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砂漠の商人と水の女神のダンジョン9

 水の女神が創ったダンジョンは、山の中をくり抜いた洞窟のようになっていた。人工的に造られたような造りは入口だけでその先は、道もしっかり造られておらずデコボコであったり曲がりくねっていたりと自然に出来た洞窟のようであった。洞窟の中は所々鍾乳石や石筍(せきじゅん)が上からも下からも棘ように生えていたり岩などが転がっている。また洞窟内は至る所に深めの水溜まりや水路が張り巡らされており、そのためか苔や植物なども生えている。


「中は暗いな。明かりが必要だ」


「俺に任せてくれ。明かりを頼む」


 ノエルがフレイムドッグに指示を出すと両手に収まる位の大きさの火球が現れた。それは大きさの割にとても明るく、辺りをしっかりと照らし出した。


「おぉ。思っていたよりも広いな」


「そうだな」


 火球の明かりによって照らし出された洞窟の内部はかなり広く、高さはギルの身長の二倍くらいあり幅も戦闘を行うのに十分な程である。


「なんか所々に水溜まりやら水路があるな。どこに繋がってるんだろ」


 ノエルはなんとなく水路の中を覗く。水路の中の水は濁っているために底は見えない。そんなノエルをギルが力づくで引っ張る。


「うわぁっ! な、なんだ急に」


「それはこっちのセリフだ! 何不用意に覗き込んでるんだ、危ないだろうが」


「えぇ? なんだ、ギル。もしかして怖いのか? ふふっ、大丈夫だって」


「あのなぁ。探索する時はだろう探索じゃなくてかもしれない探索しろって教わらなかったのか?」


「かもしれない探索?」


 聞き慣れない言葉にノエルが首を傾げる。


「そうだ。水の中には何もいないだろう、じゃなくて水の中から何かが飛び出してくるかもしれないってやつだ」


「ははっ。まさか。こんな小さな水路から一体何が飛び出してく」


 その時、突如として音を立てて何かが水面から飛び上がる。それは、先ほどノエルがいた所をめがけて一直線に飛ぶ。しかし、ノエルがもうそこにはいなかったためそれは奮闘むなしく地面に落ちた。


「……魚?」


「魚だな」


 地面の上でビチビチとはねる一匹の魚。その魚は、先端が針のように尖っていて刺されば痛そうだ。ギルは背中の剣を抜き地面ではね続ける魚に突き刺す。突き刺された魚はバタバタと激しく暴れるがやがて静かになる。そして、ドロップに変わった。


「こ、これもモンスター?」


「みたいだな……」


 地面に落ちたドロップ品、魚の切り身を拾ってギルがまじまじと眺める。魚の切り身は白く少しひんやりとしている。また感触はプリプリと弾力がある。


「美味そうだな、これ」


「食べるのか!?」


「そりゃまぁ」


「い、いやでも。モンスターだぞ?」


「でも魚だぜ? 食べられるって」


「お、俺は食べないぞっ」


「まぁ良いんじゃない。あ、これバッグによろしく」


 ギルは切り身をノエルに渡しマジックバッグにしまってもらう。


「さてノエル。俺も正直おおげさだと思ってたけど、実際に魚が飛び出してきたしもうわかったな?」


「ダンジョン舐めてました。気を付けます」


「あぁ、それが良い。いくら授業料って言っても命を払うのは割に合わないからな」


 その言葉にノエルは頷く。そこから二人は、ギルを先頭により一層警戒して先へと進む事にした。






 二人は、あれから順調に階層を下りて現在三階にいた。三階の道は、陸路と水路が半々のような場所になっていて所々陸路を繋ぐ橋が架かっている。陸路自体に手すりなどはなく少しジメッとしていて滑りやすそうだ。


「うわぁ……露骨だな」


「水の中に落ちたら、死ぬ、のか?」


「どうだろうな。水辺にはなるべく寄らないようにしよう」


 ギルとノエルはお互い頷き合うと歩きだす。ギルは『聞き耳』で、ノエルは風の精霊で警戒をしながら進む。ある程度進んだ所でカエルのモンスターとエンカウントする。


「カエルは根絶やしだ! 切り刻め!」


 カエルスレイヤーとなり果てたノエルは反射に近い速度で風の精霊に風の魔法を放つように指示を出す。命令を受けたウィンドバードは『エアカッター』を放つ。

 放たれた風の刃はカエルに向かって飛んで行き二匹の首を切り落とす。


「ふぅ、危ない所だった」


「カエルが出た位で過剰に反応しすぎじゃない?」


「バカ言うな。カエル汁にまみれたことのない奴にはこの気持ちが理解出来るわけがない」


「んな大げさな。死ぬわけじゃないんだし」


 そんなカエルを倒した事で気を緩ませた二人の後ろの水路からサハギンが飛び出す。二人は、いきなり水路から現れたサハギンに呆気を取られて動けない。そのままサハギンはノエルを掴むと水中へと引きずり込もうとする。


