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試練のダンジョンと金の力9

「はぁ、食った食った……いやぁ食ったなぁ……」


 ギルは膨れた腹をさすりながらどこか不満そうな言葉をこぼす。


「やはりたまには贅沢をしたらどうだ?そんなに浮かない顔をするほどなら美味い物でも食べた方がいいぞ」


「違うんだ、違うんだよ。孤児院にいた頃は我慢できたんだ。周りもうっすいスープに固いパンだからさ。でもあそこの広場は色んな屋台が並ぶからさ」


 そういって一旦ギルは言葉を切る。何かをグッと堪えるように手を握る。


「色んな匂いがするんだよ!!隣からは肉の焼ける音!匂い!向こうは魚!あっちは焼きたてのパン!なんか嗅いだこともすごい美味そうな匂いもするし、こんなの暴力だよ!匂いの暴力!俺を食え、俺を食えってどいつもこいつも誘ってくるから尚更うっすいスープが侘しくなるんだよ!!」


 そして爆発した。息を切らすほど熱弁を振るったためか先ほどよりも少しばかり表情は優れいる。


「それなら食べればよいだろう。さきほども串焼きにされた肉を凝視していたではないか。一本だけならば銅貨数枚であろう?それくらいならば問題ないはずだ」


「ゴンちゃん、贅沢は敵なんだよ。人間はね、美味い肉の味を忘れられない生き物なんだ。100g銀貨1枚の肉を食べればそれより安い肉なんて食べられないし、100g金貨1枚の肉を食べればもはや舌は金貨一枚の肉の味以外はわからないバカ舌になっちゃうんだ!!見てみろよ、金持ちのおっさんを。美味い肉しか食べないからどんどん太っていく!それに比べてうっすいスープと固いパンしか食べない俺は余計な脂肪なんて付きやしない!ダイエットしなきゃなんて悩みすらも生まれない!」


「そこは付いた方が良いと思うぞ。主は必要な筋肉が少し足りていない」


 ゴンちゃんの突っ込みは聞こえなかったのようにギルは続ける。


「故に!故に!贅沢は敵!粗食が無敵!最強の布陣!死角なし!だから!すてぇきなんて、すてぇきなんてぇ、食べられなくてもいいんだよぉ」


「そ、そうか。ダンジョンを攻略すればたらふく食えるだろうさ。だから主よ、泣くのはやめてくれ」


「ちくしょう、ちくしょう。金さえあれば……金さえあれば向こうの屋台の一本銅貨2枚の串焼きを5本いや10本買って豪遊できるのにっ」


 ギルは初めてだった。初めて串焼きを食べられない現実を突き付けられたのだ。ギルは食べ盛り。想像を絶するほどに辛いのだろう。その溢れる涙から無念を感じずにはいられないほどだ。


「銀貨2枚で豪遊……せめて金貨一枚は……いやなんでもない」


 ギルの心からの慟哭(どうこく)に文字通り背中から止めを刺しそうになったゴンちゃんであったがそこは空気を読んで口を(つぐ)む。

 そんな悲しい懐事情にうちひしがれているギルの耳にふと声が聞こえる。


「ねぇリューくぅん。あれ美味しそう。一緒に食べようよぉ」


 先ほどギルとぶつかった青年の腕に胸元をざっくりとはだけさせた派手な女性が猫撫で声で絡む。


「屋台の料理なんぞ誰が食べるか。何を使ってるかもわからない料理なんて口に入れたくもない」


「そうよ、リュート様があんなもの口にするわけないでしょ。ねぇリュートさまぁ。私行きたいレストランがあってぇ」


 猫撫で声を出した女性の反対側に絡みついていたこれまた胸の大きい茶色い髪の派手な女性がリュートに媚びるような上目使いをする。


「そこは高級か?なら連れて行ってやるぞ?」


「きゃぁ、リューくんステキぃ!」


 二人の美女に媚びられて満更でもないリュートは二人の肩を抱き屋台のある広場から離れていく。その三人を男は睨み女は羨ましそうな目をする者もいれば残念な者をみるような目をする者もいた。そして屋台の人達は殺気の籠った目をしていた。


「チッ。犬の糞でも踏んで今日一日落ち込め」


「残念だが主よ。あれはそういうタマではない。すぐにでも靴屋に行って買い替えるだろうな」


「チッ。にしても今日はよく見るな。ここ一週間見たことなかったけど最近来た奴かな?」


「どうだろうな。今まで見なかっただけでずっと住んでるこの街の住民かもしれないぞ」


「あれがここの住民なら一週間以内に絶対目にしてるよ。女侍らせるような奴が目立たないわけないし」


「ふむ。仮にここ最近来た者だとすると、奴も探索者か」


 ゴンちゃんの言葉にギルは手を振り否定する。


「ないない。あれが探索者はないって。見るからにお金持ってる奴がダンジョンに潜る理由なんてないじゃん。ないない」


「あれが探索者かどうかはおいておいて。お金を持っているからこそお金で得られないものを得ようとするものさ」


「お金で得られないもの?」


「そう。例えるならダンジョン踏破者としての栄光だとか、命を賭けるスリルとかだな。昔にもそういう物好きはいた」


 理解できないとばかりにギルは顔を歪めて思いを口にする。


「理解できない。栄光とかスリルとかそんなもんなんの役にも立たないじゃん。お金の方が何倍もいいね。だから金持ちって嫌いなんだよ。お金はあって当たり前くらいにしか思ってないからさぁ」


「隣の芝生は青い、という奴だな。まぁ仮定の話だ、あの者が本当に探索者なのかどうかはわからないしな。気にすることもないだろう」


「ま、そうだね。っていうか買い出しの途中だった。売り切れる前に行かないと」


「あの安い保存食が売り切れることはないと思うがな」


「売り切れるかもしれないだろ!!急がないと」


 そしてギルは広場に背を向けて目当ての店を目指した。


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