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エリス 辣腕

「あの人は…。見ましたわね、皆さん」

「ああ、確かに能力者が居るな。しかし、てっきり逃げるかと思ったが出てくるとはな。あいつも能力者なのかもしれない」

「姿を隠せるってのは厄介だね。人も馬車でさえも隠せるようだし。組織立っているのなら脅威度は高いかも」

「ラスティン、追えていますね?」

「はい。やはりあの荷台の中は覗けませんが、覗けぬ物はかえって目立つものです」

「よろしい。では皆さん、お仕事のお時間ですわ」


始終の顛末を見下ろす者達が居た。彼等は王都貴族院直轄神力執行部隊の一つ通称猛虎班である。貴族における神力能力者で構成されるこの部隊は神力、禁忌薬等の超常案件にのみ駆り出される特殊部隊で、その行動には勅命相当の権利が付与されている。一度彼等が動けば標的に命は無い。事よりも、その舞台となる場所が街である場合甚大な被害が出る場合が多く、その権利の性質上その街の領主は泣き寝入りせざるを得ない事で有名である。そしてそれは貿易港湾都市エルカンを擁するマリーネ領領主も例外ではなかった。


「最悪だ…何故寄りにも寄って我領で…既に騎士共の特別検閲とやらで類を見ない損害が出ていると言うのに疫病神(神力部隊)が動くだと?冗談ではないぞ」

「更に冗談の様ですが、例の岩礁裏の洞窟にて発見された物体がこの領に伝わる古代史に登場する神代の遺物である可能性が高いとの報告が…」

「馬鹿な…あの熱線を吐く化け物だと?お伽噺ではないと謂うのか?有り得んなぜこうも次から次へと…いや、危険すぎる。あの洞窟へは何人も近寄らせるな」

「いえ、それが…続きが有りまして、報告が挙がった直後何者かに持ち出されてしまったようで…」


後に内政官の綴る暴露本によればその場でマリーネ領主は泡を吹いて倒れたというが 真偽は定かではない。


港の外れに老朽化により閉鎖された大倉庫が在る。破れた屋根から漏れた日光が帯のように床へと突き刺さり、漂う埃が照らされて緩やかに流れている。そこへ不意に一台の馬車が姿を表し対流を起こした。御者の男は荷台に回り、乗り込んだ。


「やれやれ何が何だか。これからどうなるのでしょう」

「とりあえず、こいつだな」

「え、騎士じゃないですか…なんで」

「こいつが足首を負傷してた奴だ。何となく引っ掛かってもしやと思ってな。まあ違ったら違ったで奴らの情報を聞き出せば良いし…」

「また、独断で…」

「あ、本当だ足首に傷跡がある。目敏いなぁ」

「起こすから取り押さえろ…」


荷台には縄で縛られた騎士の一人が横たわっていた。レントがガラントを飛び出す切っ掛けと言っても良い人物である。しかし、そのレントの動機が直感に頼り過ぎていたことは否めず、正直な所私は事の拡大の要因が彼に有るのではと思ったりしていた訳で…。


「やい、お前が騎士なだけじゃないってのは分かってるぞ」

「ぐ、なんの事だ…貴様ら只で済むと思うなよ…」

「ご託はいい、貴様の知っている事を話せ。さもなくば殺す」

「フンっ、貴様らなんぞに我は殺せぬ。神の御導きは絶対である」

「何か変な事言い出し始めましたね…」

「察するに邪教徒なのでは?」

「黙れ学者風情が。神を冒涜する異端共めっ」

「確定ですね…」

「フンっ、貴様らは程無く皆殺しにされるのだ。其まで精々足掻き苦しめっ」

「あ、こいつ自分で頭打って気絶しやがった」

「器用な奴だな…」

「マティス、奴らなんか言ってたか」

「どうやら港でマルコフの名を出していた所を嗅ぎ付けてこの馬車を割り出した様ですが…」

「おかしいですね。それならば馬車では無く我々を直接捕まえに来ても良いものですが…」

「何らかの意図はあったんだろうが、こうして逃げおおせているからな。俺の神力は想定外だったのだろう」

「いえ、彼等はガラントの情報を得て神力の可能性を考えているようでした」

「まさかむしろ神力を確認したかった、とかいう罠だったり…」


レントが要らぬ直感を働かせた直後、突然荷台に何かが激突した音に驚き荷台から出ると、そこには倉庫の鉄製の扉が直角に折れ曲がり転がっていた。先程の音は荷台の側面に当たったものの様であるが、馬車を停めているのは倉庫の最奥であり扉からは距離がある。不意に殺気を感じ咄嗟に飛び退き振り返れば、私の立っていた床に足を突き刺し直立する男がそこにいた。


