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砂漠の商人と水の女神のダンジョン2

 ギルはゴルドンの工房から、次の目的地である図書館に来ていた。この図書館はソーベークの街で一番大きく、街の人間の多くはこの図書館を利用している。この図書館は大きいだけあって様々な分野の本が置いてあり、ギルはその中でもモンスターに関する書物やダンジョンに関する書物を目当てにこの図書館に通っている。

 ギルは受付に向かうと、短めの髪に眼鏡をかけた男性の司書に挨拶をする。


「こんにちは、テリアスさん。これ、利用料です」


「やぁギル君。今日も来たんだね。うん、確かに。」


 ギルは司書のテリアスに挨拶を交わしながら利用料を払う。もう何度も来ているためにやり取りも手慣れている。


「ギル君はよく利用してくれるね。勉強熱心なのは良いことだよ。関心関心」


 図書館の利用者がいることが純粋に嬉しいのだろうテリアスはニコリと笑いながら二度三度と頷く。ギルはそれを照れ臭そうに否定する。


「い、いえ。別に勉強熱心ってわけじゃ。ただ、その、探索者だからダンジョンに関する知識を蓄えたくて。強いていうなら仕事の一環みたいなものですよ」


「それでもさ。探索者は図書館をあまり利用しないからね。それこそ、初心者の探索者であってもね。実に嘆かわしいことだよ」


 テリアスは困ったと言いたげに眉間にしわを寄せ苦笑いする。


「そうなんですか? 確かに探索者の利用者はあまりいないとは思いますけど、そこそこ利用してるものだとばかり」


「それがそうでもないんだよ。今時の探索者は階層の攻略をするよりも安定した狩場で確実、堅実に稼ぐって考えの方が多いみたいでね。昔はそうでもなかったらしいんだけど」


「そうなんですか? 昔と今では何が違うんでしょうね?」


 何気ないギルの一言に、テリアスの目が光る。スッと指で眼鏡を押し上げて眼光鋭くギルに訊ねる。


「知りたいかい?」


(あっ、やべっ。地雷踏んじゃった)


 しまったといった顔のギルの返答を待たずにテリアスは自分の持ちうる知識を語り始める。


「そもそものダンジョンの始まりは、とある悪魔が創り出した一つのダンジョンと言われているんだ。そう、かの有名な悪魔ディヘルトが創り出した最初のダンジョン。それが今に続くダンジョンの時代の始まりなんだ。神と悪魔の代行戦争も終結し小康状態となった、仮初の平和を享受する世界はそれでも人と人同士の争いが絶えることはなかった。それこそ、平和を維持するために力を注いで始めて平和が成り立っていたんだ。そんな、人同士の争いが水面下で起きていた時代に、ディヘルトは始まりのダンジョンを創り出したんだ。『この塔を登りつめた者にはこの世のありとあらゆる物を手にするだろう。富が、名声が、力が欲しいのならばこの塔を登れ』この一言と共にね。しかし、その時代の人間はすぐにダンジョンに潜ることは無かったんだ。というのも悪魔が言うことだったしダンジョンと言うものをまだ知らなかったからね。そんな中、何人かの良く言えば好奇心の旺盛な、悪く言えば向こう見ずな者達がダンジョンへと挑んだんだ。そう、彼らこそ探索者の始まりとも」


「待って待って。待ってください。テリアスさん一旦戻ってきて。話がすごい遠い所から始まってる。短めに!短めにお願いします」


 ギルの静止にハッと正気に戻った後照れくさそうな申し訳なさそうな顔で謝る。


「ごめんごめん。つい、熱くなっちゃって。えーっとそれで。あ、そうそう。つまり、ディヘルトが創り出したダンジョンが人の世界のバランスを崩したことで神々がそれに対抗するようにダンジョンを創り始めたんだ。だけど、それを黙って見ている悪魔でもなくてそこからは神と悪魔のダンジョン創作競争のようになってしまってダンジョンが乱立されたと言われているんだ。その競争が白熱してやがて神と悪魔の最終戦争が起きたっていうのが歴史の流れなんだけどそこは置いといて。神と悪魔がいなくなった後、乱立されたダンジョンだけが残されたんだ。そうすると今度は、あちこちのダンジョンでスタンピードが起きたんだ。それをどうにかしようってことで、ダンジョンを攻略することを目的とした探索者が昔は多かったんだよ。だから色々なモンスターの知識が必要だった。でも今は、探索者はもちろん、国自体の頑張りもあっていくつものダンジョンが踏破され今では人の生活圏を十分に確保できている。だから、積極的にダンジョンを攻略する必要がない。しかも、自分のホームを決めて毎回同じモンスターを狩っていれば生活も安定する。それならわざわざ危険を冒す必要なんてないし、新しい知識を得る必要もない。とまぁこんな所だろうね。先人の努力によって今の豊かさがある。しかし、その豊かさによって埃をかぶったままの知識もある。司書個人としては悲しいことだね」


