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男、超文明2(以外も)を積む

速い。私の馬車は現在馬車としては猛烈な速度を出している。理由は明確で件の荷台の加重が皆無で、それに加え本来幌を構成していた柱や骨組みが取り除かれて実質車体だけの荷車状態であるからに他ならない。馬を二頭から一頭に減らして丁度いいのかも知れないが、この幌馬車の規模で馬一頭というのもおかしな話であろう。考えてみればこの荷台は浮いているのだし側だけで固定出来れば車体自体も要らないのでは無かろうか。そうなればほぼ馬に乗って走る速度と変わらず飛竜便にすら匹敵するのでは無かろうか。等と構想が沸き上がって来るが、ふと私の本分は気ままな旅商人であろうと葛藤も沸いてきたりして目まぐるしい。そうして地図を見れば当初の予定通りの尺を取り戻しているようだった。静かな平原の先にそびえる山、それを越えればダムトスが見えてくるという。日も沈み始めたので馬を停め野営の準備に掛かる。馬に水と餌をやり薪を焚き鍋を掛け一息吐いて見回せば、辺りもすっかり暗くなり夜空には星々が瞬いていた。


食事を終え一心地着いていると遠くから馬の蹄音が近付いて来る。ぼんやりとした影は段々と形を帯びてこちらへ向かって来るのが判った。万が一と弓を構えると声が聞こえて来た。


「俺だ、レントだ射つな」


やっと見えた姿はまさしくレントその人であった。


「どうしたんだいったい」

「どうしたもこうしたもあるか。お前が出ていった後直ぐに近衛が訪ねてきたぞ」

「へえ、それでなんと」

「いや、話があるとしか聞いていない。炉の火を消すと言って裏から逃げて来たんだ」

「いや、それは不味いでしょう…」

「いいか状況から考えて俺のとこに来る時点で十中八九お前絡みだ、そしてその近衛の中に足首を負傷した奴が居たんだ。お前の話を聞くに恐らく襲撃者は賊じゃない奴らだ。ともすれば最終的に何されるか解ったもんじゃないからな。非が無いのなら逃げるが正解なんだよ」

「何とも強引な気がするけどがあなたの直感は当たりますからねぇ…」

「奴等の目的がなんであれ俺達には厄介な種があるのは事実だ」

「確かに、なにか思った以上に面倒な事になっているのかもしれませんね」

「という訳で俺も暫くお前の旅に付いていく事にした」

「決定事項なんですね…」

「ところで随分速かったんだな全然追い付かなくて驚いたぞ」

「ええ、丁度本業を運送業に替えようかなんて魔が差し始めてたところなんですよ…」


こうして私の旅に多少強引ながらも頼れる仲間が加わり、この夜は馬車の展望を談義に花を咲かせ更けていくのであった。


私が朝食の準備を始めると荷台の中から大きな欠伸と共にレントが起きてきた。


「あれだけ快適だと本格的に居住空間が欲しくなるな」

「いいですね、積める量減りますけどね」

「なんとかならんもんかなあ…」


手早く朝食を済ませ火を消すと私は馬車に、レントは乗ってきた馬に股がりダムトスへ向け再び進み始めた。道中特に異常も無く暫くして山道に差し掛かった所で道が二手に別れていた。立て札には 採石場⬅➡アルタク山道 と書かれているが、山道には土砂崩れにつき通行止めと書かれている。


「ふむ、地図によると採石場側も遠回りになりますがダムトスへ抜けられるようですね」

「まあ多少の遠回りはむしろ好都合だろう」

「そうですねこのままでは早く着きすぎてしまいましたね」

「馬車の速度では無いな。問題無さそうだが応急で済ませたからなガタが来るかもしれん、少し落として行こう」


採石場へ続く道を進むと森を抜け拓けた景色が広がった。


「これはまた大規模ですね」

「壮観だな、石切場と言った方がいいな」

「おや、何やら騒がしいですね」


採石場のふもとを見下ろすと三十人程の鉱夫とその半分程の人が対峙して話し合っている。鉱夫と対峙する者たちは男女入り交じり、それそれが様々な道具を持ち込んで統一感がない。またこの場にあってその体躯が逞しいとは言えない者もいた。


