第8章 狂気の殺し屋
その日美鈴の誘拐に2度失敗した秋札は再び会議室に呼び出され、円形の机の中央に立って腰のあたりで手を組んでいると、彼を囲むように座っている幹部達のうち1番太っている男が秋札を睨みつけながら、
「お前は笠岡の抹殺に2度も失敗しておいてよく戻ってこれたよなぁ?」
と見下したような口調で言うと手をひらひらと振りながら、
「まぁいいよ、君の処分は後でする事に決まっているし……とりあえずは謹慎を言い渡す事になったから部屋で休んでいなさい、それに君の後任はもう決まっているから心配するな」
そう言われた秋札は驚いた表情で太った男に、
「俺の後任……ですか?」
と尋ねると彼は頷き含み笑いをしてから、
「ああ、君の変わりは藤松君に行ってもらう事になった」
そう断言された秋札は次に顔を青ざめながら、
「あの『狂気のピエロ』を使うのですか? 彼は場所も考えないようなやつです、少し危険ではありませんか?」
と抗議するが太った男はまた彼を睨みながら、
「2度も失敗している君が言える立場なのか?」
そう言われ秋札は目をそらせるように俯き、
「いえ……」
と返事をしてから頭を下げて会議室を出た秋札は廊下を歩いていると聞き覚えのある声に呼び止められタバコをくわえながら振り返ると、案の定赤金が走って近づいて来ていたので秋札は止まると赤金は目の前で止まると開口一番悔し気に眉根を寄せながら、
「指揮権をあのガキにとられたって本当ですか⁈」
そう尋ねられた秋札が答えようとした時赤金の背後から首筋に刀を当てられ彼が乾いた悲鳴を上げていると、
「そうだよ? ボクちんはそこで突っ立っている無能な元指揮官様よりは強いからね……どう? 今すぐ殺り合っちゃう?」
と少年が不気味な微笑みを秋札に向けながら言うが彼は目を反らすと、
「いや、やめておいた方がいいな、こんな場所で殺し合っても止められて地下牢行きだ、俺はそうなりたくないんでね」
そう言ってから赤金に突きつけられている刀を掴むと、
「そろそろ俺の部下を離してくれないか……?」
と殺気を込めた視線を向けて言い放つと彼はとても嬉しそうに瞳を細め微笑みながら、
「その眼……いいねぇ! 本当にボクちんを殺そうとしている眼だ! でも、出来るかなぁ? 君みたいな女の子に……?」
そうバカにしたように言うと秋札を挑発すると彼は少年を鋭く睨みつけるが、思いとどまらせるように大きく息を吐き振り返るとまたタバコに火をつけ、
「あいにく俺はそんな挑発に乗るほど若くないんだ、残念だったなクソガキ」
と言ってから赤金に目配せすると彼は少年を投げ飛ばしてから秋札について行くと、座ったままの少年に秋札は手を振りながら、
「ま、せいぜい頑張ってください藤松さん」
そう言い放つと赤金と共に歩き去ると少年は歯ぎしりをしてから持っていた刀で壁に傷をつけてから先に去った2人とは反対方向に歩いて行った。
そして場所は変わり美鈴の誘拐未遂事件が起きてから誠と真人は彼女の通学に合わせて仕事や学校を終わらせていて、さすがに恥ずかしくなった美鈴はその日も校門前で待つ兄2人に、
「最近は何も起こってないし、もう大丈夫だから私の帰りに会わせないで!」
と言うと誠と真人は雷に打たれたような顔をしてから次に涙目で、
「み、美鈴はもう俺達が必要ないのか……?」
そう誠が言ってから真人が初めて気づいたように、
「ま……まさか反抗期⁈ もう家には帰らないとか言うんじゃないだろうな!? そんな事僕達は許さないからな⁈」
