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試練のダンジョンと金の力5

「おめでとうございます、ギルガメッシュ様。探索者の選定に合格しましたのでこちらをお渡しします」


 受付に着きフロリアが渡してきたのは手のひらに収まる程度の大きさの金属のような銀色のプレートだった。銀色のプレートにはギルの名前と数字の1とアルファベットのFが表示されていて、首にかけられそうな鎖がついている。


「これはなんですか?」


 渡されたプレートを見ながらギルは尋ねる。


「はい、それがギルガメッシュ様を探索者として証明してくれる探索者証です。プレート、タグ、などとも呼ばれています。一度失くしてしまうと再発行の際に王国ギルドでは王国金貨一枚の罰金及び発行のため費用がかかりますので失くしたりしないようにお願い致します」


「ば、罰金金貨一枚……」


 フロリアの言葉にギルは目を丸くしながら探索者証を見る。神器から作りだされたであろうそれは確かにお金がかかりそうではあったが金貨一枚ともなると軽く扱うことは出来ない。


「えぇ、後ほど説明しますがそれは、いくつかのギルドと提携している店舗で提示することでサービスを利用できます。ですから悪用をされないために罰金の金額を高めに設定して気を引き締めてもらうためのものです」


「な、なるほど……絶対失くしません」


「気を付けてくださいね。では次に行きますね。ギルガメッシュ様はただ今を持ちまして探索者となりましたので探索者として生きていくことになります。その上で守らなければいけないルールがあります。そのルールを大まかにですがご説明いたします」


「はい、お願いします」


 罰金の額にギルは驚いていたがここからが本番になるらしい説明をしっかりと聴くために姿勢を正す。


「まず一つ。これが一番大事ですが探索者はダンジョンの外での戦闘行為が禁止となっています。これだけはどんな時でも忘れないようにしてください。ただし、例外があり自分の身の危険や他者の人命を守る際にはある程度の戦闘行為を認めています。ですがそのような状況であってもやりすぎたと判断された場合には罰則がありますので程々にすることを心がけてください。今の説明に疑問やわからなかった所はございますか?」


「探索者が襲われるようなことって頻繁に起こるんですか?それとやりすぎたと判断された場合の罰則はどの程度のものになるのですか?」


「一つ目の質問に対してですが、国や地域によっては探索者崩れとなった人達が金品を持っていそうな者を狙うということは実際にあります。そういう場所の情報はギルドで確認が出来ますので知らない土地に移る時はギルドへご相談下さい。ただ、我がミルディア王国内においては近年悪質と言われるほどの事件は起きていません。

 二つ目の質問ですが、実際に下された判決では探索者の資格の剥奪、剥奪及び懲役、などがあります。しかしこれは少し難しい例でして襲ってきた者以外にも様々な被害が出た為の処置とのことです。我がミルディア王国ギルドの方針としては被害を最小限に押さえれば襲撃者への対処はある程度許容することにしており、王国の法に照らし合わせて多少多めに見ると思って頂ければいいかと思います。

 以上がご質問に対しての回答になりますがご満足のいく回答でしたでしょうか?」


 淀みもなくスラスラと質問に対しての回答を紡ぐフロリアは軽く微笑みギルへと尋ねた。この都会で洗練された仕事のできるお姉さんの雰囲気を醸し出すフロリアに騙される男は後を絶たずギルもまたその一人になった。


(すっごい!都会のお姉さんすっごい!美人!知的!おっぱい!)


「ギルガメッシュ様?どうかなさいましたか?」


「あっ、いえ。問題ありません。次に移ってください」


 挙動不審なギルにフロリアは少し首をかしげるも気にせずに次の説明に移った。


「それでは次の説明に移ります。ダンジョン内での同業者、あるいは人への妨害行為、戦闘行為は禁止です。もしこのようなことをされた場合あるいはこのような行為を行っていた者に遭遇した場合ギルドへの報告をして下さい。報告を受け調査をした後に然るべき処罰を行います。……が、基本的にダンジョン内で起こっている出来事に対してギルドが即応することはまず不可能です。ですので、ダンジョン内では自分の身は自分で守る。これが鉄則です。以上ですが質問はありますか?」