「どうされました」

「…あなた方は」

「私たちは旅商人です。この先のダムトスへ荷運びをしている途中で通りがかりました」

「我々はダムトス領主直轄の考古学研究者です。この採石場で発掘調査をするために来たのですが、どうも話が通ってなかったようで再交渉しているのですが聞き入れて貰えなくて…」

「冗談じゃないぞこっちには納期があるんだ。聞けば何かあればその都度こちらの作業を止めなくちゃならないと言うじゃないか」

「困りました…」

「領主はなんと?」

「そもそもここの発掘計画の発案者はダムトス辺境伯その人なのですが、先日亡くなられてしまって…」

「えっ、亡くなられたんですかっ」

「ええ、惜しい方でした。貴族でありながら考古学に造詣が深く私たちに目をかけて頂いて…」

「それでは現在は…」

「現在は空位ということになっておりますが、長男のシワック様が継がれる事になると思います。しかし…シワック様は実務的と言いますか成果の出ない事業を閉じていくつもりらしく、その筆頭が我々であると名指しされてしまいまして…」

「はぁ、それはまた…」

「しかし、我々は諦めません。伯爵様の遺志を継ぎ、必ずや成果を挙げてみせます」


そう言う彼の後ろで発掘隊員達から咽び泣く声が洩れている。それを見た鉱夫達はまた始まったとばかりに親方を残し採石の仕事に戻っていく。


「しかしこれは困りましたねえ」

「ああ、恐らく受取人はその死んでしまった伯爵で間違い無さそうだ」

「とは言え届けない訳にもいきませんし、とりあえず行くだけ行くしか無いですね…」


その後発掘隊の皆さんを説得し今日のところは引き揚げてもらいついでに伯爵邸への案内をしてもらうことにした。


「なにっ、親父への届け物?陶磁器?要るかああああああああああああそんなもん。陶磁器なんぞ溢れかえっとるわ。死んでなお無駄遣いが発覚するのか糞親父がっ」

「「で、ですよねぇ…」」


絶賛青筋を立てていらっしゃるのがダムトス次期領主シワック殿である。積み荷が伯爵宛てであることを話すと先程の熱弁を振るっていた発掘隊長のマティスさんも付いてきて同席する事となった。


「何が夢だロマンだそんな穀潰し共まで囲ってどれだけの赤字を垂れ流していたと思っているのか。仕舞いには採石場を暫く貸し切らせろだと?冗談抜かせ、石材収入はこの領の収支の4割を占めているんだぞ。いつともわからん研究を助成する予算なぞあるわけが無かろうが。只でさえ山道復旧の目処も立っていないというのに…」

「そ、それじゃあ申請が通って無かったのは」

「通せるわけなかろうがぁっ」

「「ですよねぇ…」」


伯爵はかなりの道楽者だったらしく、長男を始め実務者達が火を吐きながら何とか回していたのだそうで亡くなった事に対する哀悼の欠片も漂っては居なかった。


「とりあえず受印をいただきたいのですが…」

「ふん、ご苦労だったな。しかし物は要らんぞそんな二束三文」

「はあ、ではこちらのマティスさんにお譲りしても」

「構わん、餞別だ。くれてやるからとっとと失せろ」


伯爵邸を後にした我々はマティスさん達の研究所にて積み荷を降ろす事となった。


「以上が全ての陶磁器になります」

「しかしなんで陶磁器なんて…」

「マティス、この様式は…」

「まさか、では本当にあの古文書は…」

「だが何故こんな陶磁器に…」


箱から陶磁器を取り出すと研究者達は眼を丸くして慌ただしく動き始めた。方々の棚から資料や計測器を取り出し事細かに調べ上げ記録をつけていく。その手際は決して穀潰しと揶揄されるような印象は受けず、正しく探究者のそれであった。


