第3章 敵の新たな動き
昼休みも半分ほど過ぎ準人とスイは教員室に戻り美鈴達も教室へ戻って席に着くと、今とばかりに春希の周りに女子生徒が一斉に集まり話しかけるので、困惑して固まっている春希を見ていた幸貴が笑い出しそれに気付いた春希は怒りで眉根をよせながら不機嫌そうに、
「なんだよ……」
と言うと幸貴はわざと笑顔をつくり、
「いやぁ、小野君が困ってるなぁと思って」
そう嫌味っぽく言うと春希は立ち上がり大きな声で、
「てめぇ喧嘩売ってんのか!?」
怒気を込めた声で言ったのだが幸貴は何食わぬ顔で、
「べつに? 僕は本心を言っただけだよ」
と言って微笑みかけたので我慢の限界を超えた春希が額に青筋を立てながら、
「表に出ろ!! 今日こそ決着つけてやる‼」
そう怒鳴ると幸貴も立ち上がり臨戦態勢に入ったのでずっと聞いていた美鈴は慌てて魔法の鎖を出すと2人に飛ばして動きを止めると、
「もう! 2人ともいい加減にして! 学校で喧嘩なんかしないで‼」
と言った後ざわつくクラスメイトに気付き美鈴は魔法の鎖を解くと傷ついたような表情で教室を出ていったので、幸貴達が追いかけようとしたがその時女子生徒数人に囲まれ手前の生徒が、
「大丈夫? さっき笠岡さんに何かされたんでしょう? あの人本当に意味わかんないよね、名家だか知らないけどなんか不気味だし、近寄らない方がいいよ?」
そう笑いながら言って同意を求めようとしていたので幸貴と春希は彼女達を睨みながら声をそろえて、
「うっせえ! 俺の勝手だ‼」
と怒鳴ると絶句している生徒達の輪から抜け美鈴を探して学校中を走って周るが見つからず幸貴はため息をついて、
「俺は外を探すからお前はスイと準人に伝えてこい、見つかったら場所を教えるから」
そう言うと春希は舌打ちをしてから、
「命令すんじゃねぇ、でもあれは俺にも非があるのは認めてやる」
顔を背けて言うと教員室へ向かい幸貴は教室へ戻り美鈴と自分の鞄を持って学校を出ると、美鈴を探すために校門前で眷属のカラスに頼むと走り出し、春希はスイと準人にこっぴどく叱られた後美鈴を探すために学校を早退した。
場所は変わり美鈴がいる場所をカラスが見つけ幸貴がそこへ向かうと、彼女は公園のベンチに腰掛け両手で顔を覆っていたので近づいて謝ると彼女は、
「みんなの前で魔法を使ったらよけいに孤立するってわかっているのに、何でいつもうまくいかないんだろう……? またパパとママに迷惑かけちゃうな」
と言いながら無理に笑顔をつくっていたので幸貴は拳を握ると、
「これからはなるだけ春希と喧嘩はしないから……姫に負担をかけないようにするからさ、だから無理に笑わないでくれ……俺達は姫の本当の笑顔が見たいから」
そう真剣な表情で言うと美鈴は顔をあげ嬉しそうに微笑んだ時突然耳鳴りがして2人が警戒していると、また洞窟の結界に囲まれたので魔力を解放して臨戦態勢に入りしばらくすると、奥の方から何かを引きずる音と共に以前より大きなゴーレムが現れたので、幸貴は剣を出して跳躍しゴーレムを止めようとするが思ったより動きが素早くゴーレムは攻撃を後ろに飛び難なく躱すと、空中で体勢を崩した幸貴を手に持ったこん棒で殴りつけ気を失った彼は地面に叩きつけられさらに彼の足を掴んで放り投げようとしたので、美鈴が慌てて魔法で風と刃を出すと札の右側を割き動きを止めると、風の魔法で崩しさらに集中して洞窟に見立てた結界を壊し外へ出ると、目の前にスイと春希と準人が汗だくで立っていて2人を見ると安心したように息をつきスイが美鈴に、
「大丈夫ですか⁈ お怪我は……?」
と心配そうに尋ねるので返事をしてから幸貴の手当てを頼むとスイは慌てながら、
