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序章 旅立ちの前に

○春山の恵み


日差しの心地よい昼下がり、森の木々は風に揺れ飛ぶ鳥の(さえずり)りが心地よく響いていた。

森には道らしい道はなく、自然のままの姿で広がっている。

そんな森の中、2人の少年と少女の姿があった。


「ゆい~、もう十分集まったから、そろそろかえろ~」

「わかった~、すぐそっち行くね。」


2人が持っている、かごには初春に取れる山菜がいっぱいに詰まっていた。

ゆいと呼ばれた少女は、春先の草丈が短く茂った山の斜面をなれた足つきでするする降りてきた。

そして、少年の目の前まで来て、かごいっぱいの山菜を見せつけるように差し出し自慢げにしている。


「どうよ、あおちゃん!いっぱいとれたでしょ」

「すごいね、さすがだよ。ぼくもいっぱい取れたよ」


2人は互いの収穫物を見せ合って、満面の笑みを浮かべていた。


「今日は、ごちそうだね。先生もきっと喜ぶよ。さっき、取った竹の子はどうしたの?」

「竹の子は重いから、皮を取ってから新聞に包んで|麓≪ふもと≫に置いてあるよ。」

「じゃ、拾ってから帰ろ。」


2人は麓まで降りて、竹の子を拾ってから帰路についた。


日はまだ高く昼過ぎ位だろうか、すっと広がる空には薄い雲がたなびき、春特有の少し冷たく強い風が吹き抜けていった。

森を出た細い車道には車の姿もなく、両脇には次の田植えの季節を待つ何も植えられていない田園が広がる。


少年は車道に置いてあった一輪車に収穫物を乗せ、ゆっくり押し始めた。

「ゆい、忘れ物ない?」


少女は一輪車の中を覗き込み、収穫物を確認していた。

「こごみ、のびる、せり、ぜんまい、わらび、たらの芽、うど、わさび、竹の子・・・よもぎがないよ?」

「あっ、よもぎは竹の子と一緒に入ってるから大丈夫だよ。」


少女は少し考え込んで、


「ばっけ味噌はしないの?」

「ちょっと、季節が遅かったかな。もっと若芽でないと苦すぎてちょっと食べれないよ。」

「そっか、雪解けぐらいに出てくるのが丁度いいものね。また、来年・・・」


来年と言いかけて、口ごもった。


「残念だけど、来年は難しいかもね。明日には施設を出て、いつ戻って来れるかも解らないし。」

「そうだね、もう荷物送っちゃったし・・・」

「先生にはいっぱいお世話になったね。」

「うん、ほんとのお母さんみたいだったよ、ずっと一緒だったのに・・・

 あぁ~あ、この生活も終わりか。」


少女は何かを(こら)えるように空を見上げた。


「しかたないさ先生もお歳だし、僕たちが最後の青葉の家の生徒だから・・・」


少年も晴れ渡る空を見上げ、”ふぅ”と吐息を漏らした。

明日から、共に生活をしていた家族と別れそれぞれの生活を歩み出す。

2人は心中にあふれる郷愁(きょうしゅう)を、独立の決意で押し込めていた。


少女は自分を奮い立たせるように、真っ直ぐ前を見みた。

「よ~し!帰ったら頑張って、ごはんつくるぞ!あおちゃんも帰ったら、すぐにあく抜きしてね。」

「了解!メニューは決まってるし、皆に喜んで貰えるように頑張るよ。」

「そうだねがんばろう!」

「「おぉ~~~!」」

2人は、お世話になった先生への僅かばかりの恩返しと最後の夕飯を振る舞うと決めていた。



2人が暮らしている、青葉の家は少し大きめの民家を改装した養護施設で、当時は幾人か居た職員も去り、今は先生と呼ばれている青峰 梅(あおみね うめ)御年65歳が1人で切り盛りしていた。


