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始まり3

 

 その扉は所々に宝石が散りばめられ美しい装飾がなされており、重厚さと豪華さを醸し出していた。扉の中に入ることはおろか扉に触れることも躊躇われるほどであった。


「すごい……この扉に付いてる宝石だけでも持ち帰ればそれだけでも大金持ちになれそうだな。こんなすごい豪華な扉の奥にはどんなお宝があるっていうんだ?」


 金銀、宝玉に彩られたその豪奢な扉に少年は思わず声を出す。


「扉の先かぁ。開け、るか?でもこれダンジョン最奥のボスの間の扉ってやつじゃないか?」


 村にくる探索者や商人の話、おとぎ話でよく聞くダンジョンの話。どのダンジョンの話にも共通するのは今までとは明らかに雰囲気の違う扉の向こうにはそのダンジョンの主と呼ばれるモンスターがいる、ということだ。

 少年はここに来て悩み始めた。もしボスの間だとしたらまず間違いなく殺されて終わりだろう。金銀財宝なんて話ではない。しかし、だからといってここで引き返すのはもったいない気がする。二つの思いが少年を悩ませる。いっそ、この扉の宝石をなんとか外してみようか?などと考えていたその時。

 不意に声がかけられた。


「悩むというなら中に入ってはいかがかな?少なくとも危険はないと保障するよ。あぁそれと、その扉を傷つけようとするのはおすすめしない。止めておいた方がいい」


「だ、誰だ!!」


 少年はその声の発した人物を探す。しかし、扉の近くには自分一人で誰もいない。


「ど、どこにいる!」


「そう焦らなくてもいい。私は扉の中にいる。さぁ入ってきたまえ。そのために君はここに来たのだろう?そう、富を得るために」


(な、なんで?い、いやダンジョンに潜る者の多くは富や栄光を求めている。あてずっぽうで言ったってかすりはする。)


 そう思うのに、なぜだか今の声の主は自分の心を見透かしたような気がして不気味だった。


(……くそっ!この扉は開けるべきじゃない。モンスターよりもっと恐ろしい者がいる。なのに、なのになぜ俺は。)


 不思議なその声に誘われるように、少年の心とは正反対に目の前の扉へと手をかけた。そして扉はゆっくりと開かれた。


「ようこそ、富を求めし者よ。さぁ汝の願いを聞こうじゃないか」


 扉の先には広い部屋があった。部屋の中には金銀財宝に溢れており、部屋の真ん中にはテーブルと椅子。テーブルの上にはティーセットと文房具が置いてある。テーブルの先には椅子に座った一人の男が佇んでおり少年を見つめている。


「どうかしたかね?そこに立っていないで座るといい。積る話もあることだしね」


 促されるままに席に着く。目の前の男はどこか不思議な雰囲気があった。金の髪は長く後ろで束ね眼鏡をかけている。整った顔と知性を秘めた目は何者も惹きつける何かがあった。


「さて。では、まず名前を聞こうか。契約にはまず名前が必要だからね」


「ギ、ギルってちょ、ちょっちょっと待って。いきなり契約だの名前だの言われてもわかんないって。せめて説明してほしいんだけどっ」


「ふむ。説明と言ってもそのままだ。君は私に願いを言う。私はその願いに見合う対価を要求する。それを紙に書き記し契約とする。それだけさ。難しいことなんてない」


「そ、そうじゃなくて。いや、今のも聞きたいことの一つだけど。そもそもあなたは一体誰?願いを叶えるってどうやって?」


「あー、そうだったそうだった。いやすまない。なにせこの場所へと来た者は久しぶりでね。私も興奮していたようだ。お茶でも淹れよう。気を静めなくてはね」


 少年の問いに目の前の男は合点がいったという風ににこりと笑うとお茶を淹れ始めた。その所作は堂に入っていてとても洗練されている。


「飲むといい。気が安らぐ」


 そう言って差し出されたお茶はとても良い香りがした。一口飲むと茶の濃い味がして、少なくとも少年が孤児院で飲む薄いお茶とは比べ物にならないくらい上等な物のようだ。その美味しさについ目を見開く。


