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試練のダンジョンと金の力8

「今日はここまでだ」


「ありがとうございました!」


 ギルはリンドの言葉で素振りを止め頭を下げながら礼を言う。リンドに指導をしてもらい初めてから一週間が経つ。ギルは最低限の型を覚え実戦形式で木剣を交えながらの訓練を行っていた。訓練の間の休憩にはダンジョンでの最低限の知識やダンジョンでの立ち回り、ダンジョンの深くへと潜り修羅場も経験してきた者達ならではの情報なども教えてもらっていた。

 ただ、リンドは武器の扱いなどの話に関してはスラスラと喋るのだがダンジョン内のあれこれに関してはよく途切れ、というかメモを取り出してそれを読み上げ挙句にはそのメモを渡して「読め」とだけ言う始末であった。

 しかし、やる気がないのではなくむしろ不器用なりに一生懸命に教えようとしているのは一緒にいて伝わってくるのでギルはとても感謝しているし現役Bランクでありながらここまで真剣に取り組んでくれることに有難さを感じていた。


「……ところでギル。最近よく酒場に行くらしいな」


 柔軟を終え木剣を返却しようとさっさと移動しようとするギルへとリンドが話しかける。


「え?あぁはい。夜にですが行ってますね」


「……酒場は酔っ払いの探索者が多くいる。一人で行くのは危険ではないか?」


「いやそんなことありませんよ。みなさん良い人ばかりで。心配するほどのことはありませんよ」


「……だがしかし、絶対ということはない。俺も……その一緒に……」


「え?だぁいじょうぶですよ。リンドさんが心配するほどのことじゃありませんって。それにもしもがあってもCランクの人達に知り合いがいますから大丈夫ですよ」


 ギルは、リンドが何を考えているのか検討はついているもののわざと気付かないふりをして話を流す。


「あっ、俺この後ダンジョン潜る時のアイテムの買い出しに行くのでこれで失礼させてもらいますね。今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」


「あっ、あぁ。またな」


 目に見えてシュンとしているリンドに気付かないふりをしてギルは木剣を返すために倉庫へと向かう。リンドが真剣に指導に取り組んでくれることには有難さを感じているがそれとこれとは別。落ち込んでいるリンドへと背を向ける。


(リンドさんごめん。目に力込めて一緒に行きたいアピールしてるのに気付かないふりしてごめん。本当は一緒に行きたいけど連れて行くわけにもいかないから。……ぶっちゃけリンドさんコミュ障全然改善してないから低lvの集まりに呼べないっていうか皆萎縮しちゃうっていうか。だから本当にごめんなさい!今度行きましょう、ね?絶対誘いますから!)


 そう心の中でリンドへ謝りながらギルは訓練場を後にするのであった。





 ダンジョンのある街ソーベークへとやって来て一週間。ギルは情報収集を行っていた。朝ギルドへと赴きリンドと合流し訓練場にて指導を受けその後は街の中を歩き情報を仕入れる。情報については様々でどこの店にどんな物が売ってあるか値段はいくらか。探索者、特に試練のダンジョンへと挑む低lvの探索者がよく行く場所、泊まっている宿屋などダンジョン攻略に役立ちそうな情報を集めて回っていた。

 酒場へと行くのもその一環で低lvのパーティーやソロの探索者に酒を奢ってはダンジョンの話を聞いてメモを取ったりしていた。だからこそリンドを連れて行くことをしなかった。


(目つき鋭いBランクの探索者がいたんじゃ口滑るどころか胃を痛めるかもしれないからな……)


 せめてもう少し表情が柔らかかったらとは思うがリンドにとってあれは素らしく特に力を込めているわけではないのでどうしようもない。


(こっちも命かかってるから情報収集のために行く時に一緒はちょっとな……今度普通に食事にでも誘おう。あの落ち込んでる顔見てると罪悪感で辛い)


 などと考え事をしていると肩が何かにぶつかる。


「おい、どこを見ている。気をつけろ!」


 ギルよりも少し背の高い金髪の男がギルを睨みつけながら怒鳴る。どうやらこの男に肩をぶつけてしまったらしい、そう理解したギルは目の前の男に謝罪する。


「どうもすみません。少し考え事をしていまして」


「はっ。バカの考え休むに似たりって知ってるか?無駄なことをやって他人に迷惑をかけるようなら貧乏人は路地裏で地べたにでも座っていたらどうだ?その方が人のためだ」


「……っ!いえ全くおっしゃる通りで。申し訳ありません」


「ちっ。まぁいい。二度と目の前に現れるな」


 ギルは怒りをグッと堪えて頭を下げる。何も言い返してこないギルに興味を失ったのか高そうな服を身に纏った男は捨て台詞を吐いて去っていった。


「はぁ。久しぶりに見たな、ああいうの。こっちきてから良い人ばかりに会ってたから尚更インパクト強いな」


「嘆かわしいことではあるが1000年経とうがどれほど生活が進歩しようがああいう輩はいるのだな。しかし主よ、言い返したりしないのだな」


「そりゃね。俺って孤児院で育ってるからああいうのってしょっちゅうでさ。慣れてるんだ。ああいうのは何も言わずただただ頭を下げるに限るのさ」


 ゴンちゃんの言葉になんでもないというようにへらっと笑って見せる。


「本音は?」


「馬と牛と豚と鶏の糞尿に塗れて窒息しろ!」


「……よく我慢したな」


「見た目からしてあいつ金持ちだからね。貴族か豪商か。まぁ孤児院の人間じゃあ歯向かったって悪者にされるだけだし。それよりお腹空いたしご飯たべよ。気分転換になるしな」


「もしかしてまたあれを食べるのか?お金はあるのだ、もっとマシな物を食べたらどうだ?」


「何言ってんだよ。食べられるんだからなんの問題もないだろ。っていうか孤児院じゃああいう感じのうっすいスープと固いパンなんて普通だよ普通。そもそもお金はあるから使うんじゃない。あるなら貯金するものだよ」


 ギルはゴンちゃんの言葉に不服そうに言う。


「しかし酒場では人に奢るほど使っているじゃないか。人のために使うなら自分ためにも使ったらどうだ?」


「あれは必要経費。でも食事なんて最悪腹が膨れればいいんだって」


「ならば食事も必要経費だ。腹が膨れればいいなんて考えではいつか倒れるぞ。食事というものは生きるために重要な要素の一つだ」


「このわからず屋!」


「それはこちらのセリフだ」


 お互いを罵り見つめあう二人、いや一人と一振り。ついでに言えばゴンちゃんは剣なので道端でギルが剣を見ているだけにしか見えない。ムムムっと剣を見つめ続けるもののそれも長くは続かない。


「……多めに見てよゴンちゃん。俺には金が必要なんだ。食い物に贅沢なんて言ってられない」


「それでいいのなら良いが食事も大切だ。そのことは覚えておいてほしいところだな」


「うん、わかってる。ありがとゴンちゃん」


「やれやれ。今度の主人はやけに世話がかかるな」


「や、ほんとお世話になります。なにとぞなにとぞお付き合い下さい」


「そうだな。せめて鞘を買い戻してもらわなければ困るからな。それまでは付き合おう」


 ゴンちゃんのお許しの言葉にギルは顔を輝かせる。


「えーそんなこと言わないでさ。ダンジョン攻略まで付き合ってよ」


「それは主次第だな」


 ギルはゴンちゃんと軽口を叩きながらいつもの安い食事を出す屋台へと足を向けたのであった。

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