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レント先生お願いします。

子供達の話を聞いていると先程駆けて行った子供が大きめの麻袋を担いだ店主らしき人物を連れてきた。


「やあ、初めまして。なんでもこの乾物を買い取っていただけるとか」

「ええ、初めて知りましたがとても甘いですね。珍しいので買わせていただきます」

「大変ありがたい、実のところなかなか捌けなくて困っていたんです。規定以上に値引かせていただきますので是非大量に仕入れていただきたい」

「随分と忌憚のないことで」

「実はこれを開発したのが私の弟でしてね。初めて成功したからと仕入れたは良いのですが、まだ数が獲れない上痛みやすくて…加工分ばかり増えても水分が多く加工するのにも手間が掛かりすぎて価格が抑えられなくて…」

「その麻袋でおいくらなんですか?」

「銀貨一枚と銅貨2枚というところなのですが五袋買っていただければ一袋銀貨一枚で構いません」

「では十袋買いますので一袋銅貨八枚に負けていただけませんか」

「おお、ちょうど十袋在庫を抱えております。分かりました一袋銅貨八枚で十袋、金貨四枚になります」

「では純金貨三枚でお願いします」

「おお、純金貨とは。もしや名のある商家の…」

「いえいえ名も無き旅商人ですよ。たまたまなんです」

「…左様ですか。ではお釣は銀貨一枚で宜しかったですか?」

「ええ、それでお願いします」

「では残りの九袋と一緒に持って参ります少々お待ちを」


品種改良と言うがかつてどの品種とも付かないその果実は未知と言って差し支えなく、その甘さは乾燥されることで精製糖の如き目の冷める程の物であった。しかし結晶とも言える固さである。工夫は要るだろうがこれを粉末にすれば精製糖の代用として使えるのではないか、むしろ果実の風味がある分付加価値が付くのではないかと私は睨んでいた。精製糖はこれの四倍以上の取引値であるから少なくとも二倍は堅いのでは無いだろうか。どうやら彼の店でしか取り扱っていないようであるし、専売契約を結ぶ事も考えるべきかも知れない。


「どうした、何時に無く真剣な顔をしているじゃないか」

「ああレントか。いや、商材を一つ仕入れましてね。あなたの方は?」

「良いとこがあったよ皆戻ったら向かおう」

「ええそうしましょう」

「お待たせ致しましたぁ。こちらが残りとお釣の銀貨一枚で御座います」

「うお、この荷車の全部かっ」

「さあレントも積み込んで」

「しかし、思いきったなそれ程の商材か…」

「もし私の商売が上手くいったら専売契約を結んで戴きたいのですが如何でしょう」

「願っても無いことです。弟もきっと喜びます。これからもコダック青果店をどうぞご贔屓に」

「ええこちらこそ名も無き商人ですがどうぞ宜しく」

「いい加減名前付けたらどうだ」

「いいんですよどうせお互い顔で覚えるのだから…」

「そんなものか」

「そんなものです」


喜色満面で空になった荷車に子供達を乗せて引いていくコダックさんを見送る。彼の背中に郷愁とかつての父の姿が過る。私はつい心の中で応援していた。暫くしてゾロゾロとマティス達が帰ってくる。皆が皆等しく荷車を引いているため渋滞が発生してしまい、焦り急いで荷車ごと荷台へと詰め込んでいった。しかし次々と大量の荷物が運ばれていくその光景に周囲の注目を浴びたのは言うまでもない。


