隷従のジャッジメント
よう、バイトの面接に合格したオオカネ・ミツナリだ。ちなみに今回のバイトの説明を簡潔にしてやる。今回のバイトは魔王になって魔王の雑務を肩代わりするってことだ。
報酬は異世界に帰るための情報と衣食住の提供。さらにお小遣い程度ではあるが、金銭も渡してくれるらしい。
ただ、休みはなく勤務時間二十四時間の七日勤務という超ブラックハードビジネスだ。だが、一つだけ言わせてもらうぜ。
魔王の爺さんが超怖いんですけど。
「どうじゃ?これが魔王の力じゃ」
巨大化しなくなった魔王ベルハザードは、髭面の老人になっていきなり魔王の力を見せてやるとか言って俺を外に連れ出した。いきなり目の前で山が一つ吹き飛んだら誰だって怖いっての。
「スゲーけど。やり過ぎじゃないですかね?」
「主がワシのスキルを見たいというからじゃろ。どうじゃ?」
俺は魔王に自分のスキルと職業について説明した。その際に個人スキルの器用貧乏ならば、魔王のスキルも使えるんじゃね的なことを言ってしまったのだ。そうすると、魔王はスキルを見せてくれるいって外に連れていかれたのだ。
「これがワシのスキルで生み出した覇王滅殺波じゃ。闘気や生命力、さらには魔力も上乗せしてエネルギー弾として打ち出すことができるのじゃ」
物凄い攻撃力を持っているのはわかるが、山一つを吹き飛ばす必要があったのだろうか。指とかから小さく出せば十分だったんじゃね。魔王、こえーよ。
「やってみます」
俺は器用貧乏の発動を試みて、魔王のスキルをイメージする。次第に指先に暖かい力を感じて、それを指先から解き放つ。
「うおっ!いきなり何するんじゃ」
どうやら目標を定めておらず、魔王の方に覇王滅殺波が飛んで行ったらしい。
「あっすいません」
「主、何気にワシの暗殺目論どりゃせんか?」
「めっそうもございません。力に慣れていないだけです」
言いがかりに被害妄想が半端ない。
「本当かのう?ワシの力だけ盗んで、ワシを殺そうとしとらん?」
「絶対にありえません。この世界で頼りになるのは魔王様だけなんですから」
「ワシ、頼りになる?」
「はい。頼りになります」
「そうじゃろうそうじゃろう」
得意げに胸を張る爺。とりあえず機嫌は直してくれたらしい。爺の扱いはめんどくさい。
「それにしても本当にできるとはな」
「器用ですから」
「便利な能力じゃな。もう一つの飛翔も教えてやろう」
とりあえず魔王が使えるスキル。自称、覇王滅殺波は魔王の出力には及ぼないが便利に使えるようになった。自分の出力で発射できるレーザービームだと思えばいい。威力は、まぁ使う奴次第でヤバいことになる。
さらに飛翔は便利でありがたい。速度や高さは魔王に及ばないが、魔力も生命力も奪われないので安心して使える。
「巨大化もいるかのう?ワシ威厳を出すために巨大化するんじゃが」
「とりあえず、どこで使えるのかわかりませんがもらっておきます」
魔王から三つのスキルを覚えることができたので、とりあえずはバイトの下準備が整った。
「本当にワシのスキルを使っとる」
「はい。ですが、魔王様に比べれば弱いので、これから精進します」
「うむ。たしか腰巾着なるスキルで、ワシの能力補正も受けておるのじゃな?」
「はい。先ほどよりも体が軽くなった気がします」
実際、自分の身体とは思えないほど体が軽い。異世界に着た実感が持てるほど力が溢れてくる気がする。この世界で一番強い魔王の補正を受けているのだ。強いに決まってる。
「ふむ。次のスキルじゃ」
「まだあるのですか?」
さすがは魔王、スキルの数も威力も絶大だ。
「スキルはたくさんあるが、主に教えるのに一番いいスキルじゃろ。ワシが世界を統べることができたスキルじゃ」
「そんなスキルがあるんですか?」
「隷従のジャッジメント。それがスキル名じゃ」
「隷従のジャッジメント?」
「そうじゃ」
スキルからはどんな能力なのか、まったくわからん。とりあえず驚いてみたけど。どんなスキルなんだ。
「いったいどんな能力なんですか?」
「簡単に説明すると、相手を服従させるスキルじゃな。相手と勝負をして勝ったならば、相手を従わせることができる。ワシは連戦連勝で今の地位を手に入れた」
つまりルールを決めて勝利すれば相手を服従させることができるってことか。それにしても魔王は案外ゲームに強いのか。
「魔王様、スゴイですね」
「ワシは凄いのじゃ」
「それで?どんな勝負をしてこられたのですか?」
「そんなもの力でねじ伏せるに決まっておるではないか」
物騒なことこの上ないな。何よりシンプルで分かりやすい。だが、これならどうにかなるかもな。
「では使ったところを見せて頂きたいので、俺と勝負しましょう」
「よいぞ」
魔王が巨大化して拳を構える。
「いやいや。殴り合いをしたら絶対勝てませんよ。だからここは平和的にジャンケンにしましょう」
「ジャンケン?」
巨大化した体を元に戻した魔王はジャンケンを知らずに首を傾げる。
「簡単ですよ。ようは手遊びです。グー、チョキ、パーの三種類からリズムに合わして手の形を決めて出します。俺がグーを出したら、パーの勝ち。俺がチョキならグーの勝ち。俺がパーならチョキの勝ちです」
「ふむ。簡単そうじゃな」
「はい。ではスキルを発動してもらえますか?」
「わかったのじゃ」
魔王がスキルを発動すると、突然裁判官が現れた。二人の間に現れた裁判官は厳格な声でジャンケンのルール確認を行った。
「あなたは?」
「私はジャッジメント。勝敗の判定をするものです」
第三者が判定するとは魔王にしては公平なことだな。
「では、勝負のルールを説明します。私がジャンケン ポンといいますので、その声に合わせて手を出してください」
「わかったから早くするのじゃ」
裁判官の説明が追わるよりも先にジャンケンをしたそうに魔王様が手を振っている。
「では、いきます。ジャンケン」
「「ポン」」
魔王は勢いよく手を握りしめてグーを出す。力んだ魔王の手の内は分かりやすく。俺は気を抜いたままパーを出す。
「勝者、ミツナリ・オオカネ」
ジャッジメントの声に勝敗が決すると、魔王の首に透明な首輪が現れた。
「負けた。この無敗のワシが負けたじゃと」
「あの、これはどういうことでしょうか?」
「ワシは主に負けたのじゃ。そしてワシは主の配下となったのじゃ」
爺が手を突いて涙を流してる姿はどうにも申し訳ない。
「大丈夫ですか?」
「隠居じゃ隠居。ワシは今日で魔王を引退する」
「えっ。それは困りますよ。辞めないでください」
魔王が後ろ盾になってくれなきゃ、これからどうやってこの世界を生きていくだっての。
「むむむ。主の命ならば聞くしかないがのう。負けると言うのはこんなにも悔しいものなんじゃな」
「本当に負けたことなかったんですね」
我儘に生きてきたのだろう。とりあえず魔王を従わすことができた。ただ、めんどくさい爺様の世話を任された気がしてどうにもめんどくさい話だ。
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