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試練のダンジョンと金の力15

「なんだここ?」


 ギルがワイルドウルフとの戦闘を終えた部屋の扉から続く階段を下りた先。たどり着いたのは今までの階層とは毛色の違う広間であった。

 一言で言うならば生活感を感じられる空間とでも言おうか。焚き火を焚ける場所があり、更にそのまま料理も出来そうであり、水も湧いていて、十分に足を広げて眠れそうなソファーのような物もある。

 はっきり言って生と死を懸けて戦う場所には似つかわしくないほどである。


「ここはセーフルームだな」


「セーフルーム?あっ!これが!?へぇーこんなしっかりしてるんだ。なんかもっと探索者がこう有り合わせで作った物想像してた」


「実際そういうものもあるだろう。神々が創ったダンジョンはセーフルームがあるものもある。悪魔が創るものと比べれば断然多いと言えるだろうな」


「じゃあここってさっき言ってた武神がわざわざ用意してくれたってこと?」


「あぁ、そうなるな」


「へぇー。……ダンジョン入ってすぐにも聞いたけどさ、なんでゴンちゃんそんなに詳しいの?年期の問題?」


「まぁそれを話してもいいがまずは休憩が先だな」


「え?大丈夫大丈夫、ヘーキだって。休んでる暇なんてないよ?あいつに追いつかなきゃ」


「いやダメだ。今はまだ緊張と興奮で自分が疲れているかもわかっていないだけだ。ここで一旦休んでいった方が良い。恐らくこのダンジョンはここからが本番だからな」


「あぁー。わかった、そうするよ」


「それが良い。先ほどオークの肉をドロップしただろう?あれを焼いて食べたらどうだ?体力が付くぞ」


「そうだった!オークの肉!腐る前に食べなきゃ!」


 ギルは背嚢を降ろしてオークの肉を取り出す。その他持ち込んでいた保存食、調理道具、着火装置も取りだす。それらを焚き火の前まで持っていく。

 焚き火の近くには薪まで用意してあり有り難く使わせてもらう。とは言っても薪は全部大きかったので着火し易いようにいくらかナイフで加工する。

 加工した薪に火を点けて組んだ薪の下に置く。少しずつ火が燃え移っていきやがて大きな炎となる。

 ギルはオークの肉を厚めに切り分けて携帯用の小さめのフライパンに乗せて薪の上の土台の乗せる。フライパンは少しずつ温められてやがてジュウジュウと肉の焼ける音が聞こえ始める。


「おぉぉっ!肉の焼ける音っ!屋台広場でずっと聞いてた音っ!手の届かなかった音っ!銀貨二枚の音ぉぉぉぉぉ!」


 肉の焼ける音と匂いにギルはテンションを上げる。それと共に自分がお腹を空かせていたことにも気付いた。


「やばいっ!お腹空いてきたっ!早く食べたい」


「はしゃぐのはわかるが火加減に注意した方がいいのではないか?せっかくの肉が台無しになるぞ」


「おぉそうだった。ていうか、これ煙とか大丈夫なの?」


「心配する必要はない。神が創ったものだからな」


「……そういうものなの?」


「そういうものさ」


 そういうものか?でも神様だしなぁと納得しつつギルは気持ちを切り替え目の前の肉に集中していく。

 オークの肉は程よく脂がのっていて火で焼かれていくたびにそれが溶けていきフライパンの上でじゅわじゅわと音を立てる。それがなんとも堪らず食欲をそそられる。

 早く食べたいと逸る気持ちを抑えながら両面をじっくり焼き――多少焦げているが――しっかりと火を通す。孤児院に居た頃はシスターに生肉はしっかり火を通せとよく言われていたことを思い出しながら。


「よし、焼くのはもう良い。後は、炙っておいた硬パンにオーク肉を乗っけて塩っ気のためにこれまた炙っておいた削った塩漬け肉をオーク肉にかけて、パンで挟む。よし、完成」