「良く避けたな。随分勘が良い。いや、能力か?」

「ラトメッツ様後ろです」

「おっと姿が消せるんだったな…」


扉の方から歩いて来る男に名を呼ばれると足を引き抜いた男の姿がぶれて動く。動体視力で何とか追えた男の姿は声を掛けた男の隣に並んで止まる。クロトが私に触れることでその姿が確認できると私に抜き身の剣を渡した。


「いったい何者なんだ。消えたかと思ったぞ」

「分かりませんが。あの男は尋常な動きではないです。神力能力者で間違い無いでしょう。そしてその隣の男には見覚えがありますねぇ…」

「たしかラスティンといったか。あいつの従者だな…俺の事が認識出来ているような口振りだが…」

「見つけましたその左の柱の裏です」

「上出来」


私達が身を隠した柱は彼の蹴りで脆くも崩れ去る。衝撃で私達も吹き飛ばされクロトの手が離れたことにより私の姿が露になった。


「ラスティン、見え無い奴は任せた」

「了解しました」

「ん~さてどう料理しようか」

「やれやれ、一発貰っても危険なようですね」

「能力があるなら使った方が良いぞ」

「生憎私は一般人でして…」

「ふん、一般人に俺の攻撃が避けられたのか?それは傷付くな…」


その蹴りは槌であり斧であり槍である。その体捌きは鞭のようにしなやかで狂わぬ体幹を物語る。大振りなれどその尋常ならざる速度と威力に今だ蹴りの奥へと間合いを詰められないでいる。蹴りを受けようにも恐らく剣も私の体も耐えられないであろう。しかしクロト含め子供達の神力を見るに驚異的な能力の一方で弱点も必ず存在していた。それが彼にも適用されるかは定かではないが、少なくともクロトの初撃を避けたことから攻撃が通じない相手では無いのだろう。今は少しでも見に徹するべきか。


「姿を表しては如何かな不可視の戦士よ。私には視えている。体力を消耗するだけだぞ」


クロトは立ちはだかるラスティンを前にその先で行われている戦闘に加勢する方策を練っていた。しかしこのラスティン両目を閉じているとは思えぬ俊敏性でクロトの動きに着いてくる。そしてクロトは継続して神力を発動している事から、視えているの言に詐りは無いのだろう。云わばラスティンはクロトの天敵であった。こうなれば能力以前に互いの剣の実力が物をいう。しかしその点に於てもクロトには歩が悪い。この壮年の構えからは隙の一つも窺えず、その言い知れぬ気迫から経験値の差をまざまざと思い知らされる。


私とクロトが攻めあぐねているその時であった。


「…放て」

「ぬぁああああああああ」

「ええっ、まてまて、うおおおおお」

「なんだそりゃ、うあああああああ」


荷台から現れた子供使い。基、レント先生は子供達を引き連れて思い思いに神力を放出させたのである。しかし遠距離放出はついこの間始めたばかり。故に狙いなど定まろう筈もなくその軌道すら思い思いで読めない。それが十五種類の効果を持って束で襲い来るのだ。私は必死で逃げ回る。敵の二人も逃げ回る。クロトの姿は依然として見えないが逃げ回っていることだろう。そして伏し目がちに手をかざすレントに意味はなく、腹が立つ。因みに残り四名の子供達は何かを放出する類いの神力では無いため駆り出されては居なかった。


「…次弾用意して打ち方、止め」

「はあ、はあ、なんだそいつら。メチャクチャだろうが」

「いや、たまりませんな、はぁ、これは…」

「はあ、やっと収まった。なんで、はあ、私まで…」

「子供達の体力を舐めてはいけない。そういうことだフハハハハハハハ」

「アイツなんもしてないだろ。なんであんな偉そうなんだ…」

「ラトメッツ様、後ろですっ」

「ちぃっ、油断も隙も無いなっ」


子供達の攻撃が止むと私含め敵対する彼らも相当の体力を削られており膝に手を付き肩で呼吸をしている。その隙をついてクロトはラトメッツに仕掛けた様だがまたしても避けられる。理由は判らないが彼がクロトを苦手としている事は間違いが無く。これが相手を替える好機であった。


「これは不味いですわ」

「こんな能力者の数、あり得ない…」

「大きめにお願いします」

「了解っ」


そして私がラスティンと向かい合ったその時である。急激に体の重さを感じその場に膝を突いてしまう。なんとか周囲を見渡せばその場にいる全ての者がその不可思議な影響を受けていた。


