2番目の花子さん
初めて完結させた話で、ほとんど練らずに書いたため至らない点も多いと思いますが、よろしければ温かい目で見ていただけると嬉しい限りでございます。
ねえねえ、知ってる?望月先輩の噂!
え?もしかして、行方不明になった話?
そう!その話なんだけど、実は先輩、花子さんに殺されたんじゃないかって…!
花子さん?
トイレの花子さん!
え!?だってあれ、ただの怪談でしょ!?
それが、先輩が友達に待っててもらってトイレに入ったきり出てきた形跡がないらしいの!
今私の通う学校、野月高校では望月 彩奈という先輩の失踪した話で持ち切りになっていた。
最後に見た場所が、トイレということもあり「トイレの花子さんの仕業なんじゃ…」という声も上がっている。
だけど私はトイレの花子さんだなんて非現実的なものはいないと思ってる。だって、わざわざトイレの外で何も言わずに友達を待たせる意味って…?
「みーほ!」
「わっ!彩未!」
「そんな浮かない顔して、どうしたの?」
「いや、なんでも…」
彼女は、海堂 彩未。私の中学からの少し付き合いの長い友人だ。少しいたずら好きでこうやって驚かされることがしょっちゅうだが、気が滅入ってる今なんかは気を紛らわさせてくれてとても助かる。
「それより、聞いた?」
「え?」
「花子さんの噂だよ!今、先輩の消え方と繋がりあるんじゃないかって有名なんだよ!」
なんだその事か、と私は肩を落とす。
「なんだってなによぉ」
「だって知ってるも何も、今学校中その話題で持ちきりじゃない」
ため息混じりに答えると、彩未はなんだと言わんばかりの顔をした。まるで楽しみにとっておいたデザートが対して美味しくなかったみたいに。
そして、みんなが試しているこの手の階段は実際にできるとわかっているミーハーな彼女はきっと「自分たちもチャレンジしに行こう」と誘ってくるのだろう。
怖いのが苦手なのに好奇心が旺盛な彼女らしい、と昔を思いながらくすりと小さく笑みが溢れる。
「まあ、わかってるなら話は早いよ!私達も放課後行ってみようよ!」
やっぱりね。
だけども、怖いのが苦手なのは彼女も私も一緒である。だから、私の答えは一つだけ。
「無理」
なんでと喚く彼女はいつも子供のよう。彼女をうっとおしいとあしらいつつも、いつもの通りの彼女との会話に楽しさを感じつつ、次の授業が始まるからと自分のクラスに戻るよう促す。
「放課後、どうしてもだめ?」
瞳を潤ませてそう懇願する彼女の可愛い顔に私は詰まる。いつも彼女のこの顔の頼み事には弱いのだ。
無理だ無理だと言いつつも、きっと私は放課後には彼女のこの顔を思い浮かべながら仕方ないなぁと一緒に行ってしまうのだろう。
「結局来てくれるんだから、美穂ってば優しいんだから!」
結論的に言ってしまえば、結局私は自分の立てた予想通り彼女に負けて一緒に先輩が消えたというトイレの前まで来てしまった。
ほんとに自分は彩未に甘いな、と隣にいるごきげんな彼女を見ると嫌でも実感してしまう。
「でもやっぱりこういう降霊術みたいなの、怖いしトイレ見るだけにして帰ろうよ」
「えー!ここまで来たんだからやらなきゃ損じゃない!」
そう言ってん!と拳を突き出す彼女。
その拳を見ると嫌な予感がした。
「じゃんけんで負けた方が先にチャレンジしよ!」
「は?」
顔を歪ませて言う私の声に怖いよ美穂~なんて情けない声を掛ける調子のいい彩未。
私はじゃんけんがとても弱い。どのくらい弱いかって言ったら100回やって1回勝てたらいい方なくらい。
そんなじゃんけんがすごく弱いことを知った上で彼女はいつもじゃんけんで順番決めをしたりしようとしてくる。とても質が悪い。
「なんでじゃんけん?行くとは言ってなかったけど借りに行くとしても一緒に行けばいいでしょ?」
「先輩が消えたのも一人でだったし、同じ状況を作ってやらないと!」
それに一人ずつのほうがスリルがあるでしょ?なんて可愛く笑う彼女の顔は今は悪魔のように見える。
当たり前だが、私はあの後彼女に根負けしてじゃんけんで負けた。
きっと彼女のお願いに弱いこともばれてしまっているのだろう。
どうせ行かなければ彼女は納得できず、ずっとせがんでくるのだ、さっさと行ってしまおう。そう思い、私はトイレの扉に手をかける。
少し重たい古びた扉はギィィ…という音と共に開く。この音が怖さに拍車をかける。
「ちゃんと待ってるから、しっかり行ってきてね!!!」
そう念を押す彼女の声を背にかけられながら一人怯えながら私は問題のトイレに向かう。
つもりだったのだが、いかんせん私はビビりだった。とてもじゃないが一人でこんなことできるはずがない。
だが、彩未の位置からはきっとやったかどうか音でわかるだろう。
気が乗らないが、きっとやらないとまた彼女がうるさいだろうな、と思い私は花子さんに呼びかける”フリ”をした。
コンコンという2回のノックとお決まりのあの言葉。
「はーなこさん、遊びましょ」
「は~あ~い」
私は驚きのあまり後ろに飛びのき腰を抜かしその場に座り込んだ。だって聞こえるはずのない声が聞こえたから。
