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22話 竜王に宣戦布告されてみた

◇チュートリアル三姉妹

……通称、“三姉妹”。能力から過去エピソードまで作り込んだが、ミコりんに出番を取られた。


『『『――人間どもに、告ぐ』』』



 蛇たちが一斉に口を開き、告げる。



『『『――我が名は、竜王ニーズヘッグ。この世界を滅ぼす竜の名なり』』』



「に、ニーズヘッグ……?」


 真っ先に反応したのはミコりんだった。

 肩をびくっと震わせ、表情を凍りつかせる。

 まあ、竜王ニーズヘッグは、ミコりんの宿敵だからな。

 プリモや三姉妹の面々も、突然のことで戸惑っている様子だ。

 冷静なのは、俺だけか。


「ふむ……やはり、このイベントだったな」


 予想外のタイミングで始まったこと以外は、予想通りの展開だった。

 世界中で蛇が突然しゃべりだす……それは、竜王ニーズヘッグ襲撃イベントの始まりを告げるシーンだ。


『『『――我は復活した! さらなる強大な力を得た! 今や、我を止められる者は、この世にはいない! 人は、竜には勝てん……!』』』


 たしかに、この世界の人間はあまりにも弱い。強者と言われるミコりんでも、たかがBランクの蛇相手に絶望してしまうほどに。

 唯一、竜王ニーズヘッグを止められたはずの主人公アレクたちも……弱いままだ。


『『『これから、我は妖精国へと攻め入る! そして、世界樹の力を奪い――神になろう。それで、この世界は終わりだ。人類は……滅ぶ!』』』

 

 そして、竜王ニーズヘッグはゲーム通り……。

 世界中の蛇たちを介して、人類に宣戦布告をした。


『『『恐怖せよ! 絶望せよ! 我が名を讃えよ! そして、死に絶えるがいい、人類よ――――!』』』


 悪役じみた高笑いとともに、竜王ニーズヘッグの言葉は終わった。

 そのあとには、息を潜めたような静寂だけが残された。


「……嘘、でしょ」


 ふいに、ミコりんがぽつりと呟く。


「……まだ、あたし……強くなってないのに」


 そういえば、ミコりんがノア帝国で修行していたのは、竜王ニーズヘッグに対抗する力をつけるためだったな。

 竜王ニーズヘッグは、ミコりんの宿敵。

 そして、このイベントは、ミコりんのキャライベントみたいなものだ。


 実際にゲームでは、このイベントが始まる終盤頃までには充分な力をつけていたわけだが……この世界ではストーリーが変わってしまった。

 もしかしたら、“魔帝メナスの死”によって、イベントのフラグが立ってしまったのかもしれない。結局のところ、俺が死んだところで、第2第3のラスボスが現れるということだろう。


 今のミコりんでは、竜王ニーズヘッグに対抗することはできない。

 主人公アレクも、他の仲間キャラたちも……竜王ニーズヘッグに勝つことはできない。


 しかし、竜王ニーズヘッグは一つだけ誤算をした。

 それは、この俺にも宣戦布告をしたということ――。


 ――この俺を、敵に回したということだ。



「くくく……この俺を差し置いてラスボスっぽいことをするとは、いい度胸ではないか」


 愉快すぎて笑いが止まらない。

 世界滅亡だと? 神になるだと?

 中ボスのくせに生意気だ。万死に値する。


 この世界は、俺の玩具ゲームだ。

 ゆえに、この世界を滅ぼしていいのは俺だけだ。

 俺の玩具を壊そうとするやつは……誰であろうとゲームオーバーにしてやろう。

 


