8色目 その後の話
後日談、と言うのは少し違うかもしれないけれど、その後の話。
僕は気絶したその後、先に逃げた人たちが呼んでくれた街の警備の人たちに助けられた、らしい。
らしいって言うのも、僕が気が付いたのが、僕は見慣れた、僕の住む村の、自分のベットの上だったからだ。
僕の体は、あの時はあまり感じなかったけれど、かなりボロボロだったそうだ。
慣れない旅路や、ギフト「修羅」になったときの暴走、仮面ローブのアイツとの戦闘で酷使されつづけ、黒紫のモヤと共に
現れた少年の放った一撃がとどめになったんだと思う。
僕が警備の人たちに見つかった時に、生きているのが奇跡だと、ひと騒ぎおきたらしい。
なにせ、胸には見てわかるほどの激しい衝撃の跡。よく知らべてみれば、骨が数本折れていて、内臓に刺さる寸前だったとか。
それで、「何としてでも助けなければ」と、
警備の人たちによってグリムニンドの街に担ぎこまれたんだけど、その時いたお医者さんでは手に負えなかったそうだ。
それで急いで呼び出されたのが、この村に住む「治療士」のエマおばさんだったんだ。
エマおばさんは時々、村を離れて仕事に行くことがあったけれど、その患者が僕だったことにとてもびっくりしたらしい。
「もう二度と、あんたの高等治療はさせないでおくれよ」
と、きつく言われてしまった。反省。
ともかく、体の方はエマおばさんのおかげで何とかなったんだけれど、生命力、生きる力を戻さないと僕の意識は戻らない。
そこで、エマおばさんの家があるこの村なら、いろいろ都合がいいってことになって、僕はこの村に帰ってきたらしい。
目を覚まさない僕を見て、村のみんなは大騒ぎ。特に母さんは僕が死んだんじゃないかって大泣きして、
生きてるってわかってまた大泣き。
目が覚めてからも、付きっ切りで看病してくれて、嬉しいけど申し訳ない、いろんな気持ちから
「大丈夫だよ、母さん。もう心配ないって」
なんて言った僕に
「あなた、村を出るときもそう言って・・・、どれだけ心配したか・・・グスッ」
と泣き出して。
だから、もう少し、エマおばさんから、回復したって許可がでるまでは、なるべく甘えることにした。
そうそう、意識が戻ったならってことで、グリムニンドの警備の人たちの隊長さんが、神殿で神官の人達が着ていた服に白黒のライン
が入った、神殿で成人の儀を進行していたアヤシさんと同じ服をきた女の人と、
二人で僕の部屋に、あの時あの場所で何があったのかを、詳しく聞かせてほしいとやってきた。
僕は正直に、加護無したちに突然襲われたこと。牢から何とか脱出したこと。
そこで仮面とローブ、何より巨大な斧が特徴的なアイツが現れて、たくさんの人がやられたこと。
そこで黄色神様を名乗るケットシーさんに助けられたこと。あの人は、すぐにどこかに行ってしまったけれど。
そして、議長と名乗る、謎の少年と共に仮面ローブのアイツがよくわからない方法でどこかへ消えたこと。
隊長さんは、何度も「・・・すまない、~~のところをもう一度聞かせてくれ」「・・・~~はどうなっていたんだ?」
と詳しく質問をして、そのたびに隣の神官さんの顔を見て、それに答えるように神官さんは頷いていた。
これも後から聞いた話だけれど、その神官さんは「審問官」のギフトを持っていて相手が嘘をついているかどうか、判断する術を
もっているんだそうだ。つまり僕が嘘をついていないか確認をしていたんだと思う。
神官さんは黄色神様を名乗るケットシーの話の時には、目を大きく見開いていた。
僕が嘘をついていないって分かっていても、信じられなかったんだと思う。
一通り話し終えると、隊長さんが
「聞いてばかりですまなかったな。何か質問はあるかい?」
