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50話 道化師のショーを見てみた

マンガUP!様よりコミカライズ決定です!

今秋より連載開始予定!


※前半はミコりん視点です


◇妖精姫ミコリス Lv67

エルフの姫にしてベテラン冒険者。最近は【空間操作】スキルの練習中。

本日の昼食:勇者バーガー・聖剣サブレ・神話キャンディー……など(大きな祭りは初めてなので、声をかけられるとつい買ってしまう)


「…………どうしよう」


 お祭り騒ぎの聖都の中。

 人でごった返した広場の隅っこで、ミコリスは途方に暮れていた。

 マティーは勇者誕生パレードの主役だから一緒におらず、一緒にお祭りを回っていたプリモとは、いつの間にかはぐれてしまっていた。

 しかし、今なによりも困っているのは……。


「……うぇぇ……お母さん」


 手をつないでいる小さな女の子のことだ。

 なにやら、この子のお母さんが変な“噂”を耳にするなりどこかへ行ってしまい、途方に暮れていたのだ。

 泣きそうになっていたので見かねて声をかけたはいいが。

 しかし、子供のあやし方など、エルフの姫が知るはずもない。

 ただ、おろおろすることしかできなかった。


「……うぅ……ぐず……」


「な、泣いちゃダメよ! ほ、ほら! お姉ちゃんが、手をつないでてあげるからね!」


「うぇぇんっ! お姉ちゃんの握力が強いよぉぉ!」


「えっ!? あっ、ごめんね! 最近レベル上がったばかりで、まだ力加減慣れてなくて……」


「……おい、見ろよ」「あんな小さな女の子を、鍛え上げた握力で泣かせてるぞ……」「どうして、その握力を正しいことに使えないんだ……」


 周囲からの視線が痛い。


「うぇぇんっ! お母さぁぁん! 握力女がいじめてくるよぉぉ!」


「ああぁ、もう……どうしたらいいのよ……うぅぅ、ママぁ……」


 ミコリスも女の子と一緒に涙目になっていた。

 と、そのとき――。



「――きひゃひゃ♪ 人を笑顔にするならまず自分から、ですよぅ?」



 どこからともなく、まるで手品のように。


 ――目の前に、虹色の少女が現れた。


 カラフルな髪に、カラフルな瞳に、カラフルな衣装。

 どことなく道化師を思わせる身なりだった。少女は周囲の視線を涼しげに受け流しながら、一輪の花に口づけをして、ちゅうちゅうとご満悦そうに蜜を吸っている。

 これほど奇抜な少女だというのに、接近に気づけなかった。

 ミコリスは思わず警戒しかけるが……その少女の姿には見覚えがあった。


「え……あなた、もしかして……」


「しー」


 少女は茶目っ気たっぷりの笑顔で、ミコリスの唇に人差し指を当てる。


「私はただの、しがない道化師ですよぅ?」


 整った顔でウィンクされると、同性でもドキッとさせられる。

 少女はそれから、泣いている女の子の前でかがむと。


「――これはこれは、愛らしいお姫様。あなたの涙はまるで100万シルの宝石のよう……この私がいただいてしまいましょう」


 芝居がかった仕草で、女の子の涙を花びらでぬぐい取ると、その花びらをハンカチで覆い隠し――。


「――イッツ☆ショータイム♪」


 ハンカチを取り払った、その瞬間――。




 ――虹色の蝶が、一斉に舞い上がった。




「…………わぁ……」


 カラフルな花吹雪のように、ハンカチの裏から蝶がとめどなくあふれていき――またたく間に、聖都が虹色に彩られる。

 思わず、なにもかもを忘れて見入ってしまう。

 それほど幻想的な光景だった。

 泣いていた女の子も、周囲にいた人たちも、誰もがその光景に魅了されていた。

 それから。


「あれ……あの子、もしかして!」「メルモちゃん?」「メルモちゃんだ!」


 やがて、人々が口々に、虹色の少女の名を呼び始める。

 メルモと呼ばれた道化少女は、おどけたようにに肩をすくめると。


「およよ、これはえらいこっちゃですねぇ。本当は、別のお仕事の途中だったのですが……やっぱり、人気者の宿命には勝てませんか」


 少しだけ、悪い笑みを浮かべるのだった。



   ◇



「……なんだ、あれは」


 聖王を殴るために広場に来てみると、なにやら人だかりができていた。

 押すな押すなの盛況っぷりだ。

 また聖王が演説でもしているのかと思ったが、違う。

 木組みの演壇の上にいるのは、虹色の道化少女だ。

 虹色の蝶を自分にまとわりつかせながら、ジャグリングや玉乗りといった曲芸を披露しているらしい。

 それから、少女は自らに布をかぶせると――。


「――メルモ☆イリュ~ジョン♪」


 そんな決めゼリフとともに、少女がはらはらと無数の蝶となって消え……。

 気づけば、広場の中心にある聖王像の上に立っていた。

 ギャラリーたちから拍手と歓声がわき起こる。


「ふむ、やはりメルモか」


 ――メルモ・フォーゼ。

 各地に出没してはショーを開く、さすらいの道化師キャラだ。

 ゲームでは主にミニゲーム担当で、仲間になるキャラでもなかったが……主人公アレクたちにたびたび有益な情報を流すなど、メインストーリーで重要な立ち回りをしていたキャラでもある。

