51話 道化師を褒めてみた
RPGあるある:道化師は強キャラ。
七魔王・第2席――天命王メルモを発見した。
蟲の魔王にして、七魔王における諜報担当のやつだ。
メルモは悪戯がバレた道化師のように、ぺろりと舌を出しながら肩をすくめる。
「やぁ、こんな早く見つかっちゃうとは。こう見えて、かくれんぼは十八番なんですけどねぇ。蟲だけに無視される、なんちゃって~」
「ほぅ、最高に面白いギャグだな。さすがメルモだ。さあ、もう1回言ってみるがいい」
「……ごめんなさい。許して」
……なんだか、こうして話していると下っ端感があるが。
メルモの潜伏能力が並外れているのは確かだ。
こいつは気配がないうえに、【擬態】スキルや【幻術】スキルまで使うからな。舞台上で芸をしているメルモも、こいつの作り出した幻だろうし。
「たしかに、お前の気配隠蔽はうまかった。うますぎると言ってもいい。気配を隠すことに関しては、お前の右に出る者はいないだろう。お前がナンバー1だ、メルモ」
「…………え? あ、そこまで褒められることでも」
「ただ、お前……【赤い糸】を使っただろう?」
強制的に自分を“運命の相手”だと思わせるスキルだ。
よく見ると、微弱ではあるが……観客の左手の小指から、メルモの左手の小指へと、魔力の導線が伸びている。それをたどっていけば、居場所はすぐにわかった。
「きひゃひゃ♪ ご名答♪ 私はみんなが笑顔になるなら、なんでもしますからねぇ……ふふふ」
「そうか。メルモは優しいな」
「…………あ、はい。べつに褒めなくてもいいんですよぅ?」
「だが、あいかわらずで安心した」
――みんなを笑顔にする。
そんな子供の夢のようなものが、メルモの行動原理だ。
とはいえ、そんなに可愛らしいものではない。
誰かを笑顔にするためならば、メルモは手段を選ばない。
泣いている子供がいれば脳を改造してでも笑顔にしようとし、みんなの笑顔を奪う存在がいるのなら運命を書き変えてでも強制的に“退場”させる。
だがまあ、基本的に害はないだろう。
こいつは、道化師としてのプライドだけは高いからな。
圧倒的な戦闘能力を持つくせに、他人を笑顔にするのが仕事だと言って、戦闘しなくていい諜報役に志願したぐらいだし。
少なくとも、他人を泣かせるようなことはしないはずだ。
「で、こんなところで、なに遊んでるんだ?」
「や、やだなぁ、マスター。仕事が服を来て歩いているような真面目少女メルモちゃんをつかまえて、遊んでるだなんて。ちゃんと諜報活動もしてましたよぅ」
「してたのか、あれ? スパイというには目立ちまくっていたが」
「いえいえ、逆に目立ったほうが、おえらい方々にもお近づきになりやすいのです。それに、ああいうショーは、諜報用の蟲をばらまくのにうってつけでして……」
「で、本当のところは?」
「マスターが見てないと思って、めちゃくちゃ遊んでました」
「素直なのは嫌いじゃないぞ」
「や、やぁでも、マスターに頼まれてた聖王国の調査もちゃんとしましたよぅ」
「ほぅ? さすが、仕事が早いな。お前を諜報役にして正解だった。お前がナンバー1だ、メルモ」
「…………あ、はい。なんか今日はやけに褒めてきますね」
「で、情報を教えろ」
「ええ。では、まずですね……あのみんな大好き聖王ネフィーロ4世ですが……なんと!」
メルモがぐぐっと溜めてから、ばばーんっと言い放つ。
「――彼は、世界征服を企んでいたのです!」
「ふーん」
「……あ、そのリアクションは傷つきます」
「いや、予想はついてたし」
というか、世界征服みんな大好きすぎだろ。今年のトレンドかよ。
そして、第2第3のラスボスが現れすぎだ。
魔帝メナスがいなくなったところで、普通に世界がやばい。
むしろ、魔帝メナスがいたほうが世界が平和だったまである。俺がいなくなったことによる世界のパワーバランス崩壊は、思ったよりも深刻なのかもしれない。
「で、聖王が世界征服したがってる理由については……」
「いや、言わなくていいぞ。誰も興味ないから」
「ですよねぇ」
「それより、世界征服を企むということは、聖王はそれなりの力を手に入れたということだな?」
「ええ、それはそれは……」
と、メルモがわざとらしく間を取ってから。
「――神弓兵器」
その名を口にした。
「それが、ここんところ聖王国が量産しているやつです。なんでも、40日かけて祝福した聖銀に大量の魔力を注ぎ込んで作る大量破壊兵器だとか。言ってみれば、ちょー強い爆弾ですねぇ」
「ふむ……」
ゲームにはなかった兵器だ。
やはり、この辺りは運命に変化が起きているのだろう。
「威力はどれぐらいだ?」
「それが……なんと! 聞いてびっくり! どんなにお硬いお城であろうと、一発で消失マジックできるレベルだとか」
「……城を、だと……?」
これには、さすがに驚いた。
「え、40日もかけて、城をひとつ消せるだけなのか……? それもう、普通にレベル上げして魔法使ったほうがコスパよくないか? なんなら、今のミコりんでもそれぐらいの魔法連発できるぞ」