本来の花子さんは、”入口から三番目”の扉。私がノックをして声をかけたのは”入口から二番目”の扉なのだから。
その”二番目”の扉から出てきたのは、想像とは全く別の同じ年くらいの女の子だった。
「え?」
「こんにちは、驚かしてごめんね」
トイレから出てきた彼女は鈴のなるようなかわいい声でくすくすと笑った。とても色白でかわいいを形にしたような顔をした彼女。同じ女の私だが、一目で目を奪われた。
そんな私の目の前にす、と白くて細くてきれいな手が差し出される。
「え、あっ」
「ふふふっほら、手を取って?いつまでも座り込んでたら汚いよ?」
「あっ、ありがとう」
華奢な腕からは想像もつかないくらいしっかりした力でつないだ手を引き上げられた。
先ほどまでの恐怖が嘘のように、彼女の美しさに安心する。
彼女はどこかで見たことあるような気がしなくもないが、彼女ほどの美しさなら忘れるはずもないと思い、芸能人の誰かと似ているのだろうと自己完結した。
「あなたは誰?どうしてここにいるの?どうしてあの言葉に反応したの?」
「私の名前は花子、待木花子だよ。人がいっぱいなのが苦手だから落ち着くまで、人気のないここにいるの。さっきのは、私の名前も花子だし悪戯心でつい、ね」
彼女はごめんね、とかわいく舌を出してウィンクをした。
悪戯好きな彼女はどこか親友の彩未を連想させた。悪戯っぽいかわいい笑顔も同じようで、とても愛らしく思った。
そこで私は、彩未を待たせていることを思い出した。
「あ、そろそろ帰らないと」
「え?」
「友達を待たせてるの」
だからいかないと、そういうと彼女の雰囲気が変わった。
さっきまでの明るくかわいい感じが消えなんだか怖い雰囲気を出し始めた。
そんな様子の彼女を見ているとぽそりと、何かをつぶやいた声が聞こえた。
だが、小声だからか何を言っているのかわからなかった。
「え?」
「だめだよ」
そう言ってあげられた彼女の顔は、先ほどのかわいい笑顔と違いどこか不気味なにたりとした笑顔だった。
彼女が帰るといった私の腕を掴み一歩、また一歩と寄ってくる。
近寄った彼女の表情が、またさっきと同じかわいい笑顔になった
「ごめんね!でも、もっと美穂とふたりで話したくて…」
潤んだ瞳で懇願する彼女。まるで彩未と同じ表情で、私は彼女に負けて話を続けることにしてしまった。
彩未にはあとで事情を説明したらきっと許してくれるだろう。
心の中に多少の罪悪感を抱きつつ、私は花子との会話を楽しんだ。
それから私は花子との会話に夢中になり、次に気がついたのは喉が渇きを訴え始めたころだった。
私はなんとなく「もう暗くなっているかも」と窓の外を見ると、窓の外はこの女子トイレに入ったときと同じ夕焼け色だった。
「え・・・?」
驚きでそれ以外でなかった。冬に近い秋の今の季節、日が落ちるのは早くなっているはずで長い時間話したのにまだ夕方なはずがない・・・。私はふと気になって自身の携帯の時計を確認した。
「なにこれ!?」
時刻はトイレに来たときと同じ16:50だった。
私は、花子の顔を見た。最初に見た可愛い笑顔が今は怖くて仕方ない。
花子を見た私を見て、
「どうしたの?美穂」
そうにこりと問いかけてくる。
怖い。さっきまでと変わらないはずのかわいいにこにこした笑顔が、外の状況なんてまるで分っていたかのような彼女が、ただただ今の私には恐怖の対象でしかなかった。
「花子…」
「うん、花子よ?どうしたの美穂、変よ?まだまだいっぱいおしゃべりましょう?」
「えっと、でもさすがに帰らないと…」
「帰る?どこへ帰るの?この世界にはあなたと私たちしかいないのに」
そう、くすくすと笑う花子。私は一歩後ずさる。
また、怖い雰囲気の彼女。彼女は何者なの・・・?
ふいに後ろから扉の開く音が響く。反射的にその扉を開けた人物を見るとその人は、いなくなったと言われていた望月先輩だった。
だが、よく見かけていた先輩とは様子が違っていた。
意識がもうろうとしているような、目の焦点が合っていないようなそんな・・・。
「なんでいるんですか!?」
くすりと先輩の横に立った花子が笑った。
「なんでもなにも、この子から私の世界に来たんじゃない?美穂だってそうでしょう?」
「ちが、私は彩未が言ったから…!」
「あら?お友達のせいにしちゃうの?結局選んだのはあなたじゃない」
彼女の言う通りで、何も言い返せなくなった。
ほんとに嫌なら彩未を振り払ってでも来なかったらよかったのに…。
「確かに、あなたの言う通り私は結局は自分の意志で来ちゃった、でもここに残る理由にはならない!お願い帰して!」
「あら、それは無理よ」
飄々とした表情で彼女は言った。
その言葉に私は彼女になぜと問い詰める。彼女にとってこの問いは簡単なことでしかなかった。
「だってこの世界から返す方法なんて、知らないんだもの」
そう言って笑う彼女の顔は酷く歪んでいてそれでもなお美しかった。
そんな美穂を待つ少女が一人。
「美穂、遅いなぁ。ちょっと見に行ってみようかな」
そう言って彼女はトイレの中へと消えていった。