「ないです。次をお願いします」


 ギルの返答にフロリアは軽く首肯し次の説明に移る。


「次、これも大事ですのでしっかりと聞いてください。ダンジョンを踏破した際に得られる『ダンジョンコア』。これだけは必ずギルドに売却をして下さい。ダンジョンコアはとても大きな力を持っていますので悪用されないため、国の運営のために必ず売却して下さい。持ち逃げをした場合は相応の処罰がありますので決してやらないようにして下さい。ダンジョンコア以外ならギルドへの売却は必要ありませんが、なるべくギルドへの売却をしていただけるようにお願い致します。ギルドでは売却された物によって更に評価を加算しますのでランクを上げたい場合は是非ギルドへ売却して下さいね」


 フロリアはマニュアル通りに営業スマイルで、特にギルドへの売却を強調する。ギルドは探索者に強要したりしない。というよりも出来ないというのが本音だ。なぜなら、この世界には各地にダンジョンが存在し探索者は簡単に国外へと移ることができるからだ。なので、探索者に対してどれだけ質の良いサービスを提供し気持ち良くダンジョンへと潜ってもらえるかが重要であり、決して探索者を意味もなく不快にさせるようなことはしない。

 だからこそ、ギルドは受付を美人、美形で愛想の良い者で固め笑顔でお願いすることを徹底している。その営業努力の結果、夢を追って田舎から出てきた数多くの少年少女は都会のお姉さんお兄さんの笑顔に撃沈するのである。


「はっはい!是非ギルドへ売却させて頂きます!」


「まぁ。でもギルガメッシュ様、ご自身の命が大事ですからね。無理をしてはいけません。ねっ?」


 フロリアは自然な動作でギルの鼻先を指でつつく。


「ひゃ、ひゃい。命も大事にします」


 フロリアに出会ったことでギルの女性の好みが固まりつつあった。

 フロリアに骨抜きにされたギルとは対照的にフロリアはマニュアル通りに説明を続ける。フロリアはこうして青少年を撃墜していることに本人は気付いていない。


「ここでランクについて説明をしておきますね。ランクは上から『A・B・C・D・E・F』があり初めは一律『F』から始まります。ランクを上げるためにはギルドの依頼を受けるか、ダンジョンに潜りより多く階層を攻略するか、ダンジョン内で得た特定のアイテムをギルドへ売却するかが主な方法です。因みにダンジョンコアを売却するととても評価が上がりますのでダンジョンコアは絶対売却しましょうね。

 ランクが上がると挑めるダンジョンが増え、受けられるサービスの量と質が上がりますのでギルドではランクを上げることを推奨しています。ランクについて何か質問はありますか?」


「え、あ、な……あ、いえ。あります。えーっと特定のアイテムの売却でランクが上がるって具体的にどのようなアイテムを売却すればランクがあがるのか、あと受けられるサービスの内容を詳しく聞きたいです」


 フロリアに見惚れて一瞬「ない」と言いかけたが、正気に戻りギルは質問をする。この体たらくではいけないとギルは気を引き締めなおす。


「アイテムの売却と受けられるサービスについてのご質問ですね。まず、アイテムの売却についてですが大雑把に言うならモンスターの素材やその階層でしか採れない素材などであれば評価が加算されます。逆にダンジョンで稀に出現する宝箱から得られた物は評価されません。というのも、評価は実力を測る為に行われますのでどこまでの階層に行けるかどのモンスターなら倒せるのかなどを知りたいので運の要素が強い宝箱から得られたアイテムは評価に繋がりません。

 次に受けられるサービスですが、そうですね。例えばわかりやすいのは宿泊施設になります。ギルドと提携をしている宿泊施設はランクによって割引、あるいは高級店であれば最上階のスイートの利用などが出来ます。他には提携している雑貨店、魔法関連のお店、鍛冶屋の割引など提携している店での割引。Aクラスにまでなると一等地、つまり貴族様と同じ土地に家が建てることが出来たり、違う国での永住権も得られたり、と言った所でしょうか。申し訳ないのですが細かいものまでご説明は出来ないので知りたい場合は受け付けで各種サービスの記載されている冊子の閲覧を申して頂ければギルド内でのみ貸与出来ますので御用の際はお申しつけください。以上で次に移りますがよろしいでしょうか?」


 ギルとしては聞きたい内容—金銭に関わるエトセトラ—を聞ければ十分だったのでフロリアの言葉に頷く。


「では最後にダンジョンの分類についてです。ダンジョンは主に、『管理下、非管理下』『攻略可能、攻略不可』『lv制限、ランク制限あるいは両方の制限』の三つで分類されていて、この分類によって守るべきルールが存在します」