2年前には、8人の子供が青葉の家で生活を共にしていた。

閉鎖が決まった2年前から共に生活をしていた小中学生の子達は、里親に引き取られたり、年度が変わるタイミングをみて別の施設へ移っていった。


遠見 由衣音(とおみ ゆいね)朝霜 葵(あさしも あおい)は、高校卒業も近く共に自立の目処が立っていた事から、青葉の家で高校卒業まで生活することとなった。

施設の閉鎖もこの2人に合わせて貰っていた。




○先生と生徒の料理


青葉の家に着いてすぐに葵は屋外の洗面所で、種類毎に取ってきた山菜を洗い始めた。


「ゆい~、山菜のあく抜きはお米のとぎ汁でよろしく~」

「解った~、炊き込みご飯から準備始めるね~」


由衣音は勝手口から台所に上がり、台所の窓を開けて外にいる葵に声を掛けた。


「あおちゃん、あく抜きで吹きこぼすのにコンロ足りないよ。」

「大丈夫、外でもカセットコンロでやるから、竹の子はぬか使うから外でやるよ。」

「了解!じゃ、他のは洗い終わったら中にちょうだい。お湯沸かしておくから。」

「あいよ~」


2人は料理も梅先生に教えて貰ってよく一緒に作っていた。

由衣音は葵から受け取った山菜を慣れた手つきで、下ごしらえを次々終わらせていく。


「ふぅ~、さすがに量が多いな、がんばりますか」


葵は寸胴鍋に小さめの竹の子を縦に二つに切ってから敷き詰め、たっぷりの水と()()()()()のぬかを入れて強火に掛け煮立つのを待ちながら先生の言葉を思い出していた。


『そう言えば、よく先生が言ってたな』

『料理は味付けも大事だけど、素材の味を出すための準備が大事なのよ、丁寧に下ごしらえをした材料は、味付けしなくても美味しいのよ。』



下ごしらえを淡々とこなしていると、ぱたぱたと廊下を歩く音が近づいて来た。

「あら、ゆいちゃんもう帰っていたの早かったわね。」

「あっ、ただいま先生。」

「おかえりなさい。あおちゃんは?」

「あおちゃんには、外で竹の子のあく抜きしてもらってるよ」

「もう2人ともすっかり手慣れた物ね」


先生は、やさしい笑顔を浮かべ嬉しそうにしていた。


「ゆいちゃん、私にも手伝わせて。」

「先生はゆっくりしてて、今日は私たちが先生と先生の家族に振る舞いたいの。」

「そう・・・その気持ち嬉しいわ、でもね、一緒に作りたいの手伝わせて、2人と一緒に居られるのも今晩までなんだものいいでしょ。」


先生は由衣音の手に自分の手を重ね、少し寂しそうな笑顔でお願いしていた。


「先生ありがとう、私も一緒がいいです。一緒に美味しいごはん作りましょ先生」


由衣音は先生の手を両手で握り返し、少し瞳が潤んでいた。

「やっぱり、先生の手は温かいな。」

「あらそう、ゆいちゃんの手も暖かいわよ。さぁ、なにから手伝おうかしら。」


湿っぽくなりそうだったのを察し、先生は料理に意識を向けるように促した。


「でしたら先生お得意の炊き込みご飯をお願いします。山菜のあく抜きは終わってます。私は、天ぷらの準備しますので。竹の子はあおちゃんに聞いて貰えます。外に居ますので」

「わかったわ」


先生はつっかけを履いて、勝手口から出た。

「あおちゃん、おかえりなさい。」


葵は勝手口から直ぐの台所と迎えあわせにある、洗面台であく抜きを終えた竹の子を丁寧に洗っていた。

「先生ただいま。話し声は聞こえてましたよ、この竹の子お願いします。」


かなざるに水を切った竹の子が、小山のように積まれていた。

「あら、こんなにたくさん。すごいわね。」

「えへへ、頭が出かけた物だけを選りすぐってきましたからきっと美味しいですよ。」

「これは、腕が鳴るわね。とびっきりのお料理に仕上げるわね。」

「はい、楽しみにしてます。洗い終わったら、僕も中で手伝いますね。」

「えぇ、お願いね。」


先生は、竹の子を受け取って中に戻っていた。

後に残った洗い物を片付け、綺麗にしたカセットコンロを抱えて、葵も勝手口から中に入っていった。


台所は2人の生徒と1人の教師の楽しげな会話と、優しい時間に包まれていた。



○やさしい夕食(ゆうげ)