 彼女もある意味で、魔帝メナス討伐の立役者といってもいいだろう。


「めるめるめ~♪ みなさん、ショーを楽しんでますかぁ?」



「「「――めるめるめぇぇぇッ!」」」



 ギャラリーが叫ぶ。

 そんな広場の人混みの中に、ふと見知った顔を見つけた。


「――めるめるめえええッ!」


 我らがミコりんだ。

 拳を天に突き上げて、ひときわ大きな声で叫んでいる。

 近づいて肩をつつくと、ようやくミコりんもこちらに気づいたらしい。


「あれ、マティー? たしか、まだパレードの最中なんじゃ」


「サボってきた」


「サボったって……まさか、メルモちゃん見るために?」


「そういうわけでもないが」


 そう答えつつ、ふたたび壇上に戻っていたメルモのほうに視線を向ける。


「ミコりんもメルモのこと知ってたのか?」


「当たり前でしょ! 世界的に有名な、あの謎の美少女道化師メルモちゃんよ! 昔、うちの城でもショーをやってくれたの!」


「お、おぅ」


 興奮したようにまくし立ててくる。

 ここまで人気だったのか、メルモって。

 今まで城にこもってたから知らなかった。メルモが俺の城でショーをすることもなかったし。


「メルモちゃんは、すごいのよ! 魔力もスキルも使わずに、瞬間移動したり、コインを移動させたり、こっちが選んだトランプのカードを当てたりできるの! 信じられる!?」


 ……普通の手品だった。


「こういうやつだろ?」


 ポケットから銀貨を取り出し――ぱっ、と一瞬で。

 手の中にあった銀貨を、別の手に移動させてみせる。

 まあ、移動といっても最初から隠し持っていただけだが。


「あ、メルモちゃんがやってたやつ! もしかして、あんたもメルモちゃんファンなの?」


「いや、そもそもメルモに手品教えたの俺だしな……」


「……さすがに、人気者に対して、俺が育てたとか言っちゃうのは痛いわよ?」


「そういうのではないが」


 メルモは、ノア帝国の元宮廷道化師だ。

 かつては俺の遊び係的なやつだった。

 もっとも今では状況が変わったが……。


「ああ、メルモちゃん可愛い! あたしもメルモちゃんみたいになれたらなぁ……」


「む……?」


 ぽーっと、うっとりしたようにメルモを見つめるミコりん。

 ふと、その様子に違和感を覚えた。

 いや、変なのはミコりんだけではない。他の観衆もだ。

 一見すると、笑顔あふれる平和な光景だが。

 よく見ると、聖王の信者の集まりとはまた違う、異様な雰囲気を感じる。


「ふむ」


 ミコりんの左手を取ってみる。


「な、なに!? 言っとくけど、あたしの心はメルモちゃん一色なんだからね!」


「いや、もういい」


 ミコりんから手を離す。


「……魅了スキルか」


 仮にもレベル67のミコりんを魅了するとは。

 ずいぶんと強い魅了をかけているらしい。

 ……聖王を殴りに来たのだが、それどころではなくなったな。

 俺は肩をすくめて、身をひるがえす。


「あれ、どこ行くの?」


「少し用事ができた」


 その場から離れ、近くにあった市庁舎の屋根へとのぼる。

 あいかわらず、広場でショーをしているメルモを見下ろしながら――。


「そこにいるんだろ…………メルモ?」


 虚空を手で振り払う。

 すると、見えていた景色が、べりべりべり……とひび割れ。

 景色に擬態していた虹色の蝶たちが、一斉に舞い上がった。



「――きひゃひゃ♪ ご名答♪」



 そんな茶化すような少女の笑い声とともに。

 目の前に、虹色の妖精が現れた。

 オーロラでできたような虹色の蝶羽を、ふよふよと風に揺らしながら、どこからか摘んできた花に口づけをして、ちゅうちゅうと蜜を吸っている。

 あまりにも特徴的な容姿だから、間違えようがない。



 七魔王・第2席――天命王メルモ。



 蟲の魔王にして、七魔王における諜報担当。

 種族名は、運命蝶エフェクトバタフライ――運命をつかさどる蝶の妖精。

 それが、この虹色の道化少女の正体だった。




――命… 夢… 希望…

――どこから来て どこへ行く?

――そんなものは… このわたしが ポイント評価する!!



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