05 全裸だけど変態じゃない
「ここで大人しくしていろ!」
いてて。
「牢屋にぶちこまれたニャ……」
まさか増援を呼ばれるとはね。予想外だったよね。
「じゅうぶん予想範囲内だったニャ! このバカやろーニャ!」
肉球で叩かれるのキモチイイ。いやいや、それよりも脱獄しなきゃだよ。
おや、これは……。
「鉄格子をぺたぺた触ってどうしたんだニャ? まさかそれをひん曲げて脱獄でもするニャん?」
私がそんな変態に見える?
「もちろん変態に見えるニャ」
なんか意思疎通がむずかしくなってきた。
そんなことよりも見てよ、子猫ちゃん。この鉄格子、薄っすらとピンクがかってる。
「結界魔法の色にそっくりニャ! つまり……!?」
任せて。
魔法によるものなら何でも無効化できる……!
「ほぅ、それはなかなか興味深いな」
!?
「だ、誰だニャ!? いつの間に牢獄の中に……!」
悪魔の羽。君もサキュバスだね。
「くく、はじめまして。全裸の変態と猫の半獣よ。私はサキュバスを率いる長、キュベレイという」
「ニャんと。まさか一族のリーダーが自ら出てきてくれるとはっ! 願ったり叶ったりだニャ!」
「ほぅ? か弱き猫娘よ、私を倒すつもりか」
「ニャ、ニャンタロッサじゃなくてこいつがお前をやっつけるニャー!」
をいをい。
「くくく! くはは! 実に奇妙で愉快な連中よ。なに、悪いようにはせん。少し話をしないか?」
……話?
村の広場に出された私と子猫ちゃん。
そんな私たちの周りを大勢のサキュバスたちが、物珍しそうに見つめてくる。
「話って何だニャ……ニャンタロッサは食べても美味くないニャン……」
「貴様らの仲間を捕らえていたのは私達の意思ではない」
「ニャに……?」
「我々は魔物の半獣だ。魔物とは本来、この地イシュタリアに住まう獣たちを襲う捕食者にあった生き物。それ故に半獣化して意思疎通が可能になっても他から恐れられることに変わりはしなかった」
なんか急に語り始めたね。
ってかこの世界、イシュタリアって名前なんだ。
「我々は他の種族から認められたいのだ。対等の立場で、恐れられることなく、生きて行きたかった。だから私はサキュバスの長としてある案を考えたのだ」
ある案……?
「捧げものだよ」
「ささげもの……ニャ?」
「そうだ。イシュタリアを統治する獅子王ガオーン・プライドに、彼女がいま望む品を捧げること。これこそが我がサキュバス族の印象を変える革新的手法なのだと私は思い立ったのだ!」
獅子王ガオーン・プライドって誰ぞ。
「……貴様、獅子王すら知らんとはどこの田舎の出だ? というか特徴的なしっぽも耳もないではないか……もはや何の半獣なのかも分からぬ……」
「獅子王っていうのはイシュタリアの王だニャ。とっても優しくてかっこよくて、頼れるお姉さんって感じのライオンの半獣さんなんだニャ……////」
へぇ。
「一時期ニャンタロッサの村の近くの海でお魚が取れない時期があったんニャけど、そのとき獅子王がフルーツをいっぱいくれたんだニャ。困ったときに助けてくれる、それがイシュタリアの王なんだニャ!」
ふむ。
でも待って。その頼れる王様は、子猫ちゃんの仲間が欲しいってことなの?
言ったよね、王様がいま欲しいものを捧げものに送るって。
「そうだとも。私は王宮でこの耳で聞いたからな。獅子王は今、世界中の可愛い半獣たちを集めているのだ」
可愛い半獣たちを……集める?
「目的は知らぬが今彼女は血眼になって世界中の半獣を王国に集めている最中でな、サキュバス族総出でイシュタリアを周っているという訳だ」
「おかしいニャ! 獅子王がそんなことするはずないニャン! 王宮に連れてかれた子たちはどうなっちゃうニャン……!」
「言ったろう。目的は知らぬとな……だが」
だが?
