30話 竜王をゲームオーバーにしてみた
……空から、光の柱が降り注いでいた。
世界が白く輝きながら、光の洪水に呑まれていく。
これは……神に刃向かう生命を終わらせる奇跡。
これは……命を選別し、もてあそぶ、神々の遊び。
――――【アポカリプス・ノア】
それが俺の第二形態――“魔神メナス”の必殺技だ。
その効果は、『俺に敵対する全生物のHP・MPを1にする』というもの。
防御無視。耐性無視。スキル無視。回避不可。
“死にゲー”と称される『レジノア』のラスボスにふさわしい、問答無用にして最凶の技だ。
『……ありえぬ……ありえぬ……人間がどうして、これほどの力をぉぉ……!』
光から解放されたニーズヘッグがふらついたまま、ゆっくりと落下していく。もはや、まともに飛び続ける余力もないらしい。なんとか翼を広げて、落ちないようにするのが精一杯といった感じだ。
『ぐっ……わかった……負けを認めよう』
ニーズヘッグが苦しげに呟くと同時に。
その巨体の側に、壮大な門が現れた。
まるで地獄へと続くかのような禍々しい門……。
「ふむ……【転移門】か」
ニーズヘッグが誇る、最強の逃走スキル。
門に飛び込んでしまえば、一瞬でこの場から逃げることができる。
まさか、MPがなくても使えるとは……いや、【アポカリプス・ノア】を食らう前に、危機を察知してスキルを発動させていたのか。
さすが、生存に長けたSSランクの魔物というだけのことはある。プレイヤーたちからゴキブリ扱いされていたのはダテじゃないな。
『……あれほどの大技のあとだ。貴様とて動くこともままならんだろう』
ニーズヘッグが力なく笑う。
その竜の前で、転移門の扉がゆっくりと開かれていく。扉の隙間から、少しずつ黒々とした虚無が顔をのぞかせていく……。
『……では、さらばだ』
そう言い捨てて、ニーズヘッグが転移門の中へと飛び込もうとした。
その瞬間――。
――ぱんっ、と。
転移門が、砕け散った。
まるでガラスが割れるように、あっさりと粉々になる転移門……。
『…………は?』
ニーズヘッグが口を半開きにしたまま固まる。
その間抜けヅラに、俺はにやりと笑いかけてやった。
「……知らなかったのか? 元ラスボスからは逃げられない」
『な、なにを……した!?』
「【転移門】スキルを【封印】した。俺の赦しが出るまで、お前は二度とこのスキルを使うことができない」
『……ふぁっ!?』
――【封印】。
この目で見て、解析したスキルを使用できなくするスキル。
もともとは、俺に宿した魔物の力を抑えるために使っていたものだ。【封印】できる数に上限があるため、普段は使うことができないが……第二形態では自分にかけた【封印】を解いているため、敵に対しても使うことができる。
これで、ニーズヘッグは逃走できないだろう。まともに飛ぶこともままならないようだし、他に逃走スキルもない。
だが……逃さないだけでは、ニーズヘッグに勝つことはできない。
ニーズヘッグは戦闘よりも生存に長けた魔物だ。
HPが減るほど防御力にバフがかかるスキルのせいで、残り1のHPを削ることは難しい。状態異常も効かず、最大まで硬化したニーズヘッグに正攻法でダメージを与えるすべはない。
しかし、そんなニーズヘッグにダメージを与えられる例外スキルが存在する。
その1つが――魔物特攻スキルだ。
「……次は、お前のターンだ」
虚空に向かって、合図を出すと。
「……わかってるわよ」
ニーズヘッグの背後から、返事が来る。
それと同時に――虚空から、1人の少女が現れた。
グラシャラボラスに乗ったミコりんだ。魔法少女の格好をし、その手には母親の杖が握りしめられている。攻撃モーションに入ったことで、【透明化】が解けたのだろう。
『……なっ!?』
ニーズヘッグはそこで初めてミコりんの存在に気づいたらしく、ぎょっとしたように口を開いた。
しかし、もう遅い。
「輝け、夢のマジカル――」
ミコりんは竜を前に、ぎゅっと目をつぶりながら声を震わせる。
半ば強引につれて来たせいで、ゲームのときのように、ニーズヘッグと相対する覚悟はできていないのだろう。
ミコりんはまだレベルも低く、未熟で弱いままだ。
しかし……強さなら、俺が代わりに持っている。
だから。
「――運命をぶっ壊せ」
その言葉が届いたかはわからないが。
ミコりんは、目をかっと見開くと。
魔術杖をくるくると振り回して、ニーズヘッグに照準を定めた。
そう……俺が見たかったのは、この展開だ。
――これは、ミコリス・ピンクハートの物語。
ゆえに、最後の一撃を決めるのは、彼女でなければならない。
「――【スターライト・キャノン】!」
ミコりんの杖から、星形の光が発射された。
ニーズヘッグはもう回避する余力がなかったのか、それとも、たかが小娘の攻撃だと侮ったのか。光は吸い込まれるように、ニーズヘッグの胴体に直撃した。光がぱりんっと砕け、きらきらと小さな星の粒子となって辺りに散らばる。
防御・バフ無視の、魔物特攻スキルだ。
ニーズヘッグがどれだけ硬くても、ミコりんがどれだけ弱くても、必ず1以上のダメージは入る。そして、HPを1にされた直後のダメージに耐えられる者などいない。
つまりは、これで――。
