゃんが手も足もでない奴の話をきいた。
「----だから、俺一人じゃどうにも出来なかったんだ」
「なるほどね。でも、これだけ人数がいて内側から奇襲ができれば・・・」
僕は助け出した人たちを見渡した。
その中には痺れ粉で力を発揮できなかったけど、腕に自信がある人たちもいた。
「そうだ、勝機がある。
だが、そのためには武器が必要だな。
俺たちが持っていたものが近くに集められていたはずだ。それを取り返せればいいんだが、
そこにも見張りがいるはずだ。どうしたものかな・・・」
「それなら僕が隙をつくるから、その間にさっきみたいにやっつけちゃおうよ」
「やっつけるって、どうやってそんな隙をつくるんだ?って、なるほどなぁ」
おっちゃんと目が合う。そしてそのまま、目線はさっき倒した見張りに向かう。
いや、正確には、見張りの着ている服に。
「おーさみぃ、この時期も夜はひえるな」
「何言ってんだ、ここは屋根も壁もしっかりしてる。おまけに酒まである。あの人に拾われる前と比べたら、
今の方がよっぽどいいじゃねぇか」
「そりゃ違いねえな。それにしてもあいつ遅いな・・・なんかあったのか?」
「ほっとけよ、商品が喚いてるだけだろ」
「・・・それもそうか。んじゃあいつの分も飲んじまおうぜ」
「そうだな、遅いやつが悪いんだ」
コツコツコツ・・・
「遅かったじゃねえか、お前の分飲んじまったぜ」
「・・・あ、あぁ」
「ん?えらいフラフラじゃねぇか。もうそんなに酔ったのか?」
「おまえはいっつも飲みすぎなんだよ」
「・・・ヴググ」
バタリ
「ハハハ!つぶれてやんの!」
「いや、なんかおかしくないか?おい大丈夫か?」
「・・・ぐるじいぃ」
「ほんとじゃねえか。おいしっかりしろよ・・・うぐっ」
「おまえまで、一体何が・・・うぐっ」
「セシル、お前才能あるぞ」
「それは作戦の方?それとも演技?」
「どっちもだ。お前がいなきゃ、もっと大変だった」
おっちゃんは褒めてくれたけれど、僕のほうは今頃になってドキドキしていた。
牢にやってきた見張りの服装をそのままぼくが着て、そいつの「物真似」をして騙す。
そうやって外の見張りの注意を僕に向けて、その隙に後ろからおっちゃんが気絶させる。
簡単そうに聞こえるけれど、外の見張りが冷静に観察してたら、体格や顔つきが違うことに気づかれて失敗していた。
あんなに自信満々で提案したけど、もし失敗してたらと思うと、震える。
いや、そんなことをしている場合じゃない。武器も手に入ったけれど、“加護無し”の人数の方が、助け出した人を
含めた僕たちの人数より多いんだ。
しかも、相手にはおっちゃんを倒した奴までいるんだ。
どうにかしないと・・・でもどうやって・・・?
頭の中をそんな考えがぐるぐる回る。
「無理すんなよ、セシル。お前ひとりじゃないんだ」
おっちゃんが、取り返した弓や、本来狩りに使うはずの道具を手に取って言う。
「確かに、牢から出てコイツを取り返すまでに、セシルが活躍したのは間違いない。俺が保障する。
でも、だからと言って全部お前が背負う必要はどこにもないんだ」
助け出した人たちが、きっと元はその人の物だったはずの武器をもって、僕の方をみて頷いた。
「そうだ、牢から出してもらったんだ。今度はこっちの番さ」
「あぁ、協力させてくれ」
馬車の御者をしていたおじさんや、武器を持っていない人たちも
「私たちも、出来ることは少ないかもしれないが、力にならせてほしい」
そう、言ってくれた。
「そういうことだ。セシル、お前はもう十分以上に力になってる。
安心しろ、俺たちだって戦えるんだぜ」
おっちゃんが、僕の目を見て言う。
「それに、」と、さらに言葉をつづけた。
「いまは真夜中、生き物が本来眠りにつく時間だ。しかも油断しきってるときたもんだ。
そりゃあもう、狩りのチャンスだぜ」
いつもより、ずっとカッコイイ顔で、おっちゃんはそう言った。
ルビ振る機能に感動しました。