「変に目立ってしまいました工房へ急ぎましょう」

「ああこっちだ」


急ぎレントに誘導された工房は街の外れに構えており、趣こそ簡素であるがその広さは通常の比では無かった。


「ここは材木加工の工房なんだ。木工の工房はどこも手狭でぶっちゃけここしか無かった」

「ああ、兄ちゃん達が旅商人かい?場所だけは余ってるから好きなだけ使ってくんな」

「こちらは?」

「ここの親方のベルトさんだ」

「お世話になります」

「いいっていいって堅苦しいのは嫌いなんだ。職人積んでる商人なんて珍しいじゃないか。木材も買ってくれるんだし言うことなんざ無いね」

「な、いい人だろう。材料も揃ってるし完璧だ」

「ええ、本当に」


こうして私たちは工房に滞在しレントは馬車の設計を、マティスさん達は荷台の中で積み込んだ荷物の整理と研究室の創設を、私は街で商材等の物色をすることとなった。街は活気に満ち溢れている。この街には過去にも幾度か訪れているが、その度に新たな発見があるのはこの道を埋め尽くさんばかりの人の往来の成せる業であろう。大店から露店まで大小様々な商店が所狭しと軒を連ねている。加工機を取り扱う店を見てふと思い、立ち寄る事にした。


「お兄さんいらっしゃい。何をお求めで」

「製粉…石臼とかで良いものがあれば…」

「麦を挽くので?」

「いや果物の乾物なんですがある程度硬くて大きいんですよね」

「ふむ、そうなるとこちらの転刃砕粉機で細かく砕いた後に石臼に掛けるとよろしいかもしれませんな」

「一度に大量にできるような大きな装置はありますか?」

「当店では取り扱いは有りませんな。しかし大掛かりな物になってしまうので特注になるのではないかと思われます」

「なるほど」


一先ず保留にして店を後にする。結晶のように固まったあの果物を刃に掛けるのもどうなのか。普通に叩いて砕く方が経済的だろう。等と思案して歩いていれば背後の気配に違和感を感じた。つけられている。私は普段通り不信がられない程度ではあるが簡素に身なりを包んでいるし、大金を取り扱った訳でもない。特に狙われることも…あった。先程の渋滞騒ぎである。その時から目を付けたのであろうか、ご苦労なことだ。しかし撒こうにもそこまで地理に詳しい訳でも無いので、無関係の人に直接尋ねてみることにした。


「なにかご用件でも」

「へ、え、なんですか」

「お話があると彼方の方に窺いましたので。よく見て下さいあちらと、あちらの方達です…」

「え、いや知らないですけど…」

「でしょうね」


指を指して尾行者を通掛かりの男性に教えると、彼らは急に驚いたように顔を逸らし踵を返して歩き始めた。その隙に私は急いで路地を曲がった。面倒な事である。しかしこの様な事がこれから度々起こるのかと思えば万一の戦闘要員として護衛の必要性が出てくるだろう。レントは逃げ足こそ速いが戦闘力は並、マティスさん達は数があれど話にならないのだ。今の所帯で私一人では不測の事態に遅れを取ってしまう。そうして見知らぬ路地を抜ければ先程までの喧騒から一転、その場所は物静かでしかしヒリつく程の視線が方々から私に注がれている。所謂一つの貧民街であった。


「お兄さん、こんなところへ何か?」


気配が読めなかった。後ろから声を掛けてきた少年、いや見るに十六、七であるから青年であろう者は、身なりこそみすぼらしい。しかし血色も良くその筋骨から相当の運動能力を有していることが確認できる。


「いやぁ、道に迷ってしまって」

「それは大変だ。ご案内するよ」

「案内するのに剣は抜かないでしょう…」

「お兄さんはここに来た時点で死んでいるのさ、だから正しく天国に案内してあげよう」


粗いが振るわれる剣筋は溜めがなく速い。剣の重量を感じさせない体捌きは見事で相当な基礎修練の跡を感じさせる。これ程の実力であれば中級以下相手には苦戦も無かったのであろう。しかし技が、強者との経験が足りない。暫し避け続けてみて重心を誤魔化し動線を翻せば、彼の剣は空を切る。接近を許し己の眼へ迫るその手を避けつつ焦り切り返す剣に威力は乗らず、逆手に捕られたその手首を軸に重心のずらされた勢いのまま回転し地に叩きつけられる。私はそのまま腕の間接を極め放れた剣を拾い彼の喉元に添えた。