「――さあ、ゲームスタートだ」



 さっそく竜王ニーズヘッグをぶっ潰すために、妖精国へ――。

 ……行く前に、まずは蛇が邪魔だな。

 すでに竜王ニーズヘッグの支配から脱したのか、蛇たちは正気を取り戻したように、赤い舌をしゅるしゅると伸ばしている。

 この俺を食おうとしているのか。生意気だ。

 だから、潰す。


「プリモ、蛇を消せ」


「らじゃーです」


 プリモがスカートのすそをつまんでお辞儀をすると。

 地面から、どどどどっ! と水色のとげが無数に生えてきた。

 棘は全ての蛇を、一瞬で串刺しにする。


「終わりましたー」


「大義だったな」


「な、なに!? 今度はなんなの!?」


 ミコりんがぎょっとしたように騒ぎだすが、放置する。


 とりあえず、ここの蛇は片付いたが……蛇は世界中に出現している。一か所に出現している数は多くないだろうが、それでもこの世界の人間にとっては脅威だろう。

 中ボスの眷属なんぞにノア帝国が荒らされるのは、気に食わん。

 だから、潰す。


「プリモ、七魔王に通信をつなげ」


「へ? なにを伝えるんですか?」


「……貸せ」


 説明する時間が惜しい。プリモからミニプリモを取り上げた。


「七魔王に告ぐ。戦争だ。全軍をもって蛇を殺せ――」


 そして、命じる。




「――――蹂躙せよ」




 そう言葉を発した、次の瞬間――。


 ――ざわっ、と。


 巨獣が体毛を震わせるように、森が大きく鳴動した。

 いや、森だけではない。

 震えているのは……世界そのものだ。

 全方位から魔物たちの雄叫びがとどろきだし、空は魔鳥の群れでびっしりと黒く染め上げられる。

 さっそく、七魔王たちが動きだしたらしい。


「な、なに!? もう、次から次へとなんなのぉ!?」


 ミコりんがすごい涙目になっていたが、放置する。


 とりあえず、これで蛇については問題ないだろう。

 俺を敵に回すということは、七魔王を敵に回すということ。

 七魔王を敵に回すということは、世界中の魔物を敵に回すということだ。

 正直、第1席を動かしただけでもオーバーキルなところはあるしな。

 むしろ、やりすぎなければいいが……。


 まあいい。蛇が片付いたことだし、さっそく妖精国へ向かうとしよう。

 そう考えたときだった。


「い、行かないと……妖精国を、助けに行かないと!」


 ミコりんが突然、ばっと立ち上がり、駆けだそうとした。

 それを、三姉妹の3人がとっさに引きとめる。


「だ、ダメっ! 無茶だよ!」


「止めないで! 妖精国は、あたしの……大切な故郷なの!」


「今から向かっても間に合いません! それに間に合ったところで、無駄死にするだけです!」


「そ、そんなことは……!」


「……人は、竜には勝てない。それが、この世界の摂理」


「……っ」


 悔しげにうつむくミコりんに、三姉妹が諭すように告げる。


「妖精国のミステリア女王は、レベル35。世界最強クラスの実力者です」


「……この世界の命運は、彼女に任せるしかない」


「逆に、もしも女王が勝てないほどの魔物だったなら……誰にも勝つことなんてできないよ」


「それでも、あたしは――ぶぐぇっ!?」


 とりあえず、ミコりんの首根っこをつかんだ。


「な、なにすんのよ!?」


「いや、長くなりそうだから、この会話はスキップでいいかなと」


「どういうことなの!?」


 なんか会話シーンが始まったから聞いてみたが、とくに目新しい情報もない。

 となれば、聞くだけ時間の無駄だ。

 ……ストーリーの流れ? 文脈? 段取り?

 そんなものは知るか。

 俺の行く道は、何物にも邪魔させん。


「それより、妖精国に行くんだろ? ならば、とっとと行くぞ」


「え……」


 ミコりんが意外そうに目をぱちくりさせる。


「と、止めないの?」


「そんなつまらないこと、俺がするか」


 どうせ、止めたところでミコりんは妖精国に行くだろうしな。

 ミコリス・ピンクハートとは、そういうキャラだ。

 ならば、いかなる前フリも意味はない。

 それに、ミコりんがいないと、このイベントの面白さは半減してしまう。


 それより、問題なのは時間だ。

 この世界ではイベントがリアルタイムで進行するため、刻一刻を争う。せっかくの面白そうなストーリーイベントなのに、時間切れで参加できないなんてことは避けたい。

 それに、竜王ニーズヘッグに世界樹が破壊されるのは、俺としても困るしな。


「なにがなんだか、わからないけど」


「とにかく森を離れましょう!」


「……まだ、さっきの蛇がいるかも」


 と、三姉妹が邪魔をしてくるが。


「安心しろ。お前らは世界一安全な場所に避難させてやろう」


 ミコりんの目をふさぎつつ、指をぱちんと鳴らす。

 すると、影から無数のシャドウハンドが飛び出し、一斉に三姉妹につかみかかった。


「……っ!?」「な、なに、この化け物は!」「ひっ!? こ、来ないでください……っ!」


 三姉妹が、影の中に引きずり込まれ……。

 ……やがて、辺りは静かになった。


「さて、邪魔者はいなくなったな」


「……え? あれ? ……三姉妹は?」


「もう避難したぞ」


「そ、そうなの……?」


 ミコりんがぽかんとしていたが、放置する。


「では、さっそく妖精国に行くとしよう」


「行くって……でも、どうやって?」


「プリモ、馬車を作れ」


「はいはいー」


 プリモがスカートをつまんでお辞儀をすると。

 ぽんっ、と水色の馬車が現れた。

 プリモの分裂体だ。プリモはスライムだけあって、自らの身体を変形させて、あらゆるものを作り出すことができる。ゲームではスライム都市なんてものも作っていたな。


「プリモ、ミコりんを運べ」


「らじゃーです! 失礼しますねー」


「ちょっ!? なにを……!」


 プリモがひょいっとミコりんを抱えて、馬車に放り込んだ。

 俺もグラシャラボラスを馬車につないで、中に乗り込む。


「ちょっと! まさか、馬車で妖精国まで行くつもり!?」


「ああ。馬車を飛ばせば、すぐに着く」


「無茶よ! 妖精国は森の中にあるのよ!? まさか、馬車で森の中を突っ切るつもりなの!?」


「いや、森の“中”ではない……“上”だ」


「……へ?」


 俺が合図を出すと、グラシャラボラスが【変身】スキルを解いた。

 めきめきと体が肥大化していく。

 子犬の姿から、翼の生えた巨大な犬へ……。


「では、しっかりつかまってろよ。ここから先は……()()()()()()()()()からな」


「……え? ……え?」


 ミコりんがなにがなんだかわからない、という顔をしていたが。

 グラシャラボラスが羽ばたきだすと、ようやく状況を察したらしい。


「ま、まさか……? “飛ばす”って、そういう意味ぃぃぃい……ッ!?」


 やがて、馬車がぐんっと急浮上し――。

 俺たちは空から一直線に、妖精国へと向かうのだった。





これにて4章終了です!

ここまで読んでいただきありがとうございました!


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