 このように誰かによく説明しているからだろうか、テリアスは特につっかえることも淀むこともなくスラスラとダンジョンに関する知識を述べていく。あれだけ止まらずに喋っていたにも(かかわ)らずまだ喋りたそうにうずうずしている。


「な、なるほどぉ。確かに今は攻略を禁止されてるダンジョンなんかもあるし、攻略するのは今時の流行りじゃないのかもしれないですね。それじゃあその、勉強をしたいんでこの辺で」


「あっ、申し訳ない。また付き合わせてしまったね。それでは勉強頑張って」


「はい。それじゃあ」


 ギルは受付から離れてモンスターの本が置いてある棚に移動する。周りを確認してから息を吐く。


「ふぅー。テリアスさんの話はためになるけど長いのがネックだな。流石にずっとは付き合えないよ」


「それはそうだが。しかし、主よ。こんなことをいつまで続けるつもりだ?」


「こんなことって?」


 ギルは本を目的もなく物色する。手にとっては本をめくりそして戻す。


「下準備は確かに必要だ。だがしかし、目的もなくただなんとなくで知識を集めていては時間がいくらあっても足りないぞ。それはわかっているのだろう?」


「そりゃあまぁ。でも、基本ダンジョン攻略が目的だと一人じゃ厳しいし、攻略するダンジョンを探すのも大変だし。だからなんか足掛かりが欲しいんだよね」


 ギルは手に持った本を手持ち無沙汰にいじくり回す。


「試練のダンジョン攻略して思ったんだけどさ、あれは運が良かっただけ。命がいくつあっても足りないしダンジョンは一人で攻略するものじゃないよ。それがよくわかった。だからPT募集してるけどあの調子だし。かといってどっかのPTに入ったらダンジョン攻略なんて出来るかわかんないし。でも、ダンジョンコア売却してお金稼がないと三年で金貨一万枚なんてとても達成できそうにないし。はぁ」


「堂々巡りだな。しかし、期限は刻一刻と迫っている。何にしても打開策を考えねばな」


「そうだね。どうにかしないとね」


 この後ギルはしばらくの間図書館に籠っていたが知識を得られただけでこれといった打開策を思いつくことは無かった。

 昼になったので図書館を後にしていつもの屋台広場で料理を食べる。食べ終えると気分転換も兼ねて、訓練所に来ていた。


「こうなったら目一杯体を動かして全てを忘れてしまおう、そうしよう」


「期限の事まで忘れられると困るのだがな」


 訓練所の片隅で壁に立てかけられたゴンちゃんがギルに小言を言う。そんな小言を無視してギルは準備運動を行う。


「ふっはっほっよっ。ほいほいほいっと。さて、体も温まってきたしアレやるか」


 ギルは訓練所で借りた、スキルの威力を大幅に下げる魔道具付きの木刀をリズムよく三回振る。


「スリー、ビート!」


 威力を大幅に落とした『スラッシュ』がタン、タン、タンといった感じで間を空けて飛んでいく。


「うーん、ちがうなぁ。もっとタタタンって感じだよなぁ。そう簡単に習得は出来ないか。それじゃあもう一回。スリービート!」


 ギルは試練のダンジョンを攻略した後、またリンドに指導をしてもらっていた。その際にリンドから勧められた手数の増える『スリービート』と位置取りや咄嗟に動くための『ステップ』の練習をしており今も特訓の最中ではあるがまだ習得には遠いようである。


「あぁ駄目だ。んじゃ今度はステップだ! ステップステップステップステップぅぅぅ」


 ギルは足に力をいれて横にずれるように跳ぶ。反復横跳びと同じ要領で左右に往復する。それを何度も繰り返す。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳び続ける。そして体力の限界が来てその場に座る。


