36話 ミコりんを強化してみた
妖精国生活1週間目――暇潰しにミコりんを強化することになった。
まあ、ミコりんの育成はいつかしたいと思っていたところだし、ちょうどいい。
ちなみに、ミコりんはゲーム内で仲間キャラの“三強”に数えられていただけあり、下手に魔物を創るよりも強くなれる素質がある。俺が運命を変えたことで、歴代女王の記憶継承による覚醒イベントなどはなくなったが、今のままでも充分に強いから問題はない。
「で……あたしの強化って、なにするの?」
妖精国の城の訓練場にて。
ドレスから冒険者用の装備に着替えたミコりんに尋ねられる。
「まずはレベル上げからだ。ちなみに、今のレベルはどれぐらいだ?」
「ちょうど20よ。ニーズヘッグを倒したら一気に上がったわ」
「……一気に上がってそれだけか?」
「いや、それだけって……レベル20もあったら、地方最強レベルなんだからね? アーシュの町辺りで最強って言われてたヴァガン将軍なんかも、レベルは21だし」
そういえば、この世界のレベルの基準はかなり低いんだった。
レベル11のミコりんが町のエース扱いされ、レベル35のミステリア女王が世界最強クラスの実力者だと言われる世の中だ。
まあ、レベル上げの概念がなければ仕方ないのかもしれないが。
しかし、ここまでレベルが低いと、まともにスキルを覚えさせることもできないな。
「では、まずはレベルを最短で上げるぞ。プリモ、“レアスライム”を作れ」
「らじゃーです!」
プリモがスカートのすそをちょんとつまみ、お辞儀をする。
「出でよ~、レアスライム」
スカートの裏地から、ぽてりぽてりと虹色に光り輝くスライムが落ちてくる。
レベル上げ用の魔物――レアスライムだ。
プリモは【分裂】スキルの応用で、自分より下級のスライムを生み出すことができる。
ちなみに、レアスライムなら俺も【魔物創造】スキルで作ることができるが、レアスライムはSランクの魔物であるためMPコストがかなり大きい。量産するならプリモの【分裂】を使ったほうがコスパはいいのだ。
本来は『でない、はやい、にげる』の3拍子がそろった討伐難易度ベリーハードな魔物だが、俺の【魔物創造】やプリモの【分裂】スキルで生み出したものに関しては、その心配はない。
「とりあえず、このスライムを倒してみろ」
「え? う、うん……」
ミコりんがレアスライムを杖でぺしぺし叩くと。
レアスライムは、ぷちっとあっさり潰れて消えた。
「あ、あれ……? なんか、体が熱い……? これって、もしかしてレベルアップの感覚……?」
「ふむ、どれどれ――【見破る】」
ステータス鑑定スキルを使ってみる。
「レベル26か。とりあえず、今ので6上がったな」
「はぁ!?」
ミコりんが素っ頓狂な声を上げる。
「レベルってこんな簡単に上がるものなの!?」
「上がるものだぞ」
レアスライムは、ひとりで倒せば経験値が4万200も入るからな。ミコりんがニーズヘッグ戦で得た経験値が1万5000ぐらいであることから考えても、かなり破格の経験値量だ。
「ちなみに、レアスライムをあと410体ほど倒せばレベル100になる」
「え、待って。生物の最高レベルは50じゃないの……?」
「そんなわけあるか。実際に俺のレベルは100だ」
「わたしはレベル91ですよ?」
「……うん、まあ……あんたたちの力見たら、信じるしかないけど……ちょっと今日だけで世界観が揺らぎすぎて吐きそう」
なぜか、ミコりんが遠い目をしていた。
「とりあえず、プリモ。レアスライムはあとどれぐらい作れる?」
「60匹ぐらいなら、なんとかです」
「ふむ、ならばレベル60はいけそうだな。ひとまず、ニーズヘッグより1高いレベル67でも目指すか」
「……いとも容易く突破される人類の限界レベル」
というわけで。
10分にもわたる長く激しい修行のすえ、ミコりんはレベル67になった。
「………………おかしい」
瓦礫と化した訓練場の中で、ミコりんがぽつりと呟いた。
その周囲では、訓練中だったエルフの宮廷魔術師たちがパニックになって逃げ惑い、城のほうからは、がんがんがん! と警鐘が鳴り響いてくる。
「どうしてこうなった……初級魔法で的当てしただけなのに……」
「まったく、とんだ欠陥建築だな」
「こんな壊れやすいと訓練ができませんね……」
「いや、あたしの魔法の出力がおかしいのよ! 手のひらサイズの魔弾出すつもりだったのに、“あたしの考えた最強の魔法”みたいなのが出てきたんだけど!? 的が一瞬で蒸発したんだけど!?」
「それは、まだ魔力の調整が甘いからだな」
これだけレベルが一気に上がったら、仕方ないところはあるが。
「でも、よかったですね、ミコちゃん! クソザコから卒業できて!」
「うん……クソザコ扱いされてたんだ。まあ、強くなれたのはうれしいけど……」
ミコりんがすごく微妙な顔をする。
「……ただ、うれしさより虚無感が勝るわ。今までの努力が全て無駄だった気がしてきて」
「そうだな、無駄だな」
「で、でも、無駄な努力も、きっといつかいい思い出になりますよ!」
「できれば、そんなことないさ系のフォローが欲しかった」
「それより、お次はスキルだな」
レベルアップでステータスも上がったが、ミコりんの今のスキルは正直弱い。
ミコりんの固有スキル【コスチュームチェンジ】も、対魔物戦なら無敵とはいえ、俺と敵対していないこの状況下では活躍の幅が限られてしまう。
なにか新しいスキルを覚えさせるにしても、この世界のスキル習得はわりと面倒だ。
ゲームみたいにボタンひとつで習得とはいかない。
スキルは研究や修行によって習得する必要がある。だいたいのスキルは俺が使えるため、スキルの研究開発から行う必要はないが、それでも手間がかかるのは確かだ。
俺と同じように、その体に魔物を合成すれば強くなるだろうが……さすがにリスクが高いしな。
と、そこで、ふと思い出す。
「そういえば、ミコりんは精霊と契約しているか?」
「え? してるけど……」
精霊とは、力に知性や人格が宿った存在だ。
そして、エルフはその精霊を祖先に持つとかなんとかという設定によって、【精霊使役】という種族スキルを持っている。
つまり、精霊と契約して力を借りることができるというわけだ。
そう言うといかにも強そうだが、ゲームでは精霊を選択できなかったし、強い精霊と契約できるわけでもなかった。基本的に死にスキルだったから、忘れかけていたが……。
「出てきて、ミーちゃん」
ミコりんの言葉とともに。
その手のひらから、小さな水色の玉がふよふよと浮かび上がってくる。
微弱な水精だ。知性が宿ったばかりの力の塊といった感じか。
「前に、冒険に便利だから契約したわ。といっても、清潔な水を出すのに使うぐらいだけど」
ミコりんがお椀型にした手のひらの中に、水をわかせてみせる。
「ふむ……」
精霊の力を使うことができるスキル――【精霊使役】。
ゲームでは死にスキルだったが……これは意外と面白いスキルかもしれない。
「というわけで、今から精霊と契約しにいくぞ」
「え? 精霊ならもう契約してるんだけど」
「いや、そんなザコ精霊ではない。今からミコりんに契約してもらうのは――」
俺は不敵に笑いながら、その名を告げた。
「――――精霊王だ」
――ポイント評価を眺めていられるかぎり、どうして悲しくなれるというの?
というわけで、6章終了です!
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