日も山間に差し掛かり空は、西の赤から東の濃い藍色へと続いていた。

濃い藍色の空は、上弦の月と星を引き連れて徐々に夜へと染め上げつつあった。


「コン・コン・コン」

青葉の家の玄関に下げられた板木を叩く音が来客の到来を知らせた。

ドアホンも着いているが、目立つためか来客はもっぱら板木を使う。

この板木は葵が中学生の頃に技術の授業で作成した物を、梅先生がいたく気に入り、青葉の家の玄関に5年ぶら下がっている。


「はいはーい」

音を聞きつけた、由衣音がパタパタとスリッパを鳴らし玄関へと向かった。


「やぶんに失礼するよ」

「こんばんは由衣音ちゃん」

「こんばんはゆいちゃん」

「いらっしゃい、(ひろし)さん、知己(ともき)さん、(あかね)さん、食堂で準備出来てますよ。どうぞ上がって下さい。」


青峰 弘は梅の夫で農業の傍ら、時折、青葉の家を手伝っていた。

青峰 知己は弘と梅の子、そして茜は知己の奥さん。

知己と茜は、由衣音と葵の後見人をしてくれていた。



食堂には10人程が座れる大きなテーブルに、多くの料理が並んでいた。

肉や魚は控えめで、和洋折衷取り留めなかったが、どれも、梅、由衣音、葵の思い出深い料理が並んでいた。


・山菜の炊き込みご飯

・竹の子とわかめの土佐煮

・こごみの胡麻和え

・せりとぜんまいと椎茸のナムル

・わらびのおひたし

・山菜のアヒージョ

・豆腐と油揚げと大根の味噌汁

・山菜入りの肉じゃが

・のびるのパスタ

・ぶり大根

・たらの芽とうどの天ぷら

・山菜とにんじんの白和え

など


6人では席の余るテーブルに皆が付いた所で、葵が幹事役を始めた。


「えっと、みっみなさん、青葉の家の最後のご飯に集まって下さりありがとう御座います。」


少し緊張し、慣れない敬語にどもりながら由衣音と考えた挨拶を始めた。


「僕とゆいがそれぞれ別の施設から青葉の家に来たのは5歳の頃でした。それから、13年間青峰の皆様には大変お世話になりました。家族のように接して頂き、本当にありがとう御座います。


弘さんには、言葉遣いや工作、畑や山の事をたくさん教わりました。過ちをちゃんと怒ってくれてありがおう。本当の父さんと思ってます。


知己さん、茜さんには学校行事に父さん母さんの代わりに参加して貰いました。また、勉強を教えてくれたり、釣りや旅行にまで連れて行ってくれてありがとう御座います。知己さん、茜さんは僕たちの兄さん姉さんです。


そして、梅先生、先生にはいくら感謝してもしきれません。僕たちの毎日の食事に洗濯、掃除、殆ど休みなく長年僕たちの生活を支えてくれました。そして、先生には言葉では言い表し切れないですが、人として大事な幸せ、やさしさを教わりました。僕たちをここまで育ててくれて、ありがとう御座います・・・ほんとうにありがとう・・・」

「私からも言わせて下さい。梅先生、本当にありがとう。大好きです。」


葵と由衣音は梅先生に抱きつき、堪えていた別れの寂しさに泣き崩れた。


「わたしも、あおちゃんとゆいちゃんの事は本当の息子、娘の様に思っているのよ、私だって別れるのはさみしいわ・・・


でもね、あなたたちはこれから大人になっていくの、この青葉の家から巣立っていった、先輩達のように、立派になることを祈っているわ。だから、寂しさに負けちゃダメ、私も頑張るからあなたたちも頑張りなさい。」


「「はい、先生!」」


ひとしきり3人で泣いた後、弘が優しく声を掛けて取りなしてくれた。


「ほら、3人とももう泣き止みなさい。葵も由衣音は俺たちの家族じゃないか、またいつでも帰って来なさい。今晩は、葵と由衣音の門出を祝いの席でもあるんだ。ほら、お前も笑顔で送り出してやらなきゃどうするんだ。それに、せっかく葵と由衣音が用意してくれた料理が冷めちまう。皆でたのしくやろう、な・・・」