と聞いてくれたから、
「あの廃砦に、僕以外に生き残った人はいませんでしたか?おっちゃん・・・トモビスって人はいませんでしたか?」
と尋ねた。
おっちゃんはまだ村に帰ってきてない。父さんは「あいつのことだから心配するな」て言ってたけれど、父さんとおっちゃんは
僕からみても、というか、誰から見てもわかるほど仲が良い、大親友ってやつだと思う。
僕にとっても、この村のみんなにとっても、おっちゃんはかけがえのない人で、皆心配してる。でも、特に仲の良かった
父さんがそんな大親友がまだ帰ってきてなくて、心配してない訳ないのに、
父さんは無理してそんな風に振る舞っているみたいに感じた。
それを近くで見ている僕には、なおさら聞かずにはいられなかった。
「すまない、トモビスさんは見つかっていない。あの場で生き残っていたのは君と僅か数人、あとは動けなくなった“加護無し”
だけだ。その中にトモビスという名前の人はいなかった」
「まってください!えっと、おっちゃんはこんな格好で、こんな顔で・・・」
と、覚えている限りのおっちゃんの特徴を伝えたけれど、
「・・・本当にすまない、そのような特徴の人が見つかったという報告は受けていないんだ。あの場所には元の格好が分からないほど
粉々になった遺体がとても多かった。もしかしたらそのうちの一人かもしれない」
「・・・そう、ですか」
正直、落ち込んでしまったけれど、まだおっちゃんは生きているかもしれない。この目で見るまでは、
僕はおっちゃんを信じたいと思う。
そのあとも、隊長さんは他にもいろいろと話してくれた。
最近、ギフトの力を失ってしまう人達が各地で出ていて、問題となっているらしい。多くは神殿に相談しに行って、祈りや懺悔、
時間の経過なんかで自然と戻ってくるけれど、切羽詰まって“加護無し”に誘われ、その道に進んでしまう人がいるんだって。
今回、僕たちを襲った“加護無し”の中にもそういった人が何人かいたみたいだった。彼らにも事情があったかもしれない
けれど、行ったことが許される訳じゃない。どうか、罪を償ってほしいと思う。
あとは、同じく最近、目撃例は少ないけれど、確かに報告されている“不審者”の事。
今回の仮面フードのアイツや謎の少年と関係があるかはわからないけれど、とても強い力をもった者による事件がいくつかある
らしい。そのすべてが未解決で調査中。けれども、情報が少なくて手詰まり状態なんだって。
こんなことまで、僕に教えていいんですか、と聞いてみたら
「俺は今回の事件と例の“不審者”は関係があると睨んでる。そして君は今回の事件の被害者だ。知る権利がある」
と、強い意志を感じる言葉でそう返してくれた。
隊長さんと神官さんは、魔法使いのおばあちゃんと
「ご無沙汰してます。今回の件、すいませんでした」
「あなた方のせいじゃないんでしょう?なら気にすることはありませんよ。でもお仕事、頑張ってね」
「もちろんです。任せてください」
と挨拶をした後で
「協力、感謝する。トモビスさんが見つかったら必ず知らせを送ろう」
と僕に言い残して、グリムニンドに戻って調べなければならないことがあるからと、その日のうちに帰っていった。
あの大きな街の隊長さんと神官さんが、おばあちゃんにあんな風に挨拶するなんて、ほんとにおばあちゃんはいったい何者なんだ・・・。
そして忘れちゃいけないのが僕のギフトだ。
僕のギフトに関しては、僕が目が覚めたその日に僕がどうしてここにいるのかを知った後に村のみんなに話していた。
そのときには僕のギフトは「ギフト」と「無色」に戻っていた。
エマおばさんに、「チェンジ」は生命力が消耗するかもしれないからしないようにって言われていたんだけど、
