試練のダンジョンと金の力25
人の形をした銀色の塊は偉そうに腕を組んで更に話を続ける。
「それにしても、遂にこのダンジョンをクリアする者が現れたか。人もまだ弛まぬ努力を続けているのだな。関心関心。少年よ、よく頑張ったな」
「あ、はい。ありがとうございます」
「なに、そう硬くなることはない。胸を張ると良い。なにせ私の試練を乗り越えたのだからな。はっはっはっはっはっ」
「は、はぁ」
銀色の人形は楽しそうに笑う。ギルはその姿に毒気を抜かれて生返事をする。
銀色の人形は、ひとしきり笑った後今度はゴンちゃんの方を見つめる。
「それにしても、ダンジョン踏破者がお主、あー名前はなんだったか?」
「金と栄光へと誘う黄金の陽刃でございます」
「あーそうであったそうであった。太陽剣だったな。お主が選んだ者がこのダンジョンを踏破するとはな。この者に見込みはありそうなのか?」
「……只今の所は要観察と言った所でして。これからに期待しております」
「これからに期待か。厳しいな。お主を用いたとはいえ単独でダンジョンを踏破したのにな」
「あ、もしかしてゴンちゃんを使ったのはまずかったですか?」
ギルに話し掛けられ銀色の人形は一度首を傾げてギルの問いに答える。
「ゴンちゃん?まぁよい。太陽剣を使ったことを咎めたりはせぬ。例えどんなにすごい道具を使おうが本人が成長しなければ、自分自身を超えることは出来ぬからな。それに使用を制限するなら入る前からとっくにやっている」
「あ、そうですよね」
「うむ。おっと、もう時間がないな。では改めて。少年よ、よくぞ我が試練のダンジョンを攻略した。しかーし!我が試練のダンジョンはまだまだあるぞっ!一つクリアしたからといって驕ってはいけない。少年は今、試練という坂道を登り始めたばかりなのだからな!だからこそ、我が試練のダンジョンに再び挑むのだ!そう!最強という頂を目指してな。はーはっはっはっはっはっはっはっ!では、さらば!またどこかで会おう」
銀色の人形は言いたいことを言って、その銀の体ごと消え去った。後にはギルとゴンちゃんと沈黙だけが残った。
「あれが、神様。なんかすごい好き勝手しそうな感じがガンガン伝わってきた」
「まぁその。そういうものだ、神々と言うものは」
「あれ?そういうば神様ってもうほとんどいないんじゃなかったの?」
「む?あぁあれは残した思念というかなんというか、ベルディアス様本人ではない。本人のかけらのようなものだ。あれ自身に大した力はない」
「よくわかんないけど、ゴンちゃんがそう言うならそうなんだろう、ね?」
「あぁ。それよりも荷物をまとめて奥に進もう。ここに長居する必要はあるまい」
「そうだった。あまりにインパクトが強すぎて本来の目的忘れてた。置いて来た荷物取りに行かないと」
ギルは慌てて立ち上がりセーフルームに荷物を取りに戻り、荷物を回収したら最奥の間の先に続くダンジョンコアの部屋の前に来ていた。
「この、先にダンジョンコアが……正直、実感湧かない。未だにこれ夢なんじゃないかって」
「夢などではない。さぁ、奥へ」
ゴンちゃんに促されてギルは進む。
「……これがダンジョンコア。大きい。それに綺麗だ」
部屋の中央に安置されている巨大な宝石のような物が淡い光を放ち存在感を出している。それは中心から淡い光を放ち、ダンジョンコア自身が青いので青い光が放たれているように見える。大きさは、直径が一般的な成人の男性よりも長く一人で持ち運ぶのは難しそうである。
ダンジョンコアから放たれる光に引き寄せられるように、ギルの視線がダンジョンコアへと向く。そのままギルはしばらくの間放心したようにダンジョンコアを見入る。
それからしばらくして、ようやく我に返りダンジョンコアとは別に金貨や銀貨、あるいは宝石や装飾品、武具などが小さな山のように積み上げてあるお宝の山に気付く。
「あ、こっちにはお宝がっ!どれも高価そうな物ばっかりだ……これなら金貨五千枚分くらいきっと……」
「そんなにはないぞ。それに全部売るつもりか?」
金銀財宝に飛びつき目を輝かせながら物色していたギルはゴンちゃんの言葉にようやく気付いて返事をする。
「……え?まぁそのつもりだけど」
「武の神が集めた武具ならば良い物があるだろう。篭手や短剣などを見繕ったらどうだ?」
「ふーむ、確かに防具とかそういうのは欲しいな。どうせ全部を返済出来ないなら自分用にしても良いか。……あ、これ良いな。ごつごつして強そう。この短剣なんて宝石埋め込んである!魔石かな?強そう!あ、この兜もトゲとかいっぱい付いてる!強そう!」
ギルはそのまま飽きることなく宝の山を物色し続けた。
物色を終えたギルは両腕に篭手、そして腰に短剣を差していた。篭手も短剣も宝石や装飾、あるいはゴテゴテしたトゲやらは付いておらず、どちらも使い勝手は良さそうだ。
「うむ。どうやらまともな物を選んだようだな。変な物を選んだらどうしようかと思っていたぞ」
「やだなぁ。宝石が付いてるのとか選ぶわけないよ。ああいうのは売った方が利益になるんだしさ」
ギルは笑顔でそう言う。