「惜しい、君は伸びるな…」

「くそ、まさかこんな凡庸な達人がいるとはな…」

「聞きたいんですが…君は初め完璧に気配を消していましたね。あのまま不意打ちすれば良かったのでは」

「それは…」

「兄ちゃんから手を離せっ」

「はなせぇ」


眼前に飛来する火球、飛び退いてかわせば轟音を立てて壁に衝突しその灼熱が表面を溶かす。声の方向に目を遣れば十才程の少年と、その後に隠れるようにさらに小さな少女が私をを睨み付けている。少年の突き出し構える掌には先程の火球が回転し浮いていた。


「神力…か。いや、降参です。敵対しません、ごめんなさい」


奪った剣を放り投げ私が両手を挙げると、火球を向けたまま兄妹は青年の元へと駆け寄った。


「兄ちゃん大丈夫か」

「出てくるなと言っただろう。それにそれを人に見せちゃ駄目だ」

「だって兄ちゃん負けてたじゃないか」

「…おい、あんたは王都の刺客か?」

「え、いや、ただの旅商人ですが…」

「ただの商人があんな動きするかっ」

「一人旅はね…危険なんですよ色々と。でも替えがたい自由があるのです。現在その自由も侵されている訳ですが…」

「…どうも調子が狂うな。本当に刺客じゃないのか?」

「さっきからそう言ってるつもりなんですが…」

「カッシュ、もういい、火を止めろ」

「でも…」

「奴等だったら一人でなんて来ないさ。それに、さっきの戦いで本当なら俺は五回は殺されてる。どうあっても勝てなそうだ…」

「へえ、そこまで…逸材か…突然ですが、私と一緒に旅に出ませんか?」

「「「は?」」」


レントは目を丸くしている。理由は明白で私が帰るなり件の兄弟達、以下二十人程の子供達を連れて来たからであろう。


「…なんだ、お前、商材漁りに行ったんだよな。てことは…奴隷商でも始めるのか?」

「始めませんよ。まあ、成り行きで…」

『お世話になります』

「まあ、空間は無駄に広いから俺は別に良いけどさ…全員で三十七人に馬三頭か凄いなどうやって食ってくんだ」

「それなんですよねぇ…はぁ…」

「まあ俺も仕事受けてくから多少は助けられるとは思うが…頑張れ」


兄弟の話を聞けば三人共神力を持っているという。彼らは元々はこの街の出身では無い。弟達の神力が発覚して神力選定士が派遣される事を知った兄は二人を連れて出奔しネストバに流れ着いたという。そしてネストバにも同じような境遇の子供達が影に潜み固まって生きている事を知る。合流してみれば彼らは弟とそう変わらなかったのだという。そうして兄が呼ぶとぞろぞろと立ち並ぶ子供達。兄は全員の面倒を見ており置いては行けないという。こうまで知って放って置くことも忍びなく、私は纏めて引き取る事にした。本来はその子供の一人が作り出す幻で道を隠しているためほとんど人は迷い混まないらしく、たまに来る者はカモとして脅し金品を奪っていたという。


「それで私が応戦したから神力選定士だと…」

「全然攻撃が当たらないんだものな。とうとう見付かったかと」

「一つ疑問なんですが、あなたの能力はなんなんです?」

「俺の能力は気配が完全に消せる事だ。隠しやすい能力だったしこれのお陰で家から逃げ出せたんだ」

「ああ、なるほど…」

「それで、こんだけ居るが良いのか?」

「でもいつまでもこのままの生活はして居られないでしょう」

「まあな」

「毒を食らわば皿まで。精々しっかり働いてください」

「俺たちは毒かよ」


現在、拡張された荷台の中では子供達が全力ではしゃぎ回っている。これまで息を潜めた生活をしていた分反動が強く出ているのだろう。子供達の能力を一通り確かめたがどれもこれも危険過ぎておいそれと使わせられない事も理解した。彼の青年クロト曰く、世間的に王城に召し上げられると評される彼らだが、幼少期は能力を制御できないために親が持て余し手放す向きが強いのだとか。またその後の話が全く聞かれない事から漠然と恐怖を抱いていたという。意外な事に研究者達は関心こそ示したが研究には取り掛からなかった。聞けば彼らはあくまでも考古学研究者で神力には神力生態学なる別分野があるらしい。ただし考古学に関わりが無いわけでは勿論無くゆくゆく研究対象になるだろうとの事だった。