「やぁ、人間にしてはだいぶ頑張ってるほうですからねぇ」
「たしかに……」
この世界の人間は、みんなレベルが低いしな……。
魔法のレベルも5が最高だと思われていたぐらいだし。
「実際、私たちがいなければ、人類にとってかなりの脅威ですからねぇ。なんせ、聖女様の【未来予知】を利用して造られた未来兵器ですから」
「俺としては、未来人類の進歩のなさに脅威を感じるのだが」
だが、ある意味、平和でいいのかもしれない。
ともかく、この辺りは調べさせるまでもなかったな。
「で、聖王はその未来兵器を使って、ノア帝国にさっそく攻め入ろうとしていると」
「や、もう攻め始めてます」
「……む?」
「聖女様がいない隙に、聖王が進軍を始めちゃったんですよねぇ」
「始めちゃったのか」
聖王は老い先短そうだし、成果を急いでいるのだろう。
俺が魔帝メナスだった頃にも、何度も無理攻めしてきたしな。
ノア帝国は、もともと魔境の多かった地を、勇者メフィス・ノアが開拓して築いた国だ。そのため、魔石資源や魔境資源が豊富にある。さらには西大陸唯一の東西航路を結ぶアトス運河なんてものも持っている。
資源も少なく海上覇権も欲しい島国の聖王国にとっては、ノア帝国侵略が長年の悲願みたいなところがあるのだ。
「きひゃひゃ♪ やぁ……悲しい。悲しいですねぇ。聖女様がどれだけ戦争を止めようと頑張っても、戦乱の未来はもう止められないのですから!」
「ほぅ、聖女の心配をしてやってるのか。優しいな。そういうところも嫌いじゃないぞ。やはり、お前がナンバー1だ、メルモ」
「…………え? あ、はい」
「…………」
「……あ、あのぅ? さっきから、ちょいちょいベタ褒めしてくるの、なんなんです?」
「だって、お前、褒めたほうが嫌がるだろ?」
「やっぱり嫌がらせだった!?」
メルモが警戒したように、しゅばばばっと距離を取る。
「それはNGです! NGですよぅ、マスター! 道化師はバカにされて笑われるのが仕事なんです! 褒められたら死んじゃう生き物なんです! だから、もっといじめてください!」
「よしよし」
「あ、頭撫でるとかもダメです! そういういじめ方ではなく……ああぁ、もぅ! そ、それより、明るく楽しい戦乱の未来トークに戻りましょう!」
顔を真っ赤にしながら、めちゃくちゃ強引に話題を変えてきた。
ステージ上では普通に褒められてる気がするのだが……どうも、面と向かって褒められることには耐性がないらしい。不思議な生態である。
それはともかく。
「いやまあ、戦乱の未来とか言っても……聖王国の辺りを守ってるのは、あのノーチェだしな」
「……戦乱の未来、5秒で終わりそうですよねぇ」
戦乱の未来トーク終了。
まあ、聖王国は過去にめちゃくちゃ攻め込んできたから、当然それなりの対策も取っているのだ。
それにいざとなっても、第1席を動かせばそれで終わる。聖王国ぐらいの規模なら3分ぐらいで地図上から消せる。
聖女の見た破滅の未来というのも、たぶん聖王国が勝手に破滅してるだけだ。
聖王国かわいそう。
「とはいえ、爆弾なんぞでノア帝国が荒らされる“かもしれない”というのも気に食わんな」
たとえ数%だとしても、その“かもしれない”というだけで気に食わない。俺のときみたいに、アレクを悪者扱いしてくるのも気に食わない。
それに、世界征服だと……?
「……どいつもこいつも、俺を差し置いてラスボスみたいなことしやがって」
地味にそれが一番気に食わない。
「で、どしますぅ? こんな人の笑顔を奪うような国は、ぷちっとお仕置きしときますかぁ?」
「それはやめろ。まだ、お土産を買っていない」
「あ、はい」
「それに、なんでもかんでも力でさくっと解決するだけではつまらないだろう?」
「およ、マスターらしくないご発言」
「そんなことはない。いいか、俺はな……自分に力があると思い上がってる噛ませどもに、ドヤ顔しながら圧倒的な力の差を見せつけるのが好きなんだ。敵の全力攻撃をあからさまな舐めプで吹き飛ばして、『あれ、俺なにかしちゃいました?』とか言って煽りまくりたいんだ」
「なるほどなるほど」
「わかってくれたか」
「イエスです、マスター」
がしっと握手する。
さすがは、我が悪友メルモだ。
と、手を握ったついでに、ひとつ尋ねてみることにする。
「そういえば、お前にひとつ聞きたかったことがあるんだが」
「およ、マスターが私にですか? まあ、なんでもお聞きくださいな。どんなクエスチョンでもウェルカムですよぅ」
「そうか。では、遠慮なく……」
がちっ、とメルモの手をホールドする。
「……お前、これから裏切る予定とかあるか?」
「……っ!?」
そう、メルモは魔帝メナス討伐の立役者のひとり――。
――ゲーム内において、俺を裏切ったキャラなのだ。
――……悲しい。悲しいなぁ。
――だってせっかくこんな所まで来たというのに その願いもかなわぬまま……。
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