「何か解ったんですか」

「ええ、大変な事が解りました」

「というと」

「…まず伯爵様と私たちは神代先史文明の遺産を求めて研究を行って来ました…」

「どうしました?続けて下さい」

「いえ、この手の話をすると大抵の人は猜疑の目をされるものですから…あなた達のようににやける反応は初めてで…」


それを聞いて私とレントは顔を見合せ声を上げて笑ってしまった。他の研究者達に猜疑の目を向けられたのは言うまでもない。


「いえ、お気になさらず続けて下さい」

「ええ、そして様々な手掛かりを探し求めた結果この一冊の古文書にたどり着きました」

「この本は?」

「かの伯爵家で代々受け継がれてきた物で古い物置小屋から偶然発見されました。紙の年代を調べた所少なくとも神代以後二千年の物であることが分かっています」

「以後ですか」

「以後だからこそです。中を見ればその意味が解るのです」


そう言われ捲っていくと字体としてはかなり古いものだがまだ辛うじて読める部分がちらほらと散見される。しかし内容を汲み取るまでには至らなかった。


「読み解いていくとこの本は伯爵の何代も前の先祖の書いた物であり、古代文明の研究手帳であることが判明したのです」

「先祖にも道楽家がいたのか…」

「問題の記述がこれです。なんらかの地点を示した地図が記載されたものと古代語の解読理論らしきもの、そして見慣れぬ紋様の模写です」

「つまり…」

「古代語の解読をしていたということは、少なくともそれが書かれた何かが存在していてそれを手に入れていたのではないか。そしてこの地図はそれにまつわるものではないか、と仮定して研究解読を進めました」

「すごいじゃないですか」

「しかし古代語の解読はある程度理解できて地図の地点も例の採石場の辺りだというのは解ったのですが、ついぞこの古代文明が神代を指しているのか判明せず、そして最後に書かれたなんらかの紋様はまったくの手掛かりも無くて…」

「なるほど、それで見切り発車で採石場へ…」

「ですが、この陶磁器です。この紋様は存在した。きっと解析を進めれば手掛かりがっ」

「神代で間違い無いですよ…たぶん」

「え、…」


話を聞くにこれ以上の専門家もそう居ないと判断してこれまでの顛末を話すと終始感嘆しきりであった。そして例の光る紙に映る古代文字の解読を頼んでみると奪うように飛び付いた。それから馬車を見せたりしていると大分打ち解けることができ、明日に今一度一緒に採石場へ向かう事になるのであった。


「大丈夫ですか、皆さん顔が青いですよ」

「問題はありません徹夜の一つや二つ慣れっこです。まあ興奮しすぎて寝れなかっただけですが」

「まあ控えめに言っても出来すぎてるからな」

「それでなにか解りましたか」

「まだまだですが、なにかを説明する文体ではあるようです。また アァーウェイ というのは目覚めるとかの意味が有るようです。古文書にも幾つか散見されましたのでよく使われた言葉なのかもしれません」

「なるほど。流石にこの荷台の説明では無いだろうから標準的に何かを動かす時に使われた言葉なのかも知れないな」

「その可能性は高そうです」


明くる日マティスさんはレントの後ろに、研究者達は荷台に乗せて採石場へ向かうとその途中破裂音が響いて来た。


「発破か、でかくやったな」

「ああ、もし貴重な遺産に傷が付いてしまったら…」

「急ぎましょう」


そうして急ぎ到着すると鉱夫達が何やら取り囲んで騒がしい。


「どうしたんですか」

「ああ、昨日の兄さんか。いや、でかめに削ったらよなんか穴蔵があってその中からなんか出てきたんだよ」

「ええっ、ちょっと見せてください」

「なんだ学者共も来やがったのか」

「まあまあ」


鉱夫達を分け行ってその出土品を確認すると、やはり見覚えのある模様と装飾が施された歪な形状の物質が地面に転がっていた。調べてみれば重量はそれなりにあるものの大きさ共々両手で持ち上げられる程のもので、その形状は歪でこそあれ欠けたり等もしていないことからそういう形状の物であるらしい。この形状は台形の板を斜めに傾けた状態でその中央から真っ直ぐ棒を生やしたような物だった。