 出来立てのオーク肉のサンドイッチにギルは思いっきり(かぶ)り付く。そして二度三度と咀嚼して飲み込む。


「うん、不味い!でも美味い!」


「どちらなんだ?」


「二束三文で買った保存食が最高に不味い!足引っ張ってる!孤児院出身の俺でもこいつはひでぇや!でもオーク肉はタダだし!美味いし!プラマイプラスだよ!」


「だから止めておけと言ったのだ。それに無理に保存食を食べる必要などあるまい?」


「勿体無いし。こうでもして食べないともう食べられそうにないし。良いんだ別に。焼いた分厚い肉を食べてるっていう事実が心を満たしてくれるんだ」


「そうか、なら良いが」


 ギルはそのまま夢中でサンドイッチを食べ続けた。




「いやー食った食った」


「結局ドロップしたオークの肉を全部食べたのか。よく食べたものだ」


「まぁオークの肉は美味しかったし。それに腐っちゃうだろうから勿体無いしね」


「まぁそれもそうだな」


「あーマジックバッグ欲しいなぁ。そしたら無駄なんてなくなるのにぃ」


 食休めも兼ねてギルは大きめのソファーに横になる。少しゴワついているもののソファーは柔らかく休めそうだ。因みにゴンちゃんはすぐ近くに立て掛けてある。


「少し眠ると良い。体を休めた方がいい」


「うーん、あんまり眠くないな。あ、そうだ。話してよ話。ほら、なんでやたらとダンジョンに詳しいのか教えてくれるって言ってたじゃん?」


「うむ。まぁ寝物語には丁度よいかもしれぬな」


「寝物語って。子供じゃないんだし寝ないってば」


「……まぁいいか。なぜ、我が詳しいかだったな。それは簡単な話だ。我は鍛冶の神ザナトニウス様に造られた至高の七振りと呼ばれる剣の一つなのだ。造られた後、しばらくの間ザナトニウス様の傍にいたからダンジョンの知識なりを授けてもらったのだ」


「神様が造った剣でしかも神様と同じような知識持ってるってこと?俺、大丈夫?罰当たんない?あの悪魔と勝手に契約しちゃったんだけど」


「ザナトニウス様はそのような心の狭いお方ではない。安心していい。もし何かあるとしても、ゴルドリアス殿にだけだろうしな」


「そ、そっか。ゴンちゃんが言うことだし信じるけど、驚きだわ。今まで生きてきた中で一番の衝撃。でもだから色々知ってるんだ……じゃあさ、なんで神様がいなくなったのとかも知ってるの?」


「いや、それは……」


 ゴンちゃんは話し辛そうに口を紡ぐ。


「話せない理由でもあるの?誰にも言っちゃいけないような理由とか、そういう」


「違う。話せない理由があるわけではないのだが、本当に聞きたいか?」


 ゴンちゃんが硬い口調で尋ねる。ギルはゴクリと喉を鳴らし頷く。


「端的に言うならば」


「言うならば?」


「神々は」


「神々は?」


「引っ越したのだ」


「そっか。引っ越したのかって引っ越しっ!?」


「あぁ。人の間で語られているような神と悪魔の戦いはあった。あったのだが、それはもうダンジョンが出来るずっと前の話なのだ。争いに飽きた神と悪魔はいつしか色んなことで競い合った。最初はしょうもないことで争いあっていたらしいのだがそれがどんどん過激になっていき、人を巻き込み始めた。そしてある悪魔がダンジョンを創った。それが今のダンジョン乱立の始まりだ。その後はこぞってダンジョンが創られた。どちらがより良いダンジョンを創れるかで競い始めたのだ。それこそ人が攻略出来ないような場所。空高い天空のダンジョンや海の底にある深海のダンジョン、もはや本人の趣味に走りすぎたものもあると聞いている」


「そ、それでどうなったの?」


「飽きたのだ。そう、まただ。世界にダンジョンを創るだけ創ってダンジョンだらけになったから『ここも狭くなったしじゃあ新しい所にでも引っ越すか』と言った具合でな。新天地を目指して違う世界へと旅立ったのだよ。ほとんどの神と悪魔が。風の噂では今ブレイクダンスとやらで勝負をしているらしい」


