襲撃・幼馴染
「ぁぁ…………」
「ふふふふ」
現在、目の前にいるのは、にっこりと邪悪な笑みを浮かべている美也。
そして、俺の横では目を点にし、失神している水月がいる。
俺も、正直意識を投げ飛ばして、気絶したい。
それほど、美也の微笑みには邪悪さが含まれているのだ。
「ね、僕さ――――いつも怒らないよね? 昨日の放課後の時も…………あの変な言葉に怒らなかったよね?」
「え、いや、あれは」
「怒らなかった…………よね?」
「…………はい」
微笑み、細むその目から鋭い眼光が零れる。
背筋がゾワゾワと、―――――――――――。
――――あぁ、でもどういうことだろうか。
「ん? どうしたのかな? んー?」
昔ならば、ただの怖いものと認定して、そのまま逃げるように籠るか謝るかのどちらかだろう。
だが、だが今はどうだろうか。
昨日見た2次元の画像。
それに心を奪われ、なおかつその画像が美也に似ていた。
ならば――――ならば、この蔑んだような表情にこうして悦してしまうのも納得が――――
「いやっ! 待て、早まるな! 俺にそんな属性はいらんッ!」
「ど、どうしたんだい? 本当に頭がおかしくなってしまったのかい…………?」
「いや、すまない。 こっちの話…………って、水月、そろそろ目を覚ますんだ」
「はっ!? に、にーちゃん…………さっき、目の前に魔王が――――ひぃぅ!?」
やっとのこと冷静になり、改めて水月の目を覚まさせるが…………あぁ、これはもうだめだ。
水月は、美也の顔を見るなり、ガタガタと怯えて、俺の背後へと隠れてしまう。
「そういえば、美也…………お前、なんでうちにいるんだ?」
「あー、うん。 なんか、朝歩いてたらたまたま偶然、本当に万分の1くらいの確率で…………君の家のドアが開いてたんだ。 それだけ」
「ほーん…………ほーん!? ん!? な、なんて!?」
「いやだから、君の家のドアが、天文学的確率で開いていたから念のためにこうして安否確認をしに来てるんじゃないか」
ふふん、とない胸を張りながら、威張る美也。
はっきり言って、こいつが堂々と言っていることは確実に、間違いなく、おかしいことなのにこの雰囲気も相まってか――――まったく言い返せない。
水月も、同じような感じなのだろう…………「はてな」といった表情で美也と俺を交互に見ている。
「に、にーちゃん…………やっぱこの人おかしいよ」
「水月――――俺も同感だ」
「なっ! き、君たち変態兄妹のほうがよっぽどおかしいよ!」
顔を真っ赤にして、むきになって言い返す美也。
だが、俺達にはそれは効かない。
なんてったって、幼馴染とはいえ、流石に人の家に勝手に上がりこむほうがおかしいのは最もだからな。
「あーてか、ついでになんだけど」
「なにさぁー」
「おい、そう不貞腐れるなって…………お前、用事でもあったのか?」
頬をぷくぅとフグみたいに膨らませて、不貞腐れる美也を宥めながら、本題へ戻る。
そもそも、こいつがなぜここにいるのかと、ここに何しに来たのかを聞きたかったのが最初の目的だったはずだ。
すると、美也は、膨れた頬をすぐさましぼませ、一転。
ぱっとこちらを見て、本日最初の笑顔よりもさらににこやかに、微笑む。
―――――なんか、悪い予感がするな。
「デートをしようか」
「あ?」
「デート」
聞き間違いだろうか。
今こいつの口から、俺が、生きている中でリアルで一生聞くことのない単語が飛び出したような……。
「は?」
「何度も言わせんな、デートだよッ!」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。