「なかなかどうして使えるじゃないか。こいつら必要に応じて俺に貸して貰うぞ」

「えっ、本当に見てました?というか既に決定なんですね…」

「お前ら楽しい工作したいかぁー」

『やりたーい』

「よーしよし付いて来い」

「おおぅ…」


レントは子供使いの能力を持っていた。実に楽しそうに子供達が働かされている。私の心配を他所に次々と練習と称し家具などが作られていく。これで良いのかとクロトに聞いてみれば、楽しんでいるのだから問題ないとのこと。そして食い扶持のため働いているのだからむしろ健全であろう、との言についに私も遠慮が消滅する。予てよりの提案をすることにしたのだ。


「大所帯になって本格的に居住空間が必要になってきました」

「俺たちはこのまま雑魚寝でも構わないけどな」

「私たちもそれで構いませんが」

「俺は自分の部屋が欲しい」

「クロト達はまあ小さな子も多いのである程度纏まっていた方が良いのかもしれませんが、マティスさん達は成人女性もいらっしゃいますし…」

「言われてみればそうですね」

「まあ俺は作るなつっても自分のは勝手に作るけどな」

「では先に居住空間を作りましょう。レント先生、全員分お願いします」

「…良いけどよぅ、ここに来てなんか俺の比重重くないか」


大層に創作意欲を駈られているであろうレントには馬車だけに馬車馬の如く働いて戴く事にした。これを丸投げと取るか否かは後の歴史学者に解釈を委ねる事としよう。


「俺は何をすれば…」

「クロト君、あなたは武の心得があるようだが何方かに師事を?」

「いや、家にいた頃に剣術の手解きを父から」

「…家は道場かなにかで」

「いや、貴族だ。男爵の位だったなたしか」


私は正しく絶句した。男爵の長男が兄弟を連れて出奔したのである。その後の大混乱は想像に難くない。私は何も聞かなかったので会話を続けた。


「しかし良くここまで鍛えましたね。実に理想的な体つきをしている」

「基礎修練しか知らないから其を繰り返して、あとは木こりの仕事も兼ねて立ち木を切っていた」

「立ち木を…もしや剣で?」

「それしか持ってないからな」

「なるほど…では貴方には主に私と共に荒事の時の戦闘要員と護衛を頼みます」

「わかった」


その後彼が分厚い材木を剣でいとも容易く両断するのを目撃し、今更ながら先程の己の戦闘を省みて薄ら寒くなったのは言うまでもない。不用意さを心に刻む私であるが、先程衝撃波を刃のように飛ばす子供が材木を細切れにしていた事を思い出し複雑な心境になったのは余談である。



ネストバに着いて十日経ち、レントは以前作ったハリボテから着想を得てそれを分厚く且つ頑丈にした上で四辺を様々な角度で自由に連結できる壁板を子供達を巧みに操り設計開発した。結果、簡易的ながら荷台の中に居住区画、研究区画、工房区画、生産区画を驚異的な速度で構築し、現在は馬車の改造に再び取り掛かっている。そしてその壁板を見たベルトさんに専売契約を求められ、我々は強力な商材を手に入れる事に成功したのであった。