「――――ゲームオーバーだ」
落下していくニーズヘッグを見下ろしながら、宣告する。
ニーズヘッグは、ふっと笑って……。
これまで魔帝メナスに敗れ去ってきた多くの『レジノア』プレイヤーと同様に、呪詛を吐くように言い捨てた。
『…………理不、尽……だ……』
その言葉を最後に、ニーズヘッグの全身から力が抜けた。翼がしなびたように動かなくなり、そのまま落下していく。
そして――ずぅぅんっ! と、地鳴りとともに巨体が地面に突っ込み、その周囲に大きなクレーターが形作られた。
地上に降りて確認してみるが、ニーズヘッグが動きだす気配はない。
「……勝った、の?」
やがて、ミコりんがおずおずと尋ねてくる。
「……人が、竜に勝ったの……?」
「ああ」
ぽんっ、とミコりんの頭に手を置く。
「ゲームクリアだ。よく頑張ったな」
「あ、頭撫でるなぁ……! 子供じゃないんだからね!」
……怒られた。
年頃のミコりん心は難しい。
そんなことをしていると、だんだん周囲にエルフたちが集まってきた。おそるおそるニーズヘッグに近づいたエルフたちが、ぽかんとしたように立ち尽くす。
「本当に……勝ったの、ですね……」
やがて、ミステリア女王が躊躇いがちに呟く。
「……人が、竜に勝った……」
その場のエルフたちも、次々とその言葉を口にする。
しばしの静寂。そして――。
「「「――うおおおおおおおっ!」」」
爆発するように歓声が弾けた。
エルフたちが武器を一斉に頭上に放り投げ、らしくもなく雄叫びを上げて、互いに抱き合いながら勝利を祝う。
歓声は、いつまでも鳴りやむ気配がない。
悲劇の運命をぶっ壊した先にたどり着いた、ハッピーエンドにふさわしい光景……。
「……だが、まだだ」
俺の作りたかったエンディングは、こんなものではない。この程度のエンディングでは、俺は満足しない。モブたちがどれだけ喜んでいようが、俺が満足していないエンディングならば全て駄作だ。
それに、俺の“計画”はまだ、もう一段階残っている。
――さあ、最高のエンディングを作りにいこう。
――おまえもしかしてまだ、自分がポイント評価しないとでも思ってるんじゃないかね?
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◆魔神メナス(第二形態) Lv100
HP:358万 MP:35万8000
攻撃:SS 防御:S 魔力:SS 速度:SS
知力:SS 器用:SS 魅力:SS 幸運:SS
・使用スキル
○パッシブなど
【神の見えざる手】:1ターンに2回行動
【神のみぞ知る世界】:フィールドを【神域】にする(魔神メナスがそのターンに使用するスキルに適したフィールドへと変化する。フィールド破壊不可)
【神衣】:全状態異常無効。
【神のオーラ】:HP3万5800のオーラ。消滅後5ターンで復活。
【神罰】:迎撃。メナスにダメージを与えると雷魔法で迎撃してくる。
【封印】:5ターンごとに、戦闘開始から使用回数が一番多いスキルを封印。戦闘中使用不可。
○通常時
【作成】:Lv1の七魔王を作成
【合成】:倒された七魔王or行動不能キャラを取り込み、HP・MP回復&ステータス上昇&一部スキル取得&行動回数+1
【バレット・ノア】:単体、無属性魔法。
【アーク・ノア】:自身、防御・回避率バフ
【ジャッジメント・ノア】:全体、無属性魔法。沈黙・束縛。対象がゲーム開始時から魔物にとどめを刺した回数に応じてダメージUP
【闇魔法Lv10 カラミティ】:全体攻撃。敵全体に全ステータスデバフ。
【炎魔法Lv10 インフェルノ】:全体攻撃。火傷。フィールド効果【炎獄】追加。
【風魔法Lv10 テンペスト】:全体攻撃。行動ゲージ減少(特大)。フィールド効果【暴風】追加。
【水魔法Lv10 アブソリュート・ゼロ】:全体攻撃。凍結状態。フィールド効果【氷獄】追加。
【雷魔法Lv10 ケラウノス】:全体攻撃。麻痺状態。フィールド効果【帯電】追加。
【土魔法Lv10 アースブレイク】:全体攻撃。フィールド効果一部破壊。フィールド効果【地割れ】追加。
【光魔法Lv10 ゴッドブレス】:HP99999回復&状態異常・デバフ回復&HP・MP自動回復(3ターン)
【剣術Lv10 次元斬】:全体大ダメージ。距離無視。防御無視。
【刀術Lv10 六道ノ辻】:単体、6回攻撃。魅了・暴走・混乱・即死付与。
【拳術Lv10 ゴッドナックル】:単体大ダメージ。気絶・麻痺付与。行動ゲージ減少(特大)
【槍術Lv10 牙龍天星】:単体大ダメージ。防御無視。行動ゲージ減少(特大)
【弓術Lv10 クレセントムーン】:単体大ダメージ。必中。確定クリティカル。混乱・魅了付与。
【斧術Lv10 クー・ド・グラス】:単体大ダメージ。確定クリティカル。中確率即死。
【槌術Lv10 ガイアインパクト】:全体大ダメージ。フィールド効果一部無効化。気絶付与。行動ゲージ減少(大)
○HP半分以下で追加
【ヘヴンズ・ノア】:全体、光属性攻撃。自身、全ステータスバフ。
【ヘルズ・ノア】:全体、闇属性攻撃。ランダム複数状態異常。
○HP3割以下で追加
【アポカリプス・ノア】:全体HP&MP=1。回避不可能(1ターン使用)