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僕が主人公じゃない方です  作者: 脇役筆頭
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捕まるのは主人公じゃない

枝を踏む音。静かな朝とはいえないな。


俺はハッと目を覚まし、すぐさま辺りを警戒する。待っていた。この後の対処も予習済みだ。


「誰だ。そこにいるのはわかってる、大人しくでてこい。」


俺が目を瞑りながら空に向かって声を発する。こうすることにより、どこにいても、やはりそこか。とできる寸法だ。


俺の言葉に反応するようにひとりのゴツいボス猿のような男が茂みから立ち上がる。斧を持っており、肩に担いでいる。


「いけ、()らえろ。」


なんて奴らだ。ボス猿の命令に戸惑いや警戒すらせずに茂みから姿を現した。ザ・山賊といった見た目で襲いかかってくる男たちは、素人丸出しで俺の相手にならなそうだった。


昨日の夜、魔法陣を両腕に書き込んでいたため、即座に魔法を放つことができると知らずに。


俺はギリギリまで引き付けて魔法を発動させる。火の魔法で火傷を合わせて風魔法で追い討ちを仕掛ける。ここからの快進撃を予兆するかの様に俺向きに風が吹いているのを感じる。


「無駄だ。」


ボス猿がドスの効いた声を出しながら斧を持っていない手を俺に向ける。すると、魔法がキャンセルされてしまった。風が…止んだ…。




俺はこの集落で行われる生贄に選ばれたらしい。囚人生活5日目のことだった。


抽選でこの集落の中から選ばれるらしいのだが、捕まった捕虜の俺が当選したのだとか。


「幸運なことだ。光栄に思ってもっと喜べ!」


「なんでお前なんかが。なんて汚らわしい男だ!」


「私はお前だと思ってたんだ…。やはり私は掲示が見えるのだ…!!」


この村は囚人をトイレの横の牢屋に入れる。トイレの横なだけあって、当選してからは結構話しかけられる。


みんな生贄を羨ましがっているようだった。チヤホヤされ、有名人になった様で気分は良かった。


ルームメイトは1人いて、顔が整っていてとてもクールなやつだ。特定の心を開いた人物にしか口を開かないタイプの男。牢屋の奥の日陰になるところで寝転がって静かにしている。


何度か話しかけたが、一度も返事をしてくれなかった。名前は2番(セカンド)。2番目に捕まえたかららしい。


俺は3番(サード)だと思ったが、64番(ろくじゅうよんばん)と名付けられた。よく虫と呼ばれる。扱いの差が疑問である。


集落はだんだんと活気がつき始め、なにかの祭りの準備なのかぼろ家の屋根や柱、扉に派手な装飾をし始めていた。


「おい、虫に餌あげたか?後2日、死んじまったら困る。」


「おっといけね、餌持ってくるわ。」


たまに食事をもらえないが、今のところただ飯を食えてるし、藁のベッドも地面よりも寝心地がよかった。食事はご主人の方が美味しかったが、栄養バランスを考えない炭水化物な食事も悪くなかった。


目的もなくボーッと日向ぼっこしながら空を眺めていると、セカンドがたまに舌打ちをしてくる。どうやら俺の事が気に食わないらしい。


セカンドはこの村で用意されるものを一切口にしていなかった。俺があげようとすると皿を蹴り上げて飯を地面に落とす始末。何も食べていないわけではなく、自身の腰に下げている袋の水を少しずつ飲んでいるようだった。


そして、とうとう生贄の日が来てしまった。俺は再び縛られると思いきや、思いの外自由な形で牢屋から出された。魔法を警戒したのか、手だけは後ろに縛られていた。


顔や体に何やら絵具のようなもので塗装を施されて、どんどんこの民族に馴染んでいくのがわかった。みんな楽しそうに装飾するものだから、俺も嬉しくなった。これはもう俺たち家族だわ。


夜に行われたため、集落の至る所に松明が置かれていた。ゆらゆらと風に合わせて揺らめく松明は、集落全体が呼吸しているようだった。


俺は集落の中心と思われる場所に連れてこられた。そこには大きなキャンプファイヤーがあり、その周りで猿たちが演舞をしていた。何やら怪しげで見入ってしまう。


俺は年寄りの座る椅子に並んで座らされてそれを眺める。目の前の机には果物といつもより少し豪華な炭水化物の食べ物が並べられていた。


年寄りは食べ方が少し汚いし(にお)ったが、俺も手が使えなかったのでお互い様だ。


年寄りたちはなにを話しているかわからず会話は一切成立していなかったと思うが、なにやら楽しそうだったのでどうでもよかった。


そんな楽しい宴会も長くは続かず、俺はキャンプファイヤー近くの木の台座のようなものに立たされる。見覚えのある台座は、お前を縛ってやると言わんばかりの雰囲気を(かも)し出していた。


俺はそう簡単に縛られてたまるかと、縛られる直前に暴れてやろうと考えるが、鉄の錠のようなものでガチャリと一瞬で拘束されてしまった。


あぁ…振り切って逃げるルートまで考えてたのに…。


抵抗を一切しない俺を見て猿たちもニッコリと気分を良くしていた。内心は抵抗しようとしていたが、山賊の一部はしんみりと寂しそうな顔をしていたので、なんとなく心に染みた。


台座は垂直に立たされてなにやら俺の知らない言語で歌い始める猿たち。そろそろやばそう。お別れの感動の挨拶考えとかないと。


やっぱり話してて楽しかったとか入れた方がいいのかな?それとも生贄にして悪い気分にさせないため、心苦しいながらも悪口とか言ったほうがいいのかな?


俺も猿たちもそわそわし始めたところで突然一部の猿たちが騒ぎ始めた。良いところなのになんの騒ぎだ?


俺の近くの猿たちもなんだなんだとキョロキョロし始めたところで、真の通った安心感のあるいかにもそれっぽい声が、ざわついた人々から言葉を奪う。


「そこまでだ!彼を解放しろ!」


そのタイミング、立ち振る舞いはまさしく、主人公のそれであった。

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