「こいつはやばいな革命が起こる」

「そこまでですか」

「曲なりにも素人でも家が建てられるんだ。一定以下の建築屋は淘汰されていくだろう…」

「…なんか恨まれて襲撃されそうですね」

「うちは領主が後ろ楯になっているから矢面に立てる。案ずるな」

「よろしくお願いします…」

「一先ず一枚につき純金貨一枚で作れただけ買い取る」

「ええぇ、そんなにですか原価抜いても相当な利益ですよ」

「まだ生産体制が整ってないだろうからそれでも安い位だがこれ以上でも以下でも上手くはいかんだろう」

「いえ、十分ですよろしくお願いします」


ベルトさんは知らない。既にやろうと思えば子供達だけで日に五十枚、飽きなければ百枚のペースで作れるということを。そして実は余分に作りすぎて五百枚の在庫を抱えているということを。私はその日皆で盛大に祝おうと決めた。


「俺天才じゃないか」

「子供達の力が大きいとは言え、否定できないですね…」

「役立てたと分かればあいつらも喜ぶよ。どこか不安がっていたところがあるから」

「そうなんですか…しっかりご馳走を用意しなくてはなりませんね」

「あの、我々の研究にも成果がありまして…」

「えっ、」

「なんで露骨に反応が違うんですか。まあ解らないでは無いですけど…」

「何が解ったんだ?」

「例の光る紙についてなのですが、解読がほぼ完了しました」

「ああ、すみませんすっかり忘れてました」

「…ええと、それでですね、その内容なんですがズバリあの陶磁器についての物でした」

「おお、無駄に場所だけ食って椅子位にしか使い道の無かった木箱の中のあの陶磁器についてのっ」

「事実とはいえ、辛辣ですよレント」

「だってあれ一々動かすの面倒でさあ…」

「えっと、それでですね、あれは陶磁器では御座いません」

「「えっ、」」

「結論から申し上げますと…あれは所謂、禁忌薬を特殊な樹脂で練り上げ固めた物である可能性が高い…です」

「棄てましょう」

「俺はなんも聞いていないぞ」

「禁忌薬ってあの?」

「一応まだ続きがありまして、その樹脂と薬を分離する方法が…」

「ああああ聞きたくない聞きたくないいいいい」

「マティスさん、公にしない方が良いこともあります」

「ええ私もそう思いまして封印を提案しようと…」

「英断です。全員を集めて下さい」


禁忌薬は使用者に一度暴れられると対処が難しい。時間経過で死をもって自壊するものの、その時分に強烈な呪詛を撒き散らす。その凶悪性から関係が認められた者は如何なる事情であっても死罪が適用される。しかし神力信仰などの信奉者、主に邪教徒とされる者達等の禁忌薬を神聖視する勢力が存在する事も事実で事件は後を絶たない。事情を知らない子供達を除いて私、レント、クロト、マティスさん以下研究者一同でこの度の文字通り劇薬案件の研究凍結、及び封印若しくは廃棄を議題に会議を開く事となった。


「無意味かもしれませんが、この中に邪教徒はいますか?」

「我々の中にはまず居ないと思います」

「マティスさん、根拠は?」

「邪教、主に神力信仰等の教義では神代に於ける人類は偶像的神であり、神力を持つ者はその神の世界に至る前段階であるとされています。御存知のように現在人が神力を持って生まれる確率は低く、また神力があったとてそれ以外人と何ら変わらないのは周知の事実なのです。しかし持たざる彼らは神力への渇望病みがたく禁忌の副作用に一縷の望を持ってしまうのでしょう。神秘性は認めますが学術的に神代を捉える私たちと彼らでは根本的に相容れないのです。そもそも死んでしまっては研究出来ないでしょう」

「なるほど、たしかに。それであまり子供達に興味を示されなかったんですね」

「優先度というか、古代を知り現代を探る過程で何らかの原理が解明されればそこで初めてという感じですね。以前述べた神力生態学は人体機能を探る学問なので更にまた違うのですが…」

