試練のダンジョンと金の力4
「最後に言いたいことはあるか?」
男は厳ついその顔を歪めて笑う。ギルはその顔を見て固唾を飲んだ。
「無言、か。そうか、そいつがお前の最後か。じゃあこれで終わりだ。食らいな。パワースタンプ!」
男は声を荒げて叫ぶ。しかしギルは動こうとはしない。
「ってな感じでよぉ。ゴーレムにズバァァァっと俺の渾身のパワースタンプがさく裂!ゴーレムはどっかーんとはじけ飛んだんだよ」
と、男は嬉しそうに凶悪な笑みを浮かべながら自分の武勇伝をギルに語る。
ここはギルド内にある酒場のテーブルの一つ。先ほどこの男がギルに話しかけた所からすぐの場所である。そこで男は酒を飲みつまみを食いさきほどからギルに自分語りを続けていたのである。
「おいダズ。お前いい加減にしろよ。何新人に嘘ばっかついてんだよ。てめーのパワースタンプで中層辺りのゴーレムがはじけ飛ぶかよ。そもそもゴーレムは喋らねーんだよ。何が言いたいことはあるかだよ。ねーよ。言葉喋らないんだからよぉ」
「あぁ!?うるせぇ!てめぇは黙ってろ、ロイド!それを言うならてめぇのへなちょこ剣技でガーゴイルの羽を切り落とせるわけねーだろ、このすっとこどっこい」
「あ˝ぁ˝!?」
「お˝っ!?」
「はぁ、すまねぇなギル坊。こいつら完璧に出来上がっちまってる」
「いえ、構いませんよユーリさん。それにお二人の話は興味深いですしためになりますから」
彼らはおっさん探索者パーティーで所謂中堅の探索者である。オフの日はこうして新人に酒やつまみを奢りつつ隙あらば自分語りをするのが大好きなおっさん達である。
「おい聞いたかロイド?これだよこれ。謙虚さ、素直さ。これがお前がとうの昔に失くした感情だぜ?」
「そっくりそのままてめーに返すぜその言葉」
「やんのか?表に出やがれ」
「上等だ。買ってやるぜ」
「おい止めねーか馬鹿二人。探索者のケンカはご法度だ。忘れたとは言わせねーぞ」
ケンカ腰の二人をたしなめるユーリに、二人はバツが悪そうに顔をしかめる。
「でもよぉこいつが……」
「子供じゃねーんだ。言い争いくらいでケンカしてんなよ。それにギル坊にかっこ悪い所ばっか見せていいのか?」
ユーリの一言に一瞬悩むもすぐに笑顔になり相手に手を差し出す二人。
「俺が悪かったよダズ君。さぁ仲直りの握手だ」
「いやいや俺が言いすぎたよロイド君。仲直りといこう」
二人は笑顔で握手を交わす。腕には血管が浮き出てプルプルしているが二人は笑顔である。
「こいつら二人共ケンカっ早くてな。悪かったなギル坊」
「い、いえ。謝ることなんてないですよ」
「それがそうでもないんだ。ギル坊、お前さんもこれから探索者になるんだから関係のある話なんだがな。探索者ってのはダンジョンに深く潜れるようになればなるほど一般の人間とはかけ離れていくんだ。こいつらが凄んだ時それがよくわかっただろ?」
「えぇ。正直、熊よりも恐ろしいと思いました」
「そう。だからギルドは探索者の、ダンジョン外での戦闘行為は基本的に禁止してるんだ。一般人に対しては凄むのだってマナー違反さ。だからこいつらは反省すべきなんだよ」
そう言ってユーリは二人を見るが固い握手はまだ続いていた。そんな二人を見て軽く溜息をつくが無視を決めて話題を探す。
「そういえば遅いな。もういい加減出てきても良さそうなもんだが」
ユーリは視線を先ほどギルが出てきた黒い扉へと向ける。その言葉にうな垂れるギル。
「もしかしたら弾かれたのかもしれません」
「よほどの事をでもしてない限りそんなことはないぞ。犯罪歴がある奴でも探索者になってる奴はいるからな。そんなに心配することはないさ。ん?ほら、でてきたぞ」
ユーリの言葉にギルが黒い扉を見ると受付嬢のフロリアが扉からでてきた。フロリアはフロア内をぐるっと見回すとすぐにギルを見つけてギルの方へと歩き出す。一歩一歩近づいてくるフロリアを見つめているギルは緊張しているようで表情が固い。
「そう緊張するな、ギル坊。受かってるよ、心配するほどのことじゃない」
「で、でも……」
「な、そうだろ。フロリアの嬢ちゃん」
近づいていたフロリアへとユーリが話しかける。フロリアはにこりと笑みを見せて言う。
「えぇそうですね。ですがここではきちんとお話できませんので受付の方に移動願えますか?ギルガメッシュ様」
「だそうだ、よかったなギル坊。行ってこい」
「あ、はっ、はい!ユーリさんありがとうございました。それにお二人も」
そう言ってギルは席を立ちユーリ達に頭を下げた。
「ギル、おめでとさん!」
「よかったなギル!」
未だにお互いの手をきつく握っている二人もギルへと祝いの言葉をかける。
「では、こちらに」
フロリアに促されてギルは固い表情で受付へと移動した。