「アァーウ#@¥$%&」

「好奇心の塊だな学者てのは」

「マティスさん一先ずここでは自重しましょう」

「…ええ、そうでした」


マティスさんの暴走を止めてからその穴蔵に入ってみると五冊のの本が散乱しているがそれ以外は特に何も見当たらなかった。


「親方、これ以外に何かありましたか」

「いやその読めない本があっただけだ」

「調査だとか始まるのか?」

「いえ、安心してくださいもうお邪魔することも無いでしょう」

「そうか、なら安心だ。再開するぞおおお」

「助言までに、今回の事は黙っといた方が良いですよそれこそ面倒な事になるかと」

「そうか、よくわからんがわかった」


私達は本と遺物を回収し、いそいそと研究所に戻ると早速実験を開始した。そして研究所の破裂をもって私たちはダムトスを去ることを決意する。


「これはいかんな。封印した意味がよく分かる」

「ええ、とんでもないです。土地が無駄に広くて幸いでした。伯爵様ありがとう御座いました」

「だから見切り発車は駄目だって言ったでしょうに」

「まったくだ」

「レント、あなたは動かした張本人でしょうよ」


今思えばそもそも荷台という恐らく安全な部類であろう遺物が初体験だったのが間違いだったのかも知れない。例のごとく アァーウェイ の一言で動きだし宙に浮いたまでは感動と興奮に沸き立った私たちだった。しかしそれに気を良くしたレントは得意に弄り始めてしまう。そして次の瞬間壁面に光線の網が張り巡らされ、その目が拡張すると四方八方細切れになった研究所は破裂した。暫しその場を無言が支配した。


「その、なんというか…」

「いえ、みなまで言わないで下さい。大変貴重な体験でした。皆感動しております」

「ええぇ…」

「…一先ずシワック殿にこの土地の返還をしてきます。皆は資料等荷物をまとめてください」

『はいっ』

「暫くお世話になります」

「ええ狭いですが…」


彼らが街を出るとあればその後ろめたさもあって乗せない訳にはいかないだろう。厄介(超文明)を背負い込めば一蓮托生、私は気ままな一人旅はもう諦めている。ちなみにマティスさんによるとシワック殿は大層な笑顔だったという。


ダムトスを後にして我々は平原の街道にて休憩を取っていた。休憩とは言っても14人もの研究員達は新たに増えた古文書を含め解読作業を続けており忙しい。それを横目に私、レント、マティスの三人は今後の方針を練っていた。


「さてどうしますかね」

「順次解読、研究は継続して行って行くとして謎があります」

「謎と言えば謎だらけだがな」

「そもそも伯爵は如何にして神代遺跡群島などという伝説を突き止められたのか、そして何故マルコフという方にそれを頼まれたのか全くの謎です」

「え、何も聞いて無かったんですか」

「ええ、全く。もちろんマルコフなどという人物も私は知りません」

「変な話ですね。伯爵はあなた方と研究されていたんですよね。なにか発見すれば共有しそうなものだと思うんですが」

「そうなんです。あり得ないんですよそんなこと」

「マルコフってのはどんな奴なんだ」

「マルコフは本業が海運業で大型の運搬船を持った船主ですよ。趣味で骨董を集めていてそれが高じて骨董商も片手間でやっています。以前競り合った事があってその時に知り合ったんです」

「なに競り合ったんだ」

「地図ですよ。宝の地図です」

「「宝の地図っ」」

「たまに出るんですよ胡散臭いのが。でも結局眉唾だったんですよね。競り落としたのはマルコフだったんですが、訳が分からないと泣き付いてきましてね。断片的な描かれ方をしている上に今と地名が異なっていたりして、私の持っている詳細な地形の地図を重ね合わせると、明らかに地形があやふやで有るべき陸地が無かったり存在しない場所が描かれていたりして。それっぽく描かれているだけでしたね」