「どう? 俺のステップ、キレとか良くなってた?」


 ギルが呼吸を整えながらゴンちゃんに聞く。


「いや。普通の横跳びだ。何も変わっていないな」


「そっかー。あぁリンドさんいないしユーリさん達もいないから教われないし、お金もないし人望もないし。ないないだらけだなぁ。あー」


「……がいるだろう」


「え?何か言った?」


 ゴンちゃんの呟くような声にギルが聞き返す。


「少なくとも、我がいるだろうとそう言ったのだ! それでは不服か!?」


 ゴンちゃんは恥ずかしさを誤魔化すかのような大声で言い切る。ギルは目を丸くした後にニヤリと笑う。


「な、何が可笑しい!」


「いや、可笑しくて笑ったんじゃないって。いやー頼もしい相棒だなってさ」


「からかっているだろう!」


「そんなことないって。あ、もうこんな時間だ。宿に帰ろっか」


「待て! 誤魔化しているだろ! 本当はどう思っているのだ? キャラじゃないとかそう思っているのであろう? この際はっきりと言って欲しい! さぁ! さぁ! 主よ!」


「あーお腹空いた。今日の夕飯なんだろうな。バイツさんが作る料理はどれもおいしいんだよなぁ」


 ギルは時にゴンちゃんを茶化しながら、宿屋へと帰るのであった。






 ギルは宿屋に着くとそのまま真っ直ぐ食堂のカウンター席へと座る。席に座ると宿屋の娘が注文を取ってくる。


「おかえり、ギル君。今日も日替わり定食?たまにはお酒なんてどう?」


「た、ただいまです、アンさん。日替わり定食でお願いします。お酒は大丈夫です」


 一つの緩めのお下げにしてまとめてある明るめの茶色の髪に、服の上からでも膨らみがわかる胸。そしてホッとするような笑顔をする宿屋の娘アンに、ギルは恥ずかしそうに返事をする。そんなギルを見て何かが面白いのかアンはクスクスと手を口にあてて笑う。


「真面目だねぇ。たまにはお酒でも飲んだらいいのに。注文入りまーす、日替わり定食一つ」


 ギルをからかった後に奥にいる宿屋の主人であるバイツへと注文を出す。注文を受け取ったバイツは料理をしながら返事をする。


「あいよー」


「それじゃあまたね、ギル君。今混んでるから少し時間かかるけど、ごめんね?」


「あ、はい。大丈夫です。待てますから」


「うん、偉い偉い」


 縮こまるギルの頭をポンポンと叩いてからアンはテーブルの方へと向かう。夕飯時である今はテーブル席がそこそこ埋まっており男や女が料理を食べ酒を飲み、楽しそうにしている。

 アンは注文を取ったり料理や酒を運んだり、食器を片づけたりと忙しなく働いている。そんな姿をギルはでれっとした表情で見ていた。


「へへへ。頭撫でられちゃったよ。もしかして、気があるのかな?へへへ」


「……ソーダナーキットキガアルノダロウナー」


「なんだよその棒読み」


「主、アレは剣である我でもわかる。弟くらいにしか見てない対応だ」


「うぐっ。そんな、そんなことない。きっと、きっと」


「夢は散るものだ。見るべきではない」


 ゴンちゃんがギルの純情をへし折ろうとしているその時。バイツが料理を運んできた。


「悪いな、ギル。おまちどうさん、日替わり定食だ」


「おぉ、来た来た! すごく豪華! そんでうまそー! いただきます!」


 メニューはパンにホワイトシチュー、そしてオーク肉のソテーとデザートにアップルパイまである。ギルは運ばれてきた料理に早速手をつける。ナイフでオーク肉のソテーを一口大に切りフォークで口まで運び頬張る。


「うまっ! これすっごいおいしいよ、バイツさん!」


「そうかそうか。そりゃ良かった。腹いっぱい食ってくれ」


「うん! それにしてもすごい豪華だね、今日の日替わり定食」


「ん? あぁ、実は本当の日替わり定食はシチューじゃなくてただのスープだしデザートもなしさ。まぁ名前使わせてもらってるサービスさ」


「え? そんな、有難いですけど悪いですよ」


「なぁに言ってんだ。ダンジョン踏破者が使ってる宿屋って宣伝出来たおかげで人が来るようになったんだ。こんくらい気にすんなよ。おっと、また注文が入った。それじゃあな、残さず食べてくれよ。一生懸命作ったんだからな」