と思考がおかしな方向になり泣いてしがみつく2人を好奇の目つきで学校から帰る人達が見ていたので、さらに恥ずかしくなった美鈴が口を開けた瞬間後ろから、
「何をしとるんや、大人が子供困らしたらあかんで?」
そう呆れた声がして誠と真人が振り向くとそこには呆れた表情の荒石が立っていて、彼はさらにため息をつくと美鈴の腕を引きよせると、
「笠岡はオレが家まで送るんで心配せんと待っててくださいよ」
と言うと美鈴を連れていつの間にか集まっていた幸貴達と共に校門を出て行き、それを2人は呆然と見送っていてその様子を美鈴はなんども振り向いていると荒石が、
「そんなにあの過保護な兄ちゃん達が心配なんか?」
そうため息をつきながら尋ねると美鈴は申し訳なさそうに微笑み、
「そういうわけではないんです……ただ今までは誰も守ってくれなくてずっとお兄ちゃん達が助けてくれてたから不思議な気持ちで……」
と言うと俯いたので荒石は一つ咳払いをしてから美鈴の方へ向き笑顔で、
「よっしゃ! そしたらオレらが兄ちゃんの代わりに守ったる! やからそんな悲しい顔すんなや」
そう言われた美鈴は顔を赤くしながらも笑顔で、
「ありがとう」
と言ってから幸貴達を見回すと、
「皆もよろしくね!」
そう微笑んで言うと彼等も嬉しそうに微笑み春希が、
「俺らは姫を守るためならなんでもするつもりだから覚悟しといてくれよ?」
と悪戯っぽく微笑みながら言うと美鈴は満面の笑みで頷きそれを見た荒石は手を叩いて大きな声で、
「絆がより深まったところで、今から皆でオレが行きつけの店に行かへん? そこのケーキとコーヒーがめっちゃうまいねん……で……」
そう途中まで言ったあと突然倒れ呆然とする美鈴に向かいナイフが飛んでくる事に気付いた春希が、人差し指と中指で止めて落とすとナイフを投げた方向を睨みつけるとそこには1人の男の子しかおらず、警戒しながら見つめていると彼は見た目とは違い恐ろしく残酷そうな笑みを浮かべながら、
「ボクちんが投げたナイフを指2本で止めるなんて、さすが鬼だね! 身体能力が高いってのは本当なんだな、でも……もう使い物にならないでしょ? その腕」
と春希の腕を差しながら言うと全員が彼を見るので春希は苦し気な息をしながら、
「正解だ……あのナイフになに仕込んでんだ? クソガキ」
そう睨みながら言ってから膝をつくので美鈴が近付いてみてみると指から肘にかけて赤黒くなっていて、息を呑んでいると男の子が楽しそうに笑うと、
「その毒は魔法で出来てるから同じ魔法でしか解毒できないんだ、残念だったねぇ? もうすぐその鬼は死ぬよ」
と言っていると幸貴が怒りで顔を歪ませて走り出すと力いっぱい男の子を殴り倒したので美鈴が魔法の鎖で締め上げて止めると、
「なんで止めるんだよ姫⁈」
そう叫ぶので彼女も怒りで満ちた顔で、
「幸喜にはもう辛い思いをしてほしくないから、だから止めるの‼」
そう言うと幸貴を鎖で縛ったまま男の子の前で膝をつき胸倉を掴むと魔法で出したナイフを突きつけ睨むと、
「春希の毒を解いて、じゃないとあなたを刺すわよ⁈」
と言いながら首元にナイフを当てると男の子はなぜか嬉しそうに大きな声で笑いだし、
「面白いじゃん‼ やってみろよ、その全く穢れを知らないような手で本当にボクちんを殺せるとでも思ってるわけ⁈」
そう挑発するように叫ぶと美鈴は何かの糸が切れたようにナイフを振り上げると唐突に後ろから綾子が落ち着いたようすで美鈴の手を掴み、
「はい、そこまで! 美鈴、それを放しなさい……早く」