「理解しました。疑って申し訳ありません」

「いえ、一般的に神代等という世迷い言に囚われている時点で彼らも私たちも変わらないのですよ…」

「おおぅ…」


結果我々の中に邪教徒等居る筈もなかった事は幸いである。その後暫くマティスは自虐的になってしまった事からこの話題は彼らには禁句なのかも知れない。また陶磁器の処遇であるが廃棄するにしても様々な問題が予想される上、現状この事実を知る者は我々だけであろう事から頃合いまで陶磁器として荷台の奥に封印することに決定した。一安心と行きたい所だが、新たな危惧が生まれる。邪教の中には神力を持つ子供を拐う輩が居るというのだ。国が召し上げるのはそういった者からの保護を目的としているのではという説もあるらしい。気付けばねずみ算式に厄介事の種を積み込んでいる私の馬車はいったいどこへ向かうと言うのだろうか。



其れから更に十日が過ぎて遂に馬車の改造が完了した。如何せん宙に浮いている事から荷台の固定に苦心したという。しかし重量が無い上触れているだけで動かせるならと割り切り、主な固定は左右から側面の骨組みで挟むだけである。車体は省き骨組みを上に組む事でそれを補強する形に落ち着く。また触れる部分を細長い円柱に軸を通した物で回転させることにより骨組みに抵抗無く荷台の上下運動を可能にし、ほぼ地面まで降ろす事が出来る。車輪も通常のものでは重い上に構造上車軸を通せないため側面に取り付ける必要が有った。そこで強度を維持しつつ徹底的に軽量化した車輪を開発し、骨組みへの付加を低減させた。そして最後に骨組みの上に幌を被せここに真型遺物馬車が完成したのである。ありがとうレントそして子供達。


因みに子供達にたらふく御馳走を食べさせたあの日から子供達は、日に百二十枚程の調子で例の壁、連結壁を生産。四日目にして在庫分と会わせて千枚に達した所でベルトさんに泣いて止められる。支払いは年純金貨二百五十枚の四年分割となった。子供達は僅か四日で私の所持金を遥かに超えて稼ぎ出し、私の金策などすっかり烏滸がましい物となっていた。


「ようやく馬車の完成となりまして、エルカンを離れて二十日以上が過ぎております。ほとぼりも冷めているであろう事から、マルコスに接触するために再びエルカンに向かおうと思いますが如何でしょうか」

「「異議無し」」

「どこへでも…」

「では、出発っ」


今だ近衛兵達の目的は判然としないままである。しかし私達は事の発端たるマルコスに会うべくネストバを後に再びエルカンへと進路を取ったのであった。


余談であるが別れを告げるとベルトさんは泣いていた、情に厚い男である。





ーーー 「因果率再び上昇。当該基点よりの変化率は記録を更新しています」

「ようやく当たりだろうか…」

「まだ解らないわ…一先ず経過観察対象に移行してエンゼル到達点演算開始」

「了解」

「やれやれ少しは粘って欲しいものだが…」


無数のコードを生やした装置を頭部に被り男は高速で空間に指を走らせる。その男の後で画面を眺める一組の男女はその顔に諦念とも執念ともつかない表情を浮かべ疲労の色を隠せないでいた。


合わせ鏡のように永遠と連なる同じ人物達の世界は今だ動き出せず次元は放たれたままである。ーーー




備忘も兼ねて


通貨一枚の円換算


純金貨 30万

金貨 20万

銀貨 10万

銅貨 1万

鋼貨 1千

石貨 百


特に書いてはいませんがマルコスからの依頼料は純金貨100枚です。


ネストバにてマティス達15人に配った純金貨は一人2枚です。


ベルトさんにも総計純金貨30枚ほど払っているのでは無いでしょうか。


気になった方が居るかも知れませんが使うか使わないか分からないネタとして、ダムトスのアルタク山道の土砂崩れはネストバから移送中の赤ん坊の神力で引き起こされた地震が原因だったりします。剥がれた山肌から沢山銅が採れるのかもしれません。


コダックさんは子沢山なんです幸せそうです。


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