「はい、あなた・・・すみません。じゃ、あおちゃん、ゆいちゃん食べましょ」


知己と茜も、ぽろぽろと涙を零しながらも皆に飲み物を配り。

知己が乾杯の音頭を取た。


「さぁ、葵君と由衣音ちゃんの門出を祝おう。そして、母さん長い間、お勤めお疲れ様でした。乾杯!」

「「乾杯!」」


その夜の夕食が始まった。


「あぁ、やっぱ先生の炊き込みご飯と、味噌汁はおいしいな。」

「ほんとおいしいね、あおちゃん」



○葵と知己


お酒が入っているからか、知己が葵の肩に腕を回しややからみ気味に話をしていた。


「なぁ葵、向こうの世界に行っても、ちゃんと由衣音ちゃんのこと守ってやるんだぞ。」


「はい、まだ解らないことばかりですが頑張りますよ。」


「確かに、よく解らんな。正直俺は、そんな訳の解らん世界にお前達を行かせたくないけど・・・

お前達が決めたことだ。応援するしかないじゃないか。」


「知己さん、僕たちが自立するにはどの様な道を選んでも困難だから。だったら、国の補助が確約されていて、僕たちにしか出来ないことをするのがいいって。ゆいと決めたんだ。」


「でもよう、安全なのか?異世界で魔王と勇者やるって、どこぞのゲームでも物騒なイメージしかないぞ?お前達同士で戦う事はないとは説明は聞いているがいったい何やるんだ?」


「どうも、国交の安定を図るための祭司みたいな役割らしいけど。僕たちはそのための適性があると説明してくれたかな。あとは、この世界と異世界の外交をすると。」


「あぁ、そんなこと言ってたな、外交役に2名大人が同行するんだっけ?」


「異世界との交渉役として一緒に行くらしいです。転送出来る回数や物量にはかなり制限があるって言ってたかな。結局、持って行ける物は検査を通った蜜柑箱1つ分ぐらいの衣服と筆記用具ぐらいで、後の荷物は、都市部に購入して貰ったマンションに置いとく事になりそうかな。」


知己は、苦虫を噛みつぶしたような複雑な表情をしていた。


「親父や母さんの手前、俺がこんな事言うのも何だが、お前達は良い子に育ちすぎた。あまり、人を信用しすぎるなよ。あと、身を守る手段を真っ先に学べ、それが由衣音ちゃんを守る事にもなるだろう。」