と睨むように言うが美鈴は荒々しい息で聴こえていないのか放そうとしないのでため息をつくと、手刀で彼女の気を失わせてから抱きかかえ幸貴達に預けると男の子に冷たい視線を向け、
「娘が……失礼したわね、でも次に会った時はあなたはもう生きていないわ」
と言って睨むと男の子は突然狂ったように笑いだしたので全員が警戒していると、彼はふと笑う事をやめ同年代の子はしないような禍々しい笑みを向けると、幸貴達は背筋が凍る思いで固まり旋律させていると男の子が、
「ボクちんを殺すの……? そんなの出来る訳ないよ、だって生まれた時から人を殺す技を身体に叩き込まれたんだ、普通の10歳だったら出来ない事をボクちんは出来るんだよ? それをおばさんになんかできっこないよ!」
そう言われ今まで冷静だった綾子は目を見開くと驚愕の面持ちで、
「あなた今10歳なの……? それじゃあ今まで何人殺したの?」
と尋ねると男の子はつまらなそうに息を吐くと、
「ボクちんがいた組織を裏切った奴を入れて300人だね、どいつも弱くてすぐに『助けて』なんて言うから思わずゆっくり殺してしまったんだ」
そう楽しそうに話す男の子を綾子は見つめてからため息をつくと、
「あなたはもう『戻る事』ができなくなっているみたいね」
と呟くと目には見えない程のスピードで男の子に近付き途中で出した剣で彼の胸を貫くと、男の子は呆然としていたのだが次に血を吐き倒れると消え入りそうな声で、
「な、なんでボク……ちんは……強いはず、なのに……」
そう言うと綾子は唇を噛み締めてから、
「いくら強くてもあなたはまだ子供よ、おそらく利用するだけしてすぐ捨てるための駒にすぎなかったのよ」
と悔し気に言ってすでに息絶えている男の子を抱えると美鈴を幸貴達にまかせ、荒石を笠岡の息がかかった病院へ運ぶとどこかへ行ってしまい、荒石は手術をしたのだが無事に一命をとりとめ戻って来た綾子は彼の両親を呼び説明をして頭を下げると、彼等は頷き合ってから荒石家の事を話だしたので綾子は驚きで言葉が出ず固まっていて、その理由というのが彼らの祖先は代々笠岡の当主を影で護衛をする忍びの家系で、幕末の動乱期に自然消滅してしまったのだが忍びとしての技術は伝わっていて、今の代でも衰えてはいないという事を説明され、綾子はしばらく考え込んでから彼らに、
「笠岡家は今、裏魔導士会という非合法の組織に狙われ、次期当主である娘に限っては命を狙われいます……不躾な願いとは思いますがもう一度我々を守ってはくれませんか?」
そう言い頭を下げると荒石の父、信治がため息をつくと綾子の前で膝をつき、
「頭を上げてください、これから俺らが命を懸けてあなたをお守りします」
と言うと頭を上げ呆然とする綾子の前で荒石の母、香歩も膝をつくと微笑み、
「実は俺らが大阪から出てきた理由というのは家宝の勾玉が黒くなったからなんです、荒石家の言い伝えでは勾玉の色は笠岡家の行く末で、赤は良好を、黒は破滅を意味するんです、でも数年前まで赤かった勾玉が1年ほど前から黒くなったんで、心配やったんですが……やっぱり来てよかったと思います! 次期当主を守る事ができたんですからホンマによかったです」
そう嬉しそうに言ってから息子の寝顔を見つめながら、
「それに剣司は身体能力が高くさらに向上心もあるんで俺らからも娘さんを守らせてください」
と言い低頭すると綾子も嬉しそうに微笑むと頭を下げている荒石夫婦に手をかざし、
「これから笠岡の守護をあなた方に一任します……どうか尽力してください」
そう呟いてから魔法で首筋に笠岡の家紋を刻むと荒石夫婦は顔を上げ両家は手を取り合った。