33話 ミコりんの裏設定をネタバレしてみた
2~3話ほど、のんびりした展開が続きます。
◇ミコリス・ピンクハート Lv20
……妖精国の姫。メナスの冒険者研修を担当。名前の由来は巫女+リコリス(ヒガンバナ属)。巫女は桜と、リコリス(彼岸花)は世界樹炎上や悲劇の運命などと関連させてある……一応。
◇ミステリア女王 Lv35
……ミコりんのママ。人類最強クラスの実力者だが、もともとは固有スキルなしの凡人。
◇翼魔犬グラシャラボラス Lv55
……翼の生えた白い魔犬。【透明化】スキルを持ち、暗殺が得意。普段はメナスの影の中で寝ている。
妖精国を救った1週間後。
俺はエルフたちから神扱いされるのに飽きた。
いや、たしかに、ちやほやされるのは好きだし、俺を称える声や喝采は欲しいが。
……さすがに、1週間はきっつい。
正直、30分で飽きていた。そこからは耐久レースになっていた。
「このままでは退屈すぎて死ぬぞ……」
俺が求めているのは自由で快適なセカンドライフなのだ。
けっして退屈を求めているわけではない。適度な刺激はセカンドライフを彩るのに必要だろう。
たとえば、竜王ニーズヘッグが曜日ごとに別カラーで襲撃してくるとか……。
たぶん、それも2日で飽きそうだが。
ならば、どうしたものかと考えていると。
「どうかされましたか、“意志”様?」
妖精国の女王ミステリアが声をかけてきた。
あいかわらず無表情で感情が読み取れないが、ぐったりとした俺の様子に心配したのだろう。
彼女は最初に出会ったときこそ刺々しい態度だったが、俺がこの国の危機を救ったこともあってか、見違えるほどの敬意を払うようになってきた。
俺のことを“意志”と呼ぶのは、世界樹神話に出てくる神の一柱、“星の意志”と勘違いしているためだろう。神扱いされるのは気分がいいので訂正しないが、たぶんそのワールドトレントって俺の配下のことだよな……。
それはともかく。
「いや、さすがに、もてなされるのにも飽きてきてな」
「む……それはいけませんね。では、僭越ながらこの私が、全妖精国が爆笑の渦に巻き込まれるような最高に面白い話をいたしましょう」
「お前、勇者かよ」
こいつ、自分でハードルを最大まで上げたぞ……。
「で、どんな話をするんだ?」
「当然、我が愛娘ミコリスの話です」
「ふむ、ミコりんの面白話か」
「では、まずはミコリスが、『世界をお花でいっぱいにする』宣言をした日のことを詳細に……」
「――わあぁああぁあ~~ッ!?」
と、噂をすれば、顔を真っ赤にしたピンク髪の少女が割って入ってきた。
もちろん、我らがミコりんだ。
妖精国唯一の姫にして、俺の冒険者研修の担当役でもある。今は国内にいるためか、冒険者のときの実用性あふれる服とは違い、ミステリア女王と同じような白いドレスに身を包んでいた。
「どうかしましたか、私の宇宙一可愛いミコリス?」
「も、もう、ママ! あたしの話するの、やめてって言ったじゃん!」
「しかし、“意志”様が聞きたいと……」
「マティーが!?」
きっ、とこちらを睨んでくる。
完全に冤罪だ。
「と、とにかく、あたしたちは用事があるから! ママの話はまた今度ね!」
「……む?」
ミコりんが、がしっと俺の腕をつかんできた。
「マティー、行くわよ!」
「行くってどこにだ?」
「とにかく外によ! ここにいたらママになに吹き込まれるかわからないし……ほ、ほら、前にうちの都を観光したいって言ってたでしょ?」
「ふむ」
そういえば、たしかに妖精国の都の観光はできていなかったな。
よくわからんが、暇だしついていこう。
「待ちなさい、ミコリス!」
ミステリア女王がとっさに止めに入ってくる。
「ちゃんとハンカチは持ちましたか!」
「持ったわ!」
「では、日が暮れるまでには帰ってくるのですよ!」
「わかってる!」
なんだかんだで、ミコりんはいい子だった。
俺はミコりんに手を引かれて、神殿から出る。
外に出ると、空を覆っている桜花が目に入ってきた。
――木漏れ日の都トルンクス。
世界樹の根本に作られたこの都は、積み木で作られているかのような素朴な地だった。桜花を透かしてこぼれてくる木漏れ日が、木片が敷かれた通りに桜色のまだら模様を描いている。
俺とミコりんは神殿から少し離れたところで立ち止まった。
「ご、ごめんね。ママがあんなんで……」
「なんだ反抗期か? 『うっせー、ババア!』とか言う年頃なのか?」
「ち、違う……べつに嫌ってるわけじゃないし。ただ、こういうこと今までなかったから、ちょっと慣れなくて」
「ふむ」
たしかに、もともとこの親子は反発し合っていたからな。
それも、本来の運命では、ミステリア女王が死ぬまで和解できなかったふたりだ。