しばらく休んで十分回復したから、僕のギフトについていろいろ実験する許可をもらえたんだ。
改めて、僕のギフトは「無色」と「ギフト」だ。
おばあちゃんも詳しくは知らないと言ってたから、正確なところはわからないけれど、
「無色」は、「チェンジ」でその人のギフトを変えるとこができるギフト。
おとぎ話かと思われるほど珍しい、自分に合わないギフトを、一度だけ別のギフトに変える慈悲のギフト。
多分だけれど、それまでのギフトが「無色」に変わって、そしてまた「チェンジ」で「無色」が別のギフトに変わる。
すると、元のギフトから新しい別のギフトに変わった状態になる。
だから、「無色」のギフトをもったままの人は世の中にいないんじゃないか。
だからなおさら珍しい、よく知ってる人もいないんじゃないか。っていうのがおばあちゃんの予想だ。
そしてもう一つ、「ギフト」について。
ただ一つ分かっていることがあって、それはこのギフトは創造神様からのギフトかもしれないってことだ。
あの時助けてくれたケットシーさんが言っていた事だけれど、それ以外は何もわからない。
昔はいろんなところを旅して回って、村で一番博識なおばあちゃんも「こればっかりは、知らないねぇ」と言っていた。
村のみんなも聞いたこともないというし、本当に謎だ。
この二つのギフトを僕は授かったことになるんだけれど、そもそもそこから謎だらけだ。
誰も知らない前代未聞のギフトなら「とても珍しい、僕が初めてだ」で終わるんだけれど、
ギフトを二つも授かるなんて・・・考えたこともなかった。
しかも「無色」を別のギフトに変えるはずの「チェンジ」で「ギフト」の方が変わるなんて・・・。
あと、おばあちゃん曰く「チェンジ」で変わったはずの、この「ギフト」が目が覚めた時にはもとに戻っているのは、
かなり不思議なのだとか。確かに、せっかく変わったはずの新しいギフトが元に戻っちゃたら、あんまりだ。
この「ギフト」だからなのか、それとも「無色」のまだ見ぬ効果によってなのか・・・謎は深まるばかりだ。
そこまで考えて、仮面ローブのアイツとの闘いの時に助けてくれたケットシーさんの言葉を思い出した。
『よし!じゃあもう時間切れみたいだから!
無色のスキル、僕はそのスキルを【虚ろの切り札】
と呼んでいるよ!』
そのあとに、『再使用条件は、夜明けだ』とも言っていた。
もっと言えばあのケットシーさんは、本当に黄色神様だったのだろうか。
思い返してみれば、ぼくが神殿で声を聴いたのを知っていたし、声も同じに聞こえた。
・・・あれ、もしかしてだけど、ほんとのほんとに黄色神様だった?
僕、なにか無礼なこととか言ってなかったよね?挨拶とかもっとしっかりした方がよかったのかもしれない。
でもあの時そんな余裕なかったし・・・。そういえば神殿でギフトを授かるときにも、何も言えなかった気がする。
よし、もし次があったら、ちゃんと挨拶しよう。
話が逸れちゃったけど、あのケットシーさん・・・黄色神様は僕のギフトについてよく知ってそうだった。
「無色」のスキルが【虚ろの切り札】という事や「ギフト」の事を教えてくれたのも黄色神様だったし。
いつまた声を聴けるかわからないなら、僕の方から声を聴きに行く方法を探したいところだ。
おばあちゃん曰く、「ケットシーの里に向かえば、何かわかるかもしれないねぇ」とのことだ。
ケットシーと黄色神様は昔から何か関係があるんじゃないかと言われているらしく、そこなら何かわかるかもしれない。
「ケットシーの里かぁ、確か大陸南部のほうにあるんだよね。いってみたいなぁ」
ぽつりとつぶやいたそのときだった。
「ダメよっ!あんなに危ない目に遭ったのに、こんなにすぐにまた遠くに行くなんて・・・母さんゆるしません!」