「解ったよ知己さん、ありがとう。」


「よし、しっかりやれよ、年に数回は戻ってこれるんだろ。そん時はちゃんと顔出せよ!」

「うん、帰って来るよ。」



○由衣音と茜


「うぅ~、ゆいちゃんやっぱ行っちゃやだよ。さみしいよ~」


茜は、由衣音の腕を抱いてぴったりとくっついていた。


「茜さん、私もさみしいよ。だけど、あおちゃんと決めたことだから頑張ってきたいんだ。」


「でも、ゆいちゃんが勇者で、あおちゃんが魔王するんでしょ?やっぱ、物騒なイメージしか沸かないよ。今からでも止めようよ。剣も魔法も使えないでしょ無理だよ。」


「どうも、戦うとかでは無いらしいです。自然の声を聞いて、調停?というのをするらしいです。」


「何度聞いても理解出来ない、それ、ゆいちゃんやあおちゃんがやらないとダメなの?そんなの、向こうの世界の人がやればいいじゃん。」


「それは考えたのだけど、なんでだろうね。説明に来てくれた人は適性が高いからとしか言ってなかったかな。でも、私とあおちゃんにしか出来ない事だから頑張りたいんだ。」


「そっか、でも無理しちゃダメよ。辛くなったらあおちゃんと帰っておいで、ここがゆいちゃんと、あおちゃんの家だからね。」


「うん、茜さんありがとう。」


夜は更け、日替わり近くまで語らいは続いた。



○旅立ちの朝


外が白け始めた頃、梅と茜が台所に立っていた。

普段と同じ朝食、炊きたてのご飯と、卵焼き、ほうれん草のおひたし。

麩の味噌汁は、ネギと味噌を入れずに火を止める。

塩鮭もグリルで生のまま置いておく。

起きてきた顔をみてから仕上げで丁度いいのだ。


「茜さん、お弁当詰めるの手伝ってくれる」

「はい母さん」


言葉数も少なく、いつも通りの朝食とお弁当を2人で作っていた。


身支度を済ませた、葵が食堂に顔を出したのは、それから30分程経った頃だった。

「おはよう、先生、茜さん」

「おはよう、あおちゃん」

「おはよう、ずいぶん速いわねもう少しゆっくりでも迎えの時間までは時間あるわよ」

「先生それが、やっぱ落ち着かないからかな、やっぱ目が冴えちゃって・・・」

「そっか、じゃちょっと待ってて仕上げるから」


それから暫くして、由衣音も食堂に来た。

「先生、茜さん、おはようございます。」

「「おはよう」」

「あおちゃんも、もう起きてたんだ。あはは・・・」

「うん、やっぱりちょっと緊張するね。」

「そうだね・・・」


焼きたての鮭に、味噌汁、暖かなごはん

いつもと同じ、このままずっと毎日が繰り返されるような朝食

だけど、別れの時間に刻一刻(こくいっこく)と近づいていった。


「あおちゃん、ご飯のおかわりは?」

「茜さん、ありがとう貰います。」


茜は、よそった茶碗を葵に渡しながら、由衣音にも聞いた。


「ゆいちゃんはどうする?」

「お味噌汁をもう少し貰えますか。」

「はい」

「ありがとう」


湯気の立ち上る、お椀を由衣音は大事そうに両手で受け取った。


由衣音は二年前の人数が多かった頃の活気に満ちていた時の事を思い返していた。

毎朝ドタバタして慌ただしいけど、寂しさとは無縁で楽しい毎日だった。


二年前に閉鎖が決まってから一人ずつ青葉の家を去って行った。

一年経った頃には、朝食の食卓を囲むのは今居る4人にまで減っていた。

それからは、今日まで殆ど毎日変わらず、この4人で朝食を取っていた。


弘や知己は職場が遠く少し早いので朝食を共にすることは少なく、青葉の家の隣に立つ、青峰の実家で朝食を取っていた。いつも茜は弘と知己の朝食を準備してから青葉の家に手伝いにきていたのだった。



いつもと変わらない、朝の穏やかなここちのよい時間がゆっくりと過ぎていった。


しばしの時間が過ぎ、時計の針が午前7時半を指したとき。

「ピンポーン」

青葉の家ではあまり使われる事の無い、ドアホンの無機質な音が響いた。


「もう来たのね、ゆいちゃん、あおちゃん頑張ってきなさい。」

「「はい、先生」」


4人は席を立ち、玄関へと向かった。

玄関先では、弘と知己が待っていた。


「いってきます。」

「いってきます。」


「あぁ、がんばってこい。」

「ちゃんと帰ってこいよ。」


弘の激励と知己の返答に送られながら玄関を開けた。


外には、高そうなセダンが止っていて、ぴしりと整えられたスーツに身を包んだ若い男女の2人組が迎えに来ていた。


説明に来ていた人たちとは違っていた。

男性の人が、先生に近づき名刺を渡し、簡単な挨拶を交わしていた。


「葵さん、由衣音さん、お迎えに来ました。異世界外交担当の黒木 努(くろき つとむ)と申します。私と、こちらの新田 美奈(にった みな)が、葵さんと由衣音さんと共に異世界まで同行致します。」


「初めまして新田 美奈(にった みな)と申します。葵さんと由衣音さんの安全は私共が責任を持ってお守りしますのでご安心下さい。」


先生は、不安で複雑な表情で

「どうか、よろしくお願いいたします。」

とだけ返答した。


「では、葵さん、由衣音さん車の方へ。」

新田に促され、後部座席に乗った。


「「いってきます。」」

「いってらっしゃい。」


僕たちは、最後に先生と一言だけ交わして、異世界への旅路についた。



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