13話 お絵描きしてみた
◇メナス
……元ラスボス。【魔物創造】スキルを持つ。
◇グラシャラボラス
……翼の生えた魔犬。悲しみのない自由な空へ、飛んでいくことができる。
「くくく……もう少しで、ドラ○もんが完成だな」
「わふ!」
冒険者になってから、数日後。
俺はグラシャラボラスの背に乗って、ソコナシ平原の上空を飛んでいた。
なにをしているかといえば、見ての通り……大地を使ったお絵描きだ。
なぜ、元ラスボスがお絵描きしているのか?
その理由は、数日前までさかのぼる。
隣国がノア帝国に進軍したと聞いた俺は、『とりあえず国境にでかい掘を作れば攻められなくね?』という天才的なアイディアを思いついた。ちょうど土魔法に【アースブレイク】という地割れを作る魔法もあったし、けっこう簡単にできそうだったというのもある。
というわけで、国境の断絶作業を始めてみたのだが。
……なんか、楽しくなってきちゃったのだ。
ちょっとした工作気分というか、DIY感覚というか……これがなかなか、いい暇つぶしになる。
そんなこんなで、気づいたら国境の掘とかそっちのけで、大地にドラ○もんの絵を描いてたというわけだ。
「くくく、ひげをつけたら……ドラ○もんの完成だ!」
最後に6発、地上に【アースブレイク】を叩き込む。
途中、なんか敵軍と遭遇した気もするが、とくに何事もなく絵は完成した。
上空から、地上に描いたドラ○もんの出来栄えを確認する。この俺が3日ほどの制作期間を費した労作だ。夢の記憶が頼りなので、だいぶうろ覚えだが、なかなかの出来だろう。
大きさもナスカの地上絵の100倍ぐらいはある。たぶん。
「ふははははっ! 素晴らしい! 上出来じゃないか!」
地上を見下ろしながら、高らかに笑う。
これほどの達成感は、久々に味わえた。
「くくく……さて、お次はサザエ○んでも描いてやろうか」
これほどの大きさの絵ならば、きっと宇宙からでも見えるだろう。
「くくく……」
いつか人類が宇宙に進出したとき、大地に描かれたドラ○もんやサザエ○んを発見して、大騒ぎする光景が目に浮かぶようだ。
「くくく……」
元ラスボスらしい壮大な野望ではないか。
やはり、元とはいえラスボスならば、宇宙規模で自然破壊とかしなくてはな。
「くく、く………………ふぅ」
俺はひとしきり笑ったあと、溜息をついた。
「…………なにやってるんだろう、俺」
ドラ○もんが完成した途端、なんかいきなり虚無感に襲われた。
というか……こんなことしてる場合ではなかった
「まあいい……とっとと、プリモを探さなくてはな」
気持ちを切り替えて、平原を見回す。
七魔王・第4席――破壊王プリモ。
彼女との合流が、俺がソコナシ平原にやって来た目的の1つだ。
というか、それがメインの目的だった。
国境に掘を作るのは、あくまでついでにすぎない。
「この辺りにいるはずなのだが……」
ソコナシ平原は、プリモの防衛担当区域だ。
しかし、ソコナシ平原が無駄に広いせいで、なかなかプリモの姿が見つからない。
そもそも……なぜ、平原のど真ん中に国境線があるのか?
その理由はとてもシンプルだ。
10年ほど前までは、ここが平原ではなかったから。
この辺りには他の国もあり、山や森などもあった。
しかし――破壊王プリモの力によって、全て消滅した。
よく見ると、平原のあちこちには、半ば地面に埋もれた人工物が点々と立ち並んでいる。消滅をまぬがれた文明の残りカスだ。それが、まるで国が地面に呑み込まれたかのような異様な光景を形作っており……だからだろうか、いつしかこの辺りは“ソコナシ平原”と呼ばれるようになった。
「しかし、思ったより探すのが面倒だな……」
プリモは魔力が少ないため、【魔力感知】スキルでは見つけるのが難しいのだ。となれば、地道に探していくしかない。
やはりユフィールの言うように、七魔王との連絡手段は必須だな……と、改めて痛感していたとき。
「わんわん!」
「……む?」
グラシャラボラスの声で、顔を上げてみると。
遠くのほうに、敵国の大軍が布陣しているのが見えた。
その軍勢と対峙しているのは――。
――たった1人の少女。
『――あ、あの~! 危ないので、国境線の内側までお下がりくださ~い!』
戦場には似つかわしくない、水色髪のメイドだ。小柄な体をぷるぷる震わせながら、水色のメガホンを使って必死に叫んでいる。
「お……」
ようやく……プリモ、発見した。
――天才とは、1%のひらめきと99%のポイント評価である。
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