兄の勘
「ゲーム、か」
ぼそり、と呟く。
ゲームならば、確かにこの恋愛ゲームのように2次元となったあいつに告白ができるかもしれない。
「まぁ、けど作れないしなぁ…………どうやって作るんだろ」
「んぅ? にーちゃん、どーかした?」
「あー。いや個人的な考え事」
「ふーん」
水月は、訝しげな表情で、こちらを一瞬見た。
「にーちゃん、もしかしなくても学校でなんかあった?」
「んん!? い、いや! 何も!」
「…………それ、新手の自白?」
鋭い視線が突き刺さる。
コントローラーを手放し、こちらにぐいっと身を乗り出す水月。
思わず、一歩こちらに向かってくるにつれて俺も一歩後退する。
「にーちゃんさ、怪しんだよね…………なんか、臭う」
「に、臭う!? 俺はさっき風呂に入ったばっかりだぞ! フローラルだぞ!」
「ちがう…………これは――――青春。 青春の臭い!!」
「せ、青春は臭わない! ど、どうしたんだよ急に…………」
こちらにびしっと指を指す水月をどうにか宥める。
水月は、「ま、別にいいけど」と一呼吸置くと、再びコントローラーを握りだした。
さっきまでの怒涛の勢いは無くなり、今はまたコントローラーを操作する音とゲーム音が部屋に響く。
「にーちゃん」
「なんだよ、マイシスター」
「もしかしてだけど、紫山さんと何かあった?」
「ッ!?!?」
水月は、ちらりと横目でこちらを見る。
まるで、すべて見透かされている――――思わずそんな感覚に陥ってしまう。
だが、こいつには学校での出来事を話したらヤバい――――。
直感的に、いやこれは兄の勘的な何かで、わかる。
話したらまずい。
「い、いやいやいや。 何もないって」
「そう? まぁ、にーちゃん信じるけどさ…………あ、次のルートどうする?」
「ルート?」
よ、よかった。 何とか話を逸らすことに成功したらしい。
水月は、現在ゲームのルート選択やらに熱中している。
先ほどまでは、王道のメインヒロインたる幼馴染のキャラを攻略していた。
次、次のルートって言ってもなぁ。
「なぁ、次って何があるんだ?」
「うーん、私がオススメなのは、この2人」
「2人――――ねぇ」
キャラ紹介の画面。
そこに映っているのは、金髪キャラと黒髪キャラだ。
まぁ、金髪のキャラは活発系なかわいさがあり、黒髪のキャラは文学少女っぽい感じだ。
どちらも―――いいな。
キャラの詳細は見ていないが、黒髪のキャラにしておくか。
「じゃあ、こっちの黒髪の子で」
「へぁッ!? こ、ここここっち!?」
「え、いやそうだけど」
「べ、べべべ別にいいけど、いいけれど…………」
顔に火が付く様というのはこんな感じなのか、そう思わせるほど水月の顔は赤い。
それと伴い、混乱してるかのように目がきょろきょろと定まっていない様子だ。
何かまずいことでも言ったのだろうか......。
「ごほんっ……本当に、いいんだね?」
「あ、あぁ……いいけどーーー」
再びゲームがスタートする。
今度は、先ほどみたいに学校からのスタートではなく、主人公の自宅からスタートだった。
ーーーなぜか嫌な予感がする。
嫌なというか不味いというか......何故かストーリーをこれ以上進めてはいけない感じがする。
そして、赤面状態の水月とゲームを1時間ほどやりーーーーーー
「ーーーーーーすまん」
「い、いや別に......ほ、ほらこれゲームだしっ。 ね?」
「あーーいや、うん。そうなんだけど、すまん」
俺は妹に謝っていた。
まぁ、本当にこれは俺のミスだった。
そもそもさっき幼馴染みルートを選択した際に、同じキャラがストーリーに出ていたのは知っていた。
だが、その時は学校でのことを考えてたので、あまり覚えてなかったのだ。
だからこれはーーーこの状況は、事故といえば事故。
水月をチラリと伺う。
さっきよりも酷い状態だというのが、わかる。
もじもじとしながら、部屋着で顔を覆って丸まっていのだ。
まぁこうなるのも致し方ない。
だが、俺もまさかーーー
まさか、主人公の妹キャラを口説いていたとは思わなかったのだ。
俺は今この時、今後ゲームをする際は、恋愛ゲームだけは妹とやらないことを心強く決意した。
明日ちょっと多めに投稿するかもです