そんなふたりを見ていると、ずいぶんと運命が変わったものだなと思う。
まさか、親バカ&マザコンのただの愉快な親子になるとは思わなかったが。
「まあ……ママの態度は、これまであたしを突き放していた反動でしょうね。母親として娘をどう愛せばいいか、まだ手探りなんだと思う」
「ふむ。たしかにミコりんは、『ミステリア女王のクローンであり、歴代女王の記憶を継承するための器』だから、娘として接するのは大変だろうな」
「…………うん、待って……待って?」
止められた。
「……今、さらっと、とんでもない情報が聞こえてきた気がするんだけど。あれ、そういえば……あたしってパパがいないし、やけにママと顔が似てるし、昔から『大人になったら伝えなければならないことがある』とか言われまくってたし……まさか本当に……? え、なに、あたしの生い立ちってそんなことになってるの……?」
「それより、観光はしないのか?」
「とても、そんな気分にはなれないんだけど!?」
ミコりんがしばし頭を抱えてから。
やがて拳をぐっと握りしめて、吹っ切れたような顔をする。
「……まあいいわ。あたしの生い立ちがなんであろうと、ママがあたしを愛してくれていることには変わらないし……あたしがあたしであることにも変わりはないわ!」
「そうだな。『666年前の初代聖女ルゥの予言に従い、竜王ニーズヘッグと戦うためだけに生まれてきた人造勇者』だろうと、ミコりんはミコりんだ」
「……うん、やめて? これ以上、あたしの出生秘話を暴露するのやめて? 思いのほか重すぎて抱えきれないから」
「まあ、どうせこの世界ではもう死に設定だ。抱えきれないなら捨てればいい」
「はぁ」
「それより、今は観光だ。さあ、この国の観光スポットとご当地グルメのありかを吐くがいい」
「いやまあ、それはいいけど……」
なぜか、ミコリンが溜息をついた。
「……なんかあんた見てると、悩むのがバカらしくなってくるわね」
そんなこんなで、妖精国の観光が始まった。
ミコりんと一緒にツリーハウスが多く並んでいる大通りへと出る。ニーズヘッグ襲撃による騒ぎも落ち着き、都は静かな活気に満ちていた。
「おお、マティー神様だ」「ありがたや……」「ささやかなものですが、お納めください」
道を歩いていると、エルフたちから果実や野菜をもらう。
この都では貨幣や商売の概念はなく、助け合いが基本らしい。ミコりんがなんだかんだで面倒見がいいのも、こういう地で育ったからだろう。
静かな時間。過不足のない生活。
まさに理想の田舎といった感じだ。
「あ、あの、そういえば……」
観光スポットをあらかた見終えたところで。
ミコりんが落ち着かない様子で、ちらちら俺を見てきた。
そういえば、こうしてふたりで話すのは1週間ぶりか。
「えっと、そういえばなんだけど……」
「なんだ? 言いたいことがあるなら、とっとと言え」
「あぅ……」
ミコりんは少したじろいでから。
「そ、そういえば、プリモちゃんを見ないけど、今どこにいるの……?」
と、尋ねてきた。
「プリモか」
七魔王・第4席――破壊王プリモ。
その大仰な名とは裏腹に、俺のメイドをしているスライムだ。
「あいつは休暇中だから、どこにいるかはわからんな」
「休暇?」
「ああ。ここ10年ぐらいは、ずっと働かせっぱなしだったからな。この国にいる間ぐらいは、プリモには羽を伸ばしてもらうことにした」
「へぇ。案外、従者に優しいのね。もっと、こき使ってるかと思ってた」
「なにを言うか。俺は配下には寛大だ」
「でも、そっか……休暇ってことは、いるとしたら城の客間あたりね」
「たぶんそうだろうな。だが、プリモがどうかしたのか?」
「え? いや、ちょっとプリモちゃんに用事があってね……」
そわそわしだす。
「と、とにかく! あたし、プリモちゃんに会いにいくから! あんたはついて来ないでよね!」
そう言って、そそくさと去っていく。
勝手に神殿からつれだしておいて、勝手にどこかへ行くとは……。
「ふむ……ついて来るな、か」
そんなことを言われたら――ついていくしかなくなるな。
「――出でよ、グラシャラボラス」
俺が命じると、足元の影から、ずぶぶぶ……と巨大な犬が浮かび上がってきた。
天使のような翼の生えた、白い魔犬。
俺の愛犬グラシャラボラスだ。
「わんわん!」
「こらこら。エルフは餌じゃないぞ」
「くぅん……」
道行くエルフを襲撃しようとするグラシャラボラスを押さえつける。
「グラシャラボラス、【透明化】スキルを使え。ミコりんたちを尾行するぞ」
「わふ!」
こうして透明になった俺たちは、ミコりんのあとをこっそりつけていった。
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