「さすがにここ最近、我々も事の異常さに気付き始めている」
最初から気付こうよ。
「王宮に送った半獣たちは既に1000を超えているはず。単純な働き手が欲しいのなら、そろそろいいはずだろう。それでも未だ獅子王は満足しないのだ」
ふむ……。
「それにあの……真っ赤に染まった彼女の瞳がな……今でも目に焼き付いて離れんのだ」
あれじゃないかな。
よくある操られてましたー的な。
「よくある……? 何の話かさっぱりだが、操られているという筋は薄い。獅子王の魔法の腕は私の比ではないぞ。彼女に操りの魔法をかければ跳ね返されるのがオチだろう。しかし」
しかし……?
「もしも。もしもだ。もしも類稀なる魔法の腕をもつ獅子王ですら操ってしまえるほどの高位の魔法使いが影で暗躍しているとなれば……」
「ニャぅぅん……;;」
ふーむ。
あれだね。
なろう主人公特有の超速理解でだいたい言いたいことは分かったよ。
……私の魔法無力化の力が借りたいってことかな。
「あぁ。正直私の結界魔法が解かれるとは思ってもいなかったのでな。自惚れと取られるかもしれぬが、結界を解けるのは獅子王以外にいないと思っていた。しかしどうだ、現れたのは全裸の変態……。私は心が踊ったよ」
たまたま服着てないだけで変態認定は困ります。
「……獅子王が躍起になって半獣を集める事の真意を知るため、君の力が借りたい。だめかね?」
いいけど条件があるよ。
「何だ?」
今回の捧げものの子たちは連れて行っちゃだめ。
そして、捧げものもこれ以上しないって約束してくれるなら力を貸すよ。
「分かった。約束する」
「お前……;; ちゃんとニャンタロッサの仲間のこと忘れてなかったんニャね……!;;」
当たり前じゃん。私たちもうマブダチだし。
「まぶ……ニャんて?」
あ、なんでもないです……。
「ニャンタロッサちゃん! 会いたかったワン〜〜!!」
「ワンコフスキー! 無事で良かったニャ〜〜!;;」
感動の再会だね。いやぁ良かった良かった。
さて、私はそろそろ出かけるとしますか。
獅子王のもとへと……。
「待つニャ!」
ん。
なんだい子猫ちゃん。お別れのキスでもしてくれるの?
「なにバカなこと言ってるニャ。置いてくニャよ?」
えっ。
「お前みたいな頼りない変態にあんな重大な任務が務まるはずがないニャ! だからニャンタロッサがついていってやるのニャ」
せっかく仲間と再会できたのに……いいの?
「わぅん……ニャンタロッサちゃんは困ってる子は放っておけない優しい子なんですワン」
「ちょ……//// なに言ってるニャ!////」
ニャンタロッサちゃん……。
「ニャンタロッサは仲間が日常を取り戻せただけで嬉しいのニャ。だから今度は仲間のためじゃなくて……ぉ、ぉ前のために……頑張ってやるのニャン……////(小声)」
可愛い好き。
「ニャ!?///////」
「ニャンタロッサちゃん顔真っ赤だワン!」
「うるさいニャーーーー!////」
「行ってしまったでありますね……」
「あぁ。さて、ヤヤスケーヴェイよ」
「なんでありますか?」
「お前に重要な任務を任そう」
「!?」(も、もしかして完遂すれば昇級間違い無しの超超スーパー任務でありますか……!? 下級サキュバスから上級サキュバスに飛び級であります〜〜〜!////)
「なっ何でありましょう!? 私、なんでもやってみせるであります!」
「獅子王のもとまでひとっ飛びし、面と向かって言ってやってほしい。もう貴様の半獣集めなど手伝わぬ、この阿呆とな! くははは!」
「!?!? い、いいのでありますか!? そんな無礼を働けば魔物の半獣である我々のイメージが一層悪くなるのでは……」
「もうよいのだ」
「……そ、そうでありますか……」
「世界中の半獣を集めて何をやらかそうとしているのかは分からんが、どうせロクでもないことを企んでいるのだろう。そんなことに加担していた方がサキュバスのイメージが悪くなるというもの」
「……了解であります」(まじか〜〜〜阿呆まで言わないといけないのでありますか〜〜〜死んだかも私。であります!)
(……頼んだぞ全裸の変態よ。イシュタリアの命運は貴様にかかっているぞ)