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砂漠の商人と水の女神のダンジョン19

「よっと」


「ぶべらぁぁぁ」


 階段に着いたので、ディルタの襟を離し地面に置く。いきなり離された事で受け身を取る事も出来ずにディルタは床に叩きつけられる。ディルタを体中が痛いのかあちこちを手で押さえては呻いている。それを気にも留めず、ギルはノエルを下ろす。


「ん? どうしたノエル? 安全な所に着いたし動いてもいいぞ?」


 下ろされた後も一向に動かないノエルを心配してギルは屈んで覗き見る。


「……ロス」


「えっ?」


「殺す気か、このばかぁぁぁぁぁぁ」


「おわぁぁぁぁぁ」


 ノエルが感情を爆発させてギルに襲い掛かる。


「何考えてるんだバカ! 跳ぶなら跳ぶって言え! 着地するなら着地するって言え! すっごい怖かったんだぞ! すっごいすっごい痛かったんだぞ、バカ! 敵に突っ込むなら突っ込むって言え! お尻の方から突っ込んだ私の気持ちを考えたことあるか!? あるのか、このバカ!バカバカ!」


 ノエルは片手でギルの胸元を掴み、もう一方の手でお腹の辺りを摩る。よほど痛かったのか涙目になっている。


「わ、悪かった。悪かったって。でもあの状況じゃ多少強引にいかないとまずい場面だったし、な?」


「なっ? じゃない! 痛かったんだよぉ、すっごい痛かったんだよぉ」


 ギルの胸元を掴んだまま崩れ落ちるノエル。着地の衝撃を、自身の体重を、お腹で受け止め、ついでに言うとギルの肩がめり込んだせいで余計に痛いそれはノエルの人生の中で一番の痛みでもあった。


「あー、低級だけどポーション使う?」


「つかう」


 こくりと頷くノエルに、ギルは腰のバッグから取り出した低級ポーションを渡す。ノエルはそれを受け取ると一気に煽る。


「痛みはどう?」


「多少は消えたけど、まだ痛い。……ギルと一緒にいると悪いことばっかり起こる。最悪だ」


「待て待て。これは俺が悪かったけど、ダンジョンってこういうものだから。危険で一杯なのがダンジョンであって、俺のせいじゃないから」


 弁明するギルをノエルがジト目で見る。


「カニの肉」


「うぐっ」


「モンスターのスープも食べさせられた」


「それは、美味しかっただろ」


「トカゲにも飲み込まれたし、カエルやスライムにもべとべとにされた。全部、ぜーんぶギルのせい」


 ノエルは怒ったように肩で風を切りながら歩き出す。ギルはそれを追いかける。


「いや、それ全部ノエルが悪いやつだろ。自分のポンコツ加減を人のせいにするなよ」


「ポンコツじゃない!」


「いやポンコツだろ。このダンジョンで何回ドジったと思ってるんだよ。むしろ、ダンジョンに来る前からやらかしまくってただろ!」


「なっ! なんだと!」


 ノエルが振り向きギルと距離を詰める。若干ギルよりも身長の低いノエルが、ギルを見上げる形で二人が睨み付け合う。互いの目線がぶつかり火花が散る。それが爆発しそうになった所で、水が差される。


「あ、あの~」


「「なんだ!」」


「ひっ」


 ディルタの呼びかけに二人が同時に振り向く。ダンジョンで経験値を得て、lvの上がっている二人の威圧に一般人であるディルタは縮み上がる。


「おい、黙ってないでなんとか言えよ」


「は、はいっ。そ、そのですね。お二人はこの先に行かれるのですよね?それでしたらその、私めも是非お供をさせて頂きたく。あっ、勿論今までの無礼はお詫びさせて頂きますし、荷物持ちでもなんでもやりますので、どうか! この通り!」


 ディルタは恥も外聞もなく土下座をする。さっきの戦闘で多くの兵があの触手に連れていかれ、また残った兵がどれだけいるのかもわからない。となれば、ディルタに残された道はこの二人に付いていく他ない。そうしなければ、一人でこのダンジョンを彷徨うハメになるからである。


「行こう、ギル」


「あぁ」


「ま、待って下さい。今までの無礼は詫びますから! どうか! どうかこの通り! この哀れな商人を置いていかないで下さい!」


 必死の土下座にも反応が薄く、さっさとこの場を離れようとする二人に、ディルタは縋る。とにかく頭を下げ、か細い声、涙でぐしゃぐしゃになった顔を晒す。半分は演技ではあるが半分は本気だ。


「何を今更。命を二回も狙っておいていけしゃあしゃあと」


「そ、それは。本当に、本当に申し訳なく思っております、ノエル殿下。王族に盾突いた事、深く、深く反省しております。本国に帰った後はこの私めを罰して頂いても結構でございます。どうか、どうか情けを!」


「どっちにしろ無理だぞ。諦めてくれ、おっさん」


「そ、そんな。どうして。どうしてですか!?」


 必死に頼み込み頭を下げるディルタの言葉を、あっさりと拒絶するギルに、内心怒りの湧くディルタであったが、そこは商人。おくびにも出さずに哀れな弱者の演技を続ける。


「意地悪で言ってるんじゃなくてさ。この先、あの触手の本体が出るんだよ。その本体から走って逃げるんだけど、出来るのか?あんた」


「えっ?」


「今までは触手が穴から出てくるだけだったけど、十五階層は湖の真ん中を突っ切るように一本の道があってそこをひたすら走るんだよ。あの触手達に追われてね。正直付いて来ない方が良いと思うけど?」


