13 戦争が始まる
「雪さんたち3名には霧の森へ行ってもらいたいと思います」
霧の森?
「ここ王国のすぐ北にある小さな森のことです。そこはとても不思議な霧により、季節問わずいつ訪れても全貌を見られた試しがないと有名です」
ふぅん。
そんな森に何の用で私たちは行かされるの?
「その霧の森にいると噂される”妖精の半獣”を捕まえてきてほしいのです」
妖精の半獣……聞くからに可愛い感じじゃん。
「ニャはっwwwトラコって妖精の噂なんて信じてるのニャン? 案外お子様だニャンwww」
「えぇ、えぇ。信じていますとも。可愛いを集め究めんとする者にとって、噂であっても見過ごせぬものです」
「ふーんニャ……」
「それで、引き受けてくれますよね? 雪さん」
うん、もちろんだよ。
私自身も妖精ってどんな子なのかすっごい気になるし!
「ありがとうございます」
さて、そうと決まれば出発だ〜!
「……ニャンタロッサ殿、どうしたでありますか?」
「別に……何でもないニャン」
ここが噂の霧の森だね。
なんか入り口から霧が漂ってて、ちょっと不気味な感じ。
ねぇねぇふたりとも、こういうとこって怖くない?
「なにバカなこと言ってるニャ。さっさと入るニャ」
ぎゃっ。蹴らないでニャンタロッサちゃん。
「ツーン」
……どうしたんだろう、ニャンタロッサちゃん。
「ずーっとあの調子でありますね。お腹でも痛いのでありましょうか」
だとしたら大変だ。お腹なでてくる!
「ギャーーー!//// 急にどこ擦ってくるニャン!////」
「雪殿、そこはお腹でなくお尻であります!」
森の探索は霧のせいで思ったように捗らず、私たちは小さな泉の前のひらけた草地で休憩を取ることにしました。
ずいぶんと歩き回ったけど、他の半獣すらいなかったね。
「そうでありますね……やはりただの噂だったのでありましょうか……」
「…………」
うーん。
見たかったな〜妖精ちゃん。
「……雪、そんなに妖精に会いたいニャ?」
え? うん。もちろんじゃん。
可愛い子に会いたいのはレズの性だよ!
「……ニャンタロッサの気持ちも知らニャいで」
ん?
何か言った?
「もういいニャ! 帰るニャ!!!!!!!!」
!?
ちょ、ニャンタロッサちゃん!
……行っちゃった。
「もしかするとでありますが……ニャンタロッサ殿は嫉妬しているのでないでしょうか……?」
ニャンタロッサちゃんが嫉妬?
うーん……そんなまさか。
…………。
でもツンデレだし、もしかしたらありえるかも。
「憶測でしか語れないでありますが、私にはそう思えたであります……」
でもなぁ。
可愛いは集めたいし。
『まったく……信じて送り出した救世主がそのような邪な考えを抱いているとは……』
!?
「何でありますか!? 今の声は!?」
あ、あそこ! 泉に誰かいる!
『ごきげんよう、雪。私を覚えていませんか?』
……あ。
なんかどこかで会ったような。
っていうか、いっちばん最初に目にしたことあるような。
「白き羽に白銀の衣……そして天使の輪……それも特大の……! まさか……!」
『ふふ、女神です。あなたをこの世界に送出した者』
!!!
『単刀直入に言いましょう。あなたの役目はトラコの野望を阻止することでした。イシュタリアの住人は自由でなければならない……自由を奪われてはならないのです』
えっ……。
『それがどうでしょう。あなたは阻止するどころか加担してしまった! あぁ、なんと愚かなレズなのでしょうか。信じられません』
な……なんかごめんなさい……。
「雪殿が世界イシュタリアの創造主である女神に愚かなレズと罵られてるであります……! っていうか女神様はじめて見たであります……!」
『心して聞きなさい駄目レズよ、否、駄レズよ。事態は最悪の想定をさらに上回る最悪に発展しようとしています』
え、どういうことですか?
『ひとつは、サキュバス族がトラコの思惑に勘付きました』
!?
『リーダーであるキュベレイが獅子王が操られていたという確信を得て、トラコの目的までも察知したのです』
「な、なぜでありますか……!? 獅子王様への遣いとして出されたのは私だけであります! つまり私が報告に行かなければ、キュベレイ様は事の顛末を知ることはできないはず……!」
『ヤヤスケーヴェイよ、遣いとして、いちおうは報告に戻るべきでしたね。あなたの帰りが遅いと心配し代わりの者をキュベレイは王国へ送ったのですよ』
「そ、そんなであります……」
『そしてふたつめ、鬼たちの暴動が起きようとしています』
えっ、なんで?
『忘れたのですか? 王国へはじめて向かう道中、ひとりのウサギの半獣と会いましたよね?』
うん、会った会った。
盗賊のラビットスターちゃんでしょ?
……ん? 盗賊?
『そうです。お城の財宝はすべて盗まれています。トラコはその状態で鬼と取引に臨んでしまったのですよ。宝物庫の確認もせずにね』
えぇぇぇぇぇぇぇ……。
『結果、現在城下町で鬼たちが暴動を起こしています。財宝が手に入らないと知り、我を忘れています』
そ、そんな……。
ってかトラコちゃん確認くらいしようよ……。
『平和主義であったサキュバス族も、あのトラコのふざけた思惑に腹を立て現在王国へと進軍中です』
「い、いますぐ戻るであります! 雪殿!」
みんなを止めないと……!
『いいえ、それには及びません』
え!?
『あなたは救世主として不適合者であった。ので、強制的にもとの世界へと帰って頂きます』
!?!?!?
ま、待ってよ!!!
『あなたの不始末は他の者に拭わせるとしましょう……』
本当に待って!!!!!!
待ってください!!!!!!!
『……なにか?』
全部、元通りにします!
私が責任をもって、この事態を収束させます!
だからもとの世界に戻るのだけは……。
このまま戻っちゃったら、ニャンタロッサちゃんと喧嘩別れすることになっちゃう。
そんなの嫌だよ。
『では仲直りしてから戻りたい、と』
それも嫌!
私はずっと、ここイシュタリアで暮らしたい!
みんなと……いや、私は……。
ニャンタロッサちゃんと生きていきたいんだ……!
「雪殿……!」
『期限を設けましょう』
!
『一日待ちましょう。太陽が再びこの高さまで昇った時、未だ事態が収束していなければ問答無用で帰って頂きます、よろしいですね?』
う、うん! 十分だよ!
行こう! ヤヤスケーヴェイちゃん!
「は……はいであります!」
『…………』
『女神様、よろしいでしょうか』
『どうしました? 天使よ』
『いくら魔法無力化のギフトがあれどこの争いを収束させるには余りに……』
『何が言いたいのです』
『あの者に……追加でギフトを、と』