「筆者はなんと…」

「あーなんだったかなぁ、ド、ド、ドル、ディそうだドルディですよドルディ」

「どうしたマティス、ぽかんとして」

「こ、古文書の筆者と同名…です」

「「えっ」」


何処かで古物商として伯爵と接触したマルコフは例の地図を売ろうとし、伯爵がドルディの記述を発見、そこに来て信憑性を帯びた地図の示された場所を特定し、マルコフに捜索を依頼した。と憶測でしかないがそう考えれば腑に落ちるところも多かった。結果何処かへ到達し件の陶磁器を持ち帰ったのだからそこが神代に由来する場所であるのは間違い無かった。


「神代遺跡群島と言うのだから洋上にあるのだろうな」

「先住民が居るという話ですしこの陶磁器の技術力からして相当な文明を維持しているようですね」

「先ずはマルコフという方に接触しなくてはなりません」

「うーん直ぐには難しいと思いますよ。たぶん海の上でしょうし」

「それに例の騎士達の事もある。ほとぼりが冷めるまでガラントとエルカンには近付かない方が良い」


協議の結果現在地から五日程のネストバ領に向かうことになった。エルカンと王都から比較的離れていてもっとも栄えている場所である。


「しかしこのまま皆さんを狭い荷台の中にと言うわけにはいきませんよねぇ…」

「少なくとも馬車がもう一台要るか。この馬車もしっかり作り直さなきゃならないし工房が要るな、どこぞ貸してくれると良いんだが…」

「お世話になります」

「いえいえ」


そんな会話をしている時であった。荷台から驚く声が上がり駆け付けてみれば一人の研究員が飛び出して来た。


「いったい何があったんですか」

「採石場の遺物についての記述らしきものが新たな古文書から見つかったんです。その文面も我々が解読していたものよりも読みやすくて…」

「いったいなんと書かれていたんですか」

「筆者も用途は推測でしか書けなかったようですが、操作方法とその効果についてが纏められていました。それで荷台で実験したいのですがよろしいでしょうか」

「ちょうど平原ですし外でやったほうがいいのでは…」

「それならば許可は取らんだろ。中でなければならない理由があるんだな?」

「ご明察ですレントさん」


私はもしかしたら研究所の二の舞になるであろうこの荷台に心の中で冥福を祈った。そしてそうなったらなったで肩の荷が降りるような、そんな淡い期待が芽生えたのはそうならない運命が嘲笑う為のようであったらしい。


「すごいなあ神代文明、今更だが」

「なるほどぉ、目には目を神代遺物には神代遺物をということですか」

「…解説いただいても?」

「はい、古文書に記載された内容は先程も言いましたが操作方法とその効果です。この台形の板部分に表示される様々な針はそれぞれに示された数値に合わせることで、空中に出現する光線の形を設定することができます。これを組み合わせていくことで大まかな範囲でですが自由に立体図を構成でき、最後にそれを前方か周囲に拡大させていき何らかの力を発生させるというものです。筆者はこれを掘削などを行う装置であると推測していました」

「ああ、思えばこれが出てきた穴蔵が妙に整然としてたな。これでやったのか」

「しかし筆者はこれを破壊工作に使用されることを恐れて封印したようです。これがあれば砦や城なども一瞬で木っ端微塵にできますので…」

「おおう…」

「ですが私たちは思考しました。そんなものが普通にありふれていたら文明などあっという間に崩壊していたのではと」

「確かに」

「そこでレントさんがこの荷台にどうやっても傷ひとつ付けられなかった話を思い出しました。そもそも神代ではこの装置程度ではどうにもならない物質で溢れていたのではと」

「そしてそれを証明してこうなったと…」

「結果から言えばこの遺物は掘削では無く、好きな形に空間を拡張する装置…でした」

「やったな馬車買わなくて良くなったじゃないか」

「また気楽に言いますね…」


先程の結果荷台の容積は約三倍にまで膨れ上がっているが、どういう訳か外形に変化は無くただ内部だけが広がってしまっている。世の理の果てし無さを目撃して概念を放棄し始めた我々の好奇心は暴走、もとい調子に乗って拡張を繰り返していた。


