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31話 最高のエンディングを作ってみた

 竜王ニーズヘッグをゲームオーバーにしたあと。

 第一形態(人間モード)に戻った俺は、もみくちゃにしようとしてくるエルフの手をかわして、ミコりんと一緒に城から抜け出していた。


「……なんか、すっごい疲れたわ」


 城から少し離れたところ――。

 ミコりんの秘密基地に到着するなり、ミコりんがぐったりと世界樹の根に背を預ける。


「あんたはともかく……まさか、あたしまで救世主扱いされるとはね……」


「まあ、ニーズヘッグにトドメを刺したのが、ミコりんだったからな」


 絶望の象徴である竜の王を、敬愛する姫君が撃ち倒したのだ。エルフたちのテンションの上がり方はやばかった。おそらく神話の一場面を目撃したような気分なのだろう。 


「あんたにいたっては、もはや神扱いされてたわね……」


「もともと、俺は神みたいなものだ。なにもおかしくはない」


「神って……ま、たしかに、わけわからない技連発するし、ニーズヘッグをあっさり追いつめちゃうしね。さっきみたいな無茶苦茶なことが簡単にできるなら、人間ってほうが無理あるかもしれないけど」


「いや、さすがの俺も、さっきみたいなことは簡単にはできないぞ」


 まともに第二形態になったのは、俺が“魔帝メナス”になった日以来だったが……まさか、少し力を解放しただけで、理性が吹き飛びそうになるとは思わなかった。おそらく第二形態を維持できるのは、肉体的にも精神的にも数分が限度だろう。

 そして、なにより……。


「あれほどの力を、なんの代償もなく使えるわけがないだろ」


「だ、代償? まさか、寿命を半分削るとか……」


「いや、明日かあさって、筋肉痛になる」


「…………」


「それも、ただの筋肉痛ではない。とてつもない筋肉痛だ。まともに歩けなくなるし、お腹とかすごい痛くなる」


「…………それだけ?」


「そ、それだけって……筋肉痛だぞ? 痛いんだぞ?」


「子供か」


「……筋肉痛は楽しくないから嫌いだ」


「はぁ…………ほんっと、かっこいいんだか、悪いんだか」


「む? 俺のこと、かっこいいと思ってたのか?」


「そ、そんなわけないでしょ!」


 ……怒られた。


「まあいい。充分に楽しめたから、筋肉痛については我慢してやろう」


「楽しめたって……一応、世界の命運をかけた戦いだったんだけど」


「だから、楽しかったのではないか」


「……本当にめちゃくちゃね、あんた」


 ミコりんがいろいろあきらめたように溜息をつく。


「そういえば、聞いていいのかわからないけど……あんたって、いったい何者なの?」


 ミコりんが少し緊張した面持ちで尋ねてくる。


「ふむ……俺が何者か、だと?」


 少し考えてみるが……そうだな。

 答えは最初から決まっている。


「俺は、ただの自由な人間だ」


 心から自信を持って答える。

 ミコりんは、ぷっと軽く吹き出してから、ゆっくりと肩をすくめた。


「ま、たしかに……あんたほど自由な人間はいないわね」


「だろう?」


 ミコりんはそれ以上、俺の素性について聞くことはなかった。もしかしたら、薄々察しているのかもしれないが……まあいい。


「それにしても、ニーズヘッグは倒せたけど……世界樹は……」


 と、ミコりんが世界樹のほうへ顔を向けた。

 この秘密基地からは、世界樹がよく見えた。

 妖精国の中心であり、象徴であり、存在意義である世界樹。

 そんな世界樹は、今……。

 枝が焼け焦げ、葉や花は全て燃え落ちていた。

 世界樹は、世界の肺。

 世界の魔素を供給する木だ。

 世界樹が枯れたら、この世界は生物の住めない環境になっていく。

 ゆえに、世界樹の終わりは、世界の終わり……。


「……世界樹は、守れなかったわね」


 ミコりんがうつむいて唇を噛む。


「む?」


「ニーズヘッグがいなくなったおかげで、すぐに人類が滅亡することはなくなったけど……この世界の残存魔素で生きていけるのは数年ぐらいよね」


「いや、あの」


「……もしも、さ。あたしがもっと強かったら……もっと早く駆けつけることができていたら、運命は変わったのかな……? もっと、うまくやるこぶっ!?」


「勝手にバッドエンドにするな」


 ミコりんの口をふさぐ。


「な、なにすんのよ!?」


「いや、ふざけたことぬかしてるから……つい」


「すごく真面目に話してたんだけど!?」

 