「なっ!?」


「しまった! この、やろっ!」


 ノエルが引きずり込まれそうになった所でようやく脳が動き出したギルはサハギンに『スラッシュ』を放つ。『スラッシュ』をまともにくらったサハギンはノエルから手を離し痛そうに負傷した箇所を押さえる。そこにギルが突っ込み体当たりでサハギンを水路へ落とす。

 しかし、そこにもう一匹のサハギンが姿を現わす。水路に近づきすぎていたギルは、そのまま水の中に引きずり込まれた。


「マジっ!?」


 バシャンと派手な水を叩く音を立ててサハギンとギルは水の中へ。サハギンはギルに思い切り抱き着き底へ底へと引きずり込もうとする。

 ギルは必死にもがくが水の抵抗で上手く動けない。


(離せっこの。くそっ、水の中だと動きにくい)


 悪戦苦闘しているギルに、さきほど負傷させたサハギンが襲い掛かる。サハギンは勢い良く泳いでギルに向かって体当たりをかます。不意打ちでモロにくらったせいで肺の中の空気をほとんど吐き出してしまう。


(や、ばい。息がっ)


 息を吐き出して抵抗しなくなったギルをサハギン達は一気に水の底へと引きずり込もうとする。


(まずい。この、ままじゃ。息が出来……)


 そんなギルを突然何かが包み込む。それは、水とギルの間に薄い膜を作り、その中に風を起こす。


「ノエルかっ! 助かった! 息が出来る!」


 風の膜のおかげか先ほどよりも抵抗が薄く動きやすくなった体でギルはもがく。左腕で胸辺りに抱き着いているサハギンの頭を思い切り殴る。緩んだ所でもう一度殴る。左手でサハギンを引きはがしながら、水中で手放していた剣の名を呼ぶ。


「ゴンちゃん!」


 ギルの声に呼応して剣が右手に収まる。その剣で後ろに抱き着いているサハギンを突き刺す。突き刺さると一度手を離して持ちやすいように握り替えてグリグリとサハギンを抉る。

 ほとんど抵抗のなくなった後ろのサハギンから剣を引き抜くと、もう一匹のサハギンにもきっちりと止めを刺す。そして周りを見回す。


「待て! ドロップ!」


 背中に抱き着いていたサハギンのドロップ――魔石と鱗――が下へ沈んでいるのを発見しギルはそれを追い回収する。そしてもちろんもう一匹の方のドロップも回収して水面に向かって泳ぎだした。

 水面近くで風の膜がなくなったが特に問題もないのでそのまま浮上する。


「ぶはっ」


「ギル! 無事か!?」


「あぁ、平気。ノエルのおかげで命拾いしたよ。あれがなかったら呼吸出来なくて死んでた」


「そうか、良かった」


 ギルが無事だとわかると、ほうっと息を吐き出して座り込むノエル。ギルが水辺に近づくと手を差し出す。


「掴まれ」


「サンキュー」


 ノエルはあまり腕力がないのか若干プルプルしていたが難なくギルは陸に上がる。そしてそのまますぐに水辺から離れる。


「うわぁ水浸し。絞んなきゃダメだな」


 ギルは上着を脱ぎ出す。それを見てノエルが慌てる。


「な、ななな、何脱ぎ始めてるんだっ!」


「な、なんだよいきなり。服ビチャビチャだから絞んなきゃだろ?」


「そそ、そうかもしれないが恥じらいというものをだなっ!」


「男同士、何が恥ずかしいんだよ」


 ギルは気にせず上着を脱いで絞る。ノエルは何か言いたげだったがすぐに背を向ける。そして服を絞っているギルに話しかける。


「なぁ」


「ん?」


「誰かの為に命は懸けないって言ってなかったか?」


「言ったな。それが?」


「じゃあなんで俺を助けた? 俺が風の精霊を使役してなかったら死んでたかもしれないんだぞ?」


「それは簡単。ノエルだからな」


「は? ……なっバカ。何言い始めて」


 ギルの突然の言葉にノエルは何かに抵抗するかのように手をあたふたとばたつかせる。


「仮とは言えPTだからな。助けるにきまってるだろ?二人で儲けようぜ。なっ!」


 ギルの素直な言葉にノエルは絶句する。口を何度かパクパクとさせるが言葉を出せない。その間にギルの準備が整う。


「よし。まだビチャビチャだけどこんなもんだな。お待たせ致しました。先へ進みとうございます」


「あ、あぁ」


 ギルの言葉にぎこちなく返しながらノエルはギルの後に続いた。その時ノエルが拳を握りしめていたことに、前を行くギルは気付くはずもなかった。






 二人の間には特に会話もなく黙々ととダンジョンを探索する。さきほどのこともあって特に水路や水溜まりには注意して進んだ。そんな二人の道を新たなモンスターが阻む。


「お? 今度はカニか? デカいな」


 二人の前には一匹の蟹がいた。全体的に赤っぽい色で横幅は成人した女性ほどもあり片方の鋏が異常なほどに大きく発達している。その大きな鋏で威嚇するようにガチガチと鳴らしている。


