20話 メイド同伴で仕事に行ってみた
◇ミコりん
……家出中の妖精国の姫。マザコンなのにメナス(マティー)の冒険者研修を担当している。
今回も箸休め的な話ですが、もうすぐ大きなイベントが起きますm(_ _)m
「――えっと、プリモ・ビスタさんですね。年齢は15歳。属性は水。職業は……メイド」
「いかにも」
「ですです」
冒険者ギルドの集会所にて。
いつもの受付嬢が、顔を引きつらせながらプリモのプロフィールを読み上げていた。
なにをしているかと言えば、もちろんプリモの冒険者登録だ。
だが、当の本人はすでに手続きに飽きたようで、きょろきょろと集会所を見回していた。
「ほへー、ここが主様の今の仕事場なんですねー」
「ああ。そして、今日からお前の仕事場でもある」
「はい! ぷるぷる頑張りますよ!」
「いえ、頑張るはいいんですが……」
受付嬢が困ったように眉尻を下げる。
「なんですか、職業=メイドって……前代未聞すぎるどころか、もはや冒険者1ミリも関係ないですよね?」
「でも、“お掃除”なら得意ですよ?」
「いえ、掃除で魔物は倒せませんが……」
「えっ!? “お掃除”しても死なない魔物がいるんですか!?」
「そりゃいますよ。なんですか、その掃除に対する過大評価は……」
「……し、知りませんでした。世界は広いです……おっかないです……」
プリモがぷるぷると震えだす。
だが、プリモの“お掃除”なら、Sランクの竜種でも一瞬で消し飛ぶからな。
まあ、ともかく無事に登録もできたし、ミコりんと合流するとしようか。
◇
「…………で、その子なに?」
食人森前でミコりんと合流するなり、開口一番に尋ねられた。“その子”というのは、もちろん、俺の後ろに付き従っているプリモのことだろう。
「くくく……見てわからないのか? メイドさんだ」
「それはわかるわよ! なんでメイド同伴で魔境に来たのか聞いてるの!」
「むぐむぐ……わたしも冒険者ですよー。さっき登録してきましたー」
「というか、さっきからなに食べてるの?」
「スライムです」
「……なんで食べてるの?」
「お腹がすいたので。もちもちしてて美味しいんですよー」
「…………」
ミコりんが無言でドン引きしていた。
なかなかの第一印象を与えることに成功したらしい。
「というか……この子の見習い研修も、あたしがやらないといけないパターン?」
「無論だ」
「えぇ……」
ミコりんは嫌そうに顔をしかめるが。
すぐに、「……仕方ないわね」と溜息をつく。
「ただ、マティーが一人前のEランクになったら、研修係は交代だからね」
「む、やけに素直だな。デレ期かな?」
「弱み握られてなかったらやらないわよ!?」
「……? 弱みってなんだ」
「え? ほら、あたしの……名前のことよ」
「ああ、偽名の件か。あれがミコりんの弱みだったんだな」
そういえば、ミコりんは家出中のお姫様だった。
本名が知られたら、いろいろと面倒なのだろう。
「まさか、弱み握ってるって思ってなかったの……?」
「ああ、そうだが……もしかして、俺、ミコりんを脅迫放題だったのか?」
「言わなきゃよかった!?」
なんか、ミコりんが勝手に自滅していた。
「あのー」
と、プリモが挙手する。
「ところで、ミコりんさん」
「ミコりんやめて。“ミコール”って呼んで」
「では、間を取って“ミコちゃん”で」
「まあ……ミコりんよりはマシか。で、なに?」
「主様にミコちゃんは強いって聞きました。なんでも、すごいスキルを持ってるとか」
「え、マティーが……?」
ミコりんが意外そうに目を丸くしてから、ちょっと照れたようにもじもじする。
「ま、まあ? たしかに、そこそこ強いけど? 仮にもこの町のエースだし?」
「主様が言うには、世界で3本の指に入る強さだとか」
「思ったより、ハードル上げられてた!?」
「わたし、ミコちゃんの強いところ見たいです!」
「う……そんな澄んだ瞳を……」
プリモの羨望の眼差しに、ミコりんがたじろぐ。
しかし、ミコりんの強いところか……。
「それは、俺も見てみたいな」
ミコりんは超高火力の魔法使いで、『レジノア』の仲間キャラの中でも、“3強”に数えられるほどの強さだった。
その強さの秘訣は、なんといっても固有スキルの【コスチュームチェンジ】だろう。
ゲームの中でよく見ていたミコりんのスキルを、ぜひとも現実で拝んでみたい。
というわけで、思い立ったら即行動だ。
「【作成】――フォレストウルフ」
こっそり、ミコりんの背後に魔物を【作成】する。
「あ、ミコりんの後ろに魔物が」
「えっ、いつの間に!? まだ魔境の中じゃないのに!?」
「こうなったら、固有スキルを使うしかないな」
「くっ……こんなタイミングに! しかも、Eランクの魔物なんて!」
「こうなったら、固有スキルを使うしかないな」
「2回言わなくても、わかってるわよ!」
ミコりんがきょろきょろと周囲を確認し、人がいないことを確認すると……。
顔を真っ赤にしながら、やけくそ気味に魔術杖を振り上げた。
「――み、ミコりんミコりん☆ドリ~ミン!」
そう叫ぶとともに、ミコりんがきらきらと光に包まれる。
……なんか始まった。
「明日へとつなぐ希望のマジカル! 星のパワーは無限大! ――【コスチュームチェンジ】!」
星形の光がミコりんの周りで渦を巻き、その体に吸い込まれるように収縮していく。
そして、光が収まると、そこに立っていたのは――。
――ピンク色のフリフリ衣装をまとったミコりんだった。
衣装だけを見れば、立派な魔法少女といった感じだ。
ただ、その表情は――無だった。
人生に疲れきったような棒立ちの姿勢のまま、死んだ目で虚空を見つめている。
……こんな魔法少女は嫌だ。子供たちが見たら泣くぞ。
対峙しているフォレストウルフも、反応に困ったように視線をさまよわせていた。
「さ、さーて……戦うわよー」
「…………」
「…………」
「なんか言ってよ!?」
「いや……なんか、ごめん」
「なんで謝るの!?」
「げ、元気出してくださいよ! そのうち、いいことありますって!」
「……やめて。今、慰められると死にたくなる」
それにしても、これがミコりんの“魔法少女モード”か。【コスチュームチェンジ】の効果が『3分間、魔法少女になる』というものだとは知っていたし、ゲームの中では衣装についても違和感はなかったが……。
「1つ、疑問なんだが……そんな格好してて恥ずかしくないのか?」
「そりゃ、恥ずかしいわよ!?」
「わ、わたしは可愛い服だと思いますよ! ただ、純粋に疑問なんですが…………なんで、着替えたんですか?」
「知らないわよ!? スキルが勝手に着替えさせるの!」
ミコりんは涙目になりながら、フォレストウルフを睨みつけた。
「この魔物め……! 絶対に許さないんだから!」
フォレストウルフが『えっ、なんで!?』みたいな顔をする。完全にとばっちりだった。
……ごめん、フォレストウルフ。
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