「ふん、始まったか。…これで終わりだな」

「やれやれ、これは老体には辛いものがあります。手早く終わらせていただきたい」

「分かってるよサクッとな」


初め皆と変わらず伏したラトメッツが嘘のように軽やかに立ち上がりラスティンから剣を受けとると、レント以下子供達の所へ歩き始めた。私も急ぎ追うが思うように動けず到底追い付けない。万事休す、ラトメッツがその剣を振るう。金属音が鳴り響く。しかして、残撃は中空で阻まれた。そして子供達を背にラトメッツを睨むクロトの姿が現れたのである。


「クロト様あああっ」

「っ、上かぁっ、マティスやれえええ」


クロトを叫ぶその声は倉庫の屋根から鳴り響き、気付いたレントがすかさずマティスの名を叫ぶ。荷台より拡がる光線の網が広い空間の隅々まで走り描かれる。そして廃倉庫は破裂した。


急に体の負荷が解けた私は加速してラトメッツの背に斬りかかる。捉え初めて手応えを感じるもののやはり高速で逃げられてしまう。ラスティンの近くへ飛び、転がり込むラトメッツの呼吸は荒く、よろめき立ち上がる。周囲は晴天に包まれていた。そして不可思議に浮遊する瓦礫を押し退け半袖の身軽な装束の女と光沢のある黒いドレスの子女が現れた。


「エリス様お怪我はありませんか」

「ええ、ニエルのお陰で問題ありませんでした」

「うわぁ、ラトメッツ痛そぉ」

「にやけてんな、凄い痛いんだぞっ」

「しかし、奴ら何者なんだろう。底が知れなさ過ぎるよ。エリスあの人を呼んでたよね。知ってるの?」

「それで俺は切られたんだけどな…」

「…あの方は、私の婚約者、サクラバ男爵の嫡男クロト様ですわ」

「ええっ、あれがいつも言ってる…」

「ああ、嫡男含めその跡継ぎが根こそぎ失踪したという悲惨極まり無いあの…痛ってえっ」

「エリス様、如何なされますか。我々の職務では対象は殲滅せねばなりませんが…」

「…私が接触し、能力にて判断致します」


ニエルに背中を殴られ悶絶するラトメッツを他所にエリスは標的へと、クロトへと歩み始めた。


「おい、なんかあの子こっちに来るぞ…」

「クロトは仮にも婚約者なのでしょう。何とか話を着けてくださいよ」

「ええっ、そんな事言われても…」

「兄ちゃん頑張れ」

『がんばれー』

「ええ…」


斯くして五年の歳月を経て運命に引き裂かれし二人はここに邂逅を果たしたのであった。尚、引き裂かれているか否かは問題ではない。


「クロト様…」

「ええと、エリス、っふぶぅっっっっ」


クロトは殴られた。


「良いストレートだ、世界を狙える」

「突然なに言ってんです?」


エリス嬢曰く、十五歳を迎え晴れて嫁入りとなって婚約通りサクラバ邸に向かえば当の嫡男クロト以下兄弟共々失踪の騒ぎ。当然婚姻の準備など整っている筈もなく、日を改めてと体よく追い返されてより二年。うやむやなケチの付いた男爵の三女に貰い手は無く、仕方がないと父親より明かされる己の神力とその使い道。嫁入りから一転彼女は腰掛けとは言え血生臭い神力部隊へとその身を捧ぐ事となったという。余談であるがクロトが家に戻り次第退役という手筈になっているとかで口癖のようにクロトを連呼していたという。


「クロトが悪い」

「擁護出来ないですね…」

「兄ちゃん最低」

『さいてー』

「ええぇ…そんな…しかし兄ちゃんはお前たちを守る為にだなあ…」

「そもそもですね、神力を持っていても必ずしも王都に行かねばならないという訳では無いのですわ」

「え、そうなんですか?」

「確かに小さな子供の場合その決定権が親にありますから、手に負えなくて手放す側面はありますわ。でもそうでなかった場合は記録が録られてそれでお仕舞いですのよ。選定士はあくまでも選定するのが仕事なんですから」

「それじゃあ俺がしてきたことは…」

「無駄、ですわね。要らぬ混乱を起こした分だけ質が悪いのが何とも…しかし、私の旦那様に失態など有り得ませんわ。在野の能力者をこれだけ捜し集めたという功績を持って帰り御家を盛り立てるのですわっ」

