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試練のダンジョンと金の力12

「ねーほら言ったじゃん大丈夫だって。いきなり駆け出しちゃって。ねーねー歩いても追いついちゃったよ?」


 ギルが探索者の列に並んでいる内にリュートの取り巻き二人もギルに追いついた。追いついた後はギルの横に並び煽り続けていた。


「それよりも契約書を返しなさい、この泥棒。これだから貧乏人は」


「大丈夫だって。名前書かせれば問題無いってリュー君言ってたじゃん。それよりねぇねぇなんでさっきから黙ってるの?『うるさい!お前らに構ってられるか!』って行って走り出したはいいもののすぐに追いつかれて恥ずかしいの?」


 ギルはそんな二人を無視して我慢し続ける。相手をするだけ無駄だし正直今の状況は恥ずかしいので反応をしないことで実質ノーダメージを気取っているのだ。しかしそれがわかっているくすんだ金色の髪の女はそのことでギルを煽り続ける。


「うるさい。別に恥ずかしいとかじゃないから。これからダンジョンに挑もうって時にペラペラ喋ってられないだけだよ。常に危険がある場所に行くんだ。冷静になるために精神統一してるんだよ。あっちに行け」


 そんな煽りを躱すためにギルは作戦を変える。しかし敵はなんなくギルの攻撃を躱して懐に飛び込む。


「ふーん。お喋りする余裕もないんだぁ。そんなんでリュー君に勝つ気なの?リュー君はぁダンジョンに入っていく時も余裕っていうか自信に満ち溢れてたよ?」


「あなたが契約書を返したら言われてなくても行くわよ。いいから返しなさいよ」


「渡さないって言ってるだろ。お前らなんて信じられるか」


「契約書なら大丈夫だってぇ」


「でもそれだとリュート様に」


 など、ああでもないこうでもないと駄弁っている内に列は進みついに試練のダンジョンの前まで来た。

 試練のダンジョンは大き目の小屋程度の大きさで灰色のレンガを円柱状に積み上げて作られた塔の先端のような形をしており中央に大きな木と鉄で作られた扉があった。


「次の方、探索者証をこの装置にかざして下さい」


 ギルドの職員であろう男性に促されギルは探索者証を装置へとかざす。その装置はギルドで適正検査を行う時に使われた装置に少し似ていて探索者証をかざすと少しの間装置のディスプレイの部分が光りその後楽器を奏でたような音がなる。


「はい、大丈夫です。ダンジョンの中に進んでもけっこうです。さぁ後のお二人もどうぞ」


「あ、違います。この二人PTメンバーでもないし知り合いでもないです」


「えぇ知り合いでもないことは同意しますけど、契約書は返しなさい」


「ギルっち頑張れー。召使いになったらコキ使ってあげるよぉ」


 ギルは職員の言葉をすぐに否定する。茶髪の女もそっけなく同意する。


「あなたなんで応援してるのよ」


「えぇだってぇ。リュー君が勝つのはわかりきってるしぃ。どうせ向こう一年召使いなんだしいいじゃん」


「誰が召使いだ!言っとくけどな!俺は勝つからな。負けて吠え面かくなよ!」


「もう契約書はいいから行きなさい。相手してられないわ」


「言われなくてもそうする」


 ギルは二人に背を向けて木製の扉を押し開けてダンジョンへと潜る。そんな様子を職員は困惑しながら見ていた。




 ダンジョンの中に入ると下へと続く階段があった。それ以外には特になにもなく簡素な作りになっている。ギルは一度深呼吸をし階段を下りていく。

 階段は下りていくたびに少しずつ周りが暗くなっていくが階段の縁だけは淡く輝いている。ギルは足を踏み外さないよう気を付けながら進む。


「なんか不思議な感じだ。前に進んでるのかよくわかんない」


「あぁ、実際は一歩でかなりの距離を移動しているからな」


「そうなの?」


「あぁ、ダンジョンは下に下りるものでも上に上るものでも基本的に空間をいじってある。でないと広大で深さ、高さのあるものをポンポン創るなんて出来ないからな」


「へぇー。ダンジョンがどれだけあるのか知らないけど確かにソーベークでもすぐ近くに二つダンジョンあるし建てる時場所に困りそうだもんな。ってことはもしかしてここ地下じゃなかったりする?」


「さぁな。どういう風に建てているかまでは知らない。しかしまったく別の空間にダンジョンを創っていることもあるだろう」


 ゴンちゃんと喋っている内に階段の先に小さな四角い光が見えてくる。周りも少しずつ明るくなっていき徐々にだが出口が見えるようになってきた。


「もしかして出口?」


「出口、というよりは入口だな。あの先がダンジョンの1階だ」





 階段を下りきって出口を抜けると開けた場所に出る。広さで言うと一人部屋を四つくっつけたくらいで天井からは何か照明器具のような物が光っていて壁は今までと同じように灰色のレンガで出来ている。

 今までは特に気にならなかったが部屋の先が通路で天井まであることでどこか閉塞感というか重苦しさを感じてしまう。気持ちのせいか空気もどこか重さを感じる。


「これが、ダンジョン。なんだか外とは別だ。密室っていうか閉じられた場所っていうか。でもこんなに明るいなら松明(たいまつ)なんていらなかったかな?」


「何を言っている。このダンジョンは初心者向けだから一階は明るいだけだ。もちろん明るいままの所もあるだろうがこのダンジョンは下に行けば明かりのない場所もあるはずだ」