 バイツはギルの肩をバシバシと叩くとすぐまた奥の厨房へと消えていく。ギルはその背中を悩んでいるような表情で見つめている。


「どうかしたの? 美味しくなかった?」


 注文を取って戻って来たアンに話しかけられる。覗き込むようにして近づいて来たアンにギルは驚きながらも首を横に振る。


「い、いえ。とても美味しいです。すごく美味しいです!」


「でも、なんだか浮かない顔してたよ?」


「そ、そんなことないですよ。あ、俺ニンジン嫌いで」


「この前バクバク食べてたよね? 怪しいなぁ。お姉さんに話してみなさい」


「いや、でも……」


「もー。は・な・し・な・さ・い」


 アンはギルの頬を摘まむと言葉を発すると同時に、横に伸ばしたり上に引っ張ったりする。ギルは突然のことに目を白黒させながらなんとか言葉を絞り出す。


「ふぁ、ふぁふぁひまひた、ふぁふぁひまひたふぁら」


「ほんとー?」


 アンが頬をムニムニと揉みながら訊ねる。ギルは頭を上下に振る。アンはそれを見てギルの頬を離す。ギルは助かったような名残惜しいような顔をしている。


「よし。じゃあ話してみて」


「は、はい。……その、俺の名前を使って宣伝してもらうのは構わないんですけど、その、俺は。『成金』って言われてるじゃないですか。だからその、あんまり効果なんてないっていうか。だから料理とかサービスしてもらうのが心苦しいっていうか、その。ごめんなさい」


「うんうん、なるほどなるほど。ギルは駄目な子ね」


 そう言うとアンはギルの頭に手刀を落とす。女性の、しかも加減されたチョップは痛いというわけではない。アンは手を乗せたまま、ノコギリのようにギコギコとギルの頭を滑らせる。


「え? え? えっと、ごめんなさい」


「だ・か・ら! どうしてそこで謝るの! 名前使わせてやってるんだからサービスくらいしたらどうだ! くらい言えないの?」


「そ、そんな悪いですよ」


「悪くない。ギル君はなにも悪くないよ。そもそも、名前を勝手に使って宣伝してるのはうちだよ? どうしてそれでギル君が謝るの? やらしい話、宣伝のおかげで利用するお客増えたんだから! ほら、もっと胸を張る! 縮こまってどうするの?」


「え、えっと、はい」


 アンに言われた通りになんとなくギルは胸を張る。しかし、堂々とはしておらずどこか頼りない。まさかこれがダンジョンを踏破したことのある人間だと誰が思うだろうか、そう思えるほどにギルの姿は年相応、あるいはそれよりも弱々しいイメージを持ってしまう。


「……ギル君ってさぁ、探索者って感じしないよね」


「え? そ、そうですか?」


 アンの言葉にギルは少しショックを受ける。ギルは目を伏せようとするが、アンは続ける。


「だから、お姉さん心配だな。なんだか無理してるみたいでさ。ギル君には穏やかな生活が似合う、そんな気がする」


 アンはギルを見つめる。その目からはギルを心配していることが伝わってくる。ギルはなぜかその目をまともに見れなくて逃げようとする。しかし、目を逸らすことも出来ない。


「アンちゃーん、お酒追加おねがーい」


「あ、はーい。今すぐ持ってきますね!」


 宿の利用客の呼び声にアンは反応する。ギルは目を逸らすことが出来てホッとする。


「まっ、とにかく。ギル君は気にせずちゃんとご飯食べなさい。いいわね? あ、そのアップルパイ、私が作ったんだ。ちゃんと食べるんだよ? いいね?」


 アンはギルの頭をポフポフとはたくと、厨房の奥へと消えていった。ギルはその背中を見つめながら言う。


「……もしかして、立ち去る時に叩いていくのって親譲りなだけなのかな?」


「今の会話で行き着く所がそれなのか?」


 全く関係のないその一言にゴンちゃんは残念だと言わんばかりにため息を吐く。

 そしてそんなギルを離れたテーブルから見ていた者がいた。


「あれが、『金星』ギルガメッシュ、か。御しやすそう、かな?もう少し様子を見ようか」


明日は21時の投稿です。よろしくお願いします。

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