「あーあクロト固まっちゃったよ。完全に尻に敷かれるなあれは」

「なんだか分からないですが、良い奥方になりそうですね」

「そこの貴方っ」

「はいっ」

「クロト様をここまで連れて戴いた事は礼を述べますわ。ですが、私達が出動致しました案件がまだ解決していませんわね。火の無い所に煙は立たないのですわ」

「うっ、それは…」

「ご説明は不要ですわ。記憶を見させて戴きます」


私と瞳を合わせると彼女の目が高速でブレ始める。エリス嬢の神力、それは他者の記憶を辿れるというものであった。。瞳を介し目的に紐付けられたその記憶の残滓をかき集め再構成して見ることができるのだ。生者はもちろん死んだ者もその直後であれば可能だという。彼の部隊は彼女の編入によりその功績を飛躍的に伸ばしているのだとか。彼女が検索しているのは禁忌薬に纏わるものである。禁忌薬、それは売っても所持していても知らずに運んでしまっても死罪は免れ無いという。遺物関連に、正確には例の陶磁器の分解云々に触れないことを私は願うばかりであった。


「う、貴方は不幸性なのかなんなのか…分かりました、その足首に傷がある騎士を見せて戴きます」

「…こちらです」


はたして彼女がどこまで覗いたのかは判然としないまま私が荷台へと誘うと、歩き出す彼女に伴ってその仲間達も追随していく。荷台の中で今だ気絶する近衛騎士の瞼を剥き、エリス嬢の検索が始まると彼女は急激にその顔色を青冷めさせていった。


「不味いですわ…邪教…いやそれとは別の、なにか…もっと、その奥へ…この者ではここまでか…皆さん、王都が狙われています。至急王都に戻り、王の判断を仰がねばなりません」

「ええっ、こいつらはどうするんだ?」

「彼らは直接的に関係していた訳では無いようですので一旦保留ですわ」

「保留ってそんな事…」

「そんな場合では無いのですわっ。王都まで四日は掛かるのです。事は一刻を争うのですわっ」

「お、おう…」

「エリスがこうまで言うのだから本当にやばいんだね」

「今すぐ馬車を連れて参ります」

「あの、差し出がましいようですが…私の馬車であれば王都まで恐らく二日掛かりませんよ」

「本当ですのっ?」

「ええ、ですがお乗せするのには条件があります」

「なんですの…」

「私達が罪に問われる様であれば何卒王へ御口添えを御計らいください」

「…分かりました約束致しますわ」

「おいおい…っ、分かったよ睨むなよ」

「では、暫しの旅を御寛ぎください…」


そんなこんなで先程の戦闘から一転彼女ら神力部隊の面々を荷台に乗せて一路王都を目指す事となったのである。


余談、


「この人数を乗せるんですの?」

「え、私の記憶を見たのでは…」

「?、特に馬車については何も見ていませんでしたが…」

「うーん…」

「いや、隠しても仕方がないだろうよ。なんだったら俺の工房を案内してやるさ」

「…ではどうぞ」


クロトが壁、基、ハリボテに作った引き戸を開けるとそこには巨大施設と其をして矮小せしめる空間が広がっているのであった。


「こ、これはどうなって…」

「我々はなにか大変な経験をしているのでは…」

「どういうことですの…こんなの見えなかったですわ…」

「うっひゃあああ敷地だけなら王城より広いんじゃないの?」



近衛騎士が錯綜するエルカンを後にして一日と半分、我々は既に遠目に王城を望む所まで来ていた。予定より幾分早く王都外壁門へと到着するであろう。王都は他領とは隔絶された存在である。その主な特徴として居住、滞在に貴族相当という基準が設けられている事が挙げられる。相当とあるからには貴族でなくとも入れる訳だが、その基準は厳格で相応の資産と人格、地位が必要で有るとされる。故にこの地には所謂所の平民は存在しないのである。これは他領に内に於ける民衆の格差を是正するためであると言われるが定かではない。結局のところ雲の上の世界であるからして空想ばかりが巷には溢れ、その閉塞感が曲解された風説を流布する結果となっているのだろう。クロトの悲しい勘違いもそこに由来すると私は考えた。何が言いたいかと言えば、したがって場所こそ知れど私もあの門を潜ったこと等一度として無い訳で…


「到着致しました」

「…本当に着いてる」

「快適何てもんじゃなかったな…」

「私の家より住みやすいかもしれない…」

「この歳で好奇心を擽られるとは思いませんでした」

「ではこのまま門を潜って王城まで行って下さい」

「え?」

「え?」

「我々も行くのですか?入った事無いんですが…」

「ああ、問題ないわ。私達が貴族証を持っているから入れるよ。というかこんな暮らしして平民とか言われても…」

「ど平民ですがなにか」


こうして難なく王都へ入った訳であるが、さすがと言うべきかどこを見回しても華美と言う他無い。整然と整地された石畳はその規則性に舌を巻く。建物は石材の関係か淡い光沢を放つものが多くそれぞれが輝かしく彩り景観を引き立てている。他領では見掛け無い建築も数多く思考が追い付かない。大通りをひたすら直進すれば徐々に巨大な王城は視界を塞いでいく。巨大な城門の前に停車すると門兵が駆け寄ってきた。