「……嘘、でしょ?冗談でしょ?いや、きついって。そんなのきついって」


 ギルの縋るような詰問にゴンちゃんは何も答えない。


「……飽きたからどっか行くって。神様が?神様と悪魔の最終戦争は?それ信じてる協会はどうなるんだよ……」


「ブレイクダンスで勝負しているかどうかは真実ではないかもしれぬ」


「いらないよっ!そんなフォロー!ていうかこんな話誰にも出来ないじゃん!教会関係者なんて特に言えないじゃん!」


「そうだな、その方がいい。知らないことで幸せなこともある」


「そだね」


なんとも言えない真実を知ったギルの胸中はいささか複雑であった。

ギルは気を取り直して更に質問する。


「ご、ゴンちゃんはさ至高の七振りの一つなんでしょ?じゃあ後他に六つあるってことだよね?なんて名前なの?」


「む?他の者達か。『深き眠りと静寂を与えし白銀の氷刃』『荒れ狂う嵐とうねり轟く雷を治めし王者の剣』『清らかなる水と豊穣なる大地に捧げし双刃』『月光に照らされた無垢なる乙女の祈り』『崩山刀(ほうざんとう) 覇刃斬(はばぎり)』『極彩色(ごくさいしき)の光を放つ無限水晶刃』。これで全部だ」


「え、ああ、うん。その、だいたいどれも名前長いね!」


「一応鍛冶の神が特別力を入れて造ったのだがな……感想はそれだけか?」


「え、えっと『深き眠りのために嵐と雷を治めたいと祈った無垢なる乙女』だっけ?良い名前だよね!こう、人間味に溢れてるぅ、感じする」


「全く違うぞ。良いか?『深き眠りと」


もう一度あの呪文のような長文を言おうとするゴンちゃんをギルは慌てて止める。


「そんなに長いとさ、お互い呼ぶ時に困ったりしないの?なんかあだ名みたいなものとかあるんじゃない?」


「あだ名、か。あだ名というほどのものではなかったが確かにそういうものはあったな。我の場合はよく『太陽剣』と呼ばれていた。決してゴンちゃんなどではなかったが、な」


「まだ根に持ってるの?」


「いいや、別に」


言葉と裏腹にゴンちゃんはどこか拗ねた様な感じで声を絞り出す。ギルは敢えてその事に触れずに話を続ける。


「その残りの六振りとは兄弟……ん?男とか女とかあるのか?兄妹(けいまい)姉弟(してい)?まぁいいや。ゴンちゃんは何番目なの?」


「うーむ。造られた順番で決まるのなら我は四番目だな。とは言っても我らの間で上だ下だ、だのという認識はないがな。男か女かなんて意識はさほどないが我はどちらかと言えば男なのだろうな」


「へぇーそうなんだ。四番目か。じゃあ一番目はどれなの?」


「一番目か。それは山崩し、あぁいや『崩山刀(ほうざんとう)覇刃斬(はばぎり)』だ。あれはザナトニウス様が初めて人の為に造られた剣でとりあえずで造った剣なのだそうだ。というのも覇刃斬(はばぎり)はとにかく大きくて重くてな。人が簡単に使いこなせる様な剣ではない。ただその威力はとてつもなく、その名の通り山を崩壊させるほどだそうだ。威力だけで言うならあれが一番であろうな。その代わりまともに運用できる人間はいないだろうがな。その失敗、いやその一部の者にしか扱えないという事実から更に人が扱いやすい様に造られたのが」


話の途中でギルが静かなのにゴンちゃんは気付く。ギルの方を見てみれば目をつむり寝息をたてている。


「眠ってしまったか。仕方あるまい、ここまで休まず来たのだからな。今は寝ると良い。束の間の休息ではあるがしっかりと休むのだぞ、主よ」


静かな部屋の一角。焚き火の残り火だけがパチパチと音をたてるのであった。

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