「そうなの?っていうかゴンちゃんさ長く生きてるっていうか長い時間過ごしてるのはわかるけどなんでそんなにダンジョンに詳しいの?」


 ギルの何気ない質問にゴンちゃんは短く「シッ」と言葉を発する。


「話は後だ。それよりも来るぞ」


 ゴンちゃんがそう言うと部屋の先の通路から青緑色の肌をした小人がギャッギャッと鳴きながら近づいて来る。その手には人間の使うショートソードよりも一回り小さい少し刃の欠けた短剣を持っている。いまいち何を考えているのかわからない顔は、それでもギルの方に向けておりギルめがけて歩いてきていることだけは理解できた。


「ゴ、ゴブリンっ。え、えっとどうしよ。あ、あっそう、ゴ、ゴンちゃん。まずは武器、それでえぇっと」


「落ち着け!リンドの教えを思い出すのだ」


 あたふたと落ち着かないギルにゴンちゃんは怒鳴りつける。大声を出されて驚いたのかビクッと一度肩を上下させてギルは頷く。


「リンドさんはえぇっと剣を構えてそれから体の力を抜いてきちんとモンスターを見てぇ」


 ギルはリンドの教えを思い出しながら背中の鞘からゴンちゃんを抜き正面に構える。興奮からか息は短く荒い。視線もゴブリンを見ているようでしっかりと見据えておらずたまによそ見をしている。前身は強張っていて満足に動けそうにもない。はっきりいって教えられたことを全く実践できていなかった。


「ギャギャッ」


 そんなギルを見て痺れを切らしたのか、これなら勝てると思ったのかゴブリンはギルに向かって飛び出す。急に接近してきたゴブリンにギルはまだ対応出来ていない。ゴブリンはそのまま3歩4歩と走って近づきギルの数歩先まで近づくと飛び掛かり短剣を横に振る。


「うわぁぁっ」


 ギルは半ば混乱しながらも咄嗟に後ろへとバックステップする。しかしイメージ通りに体が動かない。そして気付く。自分がまだ大きな背嚢(はいのう)を背負っていることに。


(バッグ!!嘘だろっ!)


 思ったほど後ろに下がることは出来なかったもののゴブリンも踏み込みが甘かったのか薙ぎ払う一撃はギルの服を少し切る程度だった。しかし、ギルは背嚢(はいのう)のせいでバランスを崩し後ろに倒れてしまう。

 ゴブリンは勢いのままギルの上に乗る。


「ギギッ」


 ゴブリンは持っている短剣を逆手に持ち替えて振りかぶりギルめがけて振り下ろした。ギルはゴンちゃんを手放し両手でゴブリンの腕を掴む。


「ギィィィっ」


 ゴブリンの唾が飛びギルの顔にかかる。ゴブリンは必死の形相で正に今自分を殺そうとしている。子供程度の大きさのゴブリンとは言え体重をかけているこの状況は厳しい。


「死んでたまるかっ!ふざけんなっ」


 ギルは体を横にずらすと同時に両手の力を緩める。そして落ちてくる短剣を体から離れるように誘導する。非力なゴブリンは誘導されるがまま体のバランスを崩し短剣を床に突き刺す。ギルはその隙にゴンちゃんに手を伸ばし掴むや否やゴブリンへと突き出す。


「うおぉぉぉっ」


 突き出した剣はゴブリンの胸に突き刺さりそのまま貫いた。ゴブリンは胸から血を流し断末魔の声を上げもがき苦しむ。がそれもすぐに収まりやがて動かなくなった。


「倒した、のか?」


 ギルは横になったままゴブリンを見る。剣の切っ先で数回つついてみるが反応はない。


「倒した、んだな」


 動かないのを確認してギルは体を起こし立ちあがる。早鐘のようになり続ける心臓の音を抑えるために深呼吸を繰り返す。息が整ってくるとそのまま血を流しているゴブリンから少し距離を取る。


「……ゴンちゃん、俺がバッグ背負ってたのわかってたよね?なんで教えてくれなかったの?」


 ギルは手に持つゴンちゃんを眺めながら訪ねる。


「失敗をすれば私のせい、か?甘ったれるな」


「なっ。さっきは死にかけたんだぞ!」


「ダンジョンとはそういうものだ。そんな覚悟もなかったのか?」


 ゴンちゃんの突き放すような言葉にギルは言葉に詰まる。確かにゴンちゃんの言葉は正しい。でも、少しくらいという思いもある。


「主よ、勘違いしないでほしいのだが我は黄金と栄光へと(いざな)うが、その道を辿るのは主自身だ。我は剣、剣に出来ること以外のことは出来ないのだ。確かに今回は敢えて言いはしなかったが初めてだからこそそうしたのだ。主自身が乗り越えるべきだと、そう思ったからな」


 ゴンちゃんの声はどこか諭すような声色で、どこまでも正しく、だからこそ耳に痛い。でもそうだとしても、自分が悪いのだとしてもその声を聞き入れることがギルには出来なかった。

 ギルはゴンちゃんの言葉を素直に受け入れることが出来ず雰囲気が固い。それを察したのかゴンちゃんは更に言葉を重ねる。


「信じていたとはいえ試すようなことをして悪かった。すまない」


「……いや、いいんだ。別にゴンちゃんは悪くない。俺が地に足をつけて歩いてなかっただけ。初めてのダンジョンだからって浮足だっていただけ。そうだろ?」


「あぁ、いや。そのだな。我ももっと気を配れば良かった。もっと」


「いいから。先進もう。ゴブリンがまた来るかもしれないし」


 ギルは拒否するようにゴンちゃんの言葉を遮り、体も、床に流れていた血も全て消え去ったゴブリンの跡地を見てドロップ品を探す。そこには小さな紫色をした石のような物と先ほどのゴブリンが持っていた短剣に似た物が落ちており、ギルは紫色の小石を拾い上げるとその場を後にした。

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