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試練のダンジョンと金の力3

「主よ。なぜ最後にあんなに悩んだのだ?」


 ゼノムに外で待つように言われたギルは退出して部屋の前から移動しながらゴンちゃんの言葉に耳を傾ける。


「なんでってそりゃあ悩むでしょ。ダンジョンのコアって最低でも金貨千枚単位で値がつくんだぞ?それを前にして喉から手が出ないかって言われたら、絶対にありませんなんて言えないだろ」


「そこは嘘でも出さないと言う所ではないのか?正直は美徳だがあの場面ではむしろマイナスだ。ダンジョンに潜れなければそもそもコアを拝むことなど出来ないのだぞ?」


「そーだけどさぁ。嘘はつけないよ嘘はさぁ」


「……それで選定に落ちなければ良いがなぁ」


 ゴンちゃんは少しではあるがあの装置について知っていた。あれは黒い部分に手を乗せることで対象者の心を読む装置で、正確に把握するとまではいかずとも大まかにどういう人間なのかということはわかる、そんな装置だ。

 そのために緊張をさせないためになにも言わなかったがそれが逆に良くなかったかと思い始めたのである。

 新たな持ち主であるギルに出会うまで千年くらい経過していることはわかっていたためダンジョンへと入ることのできる選定基準がどうなったのか全く見当がつかなかったためである。


(昔はダンジョンも沢山乱立していて基準が緩かったからなぁ。あれから約千年、攻略されたダンジョンも多いだろう。そのことがどれほど響くか……)


 そんなことを考えているゴンちゃんをよそに、ギルはあまり深刻に考えていないのか足取りは軽い。そんなギルの前に一人の男が立ちはだかる。

 男の顔は厳つく、すごんだら子供などすぐに泣き出してしまいそうなほどだ。更に背も高く鍛えているのか筋骨隆々としている。一言で言うと荒くれ者と言った風体だ。


「よぉ兄ちゃん。お前さんあの扉から出てきたよなぁ?ってことは新人か?ならよぉ話があんだけどどうだい?」


 そう言いながら向こうの、ギルド内にある酒場のテーブルの一つを指差す男の顔は子供を殺せそうなほどの凶悪な笑みであった。





「いかがでしたか?ゼノムさん」


 ギルの案内を担当した受付嬢フロリアは選定の結果をゼノムへと尋ねる。


「あぁ。問題ない。彼は合格だ」


 そう尋ねられたゼノムは簡潔に質問に答える。


「そうなのですか?ギルガメッシュさんはとてもお金に執着しているように見えましたが。ギルドの決まり、というかダンジョンコアの持ち出しについてとても葛藤していたようですけど」


「そうだな。彼は確かにお金への執着が強い。この深層心理解読装置のモニターに映るデータでもそれははっきりとわかる」


「……いつも思うのですけどこの装置に名前をつけてあげた方がいいのではありませんか?深層心理解読装置なんて味気ないですよ」


「そう言われてもな。私にはそんな権限はないし興味もないな。フロリア殿が呼びたいように呼べばいいだろう」


「うーん、じゃあ『ばっちりスケスケ君』なんていかがでしょう?覚えやすいと思いますよ!」


 フロリアの口にした名前になんとも言い難い顔をするゼノム。


「むぅ、その顔は良くないと思っている顔ですね。やっぱりペットに名前つけるような感じの方がいいのかしら。『ゴンザレス』『バルディアス』『ドントライゲル』……意表を突いて『ザッケリオン』なんてどうかしら」


 悩まし気なフロリアの顔はとても妖艶であったがその口からでる言葉はどれも強そうな名前ばかりである。


「フロリア殿。話が逸れている。本題に戻ってもいいかな?」


「あっ、申し訳ありません。それでなんの話でしたでしょうか?」


「ギルガメッシュ殿の適正の話だ。確かに彼は金銭にとても執着していたし最後の質問に関しても葛藤していた。が、しかしそれはダンジョンへと潜る探索者ならごくごく普通の感情だ」


「それはそうですが。その、正直というか素直というか感情を隠そうとしないのでもしかしたら感情の赴くままに行動してしまうのではないでしょうか?」


「それは確かに否定出来ない。しかし、神が創ったこの深層心理解読装置は彼を問題なしと判断した。それが全てだろう」


「そうなのですか、ヴォルケンリードが。それなら大丈夫なのでしょうね」


 そう言う彼女のヴォルケンリード(深層心理解読装置)への眼差しはどこか優しい。それはまるで我が子を見守る母のようでもある。


「ヴォ、ヴォルケンリード?」


「はい。この子の名前です」


 確定事項と言わんばかりのフロリアの笑顔に絶句するゼノム。


「……そ、そうか。それはよかった」


「ゼノムさんも今度からはちゃんとヴォルケンリードって呼んであげてくださいね」


「ぜ、善処しよう」


「善処ではいけません!ちゃんと名前で呼んであげてください。さぁほら、『アビスウォーリアー ヴォルケンリード』!!」


「あ、アビ?増えていないかね?」


「??正式名称ですよ。さぁゼノムさんも一緒に」


 そう嬉しそうに言うフロリアから現実逃避しつつゼノムは思う。


(彼、ギルガメッシュ殿は確かにお金に執着している。がしかし、お金自体に執着しているわけではない。必要だから欲しい、そういう感情に近い。そういう者がダンジョンに潜る理由は多くはない、そして……)


「ヴォルケンリード・ふぁいなるえくすぷろ」


 フロリアがもはや原型を留めていない妄想の彼方へと旅立っている間にヴォルケンリードはその仕事を果たしドックタグ(認識票)を作成していた。


「フロリア殿。探索者の証ができたようだ。ギルガメッシュ殿が待っているはずだ。急ぎなさい」


 ゼノムがフロリアにドックタグを差し出す。それをもう少しだったのにと残念そうな顔でフロリアは受け取るのであった。



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