「ルール、ですか」


「えぇ。まず、『管理下、非管理下』に関して。先に管理下について説明しますね。管理下、つまり国が管理をしているダンジョンのことです。管理下にあるダンジョンは他の二つの分類『攻略可能、攻略不可』『lv制限、ランク制限あるいは両方の制限』が適応されます。ですのでそのまま先に二つの分類の説明をしますね。

『攻略可能、攻略不可』についてですが、管理されているダンジョンのいくつかのダンジョンは国が保護指定をしています。保護指定をしているダンジョンは攻略不可となっており、ダンジョン最奥のボスを倒すことは可能でもダンジョンコアの持ち出しは禁止になっています。逆に攻略可能とされているダンジョンのいくつかは攻略を推奨されており、ダンジョン攻略の懸賞金がかかっています」


「け、懸賞金ですか!魅力的ですね!」


「そうですね。懸賞金の懸かっているダンジョンは最低でも王国金貨1000枚からですから実力が付いたら一度挑戦してみるのもいいかもしれませんね」


「最低でも1000枚……最低でも、へへ、へへへ」


「ギルガメッシュ様。ギルガメッシュ様。もう」


 フロリアは手を伸ばしギルのほっぺを軽く抓った。フロリアに頬を抓られ現実に戻ったギルはフロリアに頬に触れられていることに狼狽える。


「ギルガメッシュ様。説明はまだ終わっていませんよ。ちゃんと聞かないといけません。めっ」


「ひゃっ、ひゃい。ごめんなさい」


「ふふ。反省していますか?ちゃんと聞かないといけませんからね」


 にこりと笑いフロリアはまた説明に戻る。


「えーっと、どこまで。そうそう『lv制限、ランク制限あるいは両方の制限』でしたね。では先ほどお渡しした探索者証を見ていただけますか?」


 そう言われギルは手のひらに収まるプレートを見る。そこには名前と数字と記号が表示されている。


「探索者証には名前、数字、そして記号が記されています。ギルガメッシュ様ですと数字は『1』記号は『F』が表示されていると思います。その数字が現在のギルガメッシュ様のlvであり記号がランクに当たります。管理下にあるダンジョンはダンジョン毎に情報を集め危険度を測っていてそれに基づいて制限をかけています。ですので自分のlvとランクをきちんと把握して決して適正ではないダンジョンへと挑んだりしないようにお願い致します」


「……禁止してるのに挑めるんですか?」


「……詳しくは申せないのですが蛇の道は蛇、という言葉がありまして。そういうこともあるそうです」


「なるほど」


(魅力的なダンジョンなら抜け道から挑みたい、かな。いや命あっての物種だしな。うーん、止めておこう。リスクに見合った冒険にはなりそうにないし)


 了解したふりをしつつギルは頭の中で出し抜く方法を考えるがそれをやっても利益がでそうにないのですぐに諦める。


「それはさておき。話に戻りますが、ダンジョンの制限は特殊な物がいくつかあります。というのもギルドで制限をかけているのではなく、ダンジョン自体が入る人間を選ぶものがあります。この近くにあるダンジョン、『試練のダンジョン』が良い例ですね」


「し、試練のダンジョンって何か制限があるんですかっ?」


 フロリアの一言にギルは驚いたように反応する。


「え、えぇ。ありますよ」


「ど、どんなっ?」


 いきなり大声を出して問いただすギルにフロリアは戸惑いながらも答える。


「そんなに特殊なものではありませんよ。あの試練のダンジョンは新米探索者用なのかlv20以下の者しか入れないようになっているんです」


「そ、そうですか。良かった」


 実はギルはこの試練のダンジョンへと挑むためにここに訪れており、フロリアの言葉にぎょっとしたが問題ないことがわかり安堵した。


「もしかして試練のダンジョンに挑むつもりだったんですか?」


「え、えぇ。ほら、噂だと初心者でもしっかりと実力がつくって話だったから。挑めないのかと思って少しびっくりしました」


「なるほど、そうだったんですね。試練のダンジョンは新米の方でも無理をしなければ死ぬ可能性は低いですから初めてのダンジョンとしてならお勧めです。あ、そういえば試練のダンジョンは懸賞金も懸かっているんですよ」


「え?懸賞金、ですか?なんでです?」


「その、試練のダンジョンってあまり実入りがなくて。探索者の方にも人気がありませんから、管理し続けるくらいなら攻略してもらえた方が良いとの上の判断でして」


「そうだったんですか」


 ギルは極めて冷静に努めるふりをしながら脳をフル回転させる。


(金金金!ダンジョンコアに懸賞金!金じゃ金じゃ!)