「う、嘘でございますよね?私めを騙してここに置き去りにしようと」


「いいや。俺達がここまで二人でやって来れたのは、ノエルが持ってる手帳のおかげさ。このダンジョンの情報が書いてあるからなんとかなっただけで、俺は別に大した事はしてないしな」


 ギルは自分の事を大した事はないと言う。「そんなわけがあるか」とディルタは怒鳴りつけたかった。ディルタは探索者に詳しい訳でも、ギルの事について知っているわけでもない。しかしそれでも、あの複数の魔法使いで作った大火球をあっさりと一人で打ち破った人間が普通な訳がない。

 ギルのlvが相当に高いのか、あるいはとても貴重なスキルを有しているのか、あるいは魔道具か。なんらかのカラクリはあるにせよ、あの時放った一撃は誰もが出来るような物ではない。

 ダンジョンの情報を持っていたからと行ってたった二人でここまで来れる訳がない。だからこそ、あの化け物をギルに倒させようと思っていたのだ。しかし、実際にはギルのせいでディルタの兵は壊滅し、自身は二回りも下の人間に頭を下げる始末。もしも、叶うのならば今すぐにでも怒鳴りつけたい、そう思いながらもグッと堪えて機嫌を取る。


「大した事ないだなどと、ご謙遜を。現にあなた様はノエル殿下をお守りして、たった一人でここまで来られた実力者ではありませんか。そういえば、お名前もお聞きしていませんでしたな。どうか、このディルタにお教え願えませんか?」


 シエラザルドの市場の一つを牛耳ってからは久しくして来なかった営業スマイルをここぞとばかりにするディルタ。しかし、ギルはそんな態度に目もくれない。


「あー、いいよ。そういうおべっかは。ていうか、俺も行くから。ノエルもう先に行っちゃったし。この階段の所でじっとしてればモンスター来ないから安全だって。上も下もあの触手のテリトリーだから、動かなければモンスターに会うことなんてないよ。そんじゃあね」


 ギルはあっさりと別れを告げ、背を向けてディルタから離れていく。


「まっ、待って! 待て! お前ら、本当に置いていく気か! このディルタ様を! 後悔するぞ、この俺を置いていった事を! 絶対に! 絶対に後悔させてやる!」


 ディルタの怨念の籠った叫びを背に受けながらギルはノエルの後を追った。





「置いていくなよ」


 ギルはノエルに後ろから声をかける。


「あんなのに構うギルが悪い」


 ノエルは振り返らずにズンズン階段を下りていく。


「あんなのって。ノエル君、随分逞しくなったね?」


「おかげさまでな」


「まだ怒ってんの?お腹痛いの?」


「そうだよ! 怒ってるしお腹も痛い!」


 プリプリしたままノエルは階段を下り、ギルはその後を追った。

 そして、十五階層前までたどり着く。


「遂にか。なぁノエル、一つ聞きたいんだが」


「戻らないぞ」


「まだ聞いてないだろ」


「じゃあ先に言ってやる。ここで帰るなんて絶対やらないし、ギルが帰るって言うなら俺一人でも行く。行くったら行く」


 ノエルの瞳をギルはじっと見つめる。紫の色をしたその目は松明の明かりで照らされ怪しく光る。なぜだか吸い込まれてしまうその瞳からは、強い意志を感じ逆らうことが出来ない。


(これが王族パワーって奴か。なんでかノエルの言う事を拒否出来ないんだよなぁ。っていうか、まつ毛なげーな、ノエル)


「わかった、わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」


「よし、それで良い」


 観念したように肩を下げてため息を吐くギルをみて満足そうにノエルが頷く。


「でも、わかってるのか? 俺よりも、ノエルの方がよっぽど厳しいんだぞ?」


「あぁ、わかってる。……なぁギル。もし、もしも俺があの触手に捕まったとしても振り返ったりしないで先に行ってくれ」


「は? いきなり何を」


「俺の願いはただ一つ。あの国に水瓶を持ち帰る事だ。それが出来るなら、別に自分じゃなくても良いんだ。だから、もしもの事があったら、ギル。君に頼みたい」


「止めろよ、縁起でもない。頭上げろって」


 頭を下げ続けるノエルを止めさせようとするが、ノエルはそれを拒否する。


「いいや。ギルがわかったと言うまで止めない」


「あーもー。ホントわがままだな。わかった、わかったから頭上げろよ。ずるいだろ、王族が頭下げるなんて。断れないだろ」


「ギルっ! ギルならそう言ってくれるって思ってたぞ! ありがとう!」


「お、おう」


 ギルが了承するや否や、すぐに頭を上げてニコリと笑うノエル。その顔はなんだか(なま)めかしく、ついそっぽを向いてしまう。


(ノエルっ!お前は一体俺に何をしようっていうんだ。俺はそっちの世界には行かないぞ! 絶対に!)


「それじゃあこれも預けておくな」


 そう言ってノエルはマジックバッグを渡してくる。


「わかった。でも預かるだけだ。ちゃんと後で返すからな」


「……あぁ、勿論だ。ギルに預けておくと盗みかねないからな」


「盗むわけないだろ」


「ふふっ、どーだか」


 ノエルが笑い、そして真剣な表情になる。


「覚悟は良いな?」


「あぁ」


「じゃあ行くぞ。エンチャント・エアブースト」


 風の精霊が二人に加護を与え、脚に風の魔法を付与させる。二人は、その付与された脚で、十五階層へと踏み入れた。

明日は20時の投稿です。よろしくお願いします

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