「それより、世界樹をよく見てみろ」


「……え?」


 ミコりんが首を傾げつつも、世界樹を改めて眺める。

 それから、はっとしたように俺の顔を見てきた。興奮したように顔を上気させながら、ぶんぶんと世界樹を指差す。


「芽が……! 見て、マティー! 芽が出てる!」


「知ってるぞ」


 ミコりんが言うように、世界樹の枝には、ぽつぽつと若芽色がついていた。つい先ほどまではなかった色だ。

 おそらく、世界樹の内部までは燃え尽きていなかったのだろう。その小さな芽たちは、生きることをあきらめないというように世界樹の枝にしがみついている。


「まだ、終わりじゃなかったんだ……世界樹は、まだ生きようとしてるんだ……」


 ミコりんが拳を握りしめて、うつむいた。

 その背中が小刻みに震えだす。表情は見えず、どんなことを考えているのかは、うかがい知れない。

 そのまま、幾ばくか時間が経ち――。


「あたし、決めた――」


 やがて、ミコりんが顔を上げた。

 その表情は……まるで今この瞬間、蛹から羽化したように、先ほどよりも少しだけ大人びたものになっていた。

 揺るぎない決意を秘めた顔だ。

 ミコりんは、すぅっと息を吸って。

 そして――世界樹に向けて、宣言する。




「――いつか立派な女王になって、世界樹をぶっ!?」




 ミコりんの口をふさいだら変な声が出た。


「なんなの!? さっきから、なんなの!? なんで口ふさぐの!?」


「いや、俺に断りもなくエンディングを決めようとしてるから……つい」


「どういうことなの!?」


 世界樹がまだ生きようとしている? 未来はまだある?

 それは、ゲームとほとんど同じエンディングだ。ゲームのときのように、ミコりんが絶望の涙を流しているわけではないが……せっかくこの俺が出張ってきたのに、これはない。


「俺がいるからには、こんな中途半端なエンディングは認めない」


「は、はぁ?」


「この世界は、俺の玩具ゲームだ。ゆえに、最高に面白くなくてはならない」


 俺は、頭上に手を掲げた。



「――ユフィール、仕上げだ」



 ぱちんっ、と指を鳴らす。

 その次の瞬間――。


「…………え?」




 ――ぼふんっ! と。



 世界樹の花が、一斉に咲いた。

 まるで爆発するように、世界樹の枝から花が膨らんでいく。花はどんどん膨れ上がり、やがて枝いっぱいに抱えきれないほどの花がついた。


 ――()()()()()()()()()実行しろ。最高のエンディングを作るためには、最高のタイミングでなければならないからな。


 そう……これこそが、先ほどユフィールに話した計画だ。ニーズヘッグや蛇軍団を倒したのは、あくまで計画の途中段階にすぎない。

 ユフィールの【植物操作】の力をもってすれば、森1つを枯らしたり再生させたりするぐらいは簡単にできるからな。それに加えてニーズヘッグや蛇軍団の死体の養分もあるのだから、“世界樹を再生して、さらに満開の花を咲かせる”ぐらいのことは造作もない。


「……ぇ……あ」


 世界樹から花びらがこぼれ落ちる。

 空からひらひらと降ってくる花びらたち。

 千々の花びらが吹雪くように風に舞い、踊るように渦を巻き――。

 そうして、世界は瞬く間に、花びらに染め上げられた。


 そういえば、この世界樹の花は……。

 夢の世界では、“桜の花”と呼ばれていたな。

 はるか昔……この世界樹は、一年中、満開に咲き誇っていたらしい。

 天をつくほど大きな桜の木。

 霞のような桜花に覆われた空。

 桜色の花びら(ハート)に包まれた、妖精たちの住まう国。



 ゆえに、この国は――“ピンクハート妖精国”と呼ばれるようになった。




「…………世界が、お花でいっぱい」


 ミコりんが両手で、降ってくる花びらをすくい取る。

 彼女にとっては、夢にまで見た景色だ。

 だからだろう……その表情は視界いっぱいの花びらに隠れて見えないが。

 花色の風が、彼女の頬から数粒の雫を飛ばした。

 その雫は、絶望に濁ったものではなく……。

 きらきらと宝石みたいに輝く、透明な雫だった。


「どうだ? このエンディングのほうが、いいだろう?」


 ミコりんに、にやりと笑いかける。

 これは、主人公には実現できなかったエンディング。

 壊して、壊して、壊したすえにたどり着いた……。

 俺だからこそ到達できた、最高のエンディングだ。


 花びらの渦が、俺たちを優しく包み込む。

 相手の顔が見えないほどの桜色の中、俺たちは改めて向かい合う。


 ミコりんは目元をぐしぐしとこすって。

 すんっ、と鼻をすすって。

 それから、顔を上げて――。




「――――うんっ!」




 と、満開の笑みを咲かせるのだった。








これにて、5章終了です!

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