「だからと言って無理はしないで下さいね、ギルガメッシュ様。試練のダンジョンの最奥のボスはとても強いのでしょう、今まで攻略出来た方がいませんからね。最奥に行く処か途中の階層で帰ってくる方がとても多いです。受付の私が言うことではありませんが試練のダンジョンの最奥を目指すのは止めた方がいいです」


 対応をしている間、笑顔を絶やさなかったフロリアは真剣な表情でギルを見つめる。そこにはただただこちらを心配する気持ちだけが感じられ、ギルは心が温かくなるのを感じた。


(神父様とシスター、元気にしてるかな)


 ふと、目の前にいるフロリアと同じくらいに真剣に向き合ってくれた人たちの事を思う。置手紙を残し話し合うこともせずに出てきた自分をどう思っているだろうか、とギルは後悔の念に苛まれる。

 しかしそれもすぐに振り払う。例え何をしてでもお金を稼ぐと決めてここにいる今のギルにとって前に進む以外の選択をする気はなかった。

 故にギルは親しい人達にもしたように嘘をついた。心配させないように、邪魔をされないように。


「大丈夫ですよ。命あっての物種ですから、無茶なんてしません。金貨は必要ですけど、長くやっていけばきっと集まるでしょうし、ダンジョンを攻略することだっていつかはできるでしょうからね。わざわざ最初のダンジョンで死ぬような真似はしませんよ」

 ギルの穏やかそうな表情にフロリアは目尻を下げる。


「そうですよ。危険を冒すななんて言いませんけどギルガメッシュ様にはまだ早いですからね。ってまた話が逸れちゃいましたね。えっと、制限の話は終わったから……非管理ダンジョンの話ですね。非管理ダンジョンはその名の通り一切管理されていないダンジョンです。管理下にあるダンジョンはダンジョンの近くに受付がありますから、受付がないものは全て非管理ダンジョンということになります。またここからが重要ですが非管理ダンジョンには今まで説明したギルドの分類が一切適応されません。ですので自由に攻略をして頂いて問題ないのですが、ダンジョンの挑戦回数に制限だけはありまして5回、5回挑戦して攻略が出来なかった場合、ギルドへの報告を行ってください」


「なんだかわかったといえばわかりましたけど随分その抜け穴というか適当な決めごとですね?」


 非管理ダンジョンの説明に首を捻るギル。今までのルールもガチガチに定められた物ではなかったがこれに関してはルールなどあってないに等しかった。


「えぇ、まぁ。理由は簡単です。非管理つまり、ダンジョン自体を国が把握していないのでなにも報告されずに攻略されてしまえばもう何も口出し出来ませんから。それなら探索者の皆様の反感を買わないようにする方針になりまして。それで後は探索者の自主性に任せよう、ということになったんです。あ、そうそう、探索者の方の中には未発見のダンジョンを探す方もいて、ギルドはそういう方達の支援もしています」


「ダンジョン攻略じゃなくてダンジョン自体を探す人、ですか」


「はい。もし見つけたダンジョンが国とって有用とみなされた場合、報奨金が出るんです。あまり数は多くありませんがダンジョン捜索専門の探索者の方もいることを頭の片隅にでも覚えておいて頂けたら幸いです。

 さて、以上が新規の探索者の方に行う説明の全てですが、なにかもう一度聞きたいこと、疑問に思ったことございますか?」


「いえ、問題ありません。ありがとうございました」


「こちらこそご静聴ありがとうございました。本日は私フロリアがご説明をさせて頂きました。もし何か問題があればいつでも私にご相談下さい。なお、今回の説明はミルディア王国ギルドでの取り決めとなっていて他国のギルドでは細かい部分が違ってきますので、他所の国へと移る際はギルドへ赴きその都度ルールを確認して頂きたく存じます」


 説明を終えふぅっと一息ついたフロリアは少し印象が変わって先ほどよりやや柔らかい。沢山喋って疲れたのか少しだけくたっとしている感じがする。


「ごめんなさい、ギルガメッシュさん。この説明はしっかりやらないといけないから終わった後は肩から少し力が抜けちゃうの」


「い、いえ。そのなんていうかそのどっちのフロリアさんも良いっていうかその……」


「ところでギルガメッシュさん。この後お時間ありますか?」


「えっ?」


 真剣な表情のフロリアの一言にギルは固まるのであった。

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