「う、美味い!こんなの飲んだことない!」


「気に入ってもらえたようだね。この茶葉は私のお気に入りでね。なによりだよ」


 満足げに頷いた後、男も茶を飲む。出来がよかったのか満足そうである。一息ついた後に男が口を開いた。


「それで、何の話だったか。そうそう、私が誰かだったね。私の名はゴドリアス。君たちが言う所の悪魔だ」


「悪魔?悪魔ってあの?でももういなくなったんじゃ?」


「そうだね。君が言う通りほとんどの、神も悪魔もこの星から旅立った。残っているのは気まぐれな悪魔か責任感の強い神かくらいだろうね。

 つまり僕はこの星から旅立たずに残っている物好きな悪魔ってことさ。そんなことよりも、だ。君はもっと聞きたいことがあるだろう?」


 一呼吸置いた後にゴドリアスは更に続ける。


「ここに訪れる者は皆富を求めている。ここに来ることができたということは君にはとてつもない欲望があるということだ。お金への執着という欲がね。

 ならば君が私に聞くべきことは悪魔や神の行方ではなく、富を得られるかどうかだ。そうだろう?」


 ゴドリアスの試すかのような眼差しから一瞬目を彷徨わせた後しっかりと視線を返した。


「……もし、もしもだ。本当にあなたが古の悪魔だというならぜひにでも契約というやつを結びたい。でも契約っていうのは条件がある。条件がわからない内から良い返事なんてできないし、なにをしてくれるのかもわからないんじゃあなお更だ」


「それはごもっとも。それじゃあさっきの続きだ。君の名前と君の願いを聞こうか。まずはそれからだ」


「……名前はギル、ギルガメッシュ。俺の願いはお金が欲しい。それだけだ」


「ギルガメッシュ。ギル君か。ふーん、それでお金が欲しいと。なるほど、その願いを叶えてあげようじゃないか」


「ほ、本当に?叶えてくれるのか?」


 少年ギルガメッシュはゴドリアスの二つ返事に舞い上がる。が、しかし。


「あぁ。もちろん。ほら」


 そう言ってゴドリアスが手を差し出すとそこには黄金に輝く剣が現れた。その剣は美しく収められる鞘にも豪奢な装飾がなされている。


「……ま、待ってくれ。俺はお金が欲しいって言ったんだ。確かにその剣は高く売れそうだけどそれなら最初から後ろの財宝をもらえないか?」


「え?嫌だよ?」


「な、なんで!」


「そりゃあだって僕は悪魔だからね。はいそうですかってすんなりお金を渡すわけがないだろう?」


 当然だと言わんばかりのゴドリアスの顔にギルは唖然とする。が、すぐに気を取り直し反論する。


「あんたは願いを叶えるってそう言っただろ!?」


「叶えるとは言ったけど、願いをそのまま叶えるなんて言ってないよ。それとも止めておくかい?」


 にこりと微笑むゴドリアスの顔には楽しくて仕方ないと書いてある。これは罠だ。誰がどうみてもそうだとわかる。手のひらで踊らされるだけだとわかっていてもギルには拒否権がなかった。


「そうか。じゃあこの話はなかったということでいいんだね?」


「誰も嫌なんて言ってない。でも、じゃあその剣を渡されてどうしろって言うんだよ」


 半ばやけくそ気味にギルはゴドリアスへと問う。自分の手のひらでまんまと踊るモルモットにゴドリアスはほくそ笑み言う。


「金貨1万枚。それが条件だ」


「い、1万枚!?」


「そう。帝国金貨一万枚分、これは一万枚分の金貨でも良いしそれに見合う財宝でもいい。とにかく3年で金貨を一万枚分集めれば良い。そうだな、僕のおすすめとしてはダンジョン。そうダンジョンを攻略するのがおすすめだね。おっと話が逸れたね。で、だ。その代わりとしてこの剣『金と栄光へと誘う黄金の陽刃』を君にあげよう。どうだい?良い取引だろう?」


 どこがだと怒鳴りたい所だがグッと抑える。ため息を一つ付くとギルはゴドリアスへと尋ねる。


「もし、その契約を守れなかったらどうなる?」


「そうだね。君が頑張れるように魂をもてあそぶなんてどうかな?」


「くそったれ!この悪魔め!好きにしろ!」


「至極光栄に存じます、ギル殿」


 ゴドリアスの笑顔は輝いていた。憎たらしいほどの悪魔の笑みであった。


「それでは話もまとまったことだし、契約書に名前を記入してもらおうかな?」


「待った。まだ話は終わってない」


「ん?やっぱり止めるってことかな?」


「いいや、違う。それどころかあんたの目論見に乗ってやる。金貨10枚、上乗せしてくれ。金貨10くらいの前借りにケチなんてつけないだろ?その剣をもらえるっていうならすぐにでも攻略したいダンジョンがあるんでね?どうだ?あんたの望み通りだろ?」


 そう問うギルにゴドリアスは先ほど見せた笑みよりも口角をつり上げて笑い慇懃無礼に振る舞う。


「素晴らしい。では、契約成立ですね」



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