「ギル、気をつけろ。あれはシザークラブだ。あの鋏に挟まれたただじゃすまないぞ」


「わかってるって。『明けの光刃』」


 光を纏った剣を片手にギルが突っ込む。シザークラブは近づいてくるギルに大きな鋏をハンマーのように振り下ろす。


「おっと、あぶっね」


 ギルはそれを横に跳んで避ける。振り下ろされた鋏は地面に叩きつけられ派手な音を立てる。


「うわっ当たったら痛そうだな」


「ギル、どうする? 距離を取って戦うか?」


「いや、懐に入ればなんとかなりそう。ノエルは援護してくれ!」


「援護って。簡単に言うな!」


 そう言ってギルはもう一度突っ込む。シザークラブはもう一度腕を振り上げる。しかし今度はそこにノエルが攻撃をいれる。


「『エアハンマー』」


 ウィンドバードが放った風の塊がシザークラブに当たり、一瞬だけ動きを止める。その隙にギルが肉薄する。


「狙うは関節っ!」


 大きな鋏とは反対の方の脚に接近するとその脚の関節に狙いを定めて剣を振り下ろす。剣の切れ味の良さもあり、関節は抵抗もなく斬れた。

 脚を斬られたシザークラブは一瞬バランスを崩すもすぐに立て直しギルに反撃を仕掛けようとする。


「そう怒るなって。こいつもくらっとけ」


 ギルは篭手に取り付けた火点()け石に火炎玉をこすりつけてシザークラブの顔目掛けて投げる。火炎玉は放物線を描いてコンっと一度シザークラブの頭の辺りに当たり上に跳ね、そのまま頭上で炸裂する。

 全身を火に飲まれたシザークラブは熱いのか暴れだす。


「ノエル、関節狙え。そこなら柔らかい」


 暴れるシザークラブにもう一度接近して、脚を切り落とす。ノエルもギルの言葉に従い『エアカッター』でシザークラブの脚を切り落とす。

 脚を半分以上切り落とされたシザークラブは満足に動く事が出来なくなり腕を振り回す他なかった。ギルは腕の小さい方からシザークラブの後ろに回り、そこから大きい鋏の根本に向けて『スラッシュ』を放つ。

 放たれた『スラッシュ』は関節の辺りにしっかりと当たったが、腕が大きいせいで全部を切り落とすには至らなかった。


「一発じゃ無理か。じゃあもう一発」


 ギルはもう一度『スラッシュ』を放つ。放たれた『スラッシュ』は腕のほとんどを斬り離す。あと残り僅か、辛うじて繋がっている部分をノエルが『エアカッター』で完全に切り落とす。

 手足のほとんどを切り落とされたシザークラブは、それでもまだ抵抗の意志を見せ小さな腕を振る。


「悪いな、これで止めだ」


 ギルは脅威のなくなったシザークラブと距離を詰め思い切り剣を突き刺す。そして引き抜きシザークラブから離れる。シザークラブは一度伸びをするかのように腕を上げた後、腕を振り下ろすと共に体も倒れた。そして魔石とカニの身になり果てた。


「ふぅー。サハギンより強かったな。魔石も大きいし。そして、これ」


 ギルはドロップであるカニの身を手に取る。シザークラブが大きかったせいかその身も比例して大きくずっしりと重く、手のひらの上で存在を主張する。


「これ、食える?」


「……食べられると思うぞ。カニは高級食材だったりするしな」


「高級食材なの!?ノエル、これも入れといて」


「良いけど、こんなもの食べてお腹壊してもしらないぞ」


「大丈夫だって。オークの肉だって普通に食べられてるんだぜ?大雑把に言えばこれって魚介類だし、いけるいける」


「オークの肉……まぁ好きにすればいい。俺は食べないがな」


 複雑そうな顔でノエルは受け取ったカニの肉をマジックバッグにしまう。それとは対照的にギルは笑顔で言う。


「よっし、もっとカニ狩ろう! 積極的に倒そう!」


 ギルはその後、なるべくカニを倒すことに決めた。

明日は22時の投稿です。よろしくお願いします。

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