「如何用であるか」

「私達ですわ」

「っ、猛虎班の皆様で」

「その呼び方を改めねばあなたの記憶をばら蒔きますわよ」

「ご勘弁を…」


そして彼らが縛られた近衛兵、クロト、子供達を連れて城に入って暫く、馬車を城門より少し離して荷台の中で待つこととなった。


「正直なところ正念場だと思います」

「あの感じだとクロトと子供達は問題無さそうだけどな。問題は俺達か…」

「私達も入ってるんです?」

「そりゃあマティス達は俺達すら知らないあれの分解方法を知ってんだしさ。俺らよりも厳しいんじゃね?」

「そんなぁ」

「まあ冗談はそのくらいでどうします?こんなとこまで入っちゃって逃げようも無いですけど」

「いざとなればこいつで城を粉々に…」

「国を揚げて殺しに来ますよそんな事したら…」

「気になったんだが、この荷台の事についてはエリスは読みとれなかったようだな」

「ニエル嬢の神力の影響も荷台の中にいた私には関係なかったですしね」

「子供達がこの中でいくら能力を使ってもなんともなりませんし、対神力の防御作用でもあるんでしょうか」

「それ以前にこれ本当に荷台なのか?」

「え、今更ですね」

「謎は深まるばかり…」

「…なんて話題を反らしてみれば紛れるかと思ったが、死刑になるかも知れないと思えば寒々しいもんだな…」

「嫌なこと言わないで下さいよ」

「ああ、もっと研究したかった…」


等と私達が悲壮感に苛まれているその時に、城内では争乱が巻き起こっていたなどとは知る由も無いのであった。


「エリス嬢如何なされましたかな。確かエルカンへ向かわれたかと思いましたが…」

「オレガ宰相、ご機嫌麗しゅう。火急の懸案がございまして引き返して参りましたの。陛下へ御取り次ぎ戴きたいのですわ」

「現在陛下は客人の謁見中で御会いになれない。私が用件を賜ろう」

「客人というのは?」

「なんでも商人で献上物を陛下が受け入れられたのだ」

「宰相は御会いになられたので?」

「ああ、一目だけだが…」

「失礼致しますわ」

「うっ、な、なにかね突然」


エリスはオレガ宰相の頭を掴み検索を開始した。側室の愚痴や娘の縁組み、雑多な記憶の網を分け入り手繰り寄せそして辿り着く事実。映されたその人物は彼の商人を自称する男の記憶に映った人物、マルコフその人であった。不可解、しかし問題はそこではない。その後ろ扉に控える近衛兵の二人、彼らこそが彼の捕縛された近衛兵の記憶より判明した王城に紛れる不穏分子であったのだ。記憶の中で彼らは禁忌薬を服用しその体を変異させても自我を失わず自壊することなく元に戻ったのである。そして彼等は計画を話す。儀式と称す王都で潜在する邪教徒の同時覚醒を、最も王都が手薄になるその時を。あの馬車で駆け付けられなければ間に合わなかった。又本来であれば間に合ったとしても戦力が足らなかった。しかし僥倖か必然かまだ子供とは言え神力能力者がクロト含め二十名も集まってここにいる。決断に躊躇は無かった。


「宰相閣下」

「な、なにかね」

「城内で戦闘になる可能性があります。非戦闘員に避難の指示を。そして出払っている神力部隊を引き戻してくださいませ」

「い、一体何を始める気だ…」

「…お掃除ですわ」




ーーー 「エンゼル到達予測まで現世換算で二日の猶予が観測されました。過去最高記録です」

「これは…ようやくこの仕事にも目処がつきそうだ」

「次元干渉準備。例のシェルターに座標を固定しなさい」

「エニグマ粒子共鳴開始…」

「…とはいえ送れるのは一度きり。失敗であればまた一からやり直しよ」

「今更だがうんざりだな。奴らの顔でも殴りたいものだが無理な話だ…」

「未来を見ましょう。過去はもういいわ」

「皮肉かな」


別たれた次元の彼方より眺められるは終末の時。数多の因果にその答えを探る者達は、しかしてその眼に映る彼らに希望を託さんとした。 ーーー

行き当たりばったりで描写不足甚だしいですがニエル、ラトメッツの能力の詳細は次回で書けるかも知れません。もやっとボールが欲しい…

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