突然会話に割り込んできた母さんに、そう遮られてしまった。
「いや母さん、そんな今すぐ行くわけじゃないよ」
「そんなこと言って、結局は行くことになるんでしょう?それでまた今回みたいに大怪我したら、エマさん程のお医者さん、
そうそういないのよ?助からないかもしれないじゃない」
「別にケットシーの里に行くだけだったら、そんなに危ない所には行かないよ」
「それにあなたはまだ15才でしょう?確かに成人の儀は終わったかもしれないけれど、あなたはまだまだ未熟です」
「そうだねぇ、セシルは真面目で働き者な良い子だけど、まだまだ未熟だねぇ」
「おばあちゃんまで!」
「だから、わたしとエマで、旅に必要な知識や万が一の時のための戦闘訓練まで、しっかり鍛えてあげます」
「・・・おばあちゃん?」
「・・・たしかに、ママとエマさんにびっちり鍛えてもらったなら、未熟とはいえないわね。それでもまだ心配だけれど」
「・・・母さん?さっきまで、反対してたよね?」
「それじゃあ、明日からセシルの訓練をしましょうね。最低限、レッサーデーモンくらいは倒せるようにしてあげます」
「え、うそでしょおばあちゃん。レッサーデーモンって下級とはいえデーモンだよね?確か小さな村ならそいつが出ただけで
一大事だって、おばあちゃんいってたよね?それに倒すには専門の知識もいるって」
「大丈夫、セシルは私の孫なんだから、それぐらいできるようになります」
「ちょっとまっておばあちゃん、僕のギフトは何になるかわからない「無色」なんだよ?戦闘系になるとは限らないんだよ?
母さんも、「じゃあ明日から力の付くご飯にしなくちゃ」じゃないよ。ちょっと、僕の話もきいてよーーー!」
そうして、僕の実践訓練が始まった。
僕は、「知識や体の基礎はしっかりできているけど、実践にそれを活かすことが出来ていない」らしい。
成人の儀に向けて、鍛えたり、勉強したりしていた。けれど、モンスターの狩りについて行って手伝うことはあっても、
実際にモンスターと戦ったことはなかったし、薬草なんかも、見分けて採ってくることは出来ても、煎じて使ったりしたことがなかった。
だから、経験がたりない。それを補うための実践訓練が必要・・・なのはわかるんだけど。
「朝起きたら村のそとでモンスターの狩り。怪我をしても自分で薬草を採って煎じて傷に使う。昼を過ぎたらおばあちゃんと
魔法の訓練、その次はおばあちゃん特性ゴーレムと戦闘って・・・、なかなかハードだ」
もちろん、おばあちゃんもエマおばさんも、僕が本当に困った時には手助けをしてくれるし、僕が間違ったことをしそうになったら
教えてくれる。でも、実際の旅の途中ではそうはいかない。そう、実戦だったら、死んでいたかもしれない。
そのたびに僕はこの実践訓練をより真剣に取り組もうと、自分に言い聞かせた。
その実践訓練のなかで、僕のギフトについてわかったことがある。
一つは、「「チェンジ」した「ギフト」が元に戻るのは夜明け」ということ。これが再使用時間という物の意味かもしれない。
もう一つは、「「チェンジ」でギフトが変わっていても、スキルは持ち越される」ということだ。
もちろん、なんでもすべてということじゃない。「チェンジ」でギフトが変わったときに、しっかりと使った、
自分の物にしたといえるほど使ったスキルに関しては、ボーナスは発生しないけれど、
ほかのギフトであってもスキルとして発動できるみたいだ。
おばあちゃんの人型ゴーレムの剣捌きを見よう見まねで真似していたら、「道化師」の「ものまね」が発動したときに気づいたんだ。
それを知ったおばあちゃんの訓練は、よりいっそう厳しくなったけどね!
そんな実践訓練の日々も終わり、再び、出発のときが来た。