「そうか、まぁ結果オーライと言う奴か。……さて、ではもう用は済んだな?では地上へ凱旋といこうか。向こうの方にあるあの転移魔法陣を起動させれば持ち物も、ダンジョンコアや宝物も全て地上へと転移される」
「全部……それってさ、死体でも?」
「死体?まぁ死体でも転移はするが、いったい何を?」
「ちょ、ちょっと待ってて。すぐ戻るから」
ギルはそう言い残し部屋を出る。それからしばらくしてある遺体を支えながら戻ってくる。
「それも一緒に連れていくのか?」
「うん、まぁ。駄目?」
「いや、駄目ではないがそやつは主を一度殺そうとした相手だぞ?」
「わかってる。けど、こいつの鎧に助けられたのも事実だし。ここに残していったら後悔しそうだし。だから連れて行く」
「そうか。まぁ主の好きにするといい。死体にまで鞭打つ必要もないだろうしな」
「ありがとう、ゴンちゃん」
ギルは、リュートの遺体を転移魔法陣の所まで持っていく。魔法陣の所まで持っていくとゆっくりと床に横たえさせて辺りを見回す。
「えっと、それでこれどうすれば地上に戻れるの?」
「そこに魔石をはめ込んだ台座があるだろう?それに手をかざして地上へ戻りたいと念じればいい」
ギルは、ゴンちゃんの言う通りに転移の魔法陣の近くにある台座の魔石に手をかざして「地上へ」と念じる。すると、魔法陣が淡く光を放ち始め、徐々に強い光となって辺りを包み込む。光が一層強く光ると同時にダンジョンコアのあった部屋には、ギルもゴンちゃんも、何もかも全てが消えて無くなっていた。
そして、ダンジョンコアを失ったダンジョンは中にいる人全てを外へと排出しその機能を停止させた。
ダンジョンの外では騒ぎが起きていた。というのもさきほどから地面が揺れて治まりそうになくそれどころか徐々に大きくなっているからだ。
「お、おい。なんだこりゃ?どうなってる!?ななな、なにが起こってる!?」
「うるせぇ!こっちが聞きてぇくらいだ!」
「あぁ、さ、皿が。皿が落ちるぅ」
「おぉ、揺れてる揺れてる。今日は随分と酔っぱらっちまったみてぇだ。はははは」
その揺れに対しての反応も人それぞれで、訳も分からず怒鳴り散らす者、それに対して怒鳴り返す者。木皿が落ちることを気にする者。細かい事など酒の全てで片付ける者。千差万別だ。
そんな慌ただしい人混みの中にポツポツといきなり探索者の恰好をした者達が現れ始める。
「うおぉぉぉ。今度は何だ!?人が出てきやがった!?」
「うるせぇ!わからねぇって言ってんだろ!」
「お、おい待て!も、もしかして、誰かがダンジョンを攻略したんじゃないか?聞いたことあるぞ!攻略者が現れるとこうやってダンジョンが揺れて、攻略者以外は全部外に追いやられるんだ!」
「う、嘘だろ!?ってことは、ってことはよ?つまり、ダンジョンが攻略されたってことか?」
「あぁそうだよ!そこのあんちゃんがそう言ってんだろ!」
探索者の放った一言は、波紋のように徐々に周りに伝播していき、やがて大きな波となる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!攻略者が!攻略者がでやがった!一体誰だ!?誰が!?」
「知るかバッキャロー!それより祝いだ、祝い!めでてぇぜ!」
「あぁ、揺らさないで!揺らさないで!店を揺らさないでぇぇぇ」
「おぉ、なんかあったのか?よくわからねぇが酒だ酒!がはははは!」
攻略者が出たとわかった事でダンジョンの周りは一気に騒がしくなり祭りのような雰囲気になった。楽しそうに騒ぐ者、先を越された事を理解して悔しそうにする者、そんな騒ぎとは関係なく慌てふためく者、更に酒を呷る者。そんな祭りのような騒ぎを、三人のおっさんがその輪の外から眺めていた。
「お、おい。もしかしてギルか?ギルがやったのか?」
「当たり前だ!ギルがやったに決まってる」
「もうすぐ出てくるはずだ。近くへ行こう」
ロイド達がそう話していると、さきほどの喧騒からより一層大きな声が上がる。ロイド達は顔を見合わせ、人混みをかき分けるようにしてその中心へと向かうのであった。
「お?おぉぉ?おお?な、何!?ちょっ、何!?いや叩かないで。よくわかんないけど止めて!」
ギルが地上に現れた途端にその場にいた者達が一斉に声を上げた。それは怒声に近いような声でギルは不意を突かれたかのように身をすくませる。そしてその隙を突くかの如くギルの周りに何人もの人が集まりギルをもみくちゃにする。
ギルは必死に止めてくれとお願いするが、この祭りのような雰囲気に酔っぱらっているのか誰も気にも留めない。それどころか胴上げすら始める始末である。
「や、やめっ!下ろして!下ろして!あ、ちょっ、今お尻触った!おい、誰だ!完璧に手つきがやらしいぞ!ふざけんな!下ろせ!」
そんな、お祝いムード一色の場を切り裂くように、女性の金切り声が上がる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
女性のつんざくような叫び声に場がシンと静まり返った。




