16 真の平和を
拝啓お父さんお母さん。
お元気ですか。私は元気です。
現在私は魔法の弾が飛び交う空中を滑空中です(上手いw)。
あのですね、けっこうな高さから落とされたんですよ私。
これもうあれです。地面にぶち当たって死ぬ感じです。
お父さん。私がレズですってカミングアウトした時、怒らずに「よく言ってくれた」と責めず、褒めてくれたね。
お母さん。レズはいいものだって言ってくれて感謝してる。
そんな腐ったおふたりを置いて異世界に来て、ふたりの知らないところで先逝く親不孝な娘をお許しください……。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAARURURURURURU!」
あぁ、獅子王の顔がすぐ目の前に……。
ぶっちゅうううううううううううううううううううううううううううう。
「ひ、ひいいいい! 雪殿が顔面から獅子王の顔面に直撃であります!」
私のファーストキス奪われちゃった!
って、いやいやそれどころじゃなし!
生きてた私! 獅子王の引き締まりつつも弾力のある魅惑のボディのおかげで、地面に直撃せずにすんだんだ!
「むっ……我はいったい何を……」
おまけに獅子王の洗脳も解けた! やったね!
「キュベレイ様! どうかお聞きくださいであります!」
「!」
「たった今、獅子王様の洗脳は解かれたであります! ですから、どうか攻撃を中止してくださいであります!」
「……皆のもの、攻撃止め!」
「…………」
お、これはなんとかなったっぽい……?
あ、キュベレイさんが降りてきた。
「王よ、目を覚まされたのですね」
「む……お前はサキュバス族の長、キュベレイ……。待て、どういうことだ? 目を覚まされたとは?」
「……王よ、あなたの側近に虎の者はおりますか?」
「何だ急に。それよりも事態が掴めぬ。説明を……」
「いいから答えていただきたい(圧)」
「む、むぅ……側近に虎の半獣などおらぬが……」
「やはりか……」
ねぇキュベレイさん。
これで目的は果たされたでしょ? 王は目を覚ましたんだ。
だからこれで……。
「全裸の君よ、何を申されるか。我らの目的はまだ完遂してはおらぬ」
……まさか、本当に。
「そのまさかだ。我々は虎の者を殺す」
…………。
「やつを野放しにしておけば再び王が洗脳に……!」
待って。
「!」
殺すなんてだめだよ。
「ではいったいどうすれば……!」
キュベレイさん、いったん落ち着こうよ。
「なんだと?」
キュベレイさん、私に語ってくれたよね。
サキュバスの偏見を解消すべく、王のため、みんなのために動くんだって。
それこそがサキュバスたちが望む未来なんでしょ?
でもさ、そんな素晴らしい未来でも、トラコちゃんを殺した過去の上に成り立ってるのなら……ちょっと違うんじゃないかな。
「…………」
心配しないで。トラコちゃんは私が説得する。
だからお願い、時間をちょうだい。
「……信じていいのだな?」
うん。
私を……。
全裸の救世主を信じて。
「雪殿、ではいよいよ最終決戦でありますね……」
決戦だなんて大袈裟だよ。
あと……ここから先は私ひとりで行かせて。
「なっ……! 心配であります!」
ありがと。気持ちは嬉しいよ。
でもこれは、私自身のケジメの問題でもあると思うんだ。
「雪殿……?」
じゃあ、行ってくるね。
「あっ……雪殿ぉ……!」