「どこまで広がるんだこれ」

「床は掘れずに天井は高くなるんですね」

「床面は素材が異なるのかもしれません」

「もはや出口がものすごく遠いですね…」

「戻るの大変だな馬車でも買うか」

「本末転倒も甚だしいですね…」


汗をかきつつ出口に向かえば皆一様に計画性の尊さを学ぶ事となった。


街道は草原を越えると大きな河に当たる。その上流を目指せば山林に入り渓流の小川を眺めて道は緩やかに登り始めた。ネストバ領の豊富な山林資源は有名で、材木加工を中心とした産業が盛んでその往来も頻繁に行われている。その事から近付くに連れ行き交う人や馬車の数も増えていき街道脇に村々が続き次第に活況に包まれていく。そしてついに中心地である領都に到着することとなった。私たちは停車場に馬車を停めて荷台に乗り込むと会議を始めた。


「特に障害も無くネストバ領都に入れた訳ですが…」

「俺の作った即席の壁のお陰だな」


検閲を考慮して街道脇の村で木材を購入しレントにさも通常の荷台の内部であるようにハリボテを作ってもらっていた。


「これより皆さんには純金貨を配ります。それぞれ必要な物を買って崩して来てください」

「よろしいので?」

「純金貨なんてそう使うものではないですが、さすがにこれだけ溜め込んでいるわけにもいきません。どうせ使うなら分散して使った方が怪しまれませんし崩したお釣りも手に入りますから…」

「私が言うのもなんですが、研究者に金を渡すとほぼ残りませんよ」

「えっ、」

「まあ先行投資だな」


沸き立ち旋風のように馬車を飛び出して行く研究員達を見て、シワック殿の気持ちを多少理解した私であるがレントの言に納得することにした。これまでの道中で私の行商規模を拡大すると共に彼らにも手伝って貰う事になり、その見返りとして彼らの研究を支援していくという方針で決まった。同時にレントの工房を荷台の中に作り移動工房としても運営していく事となった。


「先ずは馬車にしっかりとした改造をしなくてはならないから工房を借りねばならない」

「材料も集めなくてはならないですね」

「いやそれは工房主に手配させた方がいい」

「なるほど、では選定は任せました」


そうして皆が動き出し私が一人馬車に残って一息吐いていると、篭を背負った物売りの子供達が近づいて来た。


「お兄さんネストバ名物の果物はいかがですか。乾燥させて保存の効く物もありますよ」

「おや、見ないものがありますね」

「ああそれは最近品種改良てのをして人工的に作った物だよ。甘くて美味しいよ、ちょっと値は張るけど」

「へえ、人工品種が成功するなんて珍しいですね。乾燥させた物はありますか?」

「あるけど…高価だから店にしか置いてなくて…」

「じゃあまとまった量を買うからと店主に伝えてきてくれますか。何分今は動けなくて」

「分かったあ」


そう言って子供の一人が足早に走って行った。待っている間に残った子供達に最近の街での出来事などを聞いてみると、王都から神力選定士が来たという話があった。神力とは神代に人類が使用した能力で様々な超常現象を操るという。稀に現代でも先祖帰りの如くそのような特異性を持った子供が生まれるが、非常に目立つ上国も網を張っているためすべからく王城に召し上げられているらしい。その時分に審議も含め派遣されるのが神力選定士と呼ばれる者達である。とはいえその多くが眉唾で徒労に終わるのだとか。


「それで誰か召し上げられたんですか?」

「うん今回は本物だって男の子の赤ちゃんが」

「へえ、私はまだ見たことないんですがどんな能力だったんですか」

「泣き声で地震を起こしたんだ」

「それはまた…」


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