「あの幸貴がケガをしたんですか⁈」
そう叫ぶと春希と準人もとても驚いた面持ちになっていたので美鈴は不思議そうな顔で、
「幸貴ってそんなに強いの?」
と尋ねるとスイたちは顔を見合わせてから春希が動揺したように、
「こいつは俺ら3人が束になったらやっと触れるくらい素早くて強いんだ、そういう意味では有名だな」
そう教えてくれたので美鈴は少し驚いたがすぐに考え込むとしばらくして、
「そんな強い幸貴が簡単に倒された事を考えると、私達はもっと強くならないとダメみたいね……」
と言ってから気を失っている幸貴を軽々と抱き上げると驚愕の面持ちで美鈴を見ていた3人に気付いた彼女はキョトンとして、
「どうしたの? 私、またなにか変なことした?」
そう尋ねられたのでスイがさらに困惑しながら、
「えっと……私が変わりましょうか? 重いでしょう?」
と言うが美鈴は平然とした顔で幸貴を抱えた腕を上下に上げて不思議そうに、
「全然軽いから大丈夫だよ?」
そう普通の事のように言っていたのでスイたちが引いているといつの間にか近づいていたシゲトシが、
「あの子は巨石も持ち上げる怪力じゃ、あの天狗ごとき羽根のようじゃろうて」
溜息をつきながら言っていたのでスイ達は顔を青ざめていたが美鈴は平然と幸貴を家まで送り届けた。
翌朝学校へ行くためにドアを開けた美鈴が外へ出ると目の前で頭を下げている幸貴に気付き驚いて、
「ど、どうしたの⁈」
と尋ねると彼は涙目で顔を上げると、
「姫を守るのが俺の役目なのに、全然守れなかった……それに加え気を失った挙句家に運んでもらうなんて……」
そう酷く落ち込む幸貴の肩に美鈴は手を置き、
「大丈夫よ、それに私を守る事に専念しすぎて自分の事を疎かにした方が私は心配するわ」
と微笑みながら言うと幸貴は俯くがすぐに顔を上げ、
「ありがとう、姫……これからは自分の事も大事にするよ!」
どこか吹っ切れた笑みで言うと美鈴も微笑み、
「じゃあ学校に行こ! 早く行かないと遅刻しちゃうわ‼」
そう言ってドアを閉めると幸貴と共に学校への道を歩いていると途中でスイが待っていたので3人で一緒に登校して教室に入ると、授業を受け放課後の掃除の時間になると今までサボっていた生徒が率先して掃除をしていたことに驚いていると、幸貴が近付き小さな声でそっと耳打ちをしながら、
「今まで姫がされていた事を全部準人に言ったんだ、そしたら今後掃除をサボったらプリントを10倍にするって言ってた」
と少し嬉しそうに言っていたので美鈴は呆気にとられた顔をした後微笑むと幸貴に、
「ありがとう、幸貴」
そう小声で言ってから嬉しそうに、
「今日は早く終わりそうだね」
と言いホウキで床を掃き掃除をすると普段より早く終わったので嬉しくて微笑む彼女をクラスメイト達は裏で睨みつけていたのだが彼女は気付かずに家へ帰るため支度をして学校を出た。
そして次の日登校するために家を出た美鈴は幸貴達と合流するために歩いていると、突然地面が揺れまた結界に閉じ込められた事に舌打ちをしていると悲鳴が聞こえ振り返ると、そこにはクラスメイト数人がいたので美鈴は驚いていると奥の方から重い足音が聞こえ、生徒達がまた悲鳴を上げたので美鈴は大きな声で怒鳴る様に、
「少し黙って‼ 集中できない‼」
そう一喝すると涙目で黙り込む彼らに微笑んだ後集中し魔法で光を創り出すと辺りを照らし、そのまま奥の方を見つめているとそこから5匹ほどの巨大な狼が唸り声を上げて現れ、さらに怯える生徒達を見てため息をついた美鈴は彼等に狼が見えないように結界を張り、さらに魔法で戦うための剣を創り出すと切りかかり初めは苦戦していた美鈴だったが、次第に狼の動きを理解してきて最後の1匹を倒すと荒い息を整えてから徒達の周りに張った結界を解き彼等を先に出すと、自分も結界を壊して出てきて巻き込んだことを謝ってから歩きだし、角を曲がると申し訳ないような表情の幸貴とスイがいて2人が美鈴に謝ると彼女は笑顔で落ち込んでいる彼らに、
「大丈夫よ! 私もあの人たちも怪我が無かったんだし、そんなに落ち込まないで‼」
と言ってまた歩き出し校門をくぐった時からなぜか見られていて、さらに小声でなにかひそひそと話し合う生徒もいたので美鈴が俯くと幸貴が、
「気にするなよ、姫はクラスのやつらを助けたんだ、むしろ胸を張ってもいいくらいだぜ」
笑顔でそう励ますとスイも小声で、
「そうです、姫は素晴らしい事をしたんだからもっと自信を持ってください」
そう言いウインクをしてから先を歩いて行くと幸貴がため息をついてから、
「あいつはいつもキザな事をサラッとするよな……俺には理解できねぇ」
と顔をしかめながら言っていたので美鈴は笑顔で、
「あれもスイの良い所だと思えばいいのよ」
そう言うと彼は少し考えてから、
「分かった、やってみるよ」
また顔をしかめながらも言っていたので美鈴は笑いながら、
「頑張って!」
そう励ましていると春希が突然、
「なんか楽しそうだなぁ、俺も混ぜろよ!」
と割って入って来たので驚いていると春希の後ろに準人が立っていて襟首をつかむと、
「こら! 姫を困らせるなよ、急に走り出したと思えばこれだ……今日の夕飯はなしにするぞ?」
そう叱られ春希が半泣きで慌てて謝っている様子を見た美鈴は吹き出すと声を上げて笑っていたので幸貴が安心したように微笑むと、
「教室に行くか‼」
と言って美鈴達が教室へ行きドアを開けると静寂に包まれたのでいつものように席に着くと、目の前に数人の女子生徒が集まるとすごい剣幕で、
「笠岡さん、さっきのアレは何なの? すごく大きな犬が何匹も! 私達死んじゃうかも知れないと思ってすごく怖かったのよ!? なのに説明もなしで謝るだけなんて納得できるわけないじゃない‼」
そう言われた美鈴は深呼吸をしてから、
「全てを話してもあなた達は納得しないだろうし、さらに危険な目に合うかもしれないから言えないの……でもさっきは本当にごめんなさい」
と頭を下げて謝ってから真っ直ぐな目を向けると何も言えなくなった彼女達は怒ったように美鈴から離れ自分の席に座ると、ちょうどチャイムが鳴り準人とスイが入って来きてホームルームが始まりその日も何事もなくすべての授業が終わり帰りの支度をしていると、廊下がざわついていたので幸貴が近くの男子生徒に尋ねると彼は興奮しながら、
「すっごい美人が校門で猫と喋てるんだ! 皆話しかけたいけどなんか怖くて出来ねぇんだ‼」
そう言っていたので校門を見ると美鈴と幸貴はすぐにその正体に気付き顔を青ざめて鞄を掴んで駆け出し校門前まで行くと美鈴が、
「ま、まさ兄何してるの⁈ 女装は二度としないって言ってたのに! それに普通の人の前でシゲトシさんと話すのは怪しまれるからやめて!」
と一息で言うと真人は落ち込んで謝った後シゲトシを見やり、
「昨日と今日の事をシゲトシさまに聞いて心配になったんだ」
そう言っていたので美鈴はため息をつき、
「でも、どうして女装でここまで来たの?」
半ば呆れたように尋ねると彼は顔を赤らめながら、
「こ、この格好は……美鈴を迎えに行くって言ったら母さんに無理やり……」
最後は俯いて小さな声で言うがすぐに顔を上げ、
「と、とにかく迎えに来たんだ! 母さんたちも心配してるし帰るぞ!」
と言って先